〜悟り





 バラナシの駅でジリジリと日光に焼かれながら遅れた電車を1時間45分(フザけんなテメー!!)待ち、またも干物化が始まった頃になんとかオレは車掌の顔を札束で叩いてリッチにエアコン車へ滑り込んだ。そこからたった5時間という、夜行電車の繰り返しの最近から考えたら
ワープなみの非常に近いガヤ駅で下車、そして乗り合いジープに乗って着いたのは旅行記初登場のブッダガヤの町である。
 「ブッダガヤ」とその名前に
ニコちゃん大王で有名な名古屋弁が使われていることからわかるように、この町は我々日本人にとても関連の深い場所なのだがや。今から2000年以上前、紀元前5世紀に剛玉、いやゴータマ・シッダルタすなわち釈迦が悟りを開いた仏教発祥の地が、ここブッダガヤなのだがや。ちなみにオレは大学時代4年間名古屋に住んでいたのだが、若者はともかくある程度の年齢の人は、本当にニコちゃん大王のような喋り方をしていたのに当時驚かされたものだ。ある夜アパートの外でひっきりなしにノラネコがミャーミャー鳴いていたので、どうしたんだろうと思って窓を開けてみたらネコじゃなくて「うみゃーうみゃー」と言いながらエビフライを食べ続けているおじさんだったということもある。本当だよ。本当にウソだよ。

 それはともかくここが名古屋そして仏教と繋がりの深い町というのならば、オレもここでは一仏教徒として自分の信心というものを見詰め直し、しばらくは
宗教色の強い文章を書いてみようと思っている次第である。なんでタイトルの横にR指定がついているのか知らないが、今日から数日間は決して怒鳴ったり泣いたり下痢でお漏らししたりせず、検索から直接このページに飛んで来た人が「あれ? なんだろうこの仏教のルーツを探る宗教的で味わい深い文章は。もしかして五木寛之のブログかなあ?」と勘違いするような、いつものインドとは全く違う雰囲気の精神ステージの高い旅を心がけようと思う。オレの小さい頃からの趣味だった寺めぐりも存分に楽しみたい。

 さて、到着日はすぐにホテルにチェックインして休養し、翌朝、オレは朝のおつとめのためにエチオピア以来の超絶早起きとなる午前4:30に起床した。いつもだったら移動日でない限り
たとえ枕元でピナツボ火山が噴火して溶岩に飲み込まれても9時までは絶対に起きないオレだが、やはり信心の芽生えた信心旅行者となった今は違う。オレはいつものクリケットバットを握りしめ部屋を出て、ロビーの床に寝ている従業員を元気が出るテレビの「早朝バズーカ」「早朝マフィア」に続く早朝クリケットで叩き起こし、鍵を開けてもらうと真っ暗闇の中を200m先の日本寺へ向かった。
 こんな時間に寺に何しに来たのかというと、何を隠そう
本当に朝のおつとめをしにやって来たのだ。ここでは本堂で日本から派遣された日本人のお坊さんがお経をあげ、そして旅行者もそれに自由に参加して座禅を組めるようになっているのである。……どうだ。見直しただろう。本当にいつものオレと違うだろう。
 情報によると毎朝5時からお坊さんが登場しお経の時間だということなので、ちゃんと4時50分には本堂の大広間の畳の上で正座をし、オレは待った。そもそも「いつものオレと違う」と言っても、このように真面目なスタイルや文章というのは普段は見せていないだけであって、
基本はオレはこういう人間なのだ。例えば、ピカソの絵を思い出して欲しい。キュビズムと呼ばれるあの独特の画法、一見下手クソに感じてしまういくつもの作品も、ベースには優れたデッサン力があり、元となる正確なデッサンを緻密な計算で崩して行くことであのような芸術が生まれるのである。同じように、このオレもベースには真面目で誠実な完成された人間性と文章があり、それを緻密に崩して行くことによって変態に生まれ変わっているのである。ピカソが絵が下手だなんてとんでも無い話であるように、普段のオレのことも決してただのエロ変態だと思わないでもらいたいものだ。あくまでベースは真人間であり、真面目で硬派なオレがあってこその今の変態で貧弱なニートなのである。

