ワシントンD.C.3



 キン肉マンの登場人物の中で最も描くのが簡単なキャラといえば、ブラックホールと共に四次元殺法コンビとして名を馳せた、
空を飛べたり時間を止めたり出来るという、そんな特技があるならプロレスラーなんかやめて他の職業探せよと思わずつっこみたくなるマンガならではのキャラ、ペンタゴンである。
 そしてそのペンタゴンは、ニューヨークの貿易センタービルと同じく旅客機の突撃を喰らっていた。
 アメリカ国防総省を意味する(らしい)ペンタゴンは、ワシントンの中心部であるモール地区から地下鉄で30分ほどの郊外にある。
 さすがに場所が場所だけに、そしてこの時期だけに、マシンガンを持った兵士が至るところに立っている。そんな彼らに怪しまれないように
必要以上に笑顔を作り媚を売りながら、そしてちょっと勘違いしペンタくんの歌を口ずさみながらぐるっと1周してみると、星の一角が見事に崩れ、中が丸見えになっている。
 ここでもやはり多くの人が亡くなっているため、まずは手を合わせよう。職員だけで184人が犠牲になったということだ。多分こんなところで働いている人間は突然仕事を辞めて当ても無く外国を放浪するようなダメ人間ではなく、エリート中のエリートだろうから、アメリカにとっては大打撃であろう。しかし国防総省がこんな簡単にやられていいのかアメリカ??

 さてこういう一見貴重な現場を見たことにより、調子に乗ってホームページという媒体を利用してアメリカの国防やテロリズムの恐ろしさなどについて語り出したいものなのだが、社会派をアピールしようとしても
2行くらいで実はたいして知識が無いことがばれると思うのでやめておこう。触らぬ神に祟り無しである。タリバンって新しい宇宙刑事のことか??・・・まあ頭カラッポの方が夢詰め込めるからいいのだ。あとで勉強しよう。

 さて、1ヶ月弱とはいえ今回の旅はオフにアジア遠征をするベッカムのように各都市をピンポイントで回らなければならないため、ワシントンの滞在も今日が最後である。ちなみにこんなことを自分で言うのはちょっと気が引けるのだが、オレとベッカムはいくつか似ているところがある。このピンポイントの日程もそうだが、それ以外の共通点は、大きなところでは2人とも
人間であるということである。そして性別も同じだ。あとは特に無い。
 いや、たしかに知名度も貯蓄額も
何十億倍かは違うと思うのだが、中国の春秋時代の故事で五十歩百歩という有名なものがある。この故事成語に照らし合わせるならば、2人とも知名度も貯蓄も0でないという点においては同じようなものなのだ。
 言っていて悲しい。

 今日は、昨日行くことが出来なかったスミソニアン博物館、そしてフォード劇場などを訪れることにする。ちなみに、「スミソニアンって一体何のことなのよ?」という人がいるかもしれないので、このスミソニアン通の作者が説明しよう。スミソニアンはスミソニアンだ。
 最初に行ったのはフォード劇場だ。フォード劇場というのは、リンカーンが演劇の鑑賞中に射殺された場所である。リンカーンについては学研マンガ伝記シリーズが家にあったからよく知っている。かの有名な演説、「ガバメントオブザピーポーオンザピーポートゥーザピーポー(適当)」をした人物だ。そして劇場の向かいには、その直後リンカーンが息を引き取った家と、まさにその時に横たわっていたベッドが当時そのままの状態で残っているのだ。当時そのままと言ってももちろんリンカーン自体は残っておらず、ちゃんと葬られている。
 しかしこうして以前から写真などで知っていた「暗殺の現場」に今自分がいる、ということはかなりの感動である。今まで映像でしか知らなかった場所にまさに今自分がいるということで、「あれ?この交差点ってこの前見た『白金台の奥様・白昼屋外露出パート3』で出てたとこじゃない??」と
AVのゲリラ撮影ポイントを発見した時とある意味同じような状況とは言えない。
 奴隷解放の父が亡くなった場所でこんなことを考えているオレがリンカーンの代わりに射殺された方がどれだけ世の中のためになったことかと思うが、暗殺者にしてみても、殺し慣れているとはいえ
こんな小物のために犯罪を犯すのも嫌だろう。

