〜ヨルダン/アンマン〜 じぇい! おー! あーるでぃー! ためて〜〜えいえぬっ!!!!! 無事イスラエルを出国し、再びオレはヨルダンの首都アンマンに戻って来た。いや、前回の作者の屋外排泄という醜態を読んで、世界に10人ほどいた作者ファンの半分が桜塚やっくんに乗り換え、もう半分がファンを辞めて田舎へ帰ったという情報もあり、無事というよりも致命傷を負ったと表現する方がふさわしいかもしれない。これでは、さすがに今年はananの「抱かれたい男ランキング」は諦める必要がありそうだ。まあ、今回は拓哉に譲っておくか……。 今日からはまた、全てを失ったつもりになって、山本モナと一緒に1からコツコツと頑張っていきたいと思う。オレのしたことも、倫理に反するという点ではある意味不倫なのでモナと同じだし、また第一線に復帰するためだったら、オレはもうかぶり物もいとわない。 数日はアンマンに滞在である。目指したのは、「クリフホテル」という安宿だ。金物屋や果物を(ヨルダン、イスラエルのオレンジは舌がパラパラを踊るほど美味い)売る店、日本で言うコンビニにあたるような雑貨屋、シャワルマという、なにやら銀板の上の伊藤みどりを思い出させるグルグルと回転する肉の塊を削ってパンに挟むサンドイッチを売る店、そんなごちゃごちゃと商店が並ぶ小道、脇の階段を上がるとクリフホテルの実に寂しいドアがある。 まあ、屋外排泄をした人間にはこんな寂しい宿がよく似合うもんだ。今のオレも、このドアと同じくらい黄ばんで錆びれてうらぶれているんだろう。だいぶ投げやりになりながらオレはドアを開けた。けっ。開きやがれこのドアがっ!! アッサラーム・アレイコム!! 「あっ! 作者さんじゃないですかっっ!!!」 ズガーン!!!! どっかで見たことある人!!! この背の高い人!!! 憎たらしい人!! 玄関の正面にある、ソファーの並ぶ共有スペースに他の日本人と一緒に熱く燃え上がっていたのは、出会いを大切にすることと、人の言うことを全然聞いていないことで有名なマサシくんであった。 「まさしくん! 憎たらしいマサシくん! オレよりずっと先にエジプトを出たはずなのになんでここに? もしかして、キミも屋外排泄を??」 「いや、これにはちょっと男の熱い理由(わけ)がありまして……」 聞くと、髪がボサボサと伸びきってポニーテールになっている(でもラグビー部主将)マサシくんは、もうこの宿に2週間も滞在しているという。 なんだろう。たとえ道端から1億円の札束を抱えた下着姿のアンジェリーナ・ジョリーに誘惑されても決して心を動かさず自分の道を突き進むと言われる男マサシくんが、だめ連海外支部とも呼べるダメ人間の巣窟である日本人宿で足止めを喰っているとは。本当にろくなもんじゃないのだ日本人宿なんて。ほら、今日なんてただのダメだけじゃなく、ダメな上に屋外排泄までした人間がやって来ているんだぞ。どうだ。ダメだろう(胸を張って)! ……まあこのように、しばらく野外排泄ネタは使うさ。あそこまで苦しい思いしたんだから。当分排泄ネタで引っ張らせてもらうよ。 しかし一体何があったのだろうか。彼ほどの移り気な人間が一箇所に留まる理由というと、ひょっとして何かヒューマンドラマ的なものとかだろうか。友を待つとか、見送るとかそういう武者小路実篤の小説みたいなやつ。 とりあえず、オレたちは近くの食堂でうまいフライドライスを食いながら、そこでマサシの世にも不思議なマサーシングストーリーに耳を傾けることにした。 ヨルダンは、西をイスラエルという物騒な国と接しているが、東側はというとこれがイラクである。そして、イラクではあと1週間ほどでアメリカによる大空爆が始まる予定である。左右をイスラエルとイラクに挟まれるという、政治的な思惑はさて置いても物騒度だけで言ったら自分の住むアパートの右隣の部屋に林真須美が、左隣に畠山鈴香が引っ越してきたような、おちおちカレーも食えないような落ち着かない国が、ここヨルダンなのである。 