 ということで本来の姿に戻った完成された硬派なオレは、正座をしながらじっと和尚さんを待った。日本のお経を聞いて心の洗濯をし、日本でのような穏やかな自分になるために住職の登場を待った。
30分ほど待った。しかし5時を過ぎてもいつまでも和尚さんは現れず、オレは広い本堂にずっとポツンと一人であった。

 …………。

 なんで? ちょっと、わざわざ朝の5時前に暗闇の中をこうしてやって来ているんですよ?? 
こんな信心深い仏教徒がおつとめを待っているんですよ?? どうしてほったらかすのですかこんなところで。ねえ、もしかして和尚さん寝坊?? もしくは、下痢で苦しんだりしてるんでしょうか。それとも、お坊さんもインドに住んでいると1時間や2時間の遅れは当たり前になってくるのでしょうか。あの、電車じゃないんだから。


 
プ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン……




 …………。





 
うごが〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!! なんじゃこの蚊の大群は〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!

 本堂に入った時からすごい数の蚊が飛んでいるのは感じていたが、空が白み始めると同時に虫たちは
ものすごい増殖を見せている。ふと気付けば、オレの周りだけで100匹ほど、本堂全体では5万匹はいるのではないかというくらいの大発生である。今まで蚊がひどかったのはアフリカのマラウィだが、このブッダガヤが遂に長年TOPの座に君臨していた蚊チャンピオンマラウィのリロングウェイを引き摺り下ろした。
 あの時オレは「見回せば視界の中に必ず2,3匹は蚊が飛んでいる」と書いたが、ここは
そんなレベルではない。どっちを向いてもすぐに視界に入って来る蚊だけで確実に10匹以上いる。本堂の真ん中に甘く美しい血を持つ、先日発売された最新版の蚊ミシュランで三ツ星がつけられているオレというご馳走が一人鎮座しているため、もはや日本寺だけでなく周りのチベット寺やブータン寺からも噂を聞きつけて大量にグルメ蚊が集まってきているようだ。
 よく情報番組で「蚊に刺されやすい血液型」などを調べるために何百匹という蚊が入っている透明な箱に腕を入れる実験があるが、まさに今オレは
全身を使って蚊に関する研究の実験台になっているようである。もしかして、こうして蚊に襲われるオレの様子を住職がどこかでモニターで見ていて、研究結果をまとめているのではないだろうか。ひどいっ!! 信徒虐待だっっ!!!

 もちろんオレはただ座して死を待つばかりではない。正座しながら前後左右に激しく揺れ、そして片っ端から両手を叩いて蚊の退治を試みる。これがまた気持ち悪いことに、1匹を狙うまでもなく、適当なところで手を叩くだけで同時に2匹くらい平気で潰れるのである。
 オレは和尚さんを待つ間、最初は正座で揺れるだけだったが次第に耐えられなくなって立ち上がり、ひたすらパンパンと手を叩き
一人スタンディングオベーションのスタイルになり殺生をしまくった。このような、虫の命を軽んずる行いは仏教徒としては戒められるべきものかもしれないが、お坊さんに見つかってしまっても「あれ? 手を叩くのって仏教じゃなくて神道でしたっけ?? まちがえちゃった! てへ!」とトボければ問題ないだろう。
 しばらくそんな殺生行為をしていると、お寺で働くインド人のスタッフさんがオレを見つけて座布団と蚊取り線香を持ってやって来てくれた。おお、ちょうどいい。この人に聞いてみよう。



「すみません気を使っていただいて。ありがとうございます」


「いいよいいよこれくらい」


「あの、ところで、朝のおつとめが5時からだって聞いたんですけど、お坊さんはいつおいでになるのでしょうか?」


「住職は今、
免許の更新で日本に帰ってるよ。明後日また戻って来るんだ」


「なななななな……」



 
和尚さん帰国中かよっっ(涙)!!!!
 なんのためにオレは朝も5時前から寺で一人じっと待ってたんだ……。免許の更新ってなによ一体。まさか運転免許じゃないでしょうね。「お坊さん」の免許なの?? でもそれならそうと
オレが寺に来る前に言って欲しかった……。わざわざ早朝クリケットまでして強引に宿を抜け出て来たのに。あのクリケットで犠牲になった従業員の魂にいったいなんと言って詫びろというんだ……。



