アルカトラズ島 翌日、オレはウォーターフロントのユースホステルへ宿を鞍替えすることにした。サンフランシスコでは大体観光客が集まる場所は2箇所に分かれており、片方は初日に宿泊したダウンタウンの辺り、そしてもう片方が太平洋を望むフィッシャーマンズワーフという地区である。って本に書いてあった。 ダウンタウンには高級デパートやショッピングモールがあり、おそらくお金持ちの観光客には大変喜ばれるだろうと思われる場所である。実際オレも喜んでいるので、それを踏まえればやはりこちらは金持ち用の場所と断定できるであろう。とか言っていると金持ちの方々からの「え〜〜っ」という、野々村真と答えが一緒だった時の他の解答者のリアクションが返ってきそうだ。 まあこんなことを言うと驚かせてしまうかもしれないが、正直なところ実はオレは金持ちではない。なのでダウンタウンの高級ブランドショップに行っても、ショーウィンドウに顔を擦り付けてピンキー&ダイアンのキュロットに憧れの眼差しを向けることくらいしかできない。しかしおそらく変態だと思われるだろうから、ここは潔くフィッシャーマンズワーフ方面へ向かうことにする。(実際は変態ではありません) 海岸にあるユースホステルは、ダウンタウンのそれとは比べ物にならない程広大な敷地面積を誇っていた。どう考えても建物に対して庭が無駄に広い。この広さは下手したら島根県くらいすっぽり入ってしまうんじゃないかと思ってしまうほどだ。まあ島根県は大げさとしても、静岡県引佐郡細江町くらいは入るだろう。 実際敷地に入ってから建物が見つからなくて迷うという、成人男子にあるまじき醜態をさらしてしまった。もしもこのYHの庭でかくれんぼをしたら、全員探すまでに何日もかかる上に最後の方は遺体で発見なんてことになることも十分考えられる。 早い時間だったためまだチェックインは出来ず、とりあえず荷物だけを預けて早速フィッシャーマンズワーフへ向かった。フィッシャーマンズワーフというのは、サンフランシスコの海岸沿いの観光地化した場所のことを指す。フィッシャーマンは漁師という意味なので、つまり「漁師のワーフ」である。・・・訳はここまでが限界だ。 この辺りはとにかくNYよりもワシントンよりも、「観光地」という名称がピッタリなところだ。海岸沿いのメインストリートは観光地名物のみやげ物とレストランとホームレスでいっぱいだ。 一応ホームレスもがんばってストリートパフォーマンスのようなことをしているのだが、その実力は結婚式で趣味のギターを弾き語りする新郎の友人状態で、それはあくまでその場限りで許されることであり、金取って正式な場でやったらひと騒動起きそうなレベルである。 もちろん路上には他に荒稼ぎをしているプロのパフォーマーもいるが、プロが近くにいるだけに余計ホームレスの付け焼刃的な内容が目立つ。まるで「笑っていいとも」や「おもいっきりテレビ」に対抗して始まって1回コールド負けを喫した宮本和知の「熱血!昼休み」を見ているような気分である。 フィッシャーマンズワーフは、その名が示すように漁師の町であり、魚介類の屋台がいたるところにある。オレはその中の一軒で、「クラムチップス」という貝のフライを昼飯に食べることにした。 「あのー、すみません。」 「あいよ! 兄ちゃん!?」 「はい。クラムチップスを一人前ください。」 「あいよ!」 いかにも船乗りあがりといった風貌の威勢のいい屋台のおっさんは、紙の皿にクラムチップスをガバガバ盛り始めた。 ガバガバ・・・ ガバガバガバ・・・ ・・・値段が値段(7$くらい)なだけに、かなり豪快に盛ってくれている。 ガバガバガバガバ・・・ ガバガバガバガバガバ・・・ ・・・。ま、まあ多いのはいいのだが、そんなに食べきれるかどうか・・・。 