そして、我々が今ステイしているクリフホテルには、驚くことに、間もなく空爆が開始されるイラクにこの時期に入国しようとする、マクガイバーも「うわ〜、あんたたち無謀だよね……」とドン引きしそうな冒険野郎の日本人が何人もいるというのだ。彼らは、なんでもバグダッドの学校やら病院やらに滞在して、その建物が空爆されるのを防ぐつもりだという。 しかしそうは言ってもどうやって? 別に宿で見かけたのは普通の日本人で、カメハメ波を出しそうな奴や、結界師の術を極めていそうな人間もいなかった。 よくよく聞いてみれば、ようはそこに外国人がいるということで米軍に攻撃を躊躇させようとする作戦だそうだ。そして、そういう人達のことを、ちまたでは「人間の盾」と呼んでいるらしい。まあオレとスーさんがガザ地区にいた時と同じであるが、ただ、イラクでは敵の規模が違う。地球最強の軍隊が本気で攻撃を仕掛けてくるのである。 「しかしマサシくん、爆撃機が空爆をしようとする時、目視にしろレーダーにしろ、そこに外国人がいるなんてことがパイロットにわかるのだろうか??」 「わからないんじゃないですか?」 「ダメじゃん!!!! 航空機から見たら日本人もイラク人もただの点じゃん!!!」 「それは、事前に知らせるんですよ。実際の爆撃の時にということではなくて、あらかじめ外国人がその建物にいるという情報を流しておくんです」 「なるほど〜。なるほロケット。しかしマサシくん、そもそも単独で強引に軍事行動に出ようとしているアメリカが、外国人がいるからというだけで攻撃を中止したりするだろうか??」 「しないんじゃないですか? ブッシュは、アメリカ人の人間の盾に対しても、国家に盾突くものとして容赦なく攻撃するという声明を出してますから」 「ダメじゃん!!!! それじゃあ盾というよりただのドMな人たちじゃん!!! 何しに行くのその人たちは。被爆マニア?」 「まあ彼らはそれぞれに理由を持っているんですよ」 それぞれにか……。どんな理由なんだろう。単純におもしろそうだから1回くらい空爆されてみたいとかいう理由だろうか。そんな無茶な。とにかくそんな状態で結局マサシくんがなんでアンマンに2週間も滞在しているのかというと、こういうことらしい。 「この宿で仲良くなった友人もイラクに行くんですよ。僕も誘われたんですけど、さすがに両親にも申し訳ないし、まだここで命かけることは僕には出来ないんです。だからせめて、彼を見送る時まではここにいようと思って」 やっぱりヒューマンドラマ風!! 予想通りの理由!! あんたらしい!! しかし、マサシくんただの猪突猛進な闘牛タイプかと思ってたら、全然リスクを見極められる冷静な判断が出来ているじゃないか。オレよりよっぽど。うーん、ただの熱い男じゃなかったんだな。熱い中にはクールな心も隠されているという、アイスの天ぷらのような和洋折衷な若者ではないか。アイスの天ぷら食べたことないけど。あくまでも想像で例えてみました。 宿に戻ると、公共スペースには常に何人もの日本人旅行者がいた。近くにいた大学生の小坊主バックパッカーに、「これからどちらへ?」と旅人らしい質問をしてみたところ、その若者は楽しそうに、「これをやりに行くんですよ!」と、直立して何かを通せんぼするポーズをとった。 オレはすぐには何のことかわからず、もしかして101回目のプロポーズの武田鉄矢? でも鉄矢がいったい中東とどういう関係が……などと戸惑っていたところ、「イラクですよ、イラク!」という無邪気な説明が返ってきた。 彼の通せんぼポーズの意味しているのは、例の人間の盾であったのだ。 彼は活動家ではなく、ただの旅行者である。なんとこの宿にいるイラク入国予定者でちゃんと日本からやって来たのはほんの2,3人で、他の人間の盾たちは、その2,3人にこの宿で誘われただけの通りがかりのバックパッカーの方々だったのである。そういえば、マサシくんも声かけられたって言ってたな……。 だけどなあ……。 