THE FIGHT ROUND28
〜デリーでゲリー〜
ううう…… ゴロゴロロゴリョリョロロ…… はあうぅっ! ダメだっ!! ここではダメだっ!! 電車から降りたオレは、再びニューデリー駅前のメインバザールを内股で歩いていた。やばい、はやく、はやくどこか落ち着くとこを見つけないと…… しかし今は朝の7時。こんな時間にチェックインできる宿などあるのだろうか。だからといってなにがなんでも宿に入らないと、座りウ○コをして「これでキミも一人前のインド人だ!」と自他共に認められるハメになる。 インド到着の夜は宿の客引きがいっぱい寄ってきて恐れおののいていたが、この状況から考えるとなんと恵まれた待遇だったのだろうか。今はただでさえ人通りが少ないのに、こんな早朝から宿の客引きなどいるわけがない。 こんな早くからチェックイン可能な宿をどうやって探せば……片っ端から訪ねてみるしかないのか? だがとてもそんなことをする時間と腸の余裕はない! どうすれば、どうすればいいんだ! すると一人のインド人がオレの姿を見て近寄ってきた。 「ヘーイ。おまえ今夜の宿決まってるのか? オレいい宿知ってるぞ。どうだ? ちょっと見てみないか?」 インド人の商魂万歳。 助かった! 早く! 早く連れてってくれ! 「しょしょしょうがないなー。あんまり行きたくないけど見るだけね。見るだけ」 「OK! さあこっちだ!」 インドの客引きをありがたく感じる時がまさかこようとは。 宿までオレを先導して歩く客引き。この時の彼の背中にはうっすらと後光がさしていた。というより、その背中が便器に見えた。 そして連れられて到着したのが、ラスベガスにあってもおかしくないような豪華な名前の宿、その名も「スターパレスホテル」。直訳すると「星の宮殿のホテル」。驚異的に名前負けしている。 さて、案内された部屋は一泊200ルピー(500円)の部屋。今まで泊まっていた宿と比べるとちょっと高いような気がするが、星の宮殿のホテルにしてはかなり破格の値段だ。まあこの安宿のどの辺が星の宮殿なのかという謎は、金田一少年がジッチャンの名にかけても絶対に解けないだろうが。 部屋を見たら次にすることは、当然料金の交渉である。いかにも興味なさそうな素振りを見せて値切らなければいけない。数々の試練を乗り越えたオレの演技力の見せ所である。 「どうだ?この部屋。なかなか豪華な部屋だろう。トイレもシャワーも電話もついてるぞ」 「えー。ど、どどうしよっかなー。200はちょっとたか高いなー。他のところ探してみよよっかなー。まだぢかんもあるしなー……」 ゴロゴロロゴリョリョロロ…… 「はあうぅっ!」 「……。あんまり無理しない方が……」 「チェックインお願いします(号泣)」 もし今が完全体だったなら、奥義帰るフリを使って150くらいまで下げさせることは出来るはずなのだが、今のオレはスペランカーよりも貧弱だ。手早く手続きを済ませ、部屋に転がり込む。そして、またもや長い苦しみの時間が始まった。 幸いにして部屋にトイレがついている。しかも水が出る。2等車のトイレと比べたらデビ夫人の駐車場くらいの快適さだ。そんなトイレに入って、完全にただの液体となったものを尻から放出する。どう考えても食べたものは夜のうちに全て出きっていて、体内には出る物がなにも無いはずなのに、いったんトイレから出て10分待たずにまた尻から水が出る。 未だ人類が味わったことの無いような、絶え間ない下痢。 これがパチンコだったなら止まらない出玉にお父さんもホクホクだろうが、残念ながら今回の場合は出た物を景品所に持って行っても換金率は非常に低そうだ。一体何が出ているんだ? 昨日から食べ物どころか水も全く飲んでいないのに。 そういえば、人間の体の約60%は水でできていると聞いたことがある。もしかして、その水か? ということは、トイレに行くたびに体がしぼんでいってるということに!! きっと今オレの体の水分の比率は20%くらいに下がっているだろう。 