THE FIGHT ROUND17
〜ライババ猛ハッスル〜
トイレから戻ってきた神の使いライババに、シワがヒンディー語で掛け合ってくれる。昨日の夜何年かぶりにバラナシに到着したライババとバラナシ在住のシワが何故こんなに親しいかということはとりあえず触れずにおいてやろうではないか。 オレが当てて欲しいのはもっと過去のこと。今のままでは回転寿司占いといい勝負だぞライババ! どうやらシワによりオレの希望が伝わったようで、ライババは厳粛に座り直すと、前にも増して真剣にオレの手相を見始めた。そして再びオレの過去について語り出すライババ。 さあ、頼むぞ。オレに奇跡を見せてくれライババ! 「キミは……子供の時、そうだな、12歳になる前。健康に大きな問題を起こしたことがあるね。例えば、大きな怪我をしたとか、病気になったとか」 「12歳より前ですね! ……そうですね、全くありません」 正直言って病気になった記憶や怪我をした記憶はある。だがそれは誰にでもある程度のもので、大して重大なものではなかった。そういう記憶を持ち出して、ライババに同情し「そういえばありましたね……」と言うほどオレは甘くない。次に行ってくれ! 次に! 「キミは、今まで、そして今も、男と一緒にいるよりも女性と一緒にいる方に喜びを感じますね? 特にあなたは、綺麗な人が好きですね?」 綺麗な人より汚い人が好きなやつがいるかよ!!! 抽象的な発言はやめろというのに! こっちは高い金払ってるんだよ! ところで、ライババの予言でニュアンスが伝わりにくいところはシワが訳してくれるのだが、彼は占いに対するオレの日本語の反応も訳してライババに伝える役目もしている。毎回シワはオレに「当たっていますか?」と聞いてくるのだが、綺麗な人が好きですねと言われ、 「いや、当たってるっていうか、普通誰でも綺麗な人は好きだと思うんだけど」 シワ「どうなんですか? イエス? ノー?」 「だから、どっちかっていやーそりゃ当たってるけど……」 シワ「(ライババに向かって自信満々で)イエス!!」 ライババ「フォーフォッフォ。そうか。当たってたか」 ちょっとまてオイ!! このライババ劇団が! 手を組んで旅行者を言いくるめるバラナシ名物ライババ劇団。劇団員同士のチームワークはバッチリだ。自信満々のライババの占いはまだまだ続く。 「過去に、警察にお世話になったことがあるでしょう。例えば、交通違反とかで。もしかしたら将来もまたあるかもしれません」 あるけどさ!! 信号無視で捕まったことがあるよ! でもせめて交通違反は条件から外せよ! もし交通違反を含めないで当たってたら結構たいしたものなのに。 ライババ「今キミは、胃が悪いようだ。時々胃の痛みを感じるね?」 シワ「どうですか? イエス? ノー?」 「いやそりゃどっちかって言ったらイエスだけど……」 シワ「イエス!!」 ライババ「フォーフォッフォ。そうか。当たってたか」 「……」 ライババ「喉も悪いかもしれないな。時々喉が痛くなる時はないかい?」 シワ「どうですか? イエス? ノー?」 「いやそりゃどっちかって言ったらイエスだけど!!」 シワ「イエス!!」 ライババ「フォーフォッフォ。そうか。当たってたか」 「……」 ライババ「腰も少し悪いようだ。どうだ? 時々腰が痛くなるだろう?」 シワ「どうですか? イエス? ノー?」 「いやそりゃどっちかって言ったらイエスだけど!!」 シワ「イエス!!」 ライババ「フォーフォッフォ。そうか。当たってたか」 「……」 ライババ「今までオシッコを一回で出し切れなかった……つまり残尿感を味わった経験が一回はあるね?」 シワ「どうですか? イエス? ノー?」 「いやそりゃどっちかって言ったらイエスだけど!!!!!!」 シワ「イエス!!」 ライババ「フォーフォッフォ。そうか。当たってたか」 おんどりゃーーーーーっ!! みのもんたかおまえは!! そんなもん誰が外れるっちゅーんじゃボケがあーーっっ!! どこに残尿感を当てる占いがあるんだよ!!! もういいよ。