ガバガバガバガバガバガバ・・・ ガバガバガバガバガバガバガバ・・・ ・・・。 いい加減にしろーーっ!!!! オレが団体客に見えるか?? 友人と楽しそうに休暇を楽しんでるように見えるか? 彼女とラブラブな旅行をしているように見えるか?? そうは見えないだろう。 どう見ても一人だろうが!!! 寂しそうだろうがっ(号泣)!!!!! ちゃんと一人で食いきれる量を用意しろ〜!! 「あいよおまちどお〜!」 「おまちどお〜! じゃねーっ!!! こんなに食えません。トゥーメニーです。」 「どうしたんだ? 腹へってないのか?」 「腹はへってますけどこれはちょっと多すぎるでしょ!!」 「大丈夫だって! 食える食える!!」 「あんたオレの胃袋の何を知ってるって言うんだよ!!」 「大丈夫! 食え食え!!」 というわけで、またも1人前としてはどう考えても異常な量の、むしろオレと守護霊と背後霊の分も盛ったんじゃないかと思うほどの、山のように積み重なった貝のフライを泣く泣く食うハメに。こんなイヤイヤ食べられるなんてさぞかし貝も不本意だろう。同情しながら貝を食います。そして、貝の半分は海にリリースしてあげました。フライになってるけど。 さて、サンフランシスコに見所はたくさんあれど、ここに行かずしてサンフランシスコに行ったことにはならないだろうと断言できる、と言い切ることが出来ない今日この頃ですが、それに近い有名な場所がある。それがアルカトラズ島だ。 アルカトラズ島は映画などにも取り上げられたことがあるため、知っている人もいるだろう。オレも知っていたぞ。あのギャングの帝王アルカポネもアルカつながりで収監されていたという、アメリカ全土から凶悪犯が集まった、かつての連邦刑務所がある別名「悪魔島」とも呼ばれている場所なのである。 今まで脱獄に成功したのはショーンコネリーただ一人(しかも映画の中)、それ以外では引田天功でさえ絶対に脱出不可能と言われていた恐ろしい孤島の割にはこの島は、意外と町からすぐのところにあった。早速オレは、アルカトラズ島までのフェリーチケットを買い、船に乗り込んだ。 フィッシャーマンズワーフの埠頭からはもう島は目と鼻の先に見えており、フェリーに乗ればあっさり着くものだと思っていたのだが、なんと岸を離れて5分ほど経った頃、身の毛もよだつような恐るべき出来事が起こった! ・・・。 おえ〜〜っ。 船に酔いました(泣)。 さ、さっきの貝、貝のフライが・・・。揚げ物なんて食うんじゃなかった〜っ 貝たちが海に戻りたいと言っている・・・。吐く、吐くぞ!!! フェリーの上で悶絶しながら悪魔島が近づくのを待つ。たしかに埠頭を離れてすぐにこれだけの苦しみが襲ってくるなんて、脱獄不可能と言われているのももっともだ。しかし弱音は吐いたがゲロは吐かず、なんとか島にたどり着いた時には、オレの体調は懲罰房に入れられ3日間責め苦を受け続けた囚人よりも悪くなっていた。まあ受刑者気分を味わうにはこのくらいが丁度いい。 フェリーが停泊した場所からはしばらく曲がりくねった坂道を歩き、上りきった高台にかつての連邦刑務所の建物があった。もちろん刑務所の中には自由に入れるようになっており、別料金を払えば日本語での解説テープを貸してもらえるため、ここではかなり臨場感溢れる観光を楽しむことができる。 今はもう違うとはいえ、刑務所に自由に入れるというのは結構意外であった。もしも事前にそのことを知らなかったら、観光好きのオレとしては中に入りたいがために犯罪(痴漢)を起こしていたことも十分考えられる。おそらくオレがこの刑務所に入ったらアルカトラズ島の犯罪者史上最小の小物であろう。 ![]() さて、テープの声に従って中へ入って行くと、左右に独房が並んだやや広い通路→に出た。