THE FIGHT ROUND2

〜寝床〜



 さて、ちょっとわかり辛いのでここでデリーとニューデリーについて説明しておかねばなるまい。デリーとニューデリーは、言ってみれば横浜と新横浜、加勢大周と新加勢大周みたいなもので、ニューはつけどもその実はほとんど同じようなもの。デリー市という市の中にニューデリーという場所があるのだ。

 ということで、ついにデリーの街にたどり着いたオレたち。もう日付が変わろうという時間だ。うるさいタクシーの運ちゃんから開放され、一息ついて辺りを見回す。

 暗い。
 な、なんだこの暗さは……。
 未舗装の道に街灯などはなく、左右の建物から細々と漏れる明かりだけがわずかに道を照らしている。辺りでは、闇に同化したホームレスや野良犬が目を光らせて2人の外国人に注目。これは凄いとこに来てしまった……。
 ガイドブックを開いても、明かりが無い為何も見えない。これなら新宿の個室居酒屋のエロチックな照明の方がまだ明るい。たしかに光量が少ないせいでホームレスも野良犬も五割増しでセクシーに見えるが、だが本当にこんなところで宿など見つけられるのであろうか……?
 ハッ! いかんいかん。思わずシリアスになってしまった。今のオレは一人ではなく、(ボブサップよりは)か弱い日本人女性と行動を供にしているのだ。彼女を不安にしてはいけない。
 男としての責任感で、なんとかこのシリアスな空気を変え明るい雰囲気にしようと夢がモリモリの話題などをふってみたのだが、 やはり通じなかった。
 「 キックベースとか夢モリチームとかあってさー」と一生懸命説明してみると、ちょっとウケた。きっと今シホは「この人と一緒に来てよかった!」と思っているに違いない。

 さて、デカイ荷物でキョロキョロしながら歩いている外国人旅行者をインド人が見逃すはずがなく、次から次へと宿の客引きがやってくる。何人かの誘いを振り切り、一番安い値段を提示した客引きについて行く。すると一応「BRIGHT HOTEL」という看板が掛かっている道沿いのオンボロな建物に連れて行かれる。
 これがインドの宿か……。ドアひとつ入ると、受付にはガタついた机にも床にも書類や毛布が散乱している。あの、昨日あたりボビーの殴りこみでもあったんですかね……?

 オレとシホを先導して階段を上ってゆくインド人の客引き。


「そうそう、おまえら部屋はダブルでいいんだよなー。」













「……じゃおれもシングルで。」




 そうして案内された部屋は、希望通りひと部屋80ルピーのシングルルーム×2。どんな部屋だろうが、もはや2人には断る力は残っていなかった。支払いを済ませ、シホと別れて部屋に入ろうとすると、なぜか宿のオヤジがオレだけに声をかけてくる。



「なあにーちゃん、いい物があるんだけど」


 そういって懐から取り出したのは、ビニールにぐるぐる巻かれている、青黒いタバコのようなものだった。


「ガンジャーだよ。どうだ。1本500ルピーにまけとくぜ」



「ええっ! ガガガガンジャーだってっ!! ひえ〜〜っ。あわわわわ……」



「コラ! でかい声を出すんじゃない! 静かに話そう。静かに。で、どうだおまえ。1本買えよ。ハイになれるぞ」


「ハイですか?」


「ハイです。ベリーグッドクオリティだぜ!」



 ガンジャーとは、大麻のことである。インドではドラッグが日常的に出回っているようで、旅行者の中には結構手を出す人も多いようだ。だが、オレを他の人間と一緒にしてもらっては困る。オレの姿を見て「コイツは買いそうだ」と思ったのならそれは大いなる誤算だぞ。いいかオヤジ、よーく聞くがいい。
 オレは、そんじょそこらの旅行者とは違い、臆病だ(涙)。

 いやいや、そういう問題じゃないんだけど、いりませんから。しつこく迫ってくるオヤジを部屋からシッシと追い出し、一息つく。

 さて、一泊80ルピーの部屋である。日本円で240円くらい。

 しかし、安いのはわかったんだが、果たしてこの部屋→で寝るということは人としてどうなのか? ボロボロと崩れたコンクリートに囲まれた正方形の狭いスペースに、備品はかつてベッドだったと思われる粗大ゴミのみ。そのマットは年代を経て金属バットのように固くなっており、中から美女に
「カモーン」と誘われても、喜んで飛び込んだら骨折間違いなしである。

 そういえばこの部屋の雰囲気、どこかで見たことがあるんだよな……。たしかアメリカ西海岸あたりで見たような気がする。なんだっけ?しばらく考えていたのだが、

 わかった。
 この部屋、アルカトラズ島の刑務所の独房にそっくり。
         ↓

 まさに気分はアル・カポネ。
 たった240円で凶悪犯の暮らしが味わえるなんて、とてもお得だ。
 鉄格子が無いだけ刑務所よりましじゃないかと思ったあなた。それは違うぞ。鉄格子が無い上に窓もぶっ壊れているオレの部屋は、外から侵入し放題。まあ若い女の子(広末涼子や山本あずあず等)が侵入してくる可能性も無きにしもあらずだが、同時に泥棒も強盗も出入り自由である。防犯もくそもあったもんじゃない。


 ……。

 頼むから、鉄格子つけてくれ。


 まあ今更部屋についてどうこう言っていても始まらないので、もうだいぶ遅くなってしまったがとりあえずシャワーを浴びに行くことにする。
 普段から1年に1回は必ず部屋の掃除をする程のかなりのキレイ好きであるオレは、たとえ一日でもシャワーを浴びれないということが我慢できない。昼はマレーシアで20リットルほど汗をかき、夜はインドの砂埃にやられかなり汚くなっている。2月の北インドの夜は寒い。ここはひとつ、温かく清潔なシャワーを浴びて心身ともに疲れを回復させよう。
 幸いトイレ兼用のシャワールームがこの部屋のすぐ近くにあるらしい。着替えを持って意気揚々とシャワーへ向かうと……

 あ、あった。





                       ↓































ま、一日くらい浴びなくてもいいだろ。













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