〜ハラレ2〜 楽しい誕生パーティー 朝4時。オレはとりあえず起きてみた。 前回4時という時間に起床したのはいつだったろう?とオレの華やかだった人生に想いを馳せてみたのだが、ABブラザーズの中山秀じゃない方の名前くらい全く思い出せなかった。普段日本ではおもいっきりテレビのニュース撮って出しとともに起床するオレが、なんで築地のマグロなみに早くから活動しているかというと、それはモザンビークビザのためであった。 昨日、7時間待ちをくらい結局取得出来なかった通過ビザだが、朝の5時から大使館の外に並べば手に入るかもしれないという、「友達から始めましょう」くらい曖昧な情報をゲットしたため、どうするものかと一応4時に起きて様子を見てみることにしたのである。ちなみに行くんならとっとと行けばいいのだが、こうして行くべきか行かざるべきか悩んでいるのは、こんな真っ暗な中に色白の素肌美人が道路に並んでたら速攻で狩られるのではないかと考えているためだ。 たしかに今のオレには盗られるものはパスポートくらいしかないのだが、ハラレに出る強盗はいきなり石で頭を殴り荷物を盗っていくという石強盗だ。ターゲットが金を持っているかどうかということなど全くお構いなしである。 オレはガイドブックの地図を見ながら少し考えた。ジンバブエの次に行こうとしている国はマラウィである。マラウィに至るまでは、細長いモザンビークという国を素通りしていくルートと、ぐるっと大回りしてザンビアという国を通って行くルート、2通りある。 しかし問題はその距離だ。モザンビークルートならほんの1日2日で行けるのが、ザンビアはビザを国境で簡単に取れる代わりに長距離の移動になり、何日かかるかわからない。今やびんぼっちゃまと同程度の資産しか保持していないオレは、下手に旅が長引いたら彼のように洋服が全部前半分だけということになる可能性もある。 ここは、やはり5時から並んでモザンビークビザを取るべきではないだろうか。強盗や泥棒が多いというのは、もしかしたらただの噂であって、実際はそんなことないのかもしれないではないか。そもそも、泥棒だってこんな時間には寝ているはずだ。そんなただの噂にビクビクしていないで、堂々と大使館へ行こうではないか!!! と思った時。 「きゃああああーーーーーーーーーーっ!!!!!」 な、なんすか!!!!!! 「きゃーっ!!きゃーーっっ!!!」 「シーフ(泥棒)!!!シーーフっ(泥棒)!!!!」 あわわわわ・・・。 どこかわからないが、明らかにこの建物のどこかから聞こえる叫び声。そして、ダダダダダ!!と窓の外を物凄いスピードで逃げて行く足音がする。なんすか?防犯訓練ですか?? その叫び声は、同じ宿のダブルルームに泊まっている日本人若夫婦のものだった。話を聞いてみると、なんでも奥さんがふと気配を感じ窓際を見てみると、彼らの荷物に向かって窓から黒い手がにゅーっと伸びていたというのだ。幸いにして叫び声に驚いた泥棒は何もとらないまま逃走したらしい。 うーむ・・・。まだアフリカに来て10日しかたってないけど、ここはスリル好きにはたまらないところだね。 そしてオレはもちろん出かけるのをやめた。ハラレにはこの時間でも泥棒が精力的に活動中ということをこの目で、この耳で学んだからだ(号泣)。喜んで遠回り、ザンビアルートを通ろうではないか。 その後、再び寝床につき思う存分眠ったオレは、ドルからジンバブエ・ドルへの両替に再び向かうことにした。滝口さん達に借りた貴重なドルだが、ジンバブエの滞在期間が延びることも今朝の泥棒のおかげで決定したし、ここらでもう少し工面しておかなければならない。 日本人の間で有名な両替屋へ向かう途中、広い公園を通った時だった。 「ヘーイ、両替してやるぞ。1500でどうだ?」 「1500??そんなに!!」 「そうだ。いいレートだろう。」 「むむむ・・・。信用できるかわからんけど・・・今のオレには金が必要だ・・・。