「残念だったな。でも住職がいなくても本堂を使うのは自由だから、心行くまで座禅をしていくといいぞ」


「いえ、せっかくですが今日は
帰ります。だってここで一人でゆったり座禅なんかしてたら蚊に吸われてまた干物バージョンの作者になってしまいます」


「そうか。じゃあまた後日来ればどうだい」


「そうします。座布団どうもありがとうございました」


「ユーアーウェルカム」



 実家の決まりによるとどうやらオレは仏教徒らしいが、しかし普段それを意識することなどまったく無く、和尚さんがいなけりゃオレに一人で出来ることなんて何も無い。NHK教育番組風に言うと
ひとりでできないもんだ。仕方なくオレはただ「朝5時前に寺に来て蚊をたくさん殺して帰って行く人」というわけのわからない存在になって、とぼとぼとホテルに帰って爆睡した。



昼間の日本寺。インド人参拝客が多い。だってインドだから。


 さて、ここブッダガヤでの一番の見所といえば、マハーボーディー寺院である。この寺院裏にある大きな菩提樹の下で、今から2千5百年ほど前に、苦行を終えた
釈迦が悟りを開いたらしい。観光地ではあるが、よく考えてみれば本来ここは仏教徒のオレにとって聖地として巡礼しなければいけないような重要な場所だ。イスラム教の人はメッカ、ヒンズー教の人はバラナシ、それぞれの聖地を巡礼に訪れることを夢に見ている信徒も多いのだから、オレもこの仏教発祥の地に立ったなら、仏教徒として感動の涙に飲まれなければいけないのではないか。……でも、全然涙出ないな。むしろ、いつにも増してドライアイの症状がひどくてコンタクトがガビガビだ。目薬注そ〜っと。

 下の写真が聖なる菩提樹である。ここで釈迦は悟りを開いたということだが、まあオレだったら、どちらかというと出来ることなら悟りより
サトエリを開きたい。 ※サトエリのどの部分を開くかについては敬虔な仏教徒として言及できませぬ。



 しかし、ともかくオレは暑さで意識朦朧であった。バラナシは日中の気温が45℃だったが、正直ここは体感ではバラナシよりも暑く感じる。なんか太陽がもう凶器なのだ。この時期、ブッダガヤの農家では
鶏がいきなりゆで卵を産むという現象が頻発しているというほどだ。親鶏も油断していると勝手にフライドチキンになるらしい。それほどの凶器で狂気な太陽光線であり、しかもオレは朝4:30に起きてまた寝てという不規則な睡眠のため、いつものように腹の具合が悪くなりもはや悟りやサトエリどころではなく、観光も菩提樹もどうでもよくなりすぐにリキシャをけしかけてホテルへ戻った。

 宿の部屋にはもちろんエアコンなど無いが、しかしなぜかこのホテルは造りがいいためかジメっとしているためか、室温はそれほどでもない。オレは幼稚園児もしくはお相撲さん時代に戻ったような気分で健康的に1時間半の昼寝をし、体力を回復させた。
 ひと休みしたらまた寺めぐりである。オレはブッダガヤでは汚れの無い清らかな精神で活動することを決めているので、少々の体調不良くらいで宿の中でだらだらしているわけにはいかない。オレは部屋に鍵をかけて階段を降り、ホテルを出るとまた猛烈な日光に
すぐさま吐き気を催した。
 い〜やしかし、ここは多少の陽射しには目をつぶって(目をつぶらず太陽を直視すると目を傷めることがあります)、大人として太陽の悪さは黙認しつつ頑張ろう。ということをちょうどホテルの門から出たところで考えていたのだが、動き出すにあたってなんとなくオレは
腸にガスがたまっている気配を感じた。若干腹が張ってるかな。まあここは誰も見ていないことだし、この腸の感触なら音も出なさそうだし、1回だけスカッとやるかということでオレはクールなポーズと渋い表情を作り周りの注意を尻から逸らし、「スカし大作戦」と題してスカッとミサイルの発射準備を整えた。
 よ〜し、ちょっとだけ尻の筋肉に力をこめて、誰にも気取られないように「スカッ」と行くぞ。

 せ〜〜〜の、はいっ!!



















 
チュリュッ。




















 …………。














 
あれ???

