ニューヨーク彷徨



 摩天楼を夕暮れが包む中、オレが向かったのはメトロポリタン美術館だった。ニューヨークの市バスに乗り、セントラルパーク前で降りる。
 ・・・いやー、
こんな文章書いてる自分が嬉しい。ああニューヨーク。しつこいがニューヨーク。オレの大好きな映画、「プロジェクトA」、「ポリスストーリー香港国際警察」、「少林寺木人拳」、「酔拳2」。それらの舞台である香港と、ここニューヨークは、あまり関係がない。なぜ映画の話題を出したかというと、ただジャッキーチェン好きをアピールしたかっただけだ。
 しかしそんなことはおいといて、ここはセントラルパークである。今やオレといえばセントラルパーク。セントラルパークといえばジョンレノン。ということは、オレはほぼジョンレノンであると言っても過言ではない。そんなわけでジョンレノンらしくイマジンオールザピーポレと歌いながら、パーク内にあるメトロポリタン美術館へさっそうと入館した。一体メトロポリタンとは何なのか、ナポリタンやリポビタンとの違いもよくわからなかったが、地球の歩き方によるとここには
高い絵がたくさんあるという。ということで高い絵を求めて意気揚々と館内を散策し始めたのだが、すぐに寝てしまった。警備員に起こされたため、仕方がないので絵も見た。その後美術館から出ようとしたのだが、案の定全く現在地がわからず、出口も見つからなかった。
 結局展示品を見ている時間より出口を求めてうろついていた時間の方が長く、オレはメトロポリタン美術館に美術品ではなく
出口を探しに来たようである。ただ、それだけにEXITのサインを発見した時の喜びはかなりのもので、この達成感のためだけにでもここに来る価値はあると思った。

 無事メトロポリタンから脱出した時はもう夜になっていたが、次に向かったのはエンパイアステートビル。ここは数年前にインディペンスデイで粉々に破壊されていたところだが、オレが見た限りではどこにも破壊の跡はないようだ。もしかしてあれは今はやりの特撮だったのか?
 まあ破壊のことはまた後で考えるとして、マンハッタンの美しい夜景を彼女と2人っきりで楽しもうと屋上に登ってみたのだが、
寒すぎて景色とか言ってる場合じゃなかったのですぐ降りる。こんな情けないことじゃ彼女も怒っちゃったかな、と心配になったのだが、よく考えたらオレは一人だった。
 そういえばもう冬だ。ニューヨークは青森県と同緯度であるため、完璧に寒い。マジソンスクエアガーデンでマタギが狩りをしていてもおかしくない。しかしこの寒さなら、ギャグが滑っても季節のせいに出来るだろう。ふふふ。やすこのレンジは
使いやすこ。

 さて、とりあえず今日の観光はこれにて終了することにしたオレは、エンパイアステートビルの近くにあったレストランに、
入るきっかけが掴めずドアの前を10往復くらいしてからようやく入った。マホガニー調のシックな感じの店内には長いカウンターが備えられており、多国籍な美味しそうな料理が並んでいた。ちなみに勿論オレにはマホガニー調とかシックの意味が全くわからないが、アメリカ関係でよく聞く言葉なのでここで使用してみた。
 この店は、この陳列された料理の中から自由に自分の好きな物を取っていき、最後に清算するという仕組みらしい。さすがに普段は赤子にいじめられているオレでも、
好きな食べ物を選ぶくらいは勇気を出せば自分で出来るのではないか。そう思い決心したオレは、今年の夏に24時間テレビからもらった勇気を振り絞り、一生懸命チキンとパスタを取ってみた。結果、手ごわい料理達は見事にオレのトレイに移動を果たした。成功だ。オレだってやればできるんだ!!
 さて、取るだけ取ったら後はレジに行かなければならないのだが、ふと見ると、レジで防衛線を張っているのはK−1JAPANなら準決勝くらいまでは進めそうな、オレ2人分くらいの容積の巨漢の黒人女性店員だった。どうもアメリカは店のレジというと必ず黒人女性がやっている気がする。しかも料金の計算をするのが仕事のくせに、全員寸分たがわず
自分のカロリー計算ができていない。
 まあ今回に関してはただ値段を聞き、金を払うだけである。特に会話は必要ないため、気も楽というものだ。