パレスチナ自治区に興味本位で行っていたオレが言える立場じゃないかもしれんが、しかしイラクではアメリカという超大国との戦争が始まるのである。例えば今の大学生の嬉々とした表情を見ていると、サークルの仲間と四万十川にキャンプにでも行くような、とても戦場に向かうとは思えないノリノリな空気である。モリマンと戦うリングに赴く山崎邦正の方がよっぽど覚悟を感じられる。 別に危険地帯に入るからといって死相を漂わせなければならないという義務は無いが、しかし彼らはどう見ても、恐怖を押し殺して「みんな、こんな時こそ笑おうぜ!!」と勇気を振絞って笑っているという感じではない。遠足の前の日のクレヨンしんちゃんのように普通に楽しそうなのである。 彼らは、今の若者は、戦争というものがどんなものかを知らないのだろうか? あの太平洋戦争を。あの東京大空襲を……。うーむ……。オレも知らんわ。 でも知らんくても、さすがに空爆下のイラク入りは本能が止めるけどな……。しかも自分の身を犠牲にして何かを守れるわけでもなく、敵国の首領(ドン)から「外国人がいようと容赦なく攻撃する」と、言い換えると「殺しますよ」とおもいっきり宣言されているのである。それでも行くか。みんな武勇伝を語りたいのだろうか。オレは武勇伝なんかよりも、美勇伝の写真集を見ている方がよっぽどウキウキする。 さて、まあいくらオレが心配したり祈ったところで、B2爆撃機の誘導弾が彼らを避けるようになるわけではない。きっと必死で祈っても、誘導弾は彼らを的確に爆破するだろう。だいたい個人的には、自ら戦時下の国に飛び込んで行くバックパッカーよりも、生放送中に酔った笑福亭鶴瓶が登場した時の方がよっぽど心配になる。ということで、人間の盾のことは忘れてオレは海水浴に行くことにした。 世間一般では作者といえばインターネット、家庭用ゲーム機、スナック菓子であり、海水浴に自分から行くなんて北朝鮮が明日から民主主義になるくらい非現実的な出来事だと思われているが、ここアンマンから車で数時間の場所には、入ったら全員死ぬというデッドシー、噂の死海があるのである。 翌朝、オレは宿にいた他の旅行者数人と連れ立って死海に出かけることに。アイスの天ぷらで有名なマサシくんが玄関先で朝から仲間と熱く友情を語っていたので、オレはお兄さんとして優しく誘ってあげた。 「マサシくーん。一緒に行こうよ〜死海に〜」 「え? 死海ですか?? いや、僕はちょっと」 「なんでよ。今日なんか予定あるの」 「いや特に無いですけどね。でもこれから仲間がイラクに行こうって時に、死海でチャポチャポ遊んでるわけにはいかないんです!!」 「ふーん。もういいっ!! あんたなんか誘わないっ!!!」 なんだよっ!! 死海をバカにしやがって!! 死海だって一生懸命やってるんだから!! 人間の盾と比べることはないだろうに!! オレたちアウトドアな若者旅行者は、引きこもりのアイスの天ぷらなど宿に放置することにして、バスとタクシーを乗り継いでルンルンと死海に向かい、昼前には海辺へ着いた。 ちなみに、このメンバーの中には女子大生が1人いる。水着など持って来ていないため彼女は水には入らないのだが、しかし男は全員トランクスになって海に突入だ。まあ女子にトランクスを見られたくらいで乱れるウブなオレたちではないが、しかし我々男子が遊び終わって水から上がった後に、この女子大生が縦横に存在意義を発揮することになる。 オレたちは、どこに隠れるでもなく普通に砂の上で全裸になり、体を拭いて替えのパンツを履くのであるが、その時女子大生には後ろを向いていてもらうだけなのである。そして、着替え終わったらこちらの良心に基づいて「もういいよ〜」と声をかけるのだ。 ……もうオレは全裸で体を拭いている時から、ある部分が充血して大変であった。一糸まとわぬ裸体のオレのすぐ前、体を振れば水しぶきも届くような距離に、向こうを向いているとはいえオールナイトフジでブームになった現役の女子大生が立っているのである。いくら下半身の血たちに「集まるな」と命令しても、到底聞くわけがなかろう。