ニューヨーク観光 目覚ましが鳴った。6時である。クロロホルムをかがされた脱ぎ役の女優のようにソファーに倒れこんだだけあって、オレの着衣は乱れている。なにしろ作者を寝かさない協会の会長であるマイクが、朝の4時までオレを寝かせてくれなかったのだ。オレは愛人か? それにしても眠い。昨日30時間以上起きていたにもかかわらず2時間しか寝れなかった。シャワーも浴びず着替えもせず固いソファーに寝ていたためなんとか目が覚めたが、もしも今シャワーを浴びふわふわのベッドに横たわることができたなら、コナン君に麻酔銃を撃たれた小五郎より早く眠りにつく自信がある。とりあえずすぐに出かける支度をしたオレは、マイクに告げた。 「あのー、なんだかご迷惑かけちゃっても悪いんで、今日はユースホステルに泊まることにします。」 「なにいってるんだよ。そんなこと気にするなって。」 「いやいや、いいですから。ほんとに。じゃあどうもお世話になりました!」 「ほんとに」の声のトーンに「せっかくですが、金を払ってもいいからもっと普通に寝れる場所を探します」というニュアンスを含めてやや強めに言い放ち、マイクがしゅんとなった隙を見計らってオレはお世話になった愛の巣を飛び出した。愛人には悪いが、今夜も教会に連れて行かれ夜遅くまで歌を歌わされたり無駄話を聞かされるなんて冗談じゃない。 もしもオレが万全な体調だったら説法により解脱する可能性もあるかもしれないが、この体調のオレにとっての長い説法は、防災の日のはずなのに日射病で何人も被災者を出す、9月1日の校長の長話のようなものだ。 愛人のマンションから抜け出したオレは、普段と違う朝の景色に面食らった。そうだ。昨日の朝は世田谷区のボロアパートだったが、ここはニューヨークなのであった。「ちょっとニューヨークに行ってくるぞ。」と言って湯船に向かう、全国3000万人のオヤジ達がほぞを噛んで悔しがるであろう。しかも、今日はひろ子さんとタイムズスクウェアで待ち合わせである。このオレごときがそんなハイカラなところで待ち合わせをしていいのだろうか。今までオレが待ち合わせに使っていたオシャレな場所といったら、頑張ってもせいぜいみずほ銀行の前くらいである。 ひろ子さんと落ち合い、朝飯を食べる。マンハッタンのビジネス街で朝っぱらから女性とデート。これはなかなか禁断の蜜の味である。ひろ子さんがあと20歳若ければな・・・などという気持ちは、こんなにお世話になっている立場では浮かんでこようはずがない。ましてや、この場にタイムふろしきがあったら真っ先にひろ子さんにかけようなどと思っている人間は、オレが断じて許さない。だからオレはオレを許さない。 「なんか目が赤いよ。」 「ええ。昨日の夜ちょっと泣いたもので・・・。というより寝たのが4時だったんですよ。」 「4時?そんな時間まで何やってたの??」 「夜遅くまで教会でマイクとチョメチョメしてました(涙)。」 「そう・・・。それはなんて言ったらいいか・・・。気の毒に・・・。」 それ以上話すとまた泣きだしてしまいそうになったオレは、早めに食事を済ませ、早速マンハッタンを案内してもらうことにした。ちなみに、「マンハッタンって一体何のことなのよ?」という人がいるかもしれないので、このニューヨーク通の作者が説明しよう。マンハッタンはマンハッタンだ。 地下鉄に乗り、マンハッタン島の南端へ向かった。チャンバー.st という駅で電車を降りると、辺りは焦げ臭い匂いで充満していた。そこからしばらく歩いてたどり着いたのは 、ワールドトレードセンター跡地。やはり今ニューヨークにいる限り、ここは真っ先に見ておかなければならない場所だろう。まだ現場には瓦礫の山が残っており、かなり手前から柵がはられそれ以上は立ち入り禁止になっていた。アルカイダ(タリバン?)の自爆テロはもうかれこれ1ヶ月以上前のことであるが、他の観光客に混じって壁をよじ登り覗いたビルの跡地からは、まだ煙が立ち昇っていた。そして瓦礫の中にはいまだに数千人が埋まっているらしい。 なかなか死を実感する瞬間というのは人生で無いものであるが、この光景を見た時はさすがに頭がボーっとなった。「ああ、なんてことだ!テロリスト許すまじ!!!」と善良な一般市民として当然だろうことを思った。しかしこうやって単純に物事を考える無知な人間が集まって、その何倍ものアラブ人を殺しまくっていくのである。 もちろんここで亡くなった方々は罪も無く本当に気の毒であるが、なかなか物事の全体像を把握するというのは難しい。 さてここからまた普通の観光に戻る。次の目的地はドラッグストアだ。アメリカといえばドラッグストアという名称をよく聞くが、その正体はドモホルンリンクルは初めてのお客様には売ってくれない理由くらいはっきりしない。そこで、ひろ子さんにドラッグストアへ連れて行ってもらい、「初めてのドラッグストアで買い物に挑戦」という初めての告白と同じくらい胸キュンになる試練を自分に与えることにした。ちなみに、オレが初めて女の子に「つきあってくれ!」と言った時は「え?どこへ?」と答えられ思わず「空気読めよ!!!」