「ハロー。」


「・・・。」



無視かよ!!!
チラリとオレの顔を一瞥すると、黒人店員はトレイに乗っているオレが食べたい料理をレジに打ち込んでいき、料金を計算した。



「トゥエルブナントカペラペラダラーズ。」


「・・・。ソーリー??」


「トゥエルブナントカペラペラダラーズ。」


「トゥ、トゥエルブ??かな・・・」



 トゥエルブだけは聞き取れるのだが、そのあとのナントカペラペラが聞き取れない。仕方なく、とりあえず12ドルを出して女性店員に見せてみた。すると彼女はその12ドルを受け取り、さらにオレにガンをガンガン飛ばしてきた。冷静に見てみると、ものすごーく怒っている表情だ。これだけの迫力は、「オレはかーちゃんの奴隷じゃないっつーの!!」と訴える息子に対し
「そういうセリフは奴隷のように働いてから言うもんだよ!!ビタン!!体罰を加えるジャイアンの母ちゃんを見て以来だ。



「ナントカペラペラダラーズ!!」



 ダメだ。もう何がなんだかさっぱりわからん。
 ということで、オレは恥じらいも無く財布をおっぴろげて彼女の前に差し出した。それを見た店員は、「チッ。」と
舌打ちをしたかと思うと、小銭入れから数枚のコインをふんだくった。・・・。
 教えてサービス業。これがホテルプラトンの従業員だったらすぐさま小林稔侍がすっ飛んでくるところだろう。しかしこの従業員にクレームをつけた場合、最悪一撃でKOされることも十分考えられるため、オレはすごすごと一人用の席を探し、チキンを食べた。涙で味付けされたチキンはおふくろの味がした。
 楽しい食事を済ませたオレは、地下鉄に乗り宿へと向かった。今日の宿は、ユースホステルである。ニューヨークで唯一のユースはかなり巨大な建物で、庭にはテーブルが置かれ、外人がいっぱいいた。受付けも外人だった。ニューヨークは外人ばかりだ。ペラペラ英語を喋り受付けを済ませたオレは、早速部屋に向かった。ユースホステルの部屋はドミトリーで、一部屋に2段ベッドがいくつも並べられており、6〜10人くらいが同じ部屋を利用するようになっている。
 部屋のドアを開けると、そこにはやはり外国の光景があった。白人、黒人、数人のルームメイトがオレをジロジロ見てくる。こ、怖い。この人達、
オレを殴ったりしないだろうか??意味のよくわからない不安がオレを襲ってくる。
 いや、そんな弱気ではダメだ。そもそも日本人が外人にびくびくしてるから、少し前に我が徳川幕府が日米修好通称条約のような不平等条約を押し付けられることになったのではないか!!
 オレは気を取り直して、強気で自分のベッドへ向かった。目で殺す勢いだ。オレのベッドは窓際の2段ベッドの上段だった。下側を使っているのは、ボクシングやらせたら
そこはかとなく強そうな黒人。ちくしょう。戦ったら負けそうだ。しかしオレだって袋とじをキレイに切り取る上手さではおまえには負けないぜ。もともと日本人は器用な上に、オレ独自のやり方でハサミを使わずに本を横にして・・・。・・・どうもこの時点で人間としてのスケールで負けているような気がするのでこれ以上語るのはやめよう。
 一人で黒人に勝った負けたで盛り上っていることをその黒人には知られないように、こっそりとベッド脇のはしごを昇り始めた。しかし!!



「ハーイ。アーユージャパニーズ?」



びくうっ!!
 み、見つかった!!黒人に見つかった!!!日本人の手先の器用さを自慢してたのがバレたのかっ!?
しかし取り乱してはいけない。ここであたふたしたらまた不平等条約だ。



「は、はーい。あいむジャパニーズ。」


「オー!ジャパニーズか。俺はトニー。よろしくな。」



 そう言って黒人は手を差し出してきた。これはなんだ?オレに何を仕掛けようとしているのだ??もしかしてパッチンガムの握手版か?握手をした瞬間バッチーン!!と挟まれて叫びあがるオレを笑いものにしようとしてるんだろう!!そう思いよーく観察してみたのだが、彼の手には特に細工はされていなかった。そ〜っと手を差し出すオレ。