なにしろ長い間、アフリカではアマゾネス級の野性味溢れる女性(生物学的に見ての女性)にしかお目にかかれなかったのである。 もちろんオレはバスタオルで竿をかばいながらも必要以上にチンタラ着替え、なおかつ全裸の状態で「もういいよ〜」と声をかけ振り返った彼女にそそり立つアツアツのウインナーをご覧いただき絶叫されたいという魅力的な願望と、それを止める理性を激しく戦わせていた。 しかし、この後皆と一緒に帰るわけだし、彼ら彼女らとは宿も同じなのである。下手なことをしたら、今後オレがいじめの対象になってしまうことも考えられる。そしたら、オレも生きているのが辛くなりイラク入りを検討し出すことにもなりかねん。仕方なく、オレはパンツを履いてから「もういいよ〜」と合図を出し、女子大生には小さく張られたテントを見せるだけにとどまった。良識ある判断である。 で、肝心の死海はどうだったかというと、これが噂どおり、たしかに浮くのである。よく仰向けにプカプカ浮きながら雑誌や新聞を読んでいる人の写真を見かけるが、あの通り、まるで水の底から生えてきた無数の水死体の手に支えられているかのように、誰でも彼でもプクプクと浮いてしまうのだ。水死体といっても、よく考えてみればこれだけ浮くのでは入水自殺は不可能に近い。死を決意して警察官の制止を振り切りどんどん沖へ入って行っても、死ねないままのどかにプカプカと漂うだけである。死海のくせに。 それなら、なぜ死なんて演技の悪い名前をつけたんだ、外国の湖なのになんで漢字なんだよバカヤロー、というと、それは別に入ったら死ぬというわけではなくて、この海は塩分濃度があまりにも高すぎて、一切の生物が棲めないそうなのだ。それで死海なのである。ちなみに塩分が多いというのは浮く理由でもある。誰でも子供の頃に一度はやったことがあるだろう、お風呂に入る時に湯船に大量に塩を溶かしてから入ると、プカプカ浮いてワーワーキャーキャー、ミキちゃ〜んうへへ〜〜なんて言って楽しかった、あれと同じだ。 ……。 あるんだよ誰でもやったことが! みんなやってるよ。やってないのはあなたの家くらいですから。 ちなみに、ちゃんとオレは新聞を買って行ったのだが、正直に結果を報告すると、実際に死海に浮きながら新聞を読むことはできなかった。まあある意味これは予想できていたことではあるのだが……。なにしろ、アラビア語の新聞なのだ。読めるわけがない。なにがなんだかさ〜っぱりである。 とうまいジョークを言ったところで、では読めずとも見るだけならできるかというと、たしかに水蜘蛛の術くらいの勢いで浮くためできなくはないのだが、しかし岸からそこまで行くのも帰って来るのも、泳がないとダメなのである。つまり、たとえ読めたとしても海水でベタベタになるので、やはり新聞を読むなら陸の上が適しているというのが素直な結論である。 尚、死海の水がどのくらい塩分が多いかというと、楽しそうな男たちを見て悔しくなったのか女子大生が足首まで水に入ったのだが、肌の弱い彼女はその直後から足に激痛が走り、うめき声を出して転げ回っていた。まるで格闘マンガで戦いに負けた方が落とされることでおなじみの、硫酸の池だ。Jや雷電、独眼鉄先輩が落ちていったっけな……。 長いこと死海に全身で浸かっていた男どもなどは、宿に帰ってからちょっと腕をかじってみたら浅漬けの味がしたくらいである。死海の水を思わず飲んでしまったら、きっと高血圧になることだろう。 死海でチャポチャポ(byまさし)遊んだオレたちであったが、オレ個人にとっては死海が浮くとかどうとかいう些細なことよりも、「現役女子大生から2mの距離で屋外露出をした」という実にめでたい出来事が心に残る、良き日であった。誕生日プレゼントだろうかこれ……。 近頃、屋外での排泄や露出がオレの中東でのマイブームである。 なんの変哲も無いが、一応これが死海 今日の一冊は、全巻持ってます 花の慶次 1―雲のかなたに (ゼノンコミックスDX) |