と力いっぱい罵倒しそうになったことは、オレと彼女の心の中だけにしまっておかなければならない。 ドラッグストアは日本でいうと、コンビニというよりスーパーであった。そもそもアメリカは広い。紅白戦をしているサッカー部員の中に時々長打を追いかける野球部員が混じっている日本とは規模が違う。よって、コンビニの感覚でこじんまりと作ったとしても、ちょっとしたスーパーくらいの広さになってしまうのだ。 ここでオレが買おうとしているものは、目覚まし時計である。鬼のように厳しいひろ子さんは、オレに黒人の女性店員に対し「目覚まし時計はあるか?」という質問をさせようとしていた。ちなみに目覚まし時計は英語でなんというかというと、「アラームクロック」である。なぜ知ってるかって?たった今ひろ子さんが教えてくれたからさ。 たとえアラームクロック情報を教えてくれたとはいえ、それでもやはりオレ一人にやらせようとしているひろ子さんはあくまで鬼だ。だが、実はオレには若干の自信があった。なぜなら、昨日東京からN.Y.への飛行機で、入国審査で、空港の総合受付けで、幾度となく極悪非道なネイティブアメリカンと自分だけを頼りにして戦ってきたのだ。 さあ、オレの実力とくと見るがいいぜひろ子!! さん!! 「エクスキューズミー。ドゥーユーハブアラームクロック?」 「・・・。What??」 「あ、アイウォントアラームクロック。」 「ウォーター??」 「ノーノー!!アラームクロック!!!」 「??」 「ア、アラ・・・(号泣)。」 ひろ子さん「ペラペラペラ、ペラアラームクロックペラペラペラ?」 「OK.ペラペラペラ、ペラペラペランラペラペンラ」 ひろ子さん「Thank you!」 「さ、サンキュー・・・」 ……。 ひ、ひろ子さん・・・。な、なぜオレを助けた〜!!情けなど、情けなどいらぬ!!!この拳王、敗れて命を拾おうなどと思わぬわあ!!! 「こっちだって。」 「はい・・・(涙)。」 今までも散々ヒアリング能力の低いアメリカンに苦労させられてきたが、今回の店員もまたオレの発音が聞き取れなかった。一体アメリカの英語教育はどうなっているんだろう?と思っていたのだが、なぜかひろ子さんの英語はあっさりと通じた。 これは。 もしかして。 そう、実は昨日からうすうすと感づいていたのだが・・・信じたく、信じたくなかった。でもここまでの状況証拠を見せられてはもう観念するしかない。そう、昨日から今日にかけて、英語の能力が低かったのは実はアメリカ人ではなくてオレの方だったのだ!!!衝撃の事実!!! 「あ、あの、ひろ子さん、なんでさっき僕のあらーむくろっくは通じなかったんですかね・・・?」 「うーん、なんでだろうね。多分LとRの発音の違いじゃないかな。」 畜生・・・。LとRか。そういえば昔L⇔R っていう二人組の歌手がいたなあ・・・なんて祖国の歌謡曲事情に想いを馳せながらも発音の難しさを実感したのだが、まあ喋れなかったとしても普通に旅するくらいでは特に不都合はないだろう。大丈夫さ。重い病気にでもかからない限り、そんなに緊急の英語の必要性はないだろう。あー安心。 ・・・運命を知らぬとはなんとおろかなことよ(神の声)。 買い物ミッションもつつがなく終了。ここで、ついにこのか細き子猫がニューヨークの街に一人で放り出される時が来た。そう、ひろ子さんが帰宅したのだ。ここからはもう頼る者はいない。おそらく国際人にとってニューヨークを歩き回ることなど赤子の手をひねるくらい簡単なことだろうが、今のオレは赤子の手をひねろうとしたら逆に赤子にいじめられて泣く自信がある。 とりあえず、当面の目標は赤子と対等に渡り合える根性を見につけることだ。赤子め〜。赤子の野郎、見てろコラ!! それからしばらくは電車や公共施設で赤ん坊を見かけるたび、親に見つからないようにこっそり赤子とガン飛ばし対決を繰り広げるのだった。 ![]() |
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※お勉強タイム Q.作者の旅行記を見ていると、いかにも知ったふうな口のききかたでマンハッタンマンハッタン言っていますが、マンハッタンとは一体なんのことですか?教えて青ペン先生! A.青ペン先生です。新しい学校はどう?さすがにまだ1週間じゃ友達もできないかな。先生も新しい仕事にまだ慣れていません。だって先輩や女子社員が僕の大事なペンを給湯室の生ゴミ入れに捨てたり、会議の時間をわざと遅く教えて遅刻させ、上司に悪い印象を与えようとしているんです。どうすれば僕、職場になじめるかなあ。よかったらキミの意見を聞かせて欲しいです。来月も僕がこの職場にいればの話だけどね・・・。 あ、そうそう、マンハッタンっていうのは「マンハッタン島」っていう島のことなんだ。ニューヨークの中でも主要な建物が集中しているのがこのマンハッタン島なんだ。ニューヨークとだけいえばニューヨーク州、ニューヨーク市といろんなとらえ方があるけど、マンハッタンといったら「ニューヨークの中心地域」みたいな感じになるんだね。 よかったら今度会わない?じゃあまた! |