 そしてスミソニアン博物館だ。スミソニアン博物館というのは感覚的に1つの博物館のことを指すと思いがちなのだが、実はいくつもの美術館、博物館の総称であり、ホワイトハウス周辺のモール地区だけで実に9つもの施設があるのである。小学3年生の息子を持つ部長が
プレステやドリキャスやゲームキューブの呼称を無理矢理「ファミコン」で統一するようなもんだ。
 ということで、スミソニアン博物館群の中には航空宇宙博物館やホロコースト記念館など見所はたくさんあるのだが、ニューヨークのメトロポリタンと同じくここでも変わらないのが、近代美術のわからなさだ。
 ナショナルギャラリーという、「パリのルーブル美術館と匹敵する」と言われている美術館があるのだが、そこには裸の女の人、
芸術的な言い方をすれば裸婦の絵もあり、それは本当に唸るほど上手い。まさに裸婦に釘付けだ。見ていると芸術心が喚起されてオレまで裸婦を描きたくなってくる。
 しかしそれに対して近代アートコーナー。
なんだこりゃ?もしもオレが美術の教師で生徒にここの展示物を提出されたとしたら、「おまえやる気あんのか?今時幼稚園児の落書きでももっとデッサン力があるんだよ!!!」とオブジェを叩き壊しながら言うだろう。多分ここの絵をのび太くんの絵とすり替えても誰も気付かないであろう。
 てな感じで、近代アートコーナーはそんなものだから、結局再び裸婦の絵を見に戻るしかないのだ。やっぱり
芸術は裸婦に限る。※芸術です。

 さて、こうして思う存分裸婦を見まくり、筆の使い方やタッチの差(裸婦にタッチということではない)などを学んだところで本日も帰宅の時間だ。あまり遅くなるとまた人を轢くのが生きがいな黒人どもに派手なアクションをやらされるハメになるかもしれないのである。
 明日は朝から移動の為もうこれでワシントンとはおさらばなのだが、見所もひと通り巡回したし、どうせ
これ以上裸婦を見ていても、悶々としてどんどん苦しくなるだけだ。自分の絵の未熟さを実感してしまい苦しくなるという意味だ。

 というわけでユースホステルに戻り、シャワーを浴びるとあっという間に眠りについてしまった。昨日今日の疲れ、歩いた距離は半端ではないと思う。この2日間の足の使用度は
はぐれ刑事にも負けないと思う。
 おそらくみな歩き回ったのだろう、8人のルームメイト達も10時には全員寝ているという、大人とは思えない健康的な夜になった。

 しかし。
 健康的な夜は長くは、いや数時間も続かなかった。
 全員が深く寝静まった夜の12時頃、一人の新しい黒人旅行者がオレ達の部屋にやって来た。ガサゴソと荷物をまとめたりメシを食ったりしている音に一度みな起こされたのだが、遅く到着する旅人もいるのは当然だし、そういうことはお互い様だ。誰もそれを咎める者はいなかったし、その黒人も食事を終えるとすぐ寝てしまったため、すぐに部屋には静けさが戻った。

 と思った数分後。


ZZZZZZZZZ ......
    
日本語訳:グガーーッ・・・ゴガーーッ・・・)

















 あのー。


















これがこの世の生物が発するいびきか?

















いや、これはテロか??












ある意味これは多国籍なルームメイトにむけた無差別テロである。黒人からこの爆音が発生した途端、瞬間的に全員が飛び起きた。こんなものに今までの人生で出会ったことがあるだろうか?右翼の街宣車、社民党の選挙カー、ジャイアンのリサイタル、しずかちゃんのバイオリン、親の
「おまえ26にもなっていつまでそんなフラフラした生活してるんだ!!」の罵声、その全ての騒音を凌ぐ。
 最初は個人行動でその場でぶつぶつ文句を言うという消極的作戦だったオレ達だが、第2作戦として次は枕を黒人に投げつけることにした。
普通に直接起こして文句を言う勇気が無いのがこの多国籍軍のウィークポイントだ。もちろん理由としてはこの黒人が暴れたら全員やられそうだからである。
 全員分、そして予備の枕までくらって枕の林に埋もれているのだが、その黒人は相変わらず他国の迷惑を考えない一人核実験状態であった。とりあえず「あきらめよう」ということになった、つまり負けた(涙)オレ達は、仕方なく再びそれぞれのベッドに戻った。

