ワシントンD.C.



 JFK国際空港からワシントン行きの便に乗り込むと、乗客はオレを含めて合計9人であった。
 少な〜・・・。
たしかに、客が多すぎて乗車率200%とかの飛行機もできたら避けたいものだが、しかし9人である。900人ではない。9人である。レーニンでもない。9人である。乗客乗員全て合わせても、大家族スペシャルの兄弟の数よりも少ないではないか。そもそも飛行機で自由席というのがおかしい。スチュワーデスも1人である。これでは独断でスチュワーデスに順位をつける「自分が選ぶ、機内スチュワーデスビューティコンテスト」も開催できないではないか。無理やり開催したとしたら、彼女が確実に最年長優勝者だ。
 ちなみに、今回のアメリカ旅行では国内線の航空券もあらかじめ購入済みである。なにしろこの時期アメリカ方面の航空運賃は、書斎に
女子アナお宝画像のVCDを隠しているのが見つかった父親の権威なみに軒並み暴落している。日本からの往復航空券だけを買って残りはバスや電車で移動するより、全て飛行機を使った方が圧倒的に安いという、大助が花子に激しいダメ出しのような逆転現象が起きているのだ。テロリストに落とされる危険にさえ目をつぶれば、安いし速いし快適だしで実にいいことづくしなのである。もちろん、多くの常識人がその可能性に目をつぶれなかった結果、このテロリストもびっくりのすさまじい搭乗率の低さが発生しているのだが。
 
 ニューヨークからワシントンまではほんの1時間ちょっとである。なにしろ飛行機でございますので。アーッハッハ!!
 ・・・しかし優越感に浸ってはいたものの、さすがにワシントン上空まで来た時は、このままペンタゴンに突っ込もうとして、


「大統領!大変です!!またもやニューヨーク発のアメリカン航空機が、突然進路を変え国防総省へ向かっています!!」


「なに!!それは本当か!!!」


「はい!!このままではまたペンタゴンに突撃されます!!どうか撃墜の指示を!!」


「いや、しかし・・・多くの乗客の命を考えるとそんなことは・・・」


「大統領!今情報が入りました!!アメリカン航空機の乗客の数は、全部で9名だそうです!!」


「なんだと!!9人しか乗っていないのか??」


「そうであります!!」


「じゃ、撃墜。」


「ラジャー!!」



 というふうに、スクランブル発進したF16に
撃ち落とされる光景がちょっとだけ頭をよぎったものの、この人数ではテロリストも逆にやりがいがないと感じたのか、無事ボルティモア国際空港というところに着陸することができた。というより、9人しかいないのでは犯人も怪しい動きをしたらバレバレである。
 
 さて空港に到着後、再び入国管理官との戦いに備え、パスポートを用意し、腹式になるように腹を抑えながら「サイトシーイング!アバウトトゥエンティーデイズ!」の発声練習を繰り返していたのだが、国内線の場合は入国審査というものは無いらしい。ちくしょう・・・
裏をかきやがったな。たしかにニューヨークからワシントン、アメリカからアメリカの移動であるため、これは入国ということにならないといえばならない。まったくアメリカもややこしい言い訳が上手くなったもんだ。まあ今回はそういうことにしておいてやろう。
 これからワシントンD.C.の中心部に移動するわけだが、空港から市内までは遠い。そこでオレは、マルクという電車を使って移動することにした。風の噂によると、ここからは、空港付近の駐車場、バス停や駅を巡回するシャトルバスが出ているらしい。早速シャトルバスに乗ったオレは、どこで降りたらいいかわからず
降りる機会を逃し、気付いたら再び空港に戻って来ていた。もちろんこの時点でバスに残っているのはオレだけ。動揺してしばらく隠れていたのだが、車内の点検に来た運転手にあっさりと見つかった。



「・・・。」


「ヘーイ!!ナニやってんだおまえは??」


「あ、あの・・・マルクの駅で降りたかったんですけど・・・(泣)。」


「ヘイ!!ペラペラペラペラナントカカントカペラペラナントカペラペラカントカ!!」


「そ、そうですね・・・(涙)。」



 この黒人運転手が何を言っているかはわからなかったが、あきれた表情とオーバーに肩をすくめているところから判断すると、おそらくオレを
罵っているのだろう。あはは。
 しかし罵られようとさげすまれようと目で凌辱されようと、意味のわかっていない人間にとってはあまり効果がない。いや、むしろ罵られているというのはオレの勘違いな可能性もあるわけで、もしかしたら彼の言葉を日本語に訳すと、「ああ・・・なんていう勇敢な少年なんだ・・。敢えて言葉もわからない外国に来るその勇気!そして下着の替えを2セットしか持ってきていないそのたくましさ!!誰もがあなたに出会ったらひざまずくことでしょう。」などと言っているかもしれないわけだ。
 結局オレは特例としてそのまましばらく待機し2周目の巡回に乗せてもらうことになり、今度は運転手も
一人ではバスから降りられない日本人がいることをわかっていたため、駅前に着くと親切に、いや引きずり出すようにオレを降ろしてくれた。

 ワシントンの地下鉄はとてもキレイであり、ニューヨークと比べると
形成外科の広告の施行前と施行後のように格段な違いを見せ付けていた。そしてニューヨークのようにいきなり電気が消えることも、乗り過ごした黒人が外からガンガンドアを叩いていることもなかった。さすが首都だ。きっとどこの国も首都とはこういうものなのだろう。
 今夜の宿泊先も、やはりYH、ユースホステルである。しかしとりあえず荷物を置き、意気揚々と夜の街に繰り出すことにする。この時間では観光は出来ないが、とりあえず夕食がてら街の雰囲気を味わっておこうではないか。ワシントンといえばやはりホワイトハウス。そしてその他いろいろ。明日からのベタベタの観光旅行が楽しみで仕方ない。

キキイイイィーーーーーーーーーーッ!!!