「ヨロシク!」


「よ、よろしく。」



がっしとシェイクハンズ。
 お互い自己紹介し、笑顔を交わす。トニーは、めちゃめちゃフレンドリーでいい奴だった。
 ・・・ああ、主よ、最初から外人を疑うことしか知らなかったオレをどうか懲らしめてください!!厳しくぶってください!!!まあオレはキリスト教徒ではないので懲らしめられないだろうが。しかし、初対面で気さくに話しかけてくるトニーには驚いた。同じベッドなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、日本だったらこうスムーズにいくだろうか?
 なんだかうれしい。電車で老人に席を譲っている不良を見たような気分である。またはそれまで敵だったのに次の大会ではなぜか仲間になる
男塾塾生を見ているようだ。
 国際交流で気分よくなったオレは、そのままの勢いでシャワーに向かった。廊下の壁に書かれているシャワーの案内図を見つつ進んでいくと、思いっきり公衆トイレにぶち当たった。最近日本ではユニットバスでトイレと風呂が一緒になっていることも多いが、さすが本場アメリカでは、シャワールームも公衆トイレと一緒になっているのだ。
 詳しく説明すると、普通の共同トイレがあり、いくつか大用の個室も並んでいるのだが、そのトイレの個室が何個目かからいきなりシャワー室になっている。はっきりいってこれは汚い。なにしろトイレの床がダイレクトにシャワー室の床であるのに加えて、ほんの数メートル、いや板一枚隔てた隣で他人が用を足しているのだ。これでは「身体をきれいにする」というシャワー本来の目的を果たせないような気がする。なにしろシャワー室が狭すぎるため着替えは通路でしなければならず、その時にトイレの壁や床にガンガンぶつかってしまうのだ。本来の目的を果たせないという面では
ギブアップシステムがある野球拳と一緒だ。そんな野球拳は野球拳と呼べねえんだよ!!!中途半端にやるくらいならやめちまえ!!!!
 しかし、オレはここのシャワーを浴びることはなかった。服を脱ぎ
生まれたままの姿になってから初めて気付いたのだが、なんとこのシャワー、水しか出ないのだ。シャンプーくらいしようと、頭だけ突き出して水を浴びてみたのだが、なにしろ青森と同緯度である。そこで11月の夜に水シャワー。無理だ。オレの両親がアデリーペンギンでもない限り無理だ。
 残念ながら両親がアデリーペンギンではない(可能性ゼロではないが)オレは、さっさとシャワーをあきらめ部屋へ戻った。トイレへ行き服を脱いでまた着ただけ、おそらくさっきにも増して色んな外国産の菌がついて来たことだろう。こんなところでも
ちょっとした国際交流だ。
 ただ、シャワーが浴びれなかったとはいえ、昨日と違うところは、今日は普通に寝れるというところだ。何と言ってもまだ11時だ。ベッドもある。説法も無い。当然のごとく、アッというまに眠りについた。

・・・実に気持ちよく眠った。

 しかし、深い眠りに陥っているはずのオレは、何故か夜中にフト目が覚めた。
・・・。地震だ。
 たしかに揺れている。しかも何回もだ。
 サンフランシスコやロスなどは地震が多いと聞くが、ニューヨークでもこんなにコンスタントに地震が発生することがあるのだろうか?
 ふとオレは、地震と共に妙な爆音がしていることに気付いた。・・・。



「グオーッ。zzz...グオーッ。zzz...」



 この音は。そしてアメリカ人特有のzzz...という文字は。
 そう。トニーのいびきだった。しかも彼のいびきは、不定期に爆発を伴っていた。



「グオーッ。zzz...グオーッ。zzz...ぐ・・・グボボオンっ(爆発)!!!!」



 そして爆発と同時にベッドが揺れる。・・・これが黒人のパワーか?まさかいびきで地震を引き起こすとは・・・。一体どういう仕組みなのかわからないが、彼の上に備え付けられているオレのベッドは、トニーのいびきにあわせてひたすら揺れていた。・・・寝れん。
 まさか、オレの信頼していたトニー、こいつも実は
作者を寝かさない協会の会長なのか!?友達だと、信じ合えたと思っていたのに!!しかしこれには抵抗のしようが無く、張り合ってこっちもベッドを揺らしてみても苦しいのは自分だけだったので、結局ウトウトとしかけてはグボボンと起こされるというパターンを夜明けまで繰り返し、そのまま再び朝がやって来てしまうのだった。











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