 
なにいまのヘンな効果音。「スカッ」じゃなかったよね今。おかしいなあ、スカし大作戦の音がスカじゃなくて「チュリュッ」だなんて。それに、なんかいつものと違って、妙な手ごたえが、いや尻ごたえがあったような気がするよ。う〜ん、どうしたんだろう。これはなんというか、とってもとっても嫌な予感がするなあ。
 オレは確認のために、履いていたジーンズの上からちょっと尻を押さえてみた。








 
のひょ〜〜〜〜っっ!!! 冷たいっっっ!!!!







 冷たい……。ズボンを押さえると尻に
謎の粘着質の液体が触れてとても冷たい……。





 こ、これは……。













 
漏らしちゃった(号泣)。



 どうやら、スカし大作戦は
失敗に終わった模様です。オレの判断も鈍ったものだな……。まさか空気砲と実弾を見誤ることがあるなんて。ふっ、それだけ歳を取ったということか。そろそろオレもこの世界から身を引いて、後進に道を譲る時が来たようだな。老兵はただ去り行くのみか……。

 ジワ〜ンダラ〜ンジワ〜ンダラ〜〜〜ン……


 
ぎょえっ!!! 垂れてる!!! 粘着性の液体がどんどん下に向かって垂れているっっ!!!!

 いったい何が尻から出たのかは
まだわからないが、それは1滴や2滴ではなくなかなかの量に達しているらしく、液体そのものの粘り気だけでは自分の重さを支えられないそれは、オレの尻の表面をゆっくりとしかし確実にジワジワと滑り降りている。ジャッキーチェンは映画「プロジェクトA」の時計台からの落下シーンの後に、「ひとつわかったことがある。地球には間違いなく引力があるよ」と発言していたが、オレも今悟った。たしかに地球には引力がある。あの時ジャッキーはこんな気持ちだったんだね。
 ……い、いかん。
こうしている場合ではない。早く部屋に戻らねば。パンツの中に収まっている今ならまだ犠牲は少ないが、謎の液体がジーンズに付いてしまったら致命的なダメージである。なにしろ、パンツは何枚か持っているがズボンには替えが無い。……死守だ。ズボンだけは死守せねば。
 幸いまだオレはホテルの門を出たばかり、ベストコンディションであれば2階の部屋まで徒歩1分の距離だ。オレはすぐにUターンして門からフロント方向へ歩いた。
これは時間との戦いである。垂れる液体がパンツの外、太ももに達する前に部屋に戻るのだ!!!

 
しかし!!!!!!

 ここでオレはある誤算に気づいた。
急いで部屋に戻るため歩みの速度を上げると、それだけ尻を襲う振動は大きくなり、液体も早く垂れようとしてしまうのである。「人間が歩く速度と、下痢の液体が尻を垂れる速度は正比例する」という法則、これは近年の潔癖な環境に甘んじている物理学会では盲点となる新しい発見ではないだろうか。オレはこれを「ゲリサクシャの法則」と名付け、帰国後はただちに論文の作成に取り掛かりたいと思う。
 などと冷静に分析している場合ではない。
早くっ!! 早くしないと垂れるうううっ(涙)!!!
 ああ、でもオレが急ぐとタレも急ぐ、針の筵に座っているようなこの辛い状態。しかも、このホテルはなまじっか広くて高級風な造りのために、フロントを通って建物をぐるっと回って階段を上って、部屋までの距離が相当長いのである。この状況は、今までの旅史上で20本の指には入るようなかなりの大ピンチだ。
 くそ……、
ここが月だったら。引力が地球の6分の1である月だったら、尻の液体が垂れるスピードも6分の1になるのに。
 でもここは地球だ。たらればの話をしてもしょうがない。
垂れらばの話もしてもしょうがない。ここは、なんとか知恵を絞るんだ。タレのスピードの加速をなるべく抑えながら、歩く早さだけを上げる方法をなんとか考えるんだ!!!
 オレはほんの一瞬の間に
瞑想中の釈迦をも超える集中力で頭をフル回転させ、そして悟りの境地に達し、その方法を考え付いた。それは……、名付けて「ピンクパンサー作戦」である!!!
 説明しよう。ある一定の年齢以上の人ならば、この「ピンクパンサーのテーマ」を聞いたなら、必ず
忍び足でステージに登場するドリフのメンバーを思い出すことだと思う。その、「抜き足差し足忍び足」の泥棒スタイル、つまり、腰をかがめた爪先立ちを取ることによって歩く際の縦揺れを最小限に抑え、尻の位置を固定し滑るように前に進むことで垂れの発達を極力抑えたまま部屋を目指す、それが「ピンクパンサー作戦」なのである。
 オレは早速尻を少し沈ませ、その位置から決して上下にぶれないように注意しながら足だけを交互に前に出し、つま先で着地しショックを吸収し、
昼間っから宿に侵入する泥棒のごとく従業員の注目を浴びながら怪しい素振りでヘコヘコと歩いた。そのまま忍び足のスピードを上げ、結局最後にはピンクパンサー作戦の効果もほとんど無く、腿にまで尻からガスの代わりに出た液体が達して来たため、ズボンをつまんで引っ張って、なんとか液体とズボンの接触だけは避けながら部屋に到達を果たした。

