〜西安の美人の墓〜





 秦始皇帝陵と兵馬俑は、西安にいる旅行者なら誰もが訪れる、いわゆる王道の観光地である。わかりやすいように台所用スポンジに例えると、
スコッチブライトくらいの王道な観光地である。この旅行記の読者層の9割以上を占めるのは専業主婦の方々なので、今の例えで大変良く理解していただけたことだろう。
 この2つ(陵と兵馬俑)はどのガイドブックにも大きく載っているし、西安を訪れる団体ツアーがスルーすることは絶対に無い。こんなにも王道な観光地だけあって、たとえ公共交通機関を使っても現地まで行くのはとても簡単だ。どのくらい簡単かということをわかりやすいようにキッチンの掃除に例えると、
「激落ちくん」を使ってコンロ周りの汚れを取り除くくらい簡単だ。激落ちくんの代わりに「べっぴんさん」でもいいよ。水を含ませて軽くこするだけで、超極細繊維がミクロの汚れまで落とすんだよ。ハサミで切って、少しずつ使うと便利なんだ。
 ……なに? スポンジなんて自分には馴染みが無さすぎて全然わからないって?? はいはい。そんなふうに、気の抜けただらしない格好で(あんたのことよ)パソコンに向かって文句をつける前に、
少しは台所仕事を手伝ったらどうだっっ!!!! 「生活費を稼いでやってるんだから家事をやってもらうのは当たり前」なんて傲慢なこと考えてんじゃねえぞっっ!!!!! なにより大切なのは、お互いを思いやる気持ちだろうがっ(男性に向けての発言です)!!!!
 いつか一人になった時、自分で慣れない家事を行わなければならなくなった時、その時、あなたも気付くはずだ。あなたの大切な人が、毎日どれだけ頑張ってあなたの生活を支えていたのかを。でも、それに気付いた時には、もう彼女はいないんだぞ? 「ありがとう」って、声に出してももう彼女には届かないんだぞ? 
どうしてそれがわからないんだよっ(涙)!!! あんたのために一生懸命汚れを落としてくれている彼女の気持ちがっ(号泣)!!!!

 ……ああ、なんか熱くなり過ぎて、思わず感極まって泣いちゃったよ。恥ずかしいな。オレも台所の掃除なんて1回もやったことないのに。
だってどうせ掃除したってすぐ汚れるしさ……。
 つまり、こういうことだ。そんなスポンジみたいな王道で簡単な観光地とは別に、これからはガイドブックからも外されていたり数行しか触れられていないような、地味な見所を巡るのだ。情報源は主にネット+聞き込み。どこも、とにかく辿り着くまでもひと苦労な地味な場所。どれくらい地味かということをわかりやすく
ジュース用ミキサーの製造メーカーに例えて言うと、株式会社カンサイ(KANSAI)くらい地味だ。……さすがに専業主婦とはいえこの例えがわかるのは10万人に1人くらいであろう。勝った。専業主婦に勝った(涙)。
 もうこのヘンで主婦ネタはやめます。あ、そうそう、「主婦」という響きには家庭的で幸せなイメージを受けるのに、
「人妻」になるとどうしてムラムラするのだろう。
 まあともかく、要点をまとめるとそんな地味な人妻には辿り着くまでがひと苦労ということなのだが、ただ、オレはこの中国の旅でそんな
地味な場所ばかり100カ所近く回っており(泣)、ある程度「中国人民の方々に混じって田舎をさまよってわけのわからないままなんとか目的地にたどり着いてしまう」というわけのわからない技術は身に付きつつあるのだ。

 ではここで参考までに、本日最初に訪れる地味な場所までオレがどのようなルートを辿ったか、ここに書いてみようではないか。参考までに。ものすごく参考になると思うよ。これを参考にすれば、もう誰も市販の参考書を買う必要なんてなくなるくらいに。旺文社さん、くもん出版さん、ごめんなさい(>人<) !