よし。じゃあ40ドル換えたいから、6万ジンバブエ・ドルだな?ここに持ってきてくれ。」 「よし。わかった。ちょっと待ってな。」 路上両替が信用できないという情報はあちこちで流れているのだが、ちゃんとした闇両替よりも微妙にいいレートで、ちょっとした説得力があったためオレは乗ることにした。まあここなら人もたくさん歩いてるし、危険な目にあうことは無いだろう。ちゃんと確認さえすれば。 しばらくして、男が札束のようなものを抱えて戻ってきた。 「じゃあ60000ドルな。はい。おまえの40ドルをよこせ。」 「サンキュ。これな。・・・ん?」 男がオレに渡したものは透明なビニール袋で、中に札束が入っているのだが、どうも60000ドルにしては厚みが足りないような気がした。もちろん闇両替はその場で確認するのが鉄則なので、ビニールから出して数え始めようとした刹那、男はオレの40ドルをひったくって立ち去ろうとした。やばい!こいつは間違いなく悪の両替屋だ!!すかさずオレは男の腕を掴んだ。 「おい!どこ行くんだ!!まだ金を数えてねえぞ!確認するまでオレの40ドル返せ!」 「ヘイヘイ!こいつはオレのフレンドだ!放してやれよ!!」 「ヘイヘイ!日本人!なにおこってんだよ!!」 「ヘイヘイ!フレンド!!落ち着け!!」 「ヘイヘイ!まあオレ達とゆっくり話そうぜ!!」 オレが男に触れた瞬間、なぜか周りから一斉にオレに対して「ヘイヘイ!」と「フレンド!」の集中砲火が。 ガガーン!!なんと、いつの間にかオレは5人の黒人に囲まれていたのだ。しまった・・・。相手は一人だと思っていたオレは両替に集中して周りなどに気を配っていなかったため、完全に悪徳闇両替軍団の術中にはまってしまったようだ。黒人はオレを取り囲み通行人から見えないようにし、さらにオレから40ドル奪った男を逃がそうとする。さすがにこの状況はやばい。下手に抵抗するとどうなるかわからん。たかが40ドル、5000円のために黒人相手にいざこざを起こすのはやめといた方がいいだろう・・・。怖いのはもうイヤだ。危ないのももうイヤだ。たとえこの金が今のオレにとってはマラウィまでたどり着くための命綱だとしても・・・。 ・・・。オレは全財産が100ドル以下だったことを思い出した。 「テメーこのやろ!!!待ちやがれ!!!」 オレは自分を取り囲んでいる黒人の一画にタックルをかました。うまくスポッと輪から抜け出たオレは、そそくさと逃げようとしていた男を再びひっ捕まえた。他の黒人がなにやらわめきながら迫ってきたのだが、すかさずオレは男の手を引きながら近くのカフェの前まで逃亡した。 「おい!コラ!!金を返せ!!」 「な、なんのことだ?」 人目のつくところに男を引っ張ってきたおかげで、他の黒人はオレ達に手を出せないでいる。少し離れたところからこちらの様子を伺っているだけである。 「オレから盗った40ドルを返せっつってんだよ!!返せ!!コラーーーー!!!返せっっ!!!!」 「お、おい!!あんまり大きな声出すんじゃない!!」 「40ドルを返せって言ってんのが聞こえないか?おまえは泥棒か!!泥棒!!!!」 カフェにいた客がこっちをジロジロ見ている。 「わかったって!返すから黙れよ!くそ・・・。」 男はオレともみあったせいでクシャクシャになった40ドルを返し、オレの持っていたジンバブエドルを掴むとスタコラと逃げていった。同時に周りで見ていた他の黒人達も散っていった。 あ、危なかった・・・。これを取られていたら・・終わりだ。どう考えても終わっていた・・・。あまりにもオレの中ではこの40ドルが持つ役割は大きく、今や両津勘吉なみに増幅したオレの金への執念でなんとかインチキ闇両替から逃れることができた。しかし、安易に道端で両替に応じたオレはバカだった。もっとわきまえねば・・・。 その後インチキ両替軍団からの報復を恐れたオレは、なるべく人通りの多い道を歩き、日のあるうちに宿へ帰った。 