ロスアンジェルス3 ロンリーユニバーサルスタジオ



 昼飯はバイキング形式のレストランを選び、屋外のテーブルに席を構えた。ロスの日中は先日のニューヨークやナイアガラの寒さがウソのように、こうして外にいても気持ちいいくらい暖かい。周りのテーブルでは、家族連れやカップルが、思い思いの料理を前に実に楽しそうに午後の計画を練っている。オレも、幸せな雰囲気を感じながら彼らに暖かい目を向ける。そして彼らも、時折チラッ、チラッとオレの方を見たと思ったら、
何か良くないものでも見てしまったかのようにすぐに目をそらす。
 ……。
 寒い。今気付いた。オレの周囲、半径3mの空間だけ、明らかに
向こうとは違う気候帯が存在している。これだけの近距離にいるにもかかわらず、お互いの空気は決して混ざり合うことも無い。幸せな彼らが温暖湿潤気候の中でランチを楽しんでいるのに対し、オレだけが1人ツンドラ気候である。
 ちくしょう。一緒に食べる人がいないために、バイキングなのに各種料理をほんの一口分ずつくらい皿に盛らなければならない人間の気持ちがおまえらにわかってたまるか〜っ!! 美味しい料理も美味しく感じないんだよっ!! ローストビーフも食べきれないといけないから切れ端だけしか取ってこれなかったよ!! こんなもんで味なんてわかるか!!!
 そんな風に料理に対して思いのたけをぶちまけていると、心なしか他の客に迷惑をかけているような気がしてきたため、オレはその場を立ち去ることにした。それに、アメリカ人の親子などに「ママ〜、あの外人の男の人、バイキングなのに一人でごはん食べてるよ? 友達いないのかなあ?」
「こ、こら、ピーター! 指差すんじゃありません!! そんなのあの外人の自由でしょう。ピーター、忘れてはダメよ、私達は自由の国に住んでいるのよ。きっとあの人は一人で来たかったのよ」などという教育的視線でチラチラ見られるのも耐えられなかったのだ(号泣)。

 さて、寂しさを踏みしめながら次のアトラクションに向かう前に、ひとつだけやっておくことがある。それは、明後日のラスベガス発のグランドキャニオンツアーの予約だ。グランドキャニオンはそもそもどこがどうすごいのか話を聞くだけではわからないが、アメリカに来たらたとえモザイクなしのエロ本は見なくても、グランドキャニオンだけは見ておけと言われる程のあの場所である(そんなことを言う奴はいない)。
 しかし本当に昨日見たエロ本よりも凄いというのならば、ぜひともこの目で見ておかなければならない。さすがにあれ以上となると、おそらくグランドキャニオンには
モザイク必須であろう。というわけで、ラスベガスはまさにそのグランドキャニオンの玄関口であり、オレは公衆電話から現地の旅行会社主催のバスツアーに申し込んだ。電話で予約などという高等テクニックを行うことが出来たのは、やはりオレの英語力が短期間で劇的な成長を遂げたからだろう。電話に出たのが日本人で、全ての手続きが日本語で行われたからだというのもひとつの理由ではあるが。

 午後最初のアトラクションは、パーク内の1番人気、ジュラシックパークザライドに決定(自分単独会議で)。水しぶき避けのポンチョを一人で自動販売機に並んで買い、張り切ってボートに乗り込む。これは比較的新しいアトラクションだからか、午前中のスタジオツアーと違いなかなかリアルな恐竜が乗客を出迎えてくれた。ティラノサウルスやブロントサウルスはワシントンの博物館で化石を見たばかりであり、そのすぐ後に本物を見れるというのは旬の素材をふんだんに使った山菜ごはんよりも贅沢である。
 だがやはりなんといってもこのアトラクションの目玉は、最後に控える急流くだりである。そのためにポンチョも一人で自動販売機に並んで買っておいたのだ。他の客は親子やカップルでお互い着せあったりしていたが、オレは
係員に着せてもらったのだ。
 ミニ恐竜が遊ぶ川辺や研究施設などを巡回し、ボートはいよいよラストに差し掛かる。突然目の前が開けた。ここからいよいよ急降下である!
 ズバーン!!