 オレはドアを閉めるなり慎重にジーンズを、尻の部分を外側に突っ張りながら脱ぎ、上半身も裸になるとシャワー室へ走った。パンツを脱ぐと、
謎の茶色い液体は尻とパンツ全体を腐食して、かなり悲惨な状態(目も当てられぬ状態)になっていた。とりあえず日本から来たパンツはここ仏教発祥の地でその生涯を終え入滅させることにし、そのまま捨ててはホテルの人に迷惑がかかるのでビニール袋に入れてきつく縛ってからゴミ箱に投入した。そして、尻を突き出してシャワーでよく洗い、なんとか10分後には尻の現状復帰を遂げることが出来た。
 ああ、それにしてもなんてことだ……。今さら、30間近のいい歳になって旅先の路上でウン、じゃなくて
謎の茶色の液体を漏らしてしまうとは。今までどんな地獄の腹痛になっても、パレスチナ自治区やイランの遺跡で民家に駆け込んだり繁みに向かうことはあっても、お漏らしだけはしないで頑張ってきたのに(イランの話は面倒くさいので書いていませんが、そこでも下痢で民家に駆け込むという辛い出来事があったのです)。
 ……
私も、今日ここでお漏らし処女を卒業してしまったのね。これで大人の仲間入りなのかしら。

 オレはパンツを3枚しか持っていない。そして今日貴重な1枚が臨終を遂げたので、とりあえず新たに1枚は購入しなければならない。オレはまた着替えてフロントまでいくと、ホテルのマネージャーのおっさんにパンツを売っている店を聞いてみることにした。もちろん下痢でお漏らししたからなんて
このカリスマイケメン旅行者のプライドにかけて言えるはずがないので、そのへんはうまくオブラートに包んだ英語表現を一生懸命考えた。



「あの、マネージャー。ちょっと聞きたいんですけど、実は、
僕のアンダーウェアに、サムプロブレム(諸問題)が発生してしまいまして。そこで緊急に新しいパンツが入用となったのですが、どこかこのあたりにパンツ屋さんはありませんでしょうか」


「パンツか。汚れちゃったのか?


「は、はい……(号泣)」


「それなら、マハーボーディ寺院の坂を向こう側に少し下りたところにバザールがあるから、そこで買うといい」


「はいっ。ありがとうございます(号泣)!」



 オレがそのまま宿を出ると丁度「ハロージャパニーズ! マハーボーディ寺院に行くか? 乗ってけよ!」と客引きを仕掛けてきたオートリキシャがいたので、ブッダガヤ随一の観光地マハーボーディ寺院を通り過ぎて
ちょっと向こう側の下着屋さんまで行ってもらい、パンツそして薬局で下痢止めとORS(水に溶かして飲むと吸収がいい例の奴)を買い、そのまま観光などせずにまた宿まで帰って来た。
 そして1日が終わり、翌日も朝から晩まで暑くてダルくて部屋から一切出ずに、お漏らしの屈辱と苦悩から脱却しようとベッドの上でずっと瞑想していたが、
残念ながら悟りは得られなかった(涙)。





今日の一冊は、これは名作と言わざるを得ない 海賊とよばれた男(下) (講談社文庫)






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