マンハッタンに到着



 着陸後最初の難関は、当然のことながらイミグレーション、つまり入国審査である。イミグレーション、つまり入国審査であるといいながら、
入国審査のことをイミグレーションということなどこの時のオレが知る由も無い。そもそも、人は飛行機から降りたら次にどこへ行けばよいかがわかっていないので困る。
 とりあえず入国審査というものを済ませなければいけないと地球の歩き方に書いてあったので、済ませなければいけないのだろう。しかしそれは
いずこにおわしますのでしょうか!!
 こういう時は後追い作戦だ。他の乗客に怪しまれないようにさりげなく、しかし
パナウェーブの車列を追うマスコミのように一人に狙いを定めてしつこく後を追い続ける。昔読んだ探偵の本に「尾行のコツはターゲットの足元を見ることだ」とあったのを思い出し、それを実行したおかげでなんとかターゲットに気付かれずに入国審査の列にたどり着くことができた。別に気付かれてもいいじゃないかと思うなかれ、あくまでオレはこの瞬間日本を代表しているのだ。後をつけているのがバレて、日本人は着陸後の手続きのことなど何も知らないんだと思われたら国の同胞に申し訳が立たない。
 白人ばかりの長い列に並びながら歩き方を見てみると、オレのような
ちょっと英語に自信の無い旅行者のために入国審査についての質問と応答の例が載っていた。これは使える!主な質問としては、「What is the purpose of visit?(入国の目的は?)」と「How many days are you going to stay?(滞在日数は?)」で、それに対して「サイトシーイング(観光)」「アバウトトゥエンティーデイズ(20日くらい)」と答えればよいのだ。しかし、そもそもこんな質問だったらガイドブックなど見なくても実力でわかる。これなら入国審査などおそるるに足らず。
 そしてオレの順番が来た。さあ、最初の質問はどっちだ?
 註:作=作者


作「はろー。」


「Hello!ペラペラ△△※※□□〇〇××・・・ペラペラ?」


作「・・・。」


「・・・??」


作「・・・。」



しみじみわからん。
なぜだろう?一体何が悪いのだろう?この人の滑舌が悪いからか?それともこの人が正しい発音をしていないからだろうか?もしくはこの人の英文は適切な文法を使っていないからか??とにかく、こいつの言っていることなどオレには
ドラクエの復活の呪文と大差ない。
 だが、いくら相手の発音が悪いからと言っても、とりあえずこの状況は自分でなんとかするしかない。



「ペラペラペラ・・・」


作「サイトシーイング!アバウトトゥエンティーデイズ!」


「ワ、what??」


「サイトシーイング!アバウトトゥエンティーデイズ!!!」 ガバッ←パスポート、入国カードなど心当たりの物を全て提出した音


「オ、オー、OK。ハブアナイストリップ・・・」


作「バイバイ!!」



よっしゃーーっ!!!見事実力でアメリカ入国を認められたぞ。飛行機のスッチーの時とは違い、ネイティブと英語を使って初めて意思の疎通を図ることが出来た。オレの英語力も短期間でだいぶ上達したということだろう。
 調子に乗ったオレは、空港入り口にあったインフォーメーションカウンターを見つけ、マンハッタンへ向かうバスにはどこで乗れるのかを聞くことにした。もはやオレの英語が通じることは証明済みだ。



作「ハロー!アイウォントトゥーゴートゥーマンハッタン!ウェアーイズザ バス?」


「・・・。ワ、what??」



通じねえ(涙)。

とりあえずここまで来てアメリカ人は全般的にヒアリング能力が弱いということはわかったが、肝心のバスの場所がわからなければ仕方ない。ちなみに、言うまでも無いがタクシーに乗る金はない。



作「マンハッタン!!バス!!マンハッタン!!バァス。バァス?ベァゥス?」


「オー!アイシー!!ユーゴートゥーマンハッタン!?」


作「そうだっ!!イエス!!!」



やっと通じた。何しろ彼女の仕事はこうした旅行者に各種案内を伝えることだ。その職務を果たしてもらわなければ困る。オレの英語を聞き取ることができ笑顔になった受付け嬢は、早速バス停の位置を説明してくれた。



「ペラペラ△△※ペラペラ※□ペラ△△※ペラペラ〇〇××・・・ペラペラ。」


作「・・・。」



だからわかんないんだって。
うーむ。これではたとえ彼女がどんな貴重なインフォーメーションを持っていても
全く意味が無い。言葉って大事だね。しかし、実は言葉が通じなくとも、世界中で通じるものがひとつある。それは指差しだ。いざとなったらこれを出すしかない。そしていざとなったので、オレは自分の指で、「あっち?こっち?」日本語で話しながら指差してみた。案の定、彼女はある方向を指差し、話しながら3秒経過したところでクイっとそれを左に曲げた。
 なんというわかりやすさだろう。なまじ喋るより完璧にこちらの方がわかり易いではないか。これからは指差しを世界標準語にしたらどうだろう。

