〜荊州(チンチュー)〜








(「NHK漢詩紀行」の江守徹の声で)


変態、萬里の西より来たり江上に臨む

sabraを得また仕えんこと三百日、外に更に何をか求めん

珍珍一たび故国を出でて復た還らず

応(まさ)に我の目指す処いずくにか在る

其の旅終える所知らざる身を笑うべし(号泣)





 ……再びオレは船上の人となり、長江を漂いながら不惑の歳より始めた趣味である漢詩を吟じていた。我(珍珍)故国を出で長江江上にて漢詩を吟ず。ああ、こうしていると、今朝見たツインのトイレのおぞましい光景の記憶など、江上の風に吹かれてすぐに忘れられそうだ。……いや、それも困る。だって、
旅行記に書く話はおぞましければおぞましいほどみんなに喜ばれるんだから。だからたとえ三峡下りで見た長江の絶景はすっかり忘れても、おぞましいトイレの景色やそこで起きたおぞましい出来事は、1つ1つ汚れの細部にいたるまではっきり脳裏に焼き付けておかなければいけないんだ。…………。 ちくしょう、オレが自分で選んだ人生なんだっ(号泣)。結局、みんな変態だよな。おぞましい話を読んで喜ぶそこのあんたも十分変態だっ!! あんただよあんたっっ!!! 「え? 誰のこと?」とか言ってキョロキョロしてんじゃねーよっ!!!
 今朝はオレも人生初のツインルーム(トイレの)での大便をもちろん人がいないときを見計らって試みたのだが、とにかく
誰か入って来たらどうしようという恐怖で気が気ではなかった。大の男が(大をしている大の男が)密室の中で並んで連れションならぬ連れ便をなんてのもおぞましいが、逆に隣に来たおっさんに立ちションでもされてみろ。女性にはわからないかもしれないが、立ちションの勢いというのは座りションに比べてあまりにも強すぎるのだ。どのくらい強すぎるかというと、例えて言えばファミコン創世記に発売された「キン肉マン マッスルタッグマッチ」でのブロッケンJr.くらいあまりにも強すぎるのだ。だから、ほとんどの地域のローカルルールではブロッケンJr.は使用禁止になっているように、ツインルームのトイレでもルールとして立ちションは禁止にすべきなのだ。
 まあわざわざファミコンに例えなくとも想像すればわかるだろうが(じゃあ例えるなよ)、もしもオレがしゃがんでいるすぐ横の便器に勢い良くピチャピチャーっとおっさん立ちションが噴出されれば、当然
跳ね返りのしぶきをことごとくオレも受け止めることになる。たとえ自分の跳ね返りだとしても便器の汚物を含んでの襲来のため全くごめんこうむりたいのに(跳ね返らず直接かかるんなら自分のオシッコであれば全然いいよ)、見知らぬ中国人オッサンのお小水跳ね返りをピシャピシャと浴びた日には、あまりの出来事にパニックになり体を洗おうと下半身丸出しのまま港まで走り長江に飛び込み、川の中で全身をさすっているところを三峡下りのフェリーに通りかかられてツアー客に裸体写真を思う存分撮られブログに掲載されることだろう。

 ともかく一人でふんばり中に廊下を歩く足音が迫って来ると、ただただ恐怖で「頼む、入ってこないでくれ!!」と祈るのであった。ちくしょう、何が「朋あり遠方より来る、また楽しからずや」だよっ!! 
ウソばっかつくんじゃねえっっ!!!! 全然楽しくないだろうがっっ!!!! これからは「朋あり遠方より来る、また怖ろしからずや」に書き換えろっっ!!!!!

 ……と思い出は尽きないですが、そろそろ長江の旅も終わりが近づいてきました。早いようですがまた水の上で一晩が経過し、三峡下り終点の港に到着したのです。
 あら? 肝心の三峡の美しい風景とか船旅への感想は無いのかって?? …………。
特に無いんです(涙)。だって曇ってたし……。でもほら、三峡の代わりにツインのトイレのレポートを書いたでしょっ。いいかい、三峡下りの景色の美しさを称える日記なんかそこら辺にある中国旅行記どれにだって載ってるんだよ。でも、おぞましいツインのトイレの話はここでしか読めないんだぜ? どっちが価値があるんだよ。少年ジャンプでは「鳥山明先生の漫画が読めるのはジャンプだけ!」というのがウリ文句になるように、ここでしか読めない話の方が価値が高いのは一目瞭然だろっ!! ウソだと思うんなら試しにツインのトイレと三峡下りをヤフオクに出品してみろよっ!!! 絶対ツインのトイレの方が高値で落札されるはずだっっっ!!!!