テープの中の囚人の声が言っている。 「オレたちゃー、この通りを『ブロードウェイ』なんて呼んでいたもんさ。新人が入ってくると、必ずここを見せしめのように歩かされるんだ・・・。」 うーむ。 囚人にしてはとても流暢な日本語だ。テープは他にもスペイン語やイタリア語など各国語版があり、それぞれ内容は同じだろうから、ここに登場している囚人は下手したら10ヶ国語くらいを操っていることになる。さすが大物の犯罪者はひと味違う。 ・・・まあくだらない冗談はほどほどにしておこう。これは本物の囚人ではなく声優さんだ。もちろん囚人の中にだってバイリンガルもいるだろうが、さすがに10カ国は無理だろう。本物のわけがない。これはどう考えても声優さんに決まっている。・・・しかし10ヶ国語も喋れるなんて、なんて凄い声優さんなんだろう。 ![]() それぞれの独房は、写真のような感じである。4畳一間くらいだろうか??ベッド付き、トイレも洗面台もついている。鉄格子は未だに頑丈にはまっており、外から覗くだけで実際に中に入ることはできない。 まあ今では刑務所ではないとはいえ、もしこの鉄格子が簡単に開くようになっていたら、きっと気がついた時にはホームレスが住んでいるだろう。 テープの中の囚人は、ポイントポイントで場所の説明や昔ここで起きた事件の説明をしてくれる。ある独房の前では、 「この部屋は、19○○年に脱獄騒ぎがあった時に、看守が囚人に閉じ込められた独房なんだ。」 と解説がついた。そんな話を聞いて、オレはその独房を覗き込む。すると囚人の説明は続けて言った。 「この中で、脱獄をしようとした奴らが2人の看守を撃ち殺したんだ。」 ・・・普通に劇画調でセリフ言ってる場合かっ!! そんなとこ覗かせるんじゃない!!! こわいんだよ!!! 後々話を聞いてみると、この刑務所の中で自殺が5件、殺人事件が8件発生したそうだ。・・・刑務所に入っても凶悪犯達の生活はあまり変わらなかったらしい。なんのために逮捕したのかわからん。 それにしても、この建物の中で自殺と殺人で13人も死んでいるというのを考えると、実に不気味である。みなさんのおかげですでイボ貴子がここに来ていたのだが、夜中に独房に入っていたスタッフは「待っている間周りから変な声がずっと聞こえていた」と言っていた。 たしかにこの刑務所跡地を夜に訪れたら、何が出ても全くおかしくないと思う。オバQどころではない本格的なオバケが、建物のあちこちに現れるような気がする。たとえ貞子でも夜にアルカトラズ島に連れて来ようとしたら泣いて拒むだろう。と思ったら、なんと夜にこの島に来て、しかも扉を閉めると完全な闇になる懲罰房に閉じ込めてくれるツアーがあるらしい。誰のためのツアーだ? ちなみにそれは日本語ではツアーと言わずにいじめと言う。 テープの締めくくりに、長い服役を終えて出所した時の、ある囚人の言葉が流れた。 「町についてオレは驚いたね。道を行く人間が、みんなどこかに向かって歩いてやがるんだ。こいつらは、全員目標とする場所があるってことなんだ。でも、オレには行くところなんてどこにも無い。そう考えたら、オレは刑務所にいた時よりもずっと怖くなっちまったね・・・。」 そしてオレも怖くなった。このセリフは、今まで聞いた中で怖いセリフナンバーワンかもしれない。もし自分に歩いて行くべき場所がなくなったら・・・。オレの精神力はそれを耐えられるのだろうか? 長期間監獄で暮らしていた凶悪犯でさえ、「刑務所にいた時よりもずっと怖かった」と言っているのだ・・・。 この先オレは、ずっとどこかに向かって歩き続けていられるだろうか? ・・・まあ、どうしようもなくなったら最悪の場合は刑務所に入ればいいのだが。のか?? |