THE FIGHT ROUND26

〜霊界へ向かう列車〜



 またも始まった17時間の旅。
 午後2時の発車で、到着は明日の朝の予定だ。しかし、インドで列車が予定通り出発することは亀田兄弟が礼儀を身に着けるくらいあり得ないことである。オレが女性と2人で食事に行って「おごるよ」と言い出すこともあり得ない。性別や年齢は違っても本来人間として対等なのだから、割り勘は当たり前である。
 結局そんな風にインド鉄道をバカにしていたら電車は時間通り発車、そもそも自分の人生の予定すら立てようと思ったこともないオレに他人を悪く言う資格などないということを思い知らせてくれた。いや、でも民主党や社民党のえらい政治家さんだって悪口を言うだけでお金をもらってるし、それなら同じように悪口を言うオレにお金をくれる人がいてもいいと思う。500円から受け付けます。クオカードでもいいです。

 夕方になり、少し早い夕飯にとオレは社内販売のサモサを買うことにした。サモサというのはサルサと同じようなもので、三角形のカリッとした○○の中にジャガイモや○○を入れ、油で揚げたものである。○○となっているところは、なんだかわからない部分だ。気になる人は各自調べてほしい。
 長距離電車では、日本の新幹線のように売り子が回ってくるためそこを捕まえて買えばいい。売り子といっても日本のように若いお姉さんではなくオヤジであり、売りおっさんと言った方が適切だが、その売りおっさんが駅弁のように肩からサモサの入ったお盆をさげて売りに来る。



「サモ〜サ〜さも〜さ〜♪ モサモサなサモサ〜〜♪ 早くしないと〜行っちゃうよ〜」


「売りおっさんさん! サモサをひとつください!!」


「はいサモサ。どのサモサがいい? このサモサ? あのサモサ? そのサモサ?」


「どれでもおんなじでしょ。1個ください」


「はい、2個で10ルピー」


「いや、1個5ルピーでしょ? 1個でいいです」


「いやいや2個2個」


 ……。オレは今目の前で別の客が1個5ルピーで買っているのを見たのだ。他の客もちょくちょく買っているし、2個1セットの販売なんてことは無い。それなのになぜか2個のサモサを押し付けてくる売り子(おっさん)。


「いや、1個でいいって! ワン! ワンワン!!」


「トゥートゥー!」


「ワンワン!」


「トゥートゥー!」


「1個だけよこせっつってんだよおまえ聞こえないのか理解できないのか客を失いたいのかどれだてめーは!!!! 車掌を呼べっ!!! 責任者を出せっ!!!!」


「はい、1個5ルピーね。まいどありっ!!」



 売りおっさんはやっとサモサの抱き合わせ販売をあきらめドピューと逃げて行ったが、なんじゃこの国は。日本の新幹線で「ビール1本ください」と頼んで売り子が
「2本2本!」「いや、1本だけでいいです」「2本2本!」とがんばったら絶対に即日解雇であろう。……ダメだこりゃ(号泣)。

 さて、腹ごしらえも済ませ夜になると、キッチリと閉まらない窓から吹き込んでくる寒風に包まれ、アジアのエスキモー気分である。なんといっても、北インドの冬は寒い。やや黒ずんできたバスタオルと毛布を巻きつけても、あの時のエンペラー吉田のように震えが止まらない。
 よし! ここは内面から暖める作戦だ! 心を温めれば、暖房いらずになるのです。これでどうだ?


 イギリスのある病院で、入院中の子供達にテディ・ベアのぬいぐるみが貸し出されていました。子供達はそれをとても気に入って、毎日のようにぬいぐるみと一緒に遊んでいました。
 ところが、ひとつ困ったことがおこったのです。
 子供達はテディをかわいがり過ぎて、退院する時に一緒にぬいぐるみを連れて帰ってしまうようになったのです。病院の看護婦さんたちは頭を悩ませました。このままでは毎月毎月新しいぬいぐるみを買わなければいけません。
 そして彼女達はある方法を考えつきます。それは、テディ・ベアに包帯を巻くというものでした。包帯を巻かれたぬいぐるみを見た子供達は、「この熊さんはケガをしている。だから病院で治療を受けなきゃいけないんだ。」と考え、それからは決してテディを家に持ち帰ることはなかったのです―。




 ……あ、あたたかい。心がぽかぽかするよ。

 見事に体の内側から温めることに成功したオレは、安心してスヤスヤと眠りに落ちる。よし、このまま行けば、目が覚めればもうデリーに着いているはず。2等車両完全攻略だ。

 と思っていたのだが。


 おや?
 ※心臓の弱い方は決して次に進まないでください。