 ……まあそうは言っても、前の町の港を出てから到着までは17時間半。本気で書こうと思えば10話分くらい使って船の中で何を食べてどんな夢を見て川の形はどうだったこうだったという詳細な描写も出来るには出来るんだ。でもそんなつまらないことを書いていると深刻な読者離れを招いて、mixiのさくら剛コミュニティの参加人数も一気に減って
気がつけばメンバーがオレ1人だけという事態になることも考えられるじゃないか。参加人数が本人1人でもコミュニティが成立するんなら、誰でもいいわけじゃないか。高校の同級生の安田仁くんが、自分で安田仁コミュニティを開設するのとなんら変わりゃしない。しかも安田仁コミュニティに友達が参加してメンバーが2人にでもなろうものなら、もうオレの完敗である。なんの話をしているのかわからなくなったが、だからつまらないことは書かないのだ。

 で、到着した港町は宜昌というところで、そこからいくつかの街を経て全てバスで移動し、最後に着いたのは荊州の街のバスターミナル、荊州汽車站(けーしゅーちーちょーじゃん)である。
 ここのところ電車ではなく全てバス移動しているが、オレはもう中国では一切電車は使用しないことを決めたのである。それはなぜか。先日の無座騒ぎを見てもらえれば明らかだ。なにせ
汚いのである。オレのバックパックが唾攻撃に晒されるんだよっっ!!! 直撃は免れても、乗務員の「モップで拡散! ベチョーン絨毯爆撃」は避けようが無いんだよっっ(涙)!!!!
 とにかくオレは自分の荷物、自分のバックパックが汚されるのは我慢ならんのだ。だからもはやオレと中国の鉄道は全く相容れない存在
オレが美人すぎる藤川優里議員だとしたら、中国の電車は元後援会会長くらいの相容れなさなのだ。一時は同じ目的に向かっていたとはいえ、今では埋められない溝が出来てしまっているのである。

 尚、バスならば唾地獄にはまらないかというと、それがそうなのである。なにせ長距離バスの場合は座席の下というかバスの側面にカパッと開けて荷物を収納するトランクルームがある。つまり乗客と荷物が完全に別々に運ばれるのだ。オレが電車が嫌いなのは別に電車が悪いのではなく、
悪いのは全て中国人である。だから中国人とオレのバックパックが隔離されれば、その時点でもう憂いは消えてしまうのだ。あ〜っはっは!!! ざまあみろこのマナー知らずどもがっっ!!!! オレの所持品をおまえらなんかにネチョられて(新しい日本語)たまるかよっっ!!!!

 さて、荊州汽車站でバスを降り、早速オレは荷物収納部に並んで乗務員がバックパックを下ろしてくれるのを待っていた。乗車時に先頭だったオレの荷物は、1番奥に入っているため出て来るのは最後だ。
 ……おっ。よしよし。来たぞ。

 あ、あれっ?

 …………。

 
ぎょわ〜〜〜〜〜〜っっっっっっ(号泣)!!!!!!!!


 荷物を持った乗客が思い思いに散って行く中、最後の最後で出て来たオレのバックパック、一応カバーで覆ってはいるのだがそのシンガポールで買ったばかりのバックパックカバーには、
なんだか粘り気のある謎の緑の液体が、広範囲に亘ってねっちょニチャぐちょ〜〜〜んとだらしなく淫らにへばり付いていた。
 なんじゃこりゃ……。おそらくは、この上に乗っかっていた他の客の何らかの積荷から漏れた液体なのだろう。おい〜〜〜〜っ(涙)、バスで何を運んでんだよテメエ……。
気持ち悪い液体は長距離を移動させるんじゃねえよっっ!!!! なんで中国ではどこまで行っても汚物から逃げ切れないんだっっ(号泣)!!!! ここはわくわく汚物ランドかっっ!!!!!


 …………。

 わくわく汚物ランドって……。
我ながらうまいなあ(笑)。
 それはさておき……。

 
オエ〜〜〜〜ッ(号泣)。

 とりあえず拭かなきゃどうしようもないだろこれ……。ううっ、気持ち悪い……(涙)。オレはトイレットペーパーを取り出し大きく丸め、バックパックカバーを覆う粘着汚物
ネチョ〜ン、ネチョチョ〜〜ン、と拭った。ねっちょんぬっちょんとなんとか滴らないくらいにまで平坦化すると、ねちょねちょバックパック(ネチョパック)を背中に担いで(号泣)、オレはねちょねちょバックパッカーすなわちネチョパッカーに相応しい安くて汚いボロ招待所に、ねっちょんにゅっちょんとチェックイン(ネチョネチョチェックイン)した。



 宿の床に置かれたネチョパック。
いやあああ〜〜〜っ(号泣)






 よーし、こうなったら気分転換にチャーハンを食べよう!! 見ろ!! これが回鍋肉炒飯だ!!!