 まずオレは宿泊しているユースホステルから公共汽車(ごんごんちーちょー=市バス)に乗り駅前の長途汽車站へ向かう。すかさず窓口で「咸陽」という基本的に外国人は誰も目指さない町へのチケットを買い、密集したボロバスの集団の中から咸陽行きバスを探し出す。そして乗り込んで出発した直後、バスは
農作業中のじいさんが引くリヤカーを轢いてしまい、運転手が出て行ったまま戻って来ず30分のロス。1日のスケジュールを綿密に立てているオレはイライラのぶつけどころが無いためとりあえずバスの壁を殴る。バス会社の力で事故を闇に葬って再出発し1時間30分後に咸陽の汽車站へ到着すると、三輪タクシーを拾って値段交渉し、火車站(鉄道の駅)まで移動。その駅前で近所の人に筆談聞き込みを行い、また違う地方である「韓家湾」なる異次元の村に行く中距離バスを見つけて乗車し、念の為運転手にも筆談で行き先を確認する。1時間に1本のバスなため長いことポンコツ車内で待ち、ようやくプンスカプンスカと発車すると町を出て畑の中をひたすら走り、小さな村をいくつも越えてようやく韓家湾に到着。とはいえ降りる時も運転手にメモを見せ、本当にここが韓家湾であっているのか、オレは反日活動家に騙されているわけではないのか確かめるのだ。そこでやっと目的の観光場所自体の名称を手帳に書き、近くでタバコをふかしながら「見かけない顔だのう。よそ者がこの村に来るなんて何年ぶりかのう」とオレをじろ見している農村三輪タクシーのおじさんに見せて「行って観光の間待ってもらって帰っていくら」という値段交渉の後に現場まで走ってもらうのである。
 今回はまだ地元の人ならば知っている場所だからいいが、例えば「三国志に登場する名もなき武将の墓」なんかは聞き込みを重ねてもなかなか成果はあがらずヤケになって
山や繁みに徒歩で突撃して探すことになったりする。防寒対策のダウンジャケットを買ったその日に藪のトゲに貫かれて、あたり一面まるで雪でも降っているかのように羽毛だらけになったりするのだ。ううう……(号泣)。


 どうだ。ここまで詳しく書けば、オレがどれだけ苦労して旅をしているかがわかるだろう。
まさか面倒くさいので読んでないなんて奴はいないだろうな。



 
ジャジャーーーーーン!!!




 始皇帝陵に続いて、今日と明日でオレは4つの墓を観光しようと思っている。そのうちの2つは地球の歩き方にも一切記載が無く、2つは「旅行会社のツアーに参加するか、車をチャーターするのが一般的」と書かれている場所だ。しかし西安を新婚旅行で訪れているような余裕な人々ならチャーターも現実的であるが、新婚旅行ではなく
貧困旅行のオレは基本的に「公共交通機関での自力到達」が命題となる。
 そして来たこの小山。ガイドブックには記載すら無く、とはいえ「盛り土」というにはデカすぎるこの丘。つまり地味な場所で到達は困難だが存在は全然地味ではなくむしろ超大物である、
漢の皇帝・劉邦の墓がこれなのである。
 劉邦といえば、たいてい「項羽と劉邦」という名称でマンガや小説になっている、紀元前202年に
漢王朝を立ち上げた初代皇帝だ。ねえねえ、「項羽と劉邦って、三国志の人だっけ?などと言っているそこの彼女っ♪♪ 全然違うんだよテメエっ!!! 400年も時代が離れてるだろうがっ!!! ボーイズラブとか読んでる暇があったらもっと中国の歴史を勉強したらどうなんだっ!!! 「ハチミツとクローバー」よりも、史記を読めっっっ!!!
 というか、劉邦だぞ劉邦。あの劉邦だぞ。孟達にそそのかされて関羽への援軍を拒否した劉備の養子の劉封じゃないぞ。勘違いするな。韓信とか張良を従えて項羽を破った方の劉邦だから。
……ついて来れない奴は、置いていくから。ひとことで言うと、「漢民族」の漢の、あの漢王朝を作った人物だ。大大大大有名人だ。そんな超ビッグネーム、あまたある中国の歴史小説の中でも「漢の高祖」などと呼ばれ崇められている劉邦の墓が、こんな地味な田舎で畑の中でほったらかしとは何事だ。劉邦をなめてんのか?? 何だそのやる気の無さは! 入場料くらい取ったらどうなんだよコラっ!!! こうして金づるの外国人観光客が見物に来てるだろうがっ!! 近隣の人、土産物を売ろうとしに来いよっ!!! 無視するんじゃね〜〜!!! オレに構えっっっ(涙)!!!!

