〜楽しい密林1〜







 ジャーン♪ ジャジャジャーン♪ ジャジャジャジャジャジャッ ジャジャジャ♪


(腹の肉をつまみながら)
プ〜ニョ プ〜ニョ プニョ ひまんの子〜♪
でぶ〜のくにか〜ら やって来た♪
プ〜ニョ プ〜ニョ プニョ ふくらんだ〜♪
まんまるおなかの〜 おとこの・こ♪♪


〜『崖の上のプニョ』テーマ曲〜







 …………。

 まあ、なんというか、アレだ。
旅って、楽しいもんだな。今まで、たまの連休や貴重な有給休暇を使って海外に出かけるOLや看護婦やホームアローンのカルキンくんの家族を見て、「ばっかじゃないのあんたら!! せっかくの休日にわざわざ海外旅行という名の拷問を自らに課すなんて、虎退治で有名なぶってぶって姫を超える究極のいじめられっ子体質ね!!!」と悪態をついていたのだが、実は海外旅行は楽しいものなのかもしれないということに、旅に出て20カ国目にして遂に気づき始めた。というか、今まで気付いてなかったのになんで20カ国も来てるんだよっ(セルフつっこみ)!!

 ということで、相変わらずマレーシアの首都クアラルンプールで日本食を食べてはフレッシュジュースを飲み、マックにコンビニに屋台にデパートに通い食べては飲み、そんな日々を繰り返していたところオレの腹はますます
尋常ならざる膨らみ具合になって来た(前の章の写真よりさらに倍)。
 いつものズボンが履けなくなってきたものだから、通信販売で「お腹まわりの調節ができる一歩進んだマタニティウェア」を購入して身に付けしばらくごまかしていたが、ある日身重の体を引きずり散歩していると、すれ違った日本人観光客のおばあちゃんに
七福神の一人だと勘違いされ拝まれてしまい、さすがにいよいよ「これはマズいな」と感じたのであった。なんでも、オレの出っ腹をぺたぺたと触るとご利益(ごりやく)があるという噂までささやかれているらしい。
 そこで、ここはそろそろ何か別の、体を動かす道楽も探してみようと諸々検討した結果、オレは「タマンヌガラ国立公園」と言う行楽地を訪れてみることにした。
 マレーシアといえばクアラルンプールなどの大都市を持つ一方で、まだまだ未開発な熱帯雨林、ジャングルも広く残っているという。もちろん「ジャングル」と言って誰しも真っ先に思い浮かベるのは鹿賀丈史主演の刑事ドラマだが、これからしばらくの間だけは「密林」という本来とは少し違う意味で使わせてもらうので、
どうかちょっとの間だけ、例外的に鹿賀丈史のことは忘れて欲しい。
 で、タマンヌガラ国立公園ではほとんど自然のまま手を加えられていない密林の意味のジャングルをハイキングしたり、川にボートで繰り出してのアクティビティを体験したりできるということなのだ。これは、外せないイベントですよね。大黒さま布袋さま、もしくは
全盛期のりえママさま風になってしまった私のめでたげな風貌をシェイプアップする、