宿で福さんとさっきの出来事について話し、「気をつけなきゃいかんねー」などとありがちなセリフをお互い語っていたところ、もう一人のルームメイトであるトシちゃんが入ってきた。 「あ、ども。福さん、作者さん、なんか隣の人達の中で今日が誕生日の人がいるらしいんですよ。で、誕生パーティやるから僕らもよかったら来ないかって。」 「え。まじで。」 「オレ達を名指しで誘ってくれてるの?」 「いや、そうじゃないですけど、漠然と隣に泊まってる人達もどーぞってな感じでした。」 「ふーん・・・。どんなことやるのかなあ。」 「なんかケーキ食べたり、喋ったりってパーティっていっても特別なことじゃないみたいですけど。あ、なんか歌が好きな人がいるからみんなで歌を歌うとかも言ってましたけど。」 「な・・・」 「う、歌・・・」 直接誘われたトシちゃんは、つき合いというものを大切にしパーティに参加するために隣の宿へ旅立っていった。 オレと福さんは、その場に固まっていた。 隣の宿はハラレの日本人宿として有名で、宿泊客は全員が日本人である。そして彼らは例外無く長期滞在者で、完全に彼らの世界が出来上がっていた。その空気の中に入っていくこと自体もかなり気を使うのだが、ただそんなことは今は問題ではなかった。今、オレと福さんが固まっているのは、トシちゃんの発言内容にあった、「歌を歌う」という部分だった。 「福さん。今、歌って言ってましたね。」 「うん。たしかに言ってた。」 そう。オレと福さんは、二人ともアットホーム恐怖症というとても重い病気を患っているであった。誕生パーティで歌を歌う。とても素晴らしいことだ。夢もある。オレ達の忘れている子供心をみんなは持っているんだね。 しかし。「お誕生日おめでとー!」とか。「えー?○○ちゃんって23歳なのー?もっとぜんぜん若く見えるよねー。」とか。「わー、このケーキおいしそー!どこで買ってきたのー?」とか。そういうフレンドリーなセリフを言うとオレ達はジンマシンが出るのだ。 わかっている。かわいくないことを。 わかっている。つまらない人間だということを(涙)。 だが、みんなと一緒に「ハッピーバースデートゥーユー♪」なんて歌うことを想像しただけで発作が起きて下手したらその場に倒れかねないのだ。特に、クライマックスの「ハッピーバースデーディーアなんとかちゃーん♪」の「なんとかちゃーん♪」の部分が統一されていなくてバラバラな歌詞になり、それをみんな恥ずかしがってちょっと笑うところが悶絶するくらい耐えられない。いや、反感を買うのを承知で一言だけ言わせてもらえば、オレからすりゃその空気に普通に耐えられるやつの方がおかしいんじゃーっ!!! 「ど、どうする?」 「ぼ、僕はちょっと体調が悪いことにしよっかな・・・。」 「やっぱ。そういうと思った。オレもダメだ。」 「じゃ、じゃあどうしましょ。せっかくだし、僕らも対抗してなんかやりましょうか?」 「そうだな・・・。」 オレ達は話し合った。隣の楽しい誕生パーティに対抗してオレと福さんの2人で出来ることは何があるのか? しばらくお互いのもちネタを話し合った結果、オレは福さんを心から尊敬することとなった。彼のセンスはオレとシンクロ、いやそれ以上だ。 アフリカ大陸を北から縦断してきた福さんが、もしもの時のために日本からはるばる旅の供に持って来ていたのは、稲川淳二の怖い話のMDだった。もちろん彼の名誉のために言っておくが、決して彼は旅先で怪談を聞くことが趣味なのではない。全てはバカという名誉の称号を手に入れるためである。 そして、オレ達は部屋の電気を消し、福さん持参のスピーカーを設置して誕生パーティに対抗し稲川淳二の怖い話を聞く会を催した。おそらく盛り上がり度はきっと隣と比較しても5分5分だろう(号泣)。 今日の一冊は、人の性格とメンタルの大事さを教えてくれる 50歳を超えてもガンにならない生き方 |