「ぎゃああああっ!!!」


「ヒャアッホウッ!!!!」





あぶねーーーーーっ!!!!!!!!!!!


 ななな・・・なんなんなんだ・・・。
 わくわくしながら横断歩道を渡っていたオレを突然襲って来たのは、
人を轢くことが生きがいと思われる黒人の暴走車だった。なんという運転だ。いや、運転というよりも普通にオレを撥ねようとしていた。なんなんだこれは。たぐいまれな身体能力のおかげでなんとか間一髪歩道へ逃れることが出来たが、ワシントンの横断歩道は渡ると車に轢かれるようにでもなっているのだろうか。もしそうだとしたら、夫に多額の保険金をかけた若妻には実にもってこいの街である。
 さて、軽く命の危険を感じたところで本日の夕食はマックへ行くことにした。旅慣れていない人間が楽をしたいためについつい足を運んでしまう場所である。ただ、他のところへ行こうとしてもワシントンには高級レストランばかりで、もしもさっきの暴走車に轢かれて致命傷を負ってでもいたら死ぬ前に行くかもしれないが、まだこれから一人旅が続く身にとってはなかなかそういった高いところで食事などできないのだ。
 マックで注文するのは非常に簡単である。各種セットに番号が振られていて、こちらはそのナンバーを言ってドリンクを選ぶだけで良いのだ。これなら
鎖国中の江戸の素浪人でもなんの問題もなく注文できるであろう。レジにいたのは女子高生のバイトだと思われるかわいい白人の女の子だった。



「ハロー。アイウォントナンバーワンセット。」


「・・・What?」


「ナンバーワン!!」


「・・・ファ、What??」


「ワン!ワン!!ナンバーワン!!セット!!」


「・・・。」 ダダダッ!




・・・。





上司を呼びに行くな!!!

 ワンだぞ!?ワン!!
 アメリカじゃあ高校でもまだワンツースリーは習わないのか??しかも全世界共通の指差しまでつけてやったんだぞ??何が?何が悪いの?オレが悪いの??3日間頭洗ってないからか??
 レジ係の彼女は、すぐに上司の男を連れて戻ってきた。



「ハロー。May I help you?」


「い、いえす。アイウォントナンバーワンセット。」


「OK。ナンバーワン。」


「・・・。」



通じるじゃねえか!!!!
なんなんだよさっきのは!!!




「OK。ナンバーワンセット。」




おまえ偉そうに出てくるんじゃねー!!!今更何がOKじゃ!!




「ペラペラナントカドリンクペラリンチョ??」




 ・・・。まあいい。どちらにしろこれでナンバーワンセットの注文は通ったのだ。さて、ドリンクだ。はっきり言って、アメリカに着いてからオレは毎日毎日コーラしか飲んでいない。なんでアメリカ人はこんなにコーラばっかり飲めるのかと思うくらい、食事の時もおやつの時もコークコーク、感覚的には手洗いうがいすらも
コーラで励行されているような気分である。たまに気分を変えてスプライトが登場するくらいだが、正直言ってコーラがスプライトになったくらいで違いを感じるなんてことは無い。加山雄三と弾厚作のようなもので、基本的には全く同じである。
 そこで、今回は突然飲みたくて仕方がなくなったミルクを頼むことにした。確認してみたが、ちゃんとドリンクメニューにも載っている。



「ミルクプリーズ。」


「・・・What?」


「ミルク!!ミゥク!!」


「・・・ファ、What??」


「ミルク!!ミルク!!ミルク!!ミルク!!


「・・・。コ、コーク??」 


「・・・。」



なんでやねん!!!
メニューにちゃんとミルクがあるんだぞ??たしかにコークもあるが、ミルクとコークが両方メニューに載っている時に客が「ミルク!!ミルク!!」と言ってたら普通ミルクだろうがおい!!!
 しかし、
オレは疲れた。



「イエス・・・。コーク。コーク・・プリーズ・・・(涙)。」


「OK。コーク!」



その時、隣にいた上司が、米コギャルを制して口を挟んできた。



「ミルク??」


「そ、そうです!!!ミルクです(号泣)!!!!」


「OK。ミルク。」


「オーケー!ミルク!!」



だからなんでオメーが偉そうに出てくるんだよ!!!!!
おまえはクビだー!!!クビだー!!!


 結局、女子高生は無視し上司とマンツーマンで話すことにより普通に注文ができた。このコギャルはオーナーの愛人なのだろうか?そうでもなければこれほどのアホがここで働いている理由がわからん。それとも、この店舗は
アホがウリか? 

 YHに帰り、3日ぶりにシャワーを浴びる。お湯があるって幸せだね。誰か明日からオレに弁当作ってくれ。











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