「キャ〜〜!」
「ワオ〜〜!」
「イヤ〜〜ッ!」
「あれえ〜っ!」

 
 うわ〜っ! ビチョビチョだよ!! 
 冷たいなあ! 服もこんなに濡れちゃったよっ!! 
 ……。
 
誰かオレに声をかけてくれる人はいませんか? オレに「濡れちゃったね!」とか話しかけてくれる人はいませんか(号泣)?? 今ならもれなくにこやかに「そうだね! 濡れちゃったね!」って応える準備はありますよ……。ねえ、そこのお父さん、お姉さん、人助けだと思って僕と一緒にちょっとだけでも騒ぎませんか?
 結局、人のことなど全く考えず奴らは奴らで勝手に盛り上がっていたため、オレは一瞬だけはしゃいだ後すぐに真顔に戻った。水をかぶって、服も濡れたけど楽しくない。オレだけが、1人ツンドラ気候の中でブリザードにでも逢っている気分だ。
 ボートから降り、またもや係員に手伝ってもらいポンチョを脱ぐ。出口のゲート付近では、先程急流を落ちている時に撮られたお決まりの写真が掲示されており、それをジュラシックパークのスタッフが客に売って更なる利益をあげようとしていた。



「さーあ、みんなキャーキャー言ってる瞬間のおもしろい写真だぞ! ヘーイ、そこの日本人、1枚7$だ! 記念に1枚どうだ?」


「……」


「あ、あれ? 無視かよ……」



 
絶対買わねえ。
 一体何の記念だ? たとえ時が過ぎ今日が想い出に変わっても、日本に帰ってもその写真がある限り一生オレはツンドラ気候だ。酷暑をしのぐためのミニ冷房にはなるかもしれないが、写真を見て一旦汗がひいてもすぐに別の汗が出てくるだろう。

 さて、どうもオレは先程からユニバーサルスタジオの楽しみ方を間違っているような気がしてきたので、ここでマイケルクライトン並の想像力を駆使して妄想の彼女を造り出し、一緒にデートをしているというシチュエーションに浸ることにした。こうしてしまえば、再び1人の寂しさに邪魔されてアトラクションを堪能できないなどというアクシデントはもう起こらなくなるだろう。ちなみに今回の妄想彼女は安達祐実だ。

※お断り(重要):このところ作者の思考に一部異常が見られますが、これはあくまで体の不調による一時的なものであり、いつもの作者は断じてこんなことを考えていません。そこのところ固くご了承ください。

 祐実ちゃんと向かった次のアトラクションは、バックドラフトである。待ち行列の通路では「料理の鉄人」のテーマ曲が流れており、うまく客の食欲をそそる仕組みになっている。これはパーク内のレストランに客を呼ぶための工夫だろうか? と思ったら、料理の鉄人のテーマ曲と映画「バックドラフト」のテーマ曲は同じ物だったようだ。たまたま同じ曲を作ってしまうなんて、すごい偶然である。
 建物に入ると中はバックドラフト現象の実験部屋のようになっており、手擦りの後ろで並ぶ観客の前で、あちこちから強烈な炎が吹き上がる。なるほど。火事になるとこういうことが実際に起こるんだな……。おかげで先程のジュラシックパークで濡れていた服も乾いた。
 実験は10分ほどで終わり、暗い倉庫の中から再び外に出ることが出来た。……ところで、
これは映画のバックドラフトと一体何の関係があるのだろう。無理矢理映画のテーマ曲を流してごまかそうとしているが、どう考えてもただの燃える部屋である。

 次の場所への途中人だかりが出来ていたのでのぞいて見ると、「ブルースブラザーズ」のライブというのをやっていた。ブルースブラザーズ……ああ、何のことやら。おっさんが2人歌って踊っているだけではないか。彼らは日本でいったらノブ&フッキーのような位置づけなのだろうか。
 しかし名前がブルースブラザーズということは、見た感じ似てないが彼らは兄弟なのだろう。兄弟で踊っているといえばオレはLLブラザーズしか思い浮かばないのだが、多分ハリウッドなんかでこうして踊っているということは、彼らは一般的にはLLブラザーズよりは知名度があるに違いない。何回目のダンス甲子園に出たのだろうか? 
 もちろん本当のところは「ブルースブラザーズ」というブルースブラザーズを題材にしたハリウッド映画があり、彼らは何を隠そうその主人公なのである。真っ黒のスーツにネクタイ、サングラスと、黒ずくめの出で立ちは実にシブい。
 尚、ライブが大盛況のうちに終了すると、ブルースブラザーズの2人は従業員ルームまでパーク内を歩いて帰って行き、途中で客が「次のステージは何時からですか?」と聞くと、歩きながら「えーと、次は3:30からです」と腕時計を見ながら答えていた。あんたら、休憩時間にしてももう少しシブく振舞う努力をしたらどうだ。あなたたちは、裏へ消えるまではあくまでブルースブラザーズなのですよ。