 さて、彼女の言ったとおり、通路沿いに
指差し3秒分歩いて左に曲がると、すぐにバス停は見つかった。ラッキーなことにバスもすぐ来たので、早速乗り込んだ。
 うおっ。外人だらけだ。外人がオレをジロジロと見てくる。外人のくせに外人が珍しいのだろうか。ニューヨーク近郊の町をほそぼそと走るバスから窓の外を見ると、間もなく夜の闇に包まれようとしている、テレビや映画などで見たことのあるアメリカの住宅街が見える。この心細さは一体なんだ。まるでたった一人で外国に来ているような気分だ。少しでも気を紛らわせようと地球の歩き方でマンハッタンへの行き方を見ていると、衝撃の事実が判明した。なんとマンハッタンへたどり着くためには、途中でこのバスから地下鉄に乗り換えなければならないらしい。
 ・・・。
そんなことは不可能だ。もう夜だぞ?そしてオレだぞ??もちろん、ただバスから地下鉄に乗り換えるだけ、それだけのことだ。ここが日本だったらそんなことはコボちゃんでも簡単に出来るだろう。しかし、それを夜のニューヨーク郊外でやるとなると、日本でいえば首相官邸に盗聴器を仕掛けるくらい高度なミッションだ。ショーンコネリーかピアース・ブロスナンでないと無理だろう。
 だが、オレ自身ショーンコネリーに雰囲気が似ているということもあり、結果的に言えばなんとか二股の時期を作らずに乗り換えることができた。
なんの話だ。とにかく、オレはこのままこの電車に乗っていれば、目的地であるグランドセントラルまでたどり着くことが出来るのだ。
 しかし、やはりニューヨークの地下鉄は恐かった。あの頃(知らんけど)と比べれば幾分安全になったと言われているようだが、今でも叶姉妹や吉永小百合が乗ることは決してないだろう。まあそれは
安全がどうのとかいう問題と別な気もするが。ただ、叶姉妹どころかちょっとしたセレブな人々はみな治安面を気にして地下鉄には乗らないのではなかろうか。ということは、もしかしてオレはセレブな人間じゃなかったのだろうか。今知った。今。
 地下鉄はやはりボロく、落書きだらけであった。今にも鉄パイプを持った
スキンヘッドに刺青のジャンキーが現れオレを襲ってきそうだ。そういう奴は、映画ではジェイソンに真っ先に殺されたりスタローンが叩き出してくれたりするのだが、ちょっと見たところではここにはジェイソンとスタローンはいないようだ。そんなことを、自分の身に起こりそうな恐ろしい出来事をいろいろ考えていた時、フッ。電車内の全ての電気が消え、真っ暗になった。


なんだーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!

これほどの怖さがあろうか!!!!一体どういう状況だこれはっ!!!
停電か?こんな地下深くで停電したら救助も困難なのではないか!?それより暗闇に乗じてそのヘンのうつろな目をしていた黒人の乗客たちが何をするか・・・いや、そもそもオレを襲うのが目的で、強盗団の一味がわざと電気を切ったんじゃ・・・。いや、単純に電気が切れただけではないかもしれない。なにしろついこの間同時多発テロが起きている。それもここでだ。もしかしてもっと大きな災害が・・・。ドラゴンヘッド状態か??SAYAKAと共演できるならそれも悪くない!!!!

カチッ

電気ついた。
そして、電車内であわてふためいて立っているのはオレだけだ。他の乗客は、さすがに多少驚きの表情をしているなあと思ったらどうやら
ビビってあたふたしているオレに対して驚いている。どうやら、こんな停電普通のことらしい。オレには普通じゃない。地下鉄に乗っていたら電気はずっとついているのが普通だ。
フッ。


ぬおーーーーーーーーっ!!!

また消えた。いちいちぬおーとか言っているオレをビビりだと思うなかれ。初めてニューヨークの地下鉄に乗って突然真っ暗になったら
たとえ美人女将でもぬおーと言うだろう。
 尚、その後マンハッタンに着くまで5回くらい電気が消えた。さすがに4回目5回目となれば
ぬおっくらいの叫びで済むようになったのだが、はっきり言って慣れてしまうのが一番怖い。5回目くらいの停電で「なんだ、またか。」と冷静に振る舞い、しばらくして電気がつき、「あーあ、やっとついたよ」と余裕の表情で言ってふと横を見たらそこに血まみれの殺人鬼が!!!キャーーーーーーーーーっ!!!となって次のシーンでは頭に斧を突き刺して死んでいるというのがホラー映画の上等手段ではないか。舞台もアメリカだし。
 とかあいかわらずバカを考えているうちにひろ子さんの待っているグランドセントラルに着いた。











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