あんたに期待したオレが馬鹿だった。好きなようにしてくれよ。立て続けに自分の占いが的中して上機嫌なライババ。もはや誰もやつを止められない。 「キミにとってエネルギーを得られる国、ラッキーカントリーは、インド、スリランカ、チベット、フランス、ドイツ、イギリス、オーストリア、南アフリカだ」 それ聞いてどうしろと?? 「北西もしくは北東の方角が幸運を呼ぶようだ。ラッキーカラーは、緑、クリーム色、白、ラッキーな曜日は日曜日、月曜日、金曜日」 もう完全にめざましテレビだな(泣)。 「キミは……ちょっと残念なことだが、将来、髪が抜け落ちる」 そんなアホな。どうでもいいよ。 ……。 今なんて言った? それは大問題だぞ!! ハゲるのか? ハゲるっていうことか!? 「そ、それはいつ頃ですか!?」 「そうだな。大体……65歳くらいの時だ」 「なーんだ。そんときゃ……」 シワ「(日本語で)そんときゃ大丈夫だよ」 おまえなに人やねん!! オレより先に流暢な日本語でつっこむんじゃない!! 明らかに毎回使ってるネタだろ? 2人で何回もツッコミのタイミング練習したな? ちょっと微笑ましいぞ! 「キミは将来非常に多くの友人を得ることができるだろう。でも、お金の貸し借りは控えた方がいい。何かトラブルの原因になるかもしれない」 ……。 「それから、今キミはタバコは吸うかね?」 「吸わないけど」 「そうか。出来ればこれから先も吸わない方がいいな。それから飲みすぎも良くない。酒はほどほどにしなさい」 そうですか。あなたほどの人が言うならそうしようかな……って単なる生活指導だろうがそりゃ!!! せめて今オレがタバコ吸うかどうかくらい当てろ!! おまえが当てろ! 占いで当てろ! 占いで! 占い師だろーが! 本人に聞くんじゃねー!! 「ムムム!!」 「おおおっ!! ……ってど、どうしたんすかライババさん??」 「キミは……37歳の時、目の手術をすることになる。そして……その手術は、失敗するだろう」 ……。 突然なにを言い出すんですかライババさん! ちょっと! シャレにならないこと言わないでくれよ! 恐いよ! 「更に……41歳の時。車の事故で、頭を怪我する。かなり大きな事故で、後遺症が残るだろう」 残るだろうじゃねーっ!! ライババ! てめえ!! 人を不安がらせて楽しいか!! 楽しいんだろうコラ!! オレが事故で死んだら絶対おまえを呪い殺してやるからな!!! なんとかしろ! おい!! 「そうですね。あなたはとても信心深い人です。それではサイババと私のパワーを込めた、このお守りをあげましょう」 そう言ってライババは、部屋の外から何やら金属でできたネックレスのようなものを持ってきた。それを毎日つけるか、枕の中に縫いこんでおけばいくらか運勢が良くなるらしい。 「これをつけていれば本当に大丈夫なんですか? 手術とか成功するようになるの? 後遺症も残らない?」 「そうだな。それではちょっとサイババに聞いてみます」 「サイババ??」 シワ「しーっ! 静かに!」 ライババはおもむろに目をつぶり、瞑想を始めた。よくわからんがどうやら不思議な力を使ってサイババと交信してオレの病気が治るかどうか聞いているらしい。そんなことも知ってるんだねサイババは。しばらくぶつぶつと呪文のようなものを唱えていたライババが目を開けた。 「サイババは、治ると言っています」 やったー! サイババがそう言ってたならもう安心。 ……。 うそくせー……。 シワ「緒方拳はこのお守りを持ったおかげで日本で大成功しました。彼はお守りのために8万円寄付していきました。どうですか? この近くに両替できるところもありますし、クレジットカードでお金を降ろせるところもあります。少しでもいいからお守りのために寄付しませんか?」 この金の亡者がー!! おまえらにはもう1円も払わん! 別に金払わなきゃくれねーならそんなもんいるか! 「しょうがない、いいですよ。タダであげましょう」 オレが転げまわってごねたためライババはサービスでお守りをくれた。 