 ああうまい。これだけ美味いチャーハンを食えば、さっきの緑色の大盤振る舞いねちょねちょ汚物のことなんてすっかり忘れちゃうよ。
バックパッカーを覆うぬっちゃんぬっちゃんのドロドロした、中国人民から放出された体液にも似た汚物というかヘドロ風の粘り気のある吐き気を誘発する物体のことなんて、思い出しもしないよ。ゲロゲロゲロ〜〜〜〜〜っっ(回鍋肉炒飯を嘔吐)!!
 ああ……(涙)、パラパラだったチャーハンが、
とろみのある中華飯になってしまった……。まあいいや。どっちでも中華料理なんだから。もう1回食べようっと。

 ちなみにお昼どき裏道を散策してみると、ほのぼのした陽気のためか地元の方々は散歩をしながら食事をしていることも多い。だいたい日本で外で歩きながら食べるといえばハンバーガーやサンドイッチなどのファストフード系であろうが、中国では
普通にでっかい茶碗に入った麺や丼物を食っている。あんたら路上を歩きながら箸でどんぶりメシを食べるって、忙しい時でも食への妥協は無しか??
 さすがに日本では、吉野屋で牛丼をテイクアウトして歩きながら食う奴は見たことがない。だって、牛肉とタマネギと紅しょうがと白飯とがうまくひと口の中にバランス良く混ざるように気を配って箸を動かしながら路上を通行していたら、
車に轢かれて何キロメートルも引き摺られるじゃないか。まだ通常の牛丼ならいいが、大盛りつゆだくなんかと一緒に撥ねられてしまったら、出血なのか牛丼のタレなのか紅ショウガなのかわからなくなって、救急車の人も大変だ。血液型を調べるためにタレの方を検査してしまい、同じ成分が必要ということで牛丼のタレを輸血(輸タレ)しようとするかもしれない。
 その点中国人はさすがである。だって彼らは
ラーメンのつゆを輸血(輸つゆ)されても問題なく健康に生き続けられそうだからな。ラーメンマンなんか血が全部ラーメンの汁なんじゃないか??

 何はともあれ、昼食後に向かったのは、荊州博物館である。この荊州市には春秋戦国時代の「楚」の国の都があったこともあり、そういう関連のいろんな展示物が(詳しく説明する気なし)多いのだが、ひとつだけオレが超ド級にド肝を抜かれたものがあった。
 それは、今から2200年近く前の、漢の時代の男性のミイラである。正確には紀元前167年に亡くなり埋葬されたらしい。
ぬあーーなんでそこまでわかるんだっっ!!!
 ちなみに厳戒体勢の展示だったので写真はない。地下室でホルマリンに入れられている彼をガラスごしに上から眺めるのだが、何が吃驚(ビックリ)かって
どう見てもミイラではなくただの死体に見えるのである。時代はもう少し古いが、カイロ博物館に並んでいたファラオのミイラたちはいかにも「今年で3000歳です」といった老化で乾燥しきった黒い肌、逆にシミは目立たなくていいかもしれないが干物同然の、ちっともみずみずしくない姿であった。ところが、荊州の漢のミイラは確実に生身の人間の姿であり、肌なんかちゃんと肌色でプリンプリンしているのだ。すぐ隣にはミイラから取り出された内臓がやはり液体に漬かって置かれているのだが、その内臓も現役の白子のようにぷりっぷりなのである。
 一見して、新しい臓器を入れ込んでリハビリを重ねてやればそのまま生き返りそうな若々しさ。
アンチエイジングが上手いにも程がある。もしこのミイラと同じ部屋にハリセンボンの箕輪はるかが寝ていたら、「あれ? 展示する方どっちだったっけ? この歯の神経が死んでる方でいいんだよな?」と見慣れているはずの博物館のスタッフでさえあっさり間違え、翌日からは箕輪はるかがホルマリン漬けになりこの荊州博物館に陳列されることだろう。
 さらにもしこの漢のミイラとファラオのミイラを同じ場所に展示していたら、ある観光客は「うわ〜、凄いなあこのエジプトのミイラ。こんな昔の人間の体がまだ残っているなんて。あなたもそう思うでしょう??」と隣にいる漢のミイラを
同じツアーの参加者だと思って同意を求め、「あのー、一応僕もミイラなんですよ。漢の時代の生まれで、今年で死後2176年になるんです。見えないかもしれないですけど」と反論されてショックを受けることだろう。

 このように手術して内臓を取り出せたほどの保存状態がいい漢代のミイラ、全部でなんと
3体も中国で発見されているらしい。しかも、3体目が見つかったのは2002年ごく最近の話なのである。まだまだいくらでもいるぞきっと。2000年以上棺の中で眠っている漢の時代のミイラが。
 ちなみに長沙という都市で見つかった同じ時代のミイラは女性で、解剖の結果死ぬ直前に瓜を食べていたなんてことまでわかったという。死後2000年の漢の彼女はそのムチムチした肉体を裸のまま博物館でさらしているそうなので、これもぜひ今度行ってみたい。……
し、失礼な!! 別にエロい考えで言ってるんじゃないぞっ!!! あくまで学術的に興味があるってことなんだからなっっ(さすがに本当だぞ)!!!!!
 オレが追っかけまわしている三国志の時代の武将よりも400年も前の人なのに、こんなにちゃんと肉体が残っているわけか……。
おおおおおおおお〜〜おおおっっっ(武者震い)!!!

 このようにミイラというのは歴史の研究のために非常に貴重なのだから、
今の時代の人も、後世のためにミイラを残せばいいのになあと思う今日この頃であった。オレはなりたくないけど……。


ある日のある田舎









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