 バックトゥーザフューチャーザライドでは、8人乗りの車型タイムマシン・デロリアンで、映画の舞台となった過去や未来を旅することが出来る。デロリアンにはちょうど2人連れ×4組で座れるようになっているため、3組のカップルに続いてオレも祐実ちゃんと一緒に仲良く乗り込んだ。
 スタートすると同時に前方の巨大スクリーンに映像が映し出され、それに合わせて車がうまく動くため、いかにも本当に違う時代を旅しているように感じる。これはかなり凝った造りである。クライマックスは恐竜時代。大昔の、恐竜がいる時代に迷い込み、襲い掛かる火山の噴火や肉食恐竜からデロリアンで必死に逃れるのだ! 

 ……あれ?

 オレの記憶が確かならば、バックトゥーザフューチャーにそんなシーンは無い。大体映画ではマイケルJフォックスがお母さんとお父さんを結び付けようと頑張ったりするくらいで、恐竜には何の用事もないハズである。
 また無理矢理ですか?
 
ジュラシックパークブームに便乗したいのはわかるが、
とりあえず恐竜出しとけばいいってもんではないんじゃ……?

 気を取り直し期待を込めて向かったのは、ターミネーター3Dであった。これは目の前で生の役者が演技をし、映像のターミネーターとの組み合わせがQちゃんと小出監督のような素晴らしいコラボレーションを生み出しているとの風の噂である。映画の設定そのままの研究所風のセットに入ると、早速案内役の女性が登場した。


「ペラペラペラペラペラ!!」


 劇場に通されると、ジョン役の少年と、サラコナー役の女優が派手に登場し、迫真の演技を始める。


「ペラペラペラペラペラ!!」


「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラ!!」



 ……。
 
字幕は、字幕はどのへんに出ているんですか!!! 
 一生懸命探してみたのだが、スクリーンの上にも下にも裏側にも、戸田奈津子の日本語訳は表示されていなかった。なんというサービスの悪さであろう。数年前に見た元祖の映画ですらちゃんとセリフに字幕がついてたし、それどころか
日本ではジョンもサラコナーもちゃんと日本語喋ってるぞ!!! 
 結局、彼らのセリフがストーリー全編に渡って理解できず、どういう根拠で撃ち合いをしているのかが完全に不明なまま銃撃戦などを見ることになり、最終的にターミネーターのアトラクションは「なんか撃ち合いしてた」というイメージだけを残して終わりを告げた。ラストシーンではなんとなく
「このようにして、再び世界は平和を取り戻したのだった……」的なナレーションが流れたような気がするのだが、どのようにして平和になったのかオレには全くわからない。

 最後の望みを託して向かった、「参加者全員の名前をETが呼んでくれる」ということがウリのETアドベンチャーでも、ETが根本的にオレの名前の発音を理解していないという悲劇に見舞われることとなった。スラスラと名前を呼ばれてはしゃぐ外人を尻目に、最終的に自分の名前までも潰されて読まれるという屈辱的な仕打ちを受けたオレは、ハリウッドに憎しみすら覚えたのだった。
 そもそもETは宇宙人だろうが! なんで英語名だけ得意なんだよっ!!
 おまえはアメリカ人かっっ!!!

 そして夜のとばりがハリウッドを包んだ。
 今日1日の偽らざる感想としては、……ユニバーサルスタジオハリウッド、おもろない。 やった! これなら朝見かけた日本人カップルも破局間違いなしだ!! ハハハ! オレなんてもともと一人だから破局する心配なんてないもんね〜(祐実ちゃんはいつの間にかいなくなったらしい)。
 オレはとりあえずこれで、「ユニバーサルスタジオジャパンには行ったことがないけどハリウッドの方には行ったことがある」という事実を創り上げることが出来た。当初の目的を果たすことが出来、オレは満足である。
 ただ、誰かに聞かれても1人で行ったということは絶対に内緒にしておこう。将来的に思い出を語る時には、「ああ、当時付き合ってた彼女(妄想)と一緒に行ったんだよ」と就業中のブルースブラザーズのように遠い目をして、シブくキメることにする。
 今日オレが味わったみじめさ、ツンドラ気候な経験は、心の奥に封印し明日以降二度と思い出すことはないだろう。











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