 しかし眠れない。いくら疲れていても、この怪音である。
 ふと気付くと、2人、3人と、ルームメイトが部屋を出て行っている。どこへ行くのだろうか?しばらく待っていると、戻ってきた彼らは自分達の荷物を持って再び出て行った。
 ・・・わかった。
 部屋を替わっているのだ。
 
弱い。なんという弱さだろうか。自分で文句を言うだけで、黒人を起こす勇気も無く、最終的にフロントに助けを求めて部屋から逃げ出すとは。オレは今まで外人をやや過大評価していたらしい。ここで意地でも部屋を替わったりしないで、おもしれえ、この爆音の中で眠ってやろうやないけ!というのが根性というものではないか。
 勿論オレはここで寝る。あんな奴に負けてなどいられない。大和魂。日本人の根性みせたる。
この爆音の中で眠ってやろうやないけ!!!

 そこからはまさに自分との戦いであった。



 というわけで、その30分後、オレは部屋を替えてもらうためフロントへ向かっていた。仕方がない。あんな轟音の中にいるくらいだったら、
板書好きのシザーハンズの授業を受ける方がまだマシだ。
 ところで、オレは旅の英会話帳でこの場合の英会話の例文を探してみたのだが、「同部屋の黒人のいびきがうるさいので部屋を替えてください」が載っていない。むうう・・・この役立たずめが・・・。仕方がないので、オレは持ちうる全ての英単語のボキャブラを駆使してフロントに立ち向かった。



「ハーイ。あい、アイキャンノットスリープ!!!オー!!!ベリーベリーうるさいねー!!」



全力を尽くした。うるさそうな表情をして耳も押さえた。体全体を大きく使って「部屋を替えて欲しい」を表した。そして
意図は伝わった。まあよくよく考えてみればオレの前に何人も同じクレームを言っている奴らがいるわけで、スタッフにしてみれば「こいつもか。」といった感じだったのだろう。
 とにかくオレもなんとか部屋を移ることが出来、かろうじてその後数時間の睡眠はなんとか確保することができた。翌朝元の部屋に戻ってみると、10人部屋であるその部屋で寝ているのは、その黒人ただ一人であった。






※お勉強タイム

Q.作者の旅行記を見ていると、いかにも知ったふうな口のききかたでスミソニアンスミソニアン言っていますが、スミソニアンとは一体なんのことですか? 教えて青ペン先生!

A.
ひさしぶり、青ペン先生です。楽しい学校生活を送っているみたいだね。僕、青ペン先生は、残念ながら退職しました。結局あの話し合いの後も同僚のイジメは相変わらずで、もうなんの意欲も沸かなくなっちゃったんだ。あんなに泣きながら一生懸命自分の気持ちを言ったのに、バカみたいだよね。
 そうそう、スミソニアンについてなんだけど、スミソニアン博物館っていうのはナショナル・ギャラリー、航空宇宙博物館、国立自然史博物館、国立アメリカ歴史博物館などいくつもの博物館を総称した呼び方なんだ。なんと全ての建物で入場料が無料になっていて、このあたりはアメリカの太っ腹というか、教育に力を入れているのがわかるよね。全部の展示物をちゃんと見ていたら、絶対1週間はかかると思う。作者なんかは前を通り過ぎただけで見た気になっているインチキ野郎だから、回りきるのは早かったみたいだけどね。
 ところでアヤちゃん、この前先生キミの写真が見たいって言ったけど、まだ送ってくれてないよね。僕はキミの先生なんだよ? 先生の頼みも聞けないのかいキミは? 悪い子だね。そんな悪い子は、おしおきしなきゃね。先生事務のおばさんからキミの住所を教えてもらったから、明日の夜10時に、キミの家に行くから。ああ、かわいいアヤちゃん……やっと、やっと会えるんだね……。僕はうれしいよ……。うふふ……ダメだよお父さんなんか呼んでも。来やしないよ。だってさっき先生がお話してちょっと眠ってもらったからね……。
 アヤちゃん……アヤちゃん……
アヤちゃ〜ん!!!

「えーん……えーん……」

―真夜中の家庭訪問・終―











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