 だいたい、これだけ何も無いとオレもとりあえず山の写真を撮って土に登り草をむしるくらいしかやることがない。
これが果たして観光をしていることになるのか。同じ初代皇帝なのに、秦の始皇帝の墓との差はなんなんだ。やっぱり地下宮殿とか兵士の人形とか、見てわかり易い物がないと観光地化する気にならないのだろうか。でも、秦の始皇帝と比べても皇帝劉邦はなんら名前負けする存在では無い。これは、村の農民の努力が足りないのだ。一生懸命掘れば、絶対何か見つかるって! 埋まってるって何千体という人形が!! 地下宮殿が!!
 こうなったら、オレがそこら辺を片っ端から掘ってみようかな。兵馬俑みたいなのがうまく見つかったら、オレも晴れて第一発見者としてあのじいさんと同じように、
新しく出来る博物館の副館長に任命してもらえるかもしれない。そうすれば残りの人生は、仕事に困ることもなくこの韓家湾の村で博物館に出勤しながらのん気に暮らす毎日をってそんなのイヤじゃっっ!!! どこなんだよここはっ!! 地球上かっ!!!

 尚、劉邦の山の隣にはもうひとつ同じ大きさの山があり、それは劉邦の夫人で「呂后」という人物の墓であるという。なんでもこの呂后は、西太后と落合夫人に並んで中国三大悪女の1人に数えられているらしい。
 彼女は、後継者争いで敵対した劉邦の側室を憎み、まずその女性の手足を生きたままで1本1本ズパーン!と切り取り、その上で今度は両方の目玉をこれも生きている状態でくり抜き、なおかつ劇薬で耳と声を潰して生きたまま便所に放り込んだそうである。当時の中国の便所はボットン便所であり、下のスペースに飼っている豚が落ちて来る排泄物を食べるような仕組みになっていたのだが、その手足も目も耳も無い側室の女性は、豚と排泄物にまみれて何日も蠢いておりそれを呂后は「人豚」と呼んで楽しんだらしい。
 残酷な気もするが、自分が心の底から憎い人間や、罪の無い人を私利私欲のために殺した殺人者などがこんな人豚になってトイレで芋虫のようにぐねぐね蠢いていたら、オレは結構見ていて快感を感じそうだ。そいつに手加減なしで全力で石を投げて遊びたい。鋭利な槍で上からちょっとずつチクチクと刺して、手足も無いのに必死に逃げようとするが逃げられず大量の排泄物の上で痛さにのた打ち回る姿を見て楽しみたい。この際もっと恐怖と絶望を感じてもらうために、目はくり抜かずにそのままにしておいたらいいと思う。耳も潰す必要は無い。その方が人豚もリアルに自分の置かれている状況を理解出来そうではないか。上から狙いを定めて大小便をかけてやるのも面白い。ただし人豚が声を出せるとぎゃーぎゃー絶叫してうるさいだろうから、喉だけは焼いて声帯を殺しておけばよい。それなら泣き叫んでもヒューヒュー息が漏れる音がするだけなので、静かに人豚の観察と虐待を楽しむことが出来るのだ。
 ってドSの人だったら考えるだろうな……。オレとか。

 さて、終わり。秘密の世界の話はこれで終わり。
 待ってもらっていたおじさんタクシーで狭い農道をプスプスガッタンガッタンと行き、田舎交差点でバスを待つ。バスが来なかったらどうしよう。一生西安に帰れないよう……(泣)。
 とりあえずそこで売っている謎のサンドイッチを買って昼メシにしようか……。

 ここはどこなんだ。韓家湾だ。だからどこなんだ。





 そしてバスは来た。文明と命を繋ぐバスが。咸陽行きのバスが。いやんばかん。
 咸陽火車站まで戻ると、オレは次の墓に向かうため、また聞き込みで今度は「興平」行きのバスをリサーチ。ここには無いということだったので、タクシーをつかまえてあちこちの汽車站を回ってやっと見つけた長途汽車に乗り込み興平へ。そこからまた聞き込みをして市バスを探し
(行き方には誰も興味なさそうなので以下略)。