下痢の苦しみと同時にオレを襲ってきたのが、悪寒と高熱である。バラナシでライババの呪いを受けていた時と同じ症状だ。治ったと思い込んですぐに無理な移動をしたことが祟ったのである。呼吸を荒げ、呻きながら天井を見つめる。 意識が朦朧として、目が霞む。 ウー アー く、苦しい……くるピー そういえば小学生の頃よくこんな高熱に冒されたことを思い出す。あの頃は常に母親が近くにいてくれ、薬も食べ物も用意してくれた。父親はオレを担いで車に乗せ、病院に連れていってくれた。そういえばそうだった。あの時は。病気になったって、心配することは何もなかった。 そして今。 インドで一人。 ワーイ\(∇⌒\)(/⌒∇)/ワーイ(涙) オレ、いつの間にか大人になったんだなー。しみじみ。 ゴロゴロロゴリョリョロロ…… は、いかん。このままでは、というより今すでに脱水症状でフラフラだ。ミイラ化する前にどうにかして水分を補給せねば。周りを見渡すと、電話の脇にルームサービスのメニューが。そこでオレが目をつけたのは、生ジュース。はっきりいってインドの生ジュースは、保田圭のソロデビューのようにかなり危険度が高い。高級ホテルやレストランで出しているものはともかく、こんな安宿で出す生ジュースはバザールで買ってきた蝿がたかっている果物に、インドの生水で作っているに決まっている。普通の旅行者が飲んだらまず間違いなく腹を壊すだろう。実はオレも今まで結構気をつけていた。 だが、今ならなんのためらいも無く注文できる。そう、どう転んでももうこれ以上腹を壊しようがないのだ! さあフロントに電話を……ってなんでこの電話音がしないんだ? あ。コードが千切れてる。 ……。 ウオラー!従業員!! 偶然にもドアを開けたところに宿の人間がいたので、電話が使えないというと、口を使って切れたコードを繋げてくれた。なんじゃそりゃ! 「さあ直ったぞ! ルームサービスもこれで頼めるハズだぜ!」と自信満々に言われたため、早速電話をかけ、ジュースを部屋まで持ってきてもらうことにした。 しばらくして、ルームサービスが届く。運んで来てくれたのは、先程電話を直してくれた従業員だ。……じゃあおまえが最初から注文聞いたらよかったんちゃうんかい!! と怒る気力は残念ながら無く、ぜえぜえ言いながらベッド脇の棚にジュースを置いた。 生オレンジジュースと生バナナジュース。高熱と下痢で体が弱り、水の一滴たりとも体が受け付けないような気がしたのだが、少しでも体内にエネルギーと水分を取り込むため、まず無理矢理オレンジジュースを飲み干す。 すでに味覚は麻痺し、味わうことはできない。ベッドに入ってうめくこと5分。 ゴロゴロロゴリョリョロロ…… トイレに行ってオレンジジュースを出す。チッ。せっかく飲んだものが全て出て行ってしまっている。よし、次はバナナジュースだ。出て行ったオレンジジュースを追いかけるように一気に飲み干す。ベッドに入ってうめくこと5分。 ゴロゴロロゴリョリョロロ…… トイレに行ってバナナジュースを出す。オレの消化器系はホースか? これじゃ頼んだジュースを飲まずにトイレに流すのと変わりゃしない。う…心なしか今出したものからバナナの香りすら漂ってくる……。下手したら、これをコップに入れて隣の部屋の客に持っていったら、普通にバナナジュースだと思って飲み干すのでは? もったいないな……。 イタッ! 尻が痛いっ! もうこの宿に来てからも10回以上トイレに行って、毎回尻を手で拭いているため、かなりヒリヒリしている。やばい。もうちょっとソフトに拭かなければ尻の粘膜が剥ける! 再びベッドに転がり、かすかな意識の中で地球の歩き方の旅のトラブルのページをめくる。高熱と下痢。どんな病気が考えられるんだろう。 ・細菌性/感染性下痢 ・アメーバ赤痢 ・コレラ ・マラリア ・A型ウイルス肝炎 見なきゃよかった(愕)。 でもオレは運がいいんだ。そんなヘンな病気になんてなるわけないさ。きっとオレの病名は単なる下痢と熱だ! 絶対そうだ! ウウウ〜…… |