緒方拳……これに8万払うとは一体どんな金銭感覚なんだ? どうやらこれで今日の占いは終わりらしい。最後に「何か質問はありますか?」とまとめに入るライババ。すかさずオレはシワに言った。 「今日、ライババさんに占ってもらってとても満足しました。言っていることもかなり当たっていて超びっくり。でも、あとほんのちょっとだけ占って欲しいんです。今、大体ライババさんの言ったことは7割方当たっています。普通の占いでもこれだけ当たるなんて考えられません。それは凄いことです。ただ、僕は9割当てるライババさんが見たいんです。そこで、あと一つか2つ、過去の出来事について当てて欲しいんです。何かこうズバッとしたことを言って、僕を驚かせてください!そうすればもうなにも思い残すことはありません。心からライババさんを尊敬するでしょう」 訳せ! シワ! ライババに伝えろ!! 上手に上手に向こうの気分を害さないように言ったのが功を奏して、シワは上機嫌でオレの言葉をライババに伝えてくれた。勿論それを聞いたライババもかなり満足そうな顔になった。そして、気合を入れて最後の占いをしてくれるということになった。 頼む! 最後に奇跡を……いや、もういい。何か面白いこと言ってくれ! もはやオレの手相など見ずにライババは言った。 「キミはエッチの時に、口を使うのが好きだろう? でもな、病気になるから体液を飲むのは控えたほうがいいぞ」 ライババさん? ライババさんですよね?? どうかしちゃったんですかライババさん!! ちょっと暴走しすぎですよ!! 単なるエロオヤジかよおまえは……。もはや必死に笑いをこらえるオレに、ライババは最後にもう一つ言い当ててくれた。 「よし、これで最後にしとこう。そうだな……、キミは……キミは学生時代、ニキビが出来たことがあるだろう!」 あ あああ… 当たってるよ! ライババさん(涙)! ……。 どんな占いやねん!!! シワ「どうですか、今日は。満足しましたか?」 「はい。(ある意味)ものすご〜く満足しました。そうだ。こんな素敵なライババさんと会えた記念に、ぜひ写真を撮らせて欲しいんですが……」 「写真? それはダメだ。サイババはそういうものは好まない。パワーも減ってしまうし、受けることはできない。まあ、また聞きたいことがあったら、私がここにいるうちはいつでも来ていいから」 チイイイイイッ! パワーとかサイババとか言ってるが、結局「私はこうしてダマされました!」といって投稿されるのを恐れているだけだろう! こいつの写真を撮れないのは悔しいが、無理に撮ったら外にいる手下どもに何されるかわからない。ここは残念だが仕方がないか……。 ライババに礼を言いシワに別れを告げ、館を後にする。 恐るべし男だった。ライババ。 果たして彼の占いはどの程度的中したのか? 振り返ってみようではないか。 ライババ占いの当否(答えがはっきりしているものに限る) 1. 旅が好き……○ 2. ロマンティックである……○ 3. 優しい心の持ち主である……○ 4. 過去に家族の助けを受けたことがある……○ 5. 19歳か20歳の時、彼女か仲のいい女性がいた……○ 6. 引越しをしたことがある……○ 7. 12歳以前に健康に大きな問題を起こしたことがある……× 8. 警察にお世話になったことがある(交通違反含む)……○ 9. 時々胃の痛みを感じる……○ 10.時々喉が痛くなる……○ 11.時々腰が痛くなる……○ 12.残尿感を味わった経験が一回でもある……○ 13.学生時代、ニキビができたことがある……○ なんという的中率!! 本当に9割を上回っているではないか!!! 彼らの言うとおりライババは、神の申し子だったのかもしれない。 宿に帰ったオレは、部屋に戻るやいなやゴミ箱にお守りを投げ捨てる。 これで、オレが将来本当に車の事故で頭に後遺症が残ったら、その時こそライババのパワーを信じようではないか。 って強がってるけど、もちろん事故なんかあいたくないけどね。 |