 そして、だいたい劉邦墓から3時間くらいかかって着いたのは、このような
高貴なお方の墓である。




 墓碑の名前が読めるだろうか? 劉邦墓と違いちゃんと建物が建っており入場料もかかり、盛り土は石のドームで覆われておりと立派に管理されている。とはいえ、このドームのサイズを見れば皇帝ほどの身分ではないのがわかるだろう。だいたい、オレと同じ程度の身分だ。
 この石のドームの下に眠るのは、クレオパトラ・堂真理子アナと並んで
世界3大美女の1人に数えられる、楊貴妃である。ちなみに楊貴妃は世界3大美女だけでなく、中国四大美女の方にも名を連ねていたりする。このようにあっちのグループにもこっちのグループにも顔を出すというこの楊貴妃のスタンスは、現在ではつんくファミリーにおいて松浦亜弥が受け継いでいるということはあまり知られていないようだ。
 ということで、ここは楊貴妃の墓なのだ。たとえ皇帝じゃなくても、どれだけ辺鄙なところにあろうとも、
美人の墓なら喜んで来ちゃう。残念だが所詮、この世というのは美人が得するように出来ているのだ。見てみろ、実際に漢の初代皇帝・劉邦の墓ですらあんな田舎に放置されていたのに、初代でも皇帝でもない楊貴妃の墓がこれだけ整えられているのは、美人だからだ。劉邦には厳しい橋下知事なみの倹約家市長も、楊貴妃のためなら「もういくらでも予算使っちゃっていいよ〜〜とデレデレしながら裏金を捻出したに違いない。
 そもそも、ここの盛り土に石が被せてあるのは、訪問者がどんどんどんどん土を持って帰ってしまい、土が無くなりそうになったからだというのだ。たしかに、気持ちは良くわかる。なにせ世界3大美女の眠る土だ。もしここで土山が晒されていたら、
確実にオレも持ち帰っていたと思う。だって世界3大美女だもん。……それに比べて、さっきの劉邦の墓の土山なんて見張りもいなけりゃ仕切りも無いのに誰も持ち帰ろうとしないにもほどがある。2000年以上の歴史があるのに、めちゃめちゃ残ってるじゃないか。あんなにも大きく(涙)。なんなんだよその差別は。オレだって、劉邦がどれだけの大人物かということはよくわかっているつもりだが、持ち帰ろうという気さえ一切湧かなかったぞ。これはいくらなんでも劉邦に辛く当たり過ぎじゃないか(オレも含めて)? 少しくらい漢の初代皇帝の土も欲しがってあげようよ。誰も見てないんだから、5トンくらい平気でいけるぞ。

 なおかつこの楊貴妃墓には、市長が裏金を奮発したおかげで楊貴妃の巨大な石像まで建てられている。これも、どう考えても美人だから作られた物だ。
ブスだと評判の女性だったら、石像が存在するわけがない。そもそもその場合は墓の整備予算など1円たりとも組んでもらえず、野ざらしのままいつしか地ならしされ上に養豚場でも作られたことだろう。



 これが楊貴妃の像。














 メガサイズで精密な石像。像の左右にも建物があるのがわかるだろう。これらも、墓に付属して建てられている展示館などである。墓になってもリッチでセレブなお人だ。それに比べて劉邦は……(涙)。
 どうだろう。世界3大美女で中国四大美女だが、この像、美女に見えるだろうか? オレは、正直なところこの像は
かなりの美人だと思う。これまでの中国の旅で、美人だ美人だと言われる歴史上の女性の惨殺死体レベルの凄惨な像を何体も見せられて来た立場としては、明らかにこの楊貴妃は超美人に見える。

 それでは、確認のため更にアップで見てみよう。























 ほら、彼女の巨大な髪型を、
想像の中でアッキーナのような若々しいショートカットに置き換えてごらんよ。どう考えても世界3大美女でしょう?? 日テレジェニック2010に選ばれても全然おかしくないでしょう? アナウンサーを志望して入社試験を受けても、1社目のフジテレビにあっさり採用されてすぐに深夜の看板番組「ヨウパン」を任されそうででしょう??
 そしてこのように、いつもは載せないようなサイズで像の写真をついついアップしてしまうのも、
美人だからだ。

 ……な〜んてね! 今回僕が「美人ならなんでも贔屓しちゃう」みたいなことを書いたのは、
全部ウソだよ〜〜ん。実は本当の僕は、女性を顔で判断したりは絶対にしないのでした〜! 騙された? 引っかかっちゃった?? ドッキリ大成功!! ピースピース
 というわけで、4つの墓の観光日記を全部この章の中で書こうと思ったけど、
半分しか書けなかった……。楊貴妃が美人じゃなかったらこんなもん画像も使わず2行で終わらせたのにっ!!!





今日の一冊は、リアルさにぞぞーっとするコミックエッセイ!! なんで私が中国に! ?






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