![]() 〜さよならジャイプルリ〜 「おい、じいさん、ちょっと、ちょと待て待てっ!! なんで左折してるんだよっ!!! またどっかに寄ろうとしてるだろうおいっ!!! ジジイっっ!!!」 「聞こえん。わしゃ何も聞こえん」 「じじいっっ!!! てめーっ!!!! 引き返せコラーーーーっっっ!!!!」 ……そうしてたどり着いたところは、まさしく3年前にお会いした、可愛くも憎たらしい宝石娘の家であった。ここでまたオレは少女の誘惑に惑わされ婚姻届を提出することになるのだが……、噂ではこの話も単行本に掲載されているらしい。噂なのでウソかもしれないが、出版業界の怖い人たちに怒られるといけないので念のためここで書くのはやめておこうと思う。なんだか大人の世界って冗談が通用しないみたいだから……。 ということでオレは婚礼の儀式を済ませると宝石屋をしずしずと退出し、外で待っていたリキシャのジジイを殺そうと近寄った。 「おじいさん、それでは出発しましょうか。死出の旅路へ」 「話せばわかるっ!! 待て若者よ! そんなに生き急ぐでないっっ!! まあまあ落ち着いて。そのバットを下ろしなさい」 「こぉ〜のぉ〜インチキやろうがあ〜〜どれほど旅行者をナメたら気が済むんじゃワレぇぇ〜〜〜〜」 「これほどナメたのでもう気が済んだ! だからもうあとは真っ直ぐ帰るからっ!」 「あんさん今度またショップに寄ったら、リキシャから降りる前にバットでいろんな物を叩き割るからな(あんた含め)」 「オーケーオーケー。わかったよ帰ればいいんだろ」 憎たらしい老人はやっとこさ元の道に戻り、今度こそ宿へ向かって一生懸命ペダルを漕ぎ出した。だいぶ反省している後姿だ。背中が怯えている。 ちょっとお年寄りに向かって乱暴なことを言い過ぎたかもしれん。なんか、こんな若造がじいさんに自転車を漕いでもらってその上文句ばっかというのも人として間違っているような気がしてきた。この往復って、かなりの距離だしな……。オレが漕ぐ立場だったら、客を乗せてこんなに長く走るのは到底無理だろうし……。まあこうなったら、無事にたどり着いたらいささかチップを上乗せしてやるか。2倍くらいは払おう。だって、オレはエチケットが服を着ているような模範的な旅人だから。 と反省していたら、まだ道半ばの位置にある王宮前交差点で、じいさんはまたたび停車した。 「さあ、シティパレスに着いたぞ」 「え、どこだって?」 「シティパレスだ!」 「なんで?? オレ王宮を見たいなんて言ったっけ?」 「言ってないっけ」 「言ってない」 「…………」 「…………」 「まあ一応見ておけばいいじゃないか。結構おもしろいよここ。行ってらっしゃい。じゃあここまでの運賃をもらっとこうかな」 「じゃあじゃねーんだよっ!! おいおい! なに? オレに何をさせたいわけ? 別にオレが普通に観光をしてもあんたにはコミッションは入らないでしょう? オレはもう帰りたいの。最初のところに戻ってよ」 「でも、もう、今日は疲れたから無理……」 「ガゴーーーーーーーーーーーーッッッ!!!! おのれはああああああっっ!!!!!」 「アイムタイアド。それに、ベリーホット(涙)」 「コラッ!! じじいっっ!!!」 「もう無理。インポッシブル。だって遠いんじゃ! 疲れたんじゃ(号泣)!」 「わかったよわかったよ! あーもう、なんとなく年寄りを見ると優しくしたくなる美しい心を持ったオレだから、もう今日は勘弁してやるよ」 「よかった。すまんが、あと10ルピーくれない?」 「やるわけねーだろボケがっっ!!!」 「年寄りに厳しいなぁあんた……」 そしてじいさんに投げ出されたオレは、そこから自費で市バスに乗って宿まで帰った。もうこの町のリキシャは、行動がレギュラー化している。 そして今日も夜は更けていくのだった……。 ↓謎の物体を触ります それから数日は、デリーでやられた喉のイガイガを治し、イガ栗の供養をしつつ生ジュースを飲んで牛をピシャンと叩き映画を見てはらはらと過ごした。そろそろここを出ようかなと思った時に、まだ観光していない場所をチェックし、今日は最後の観光「風の宮殿」を見に行くことにした。 この風の宮殿は、ガイドブックに「宮廷の女たちがここから町を見下ろした」とだけ説明されている、他に書くことはないんかいと思わず叫んでしまいそうであるがいざ来てみると「たしかにそれくらいしか書くことは無いなあ」と納得させられてしまう、名実ともにペラペラな建物であった。 風の宮殿 ![]() 横から見ると ペ〜ラペラ ![]() 宮殿に入って27秒の本年度最速記録で観光を終え、入り口に戻ると、宮殿に添付されているガイドの若者たちがたむろっていた。まあガイドといってもおそらく肩書きだけの独立採算制であり、女医の西川史子が診察をしていなくても生活が成り立つのとは違い、彼らの場合はガイドをしなけりゃただの無職。非常に暇そうである。そんな暇を持て余しているインド人に日本人旅行者を投入すると、新しい次世代機ゲームの発売日くらいのてんやわんやの大騒ぎとなるのだ。 「ヘイヘイジャパニーズ! 今からどこに行くんだ! ちょっと来いよ。話しようぜ!」 「もうインド人とは話し疲れた。新鮮味と官能を求めてブラジル人とかクロアチア人と話をしたい。」 「リッスン。じゃあこうしよう。オレは今、手相占いの勉強をしているんだ。タダで占ってやろう。だからこっち来いよ」 「そう言って最後には宗教に勧誘しようとするつもりだろうがっ!! オレは『手相の勉強』でグーグル検索したことがあるから知ってるんだよっ!!! 東京だけじゃなくインドでもやってるのかっっ!!」 「ノー! そういうのじゃないって」 「なんだ。そういうのじゃないのか」 ということで所詮暇人同士、無職同士、包茎手術経験者同士ということで意気投合し、オレはその手持ち無沙汰軍団に取り込まれることになった。 そやつはオレの手相を見て「なんでも占いで当ててやる」と、わりかし旅先ではよく聞く言葉を発していたのでそれならばと聞いてみることにした。早速ガイド占い師は、しみじみとオレのたなごころを眺めて言った。 「……なるほど。おまえは、友人やガールフレンドを引きつける、魅力を持った男だ。アンビシャスも持っている」 「うるせーんだよコラっっ!!! そういう無難なセリフは今まで100万回くらい聞いたわっ!!! まずおまえオレの年齢を当ててみろ! それが当たったら先の話を聞いてやるわっ!!!」 「なんでいきなりそんな怒ってるんだよおまえは……。まあそういうなら当ててやろうじゃないか。……うん、わかったぞ。25歳より下だな??」 「ブー。はずれー。もうダメですな。ほらみろ、『占いが本当に具体的に当たる』なんて状況はこの世に存在しないんだっての」 「オー! チョト待て!! もうちょっとしっかり見させて!! う〜ん。そうだな、ひとつだけ質問させてくれ。ハウメニーバースデーディドユーセレブレイト(今まで誕生日を何回祝った?)?」 「はい、正解は29回でした」 「オーケーわかった! おまえの年齢は、29歳だろう!!」 「そうそう、29歳。……ちょっと待ってくれ。『29歳だろう!』ってなんであんたが得意気に言ってるんだよ……。今、オレが29歳だって自分で答えたんだよな。この意思が通い合わない会話はなんだろう。文化の違いだろうか」 とりあえず占いは却下すると、その後なぜか髪の毛の話題になった。インドでは髪を切ってもらうのに5ルピー(15円)しかかからないそうだが、オレが日本で美容院に行くと何千ルピーもかかると話すと、彼らは突然日本で美容院を開業しようとし出した。そして「日本でバーバーショップをやるから、おまえが情報を調べて教えてくれ」と、美容院の話題が出た5分後に本気で聞いてくるのであった。……おまえら、人生の作戦は「ガンガンいこうぜ」かよ。とりあえず、「それは少し難しいと思います」と傷つけないように控え目に答えておいた。 ちなみに、彼らの中には結婚している者もいたが、なんでもワイフ以外にも女がたくさんいるらしい。養うのが大変じゃないですかと尋ねてみると、女に貢がせるから大丈夫だそうだ。オレは、愛人に貢がせる生活をするにはどうすればいいかを、愛人の話題が出た3分後に本気で彼らに聞いてみた。すると、「おまえじゃあ無理だと思うぜ」と傷つけないように控え目に言われたのであった(号泣)。 一応しつこく食い下がったところ、結局「そんなの簡単だ。ジギジギが上手ければ女はなんでも言うことを聞くのさ!」ということだったが、だからジギジギだけならオレだってめちゃめちゃ上手いんだって! ジギジギにどうやって至るかが問題なんだろうがっ!! ……おっと。いけない。自慢になるから隠しておこうと思ったのに、つい弾みで余計なことまで喋ってしまったぜ……。 「ヘイジャパニーズ! オレを覚えてるか!?」 暇人の会話に乱入してきたのは、特に見たことの無いサイクルリキシャのおっさんであった。こんなおっさん知らない。今日会ったこともすぐに忘れるから。 「あなたは誰ですか? あなたのような貧乏そうなおっさんのことなんて覚えてないんですけど」 「おいおい、昨日ジュース屋の近くで会ったじゃないか。オレが『何が好きだ?』と聞いたら『ジギジギが好きだ』って言ってたぞ」 「げーーーーっ!! ちょっと、それをここで言わないでよ……みんな聞いてるんだから……」 思い出した。昨日適当に街を散歩していた時に客引きをしてきたサイクル運転手だ。「ヘイ、乗れよ! どこでも好きな所へ連れて行ってやるぜ! どこが好きだ?」と例によってうるさく声をかけてきたので、面倒くさくなって「オレはジギジギが好きだ」とだけ言い放って、面食らっているおっさんを尻目にスタスタと歩いて逃げたのであった。最近ジギジギの話ばっかしてたから、なんかその言葉がパッと出て来てしまって……まあ本当に好きだけど……。 「おまえがジギジギが好きだということだから、今日はインド人の女を見せてやろうと思ってな」 「ちょっと! ジギジギジギジギ言わないでよっ!! 恥ずかしいじゃないのよっ!!! ……えっ。女??????」 「そうだ。女好きだろう。見せてやるからさあ乗れ乗れ」 「ほ、本当に女かっ! 男じゃないだろうな!」 「イエース。インディアンガール! ドゥーユーライクガール?」 「イエスアイドゥー。じゃあ行こうか。ガイド軍団、さよなら〜!」 オレはお言葉に甘えてインディアンガールツアーの参加に申し込むと、うらやましそうに見ている軍団に後ろ髪を引かれながらサイクルリキシャにジャンプインした。……やった。棚からぼた餅、ひょうたんから駒。藪からスティック、寝耳にウォーター。←パクリ 最終日にこんなラグジュリアスでセクシュアルなイベントが起きるなんて、よかった……、ジギジギが好きって言ってよかった。やっぱりさらけ出してみるもんだなあなんでも。 さて、そうして連れて行かれたのはジャイプル市内の公園であり、おっさんはリキシャに乗ったまま散歩もしくはピクニックをしているインド人女性を指差して、「ほら、いるだろう! これがインド人の女だ!」といちいち教えてくれるのであった。 ……たしかに女だ。誰が見ても女だ。間違いない。おっさんの言ったことにウソはない。しかし、ただ公園で通行人の女性を見るだけ(接触一切なし)とは、オレはてんで予想していなかった。 そして、もういいよと帰路につくよう促すと、やっぱり途中、例のところで左に曲がるのであった。そしてオレを出迎えるのは、つい2,3日前に再会したばかりの宝石姉妹。 「ハロー! また来てくれたのね! とりあえず入って入って!」 「はーい……。これも女……これも一応インディアンガールズ……オレはロリコン……」 そんなわけで、オレは宝石姉妹をトスバッティングのボール代わりにしてこのバットで会心の当たりを連発したくなったが、考えてみればもうこれでジャイプルでの行事は最後であり、明日にはオレはまたインド鉄道上の人となり東を目指すのだ。おそらくこやつらとはこれで今生の別れとなるだろうから、旅行記を盛り上げてくれた宝石オヤジに挨拶くらいしておくか。リキシャのおっさんは外で待ってるというからいつでも殺せるしな。というふうに考え、出演料を払うつもりでオレはまあまあ奮発していくつかアクセサリーを買った。つける予定の無いアクセサリーを……。 宝石姉妹は「今はキャンペーン中なの。ネックレスを3個買ってくれたら、パパも一緒に持って帰っていいわ!」と微笑ましい冗談を言っていたので、オヤジを持って帰りたくないオレはキャンペーンに該当しないように少なめに買い物をした。おまえら……、ジョークで墓穴を掘ってどうするんだよ。 すべての道はローマに通じるというように、ジャイプルではすべてのリキシャは土産物屋に通じている。特に大部分の道は、この宝石姉妹&オヤジのジュエリーショップへ通じている。「ねえオヤジさん。運転手たちは、ここに客を連れてくるといくらもらえるんですか?」と単刀直入に聞いてみると、「別にお金なんか渡してないぞ。ただ、連れて来てくれた人数が一定数貯まるとささやかなギフトをプレゼントしてるんだ」とこの期に及んでハッタリをかましやがった。 「ウソをつけーっ!!! オレは3年前にあんたが運転手に金を渡してるとこを見たんだっっ!!! ゴエーーーーッ(怒りの雄たけび)!!!」 「わかったって。1回につき、50ルピー渡してるんだよ」 「それは結構な額ですね……」 そうか……1回客を連れてくれば50ルピーなのか。たしかにリキシャの人たちの稼ぎの効率を考えると、50ルピーというのは旅行者に悪党嘘つきと罵られようとも欲しい金額のような気がする。そうすると、このコミッションシステムというのは、リキシャの運転手にとっても宝石屋にとっても、双方が得をするという良いシステムなんだなあ。損をするのは旅行者だけだね。ざけんなよテメーコラっっ!!!!! その後オレはなぜかオヤジの頭皮マッサージをさせられ、腹いせに姉妹をかわいがるフリをしておさわりし、母親に睨まれながら宝石屋を辞した。外で待機していたリキシャのおっさんは、オレに血祭りにあげられ亡骸はアンベール城のほとりの池に投げ捨てられたという。 明日、いや明後日には、オレはまたあの琵琶湖の100億倍汚いというかわいそうな川、ガンジス川のほとりに立つ予定である。 ↓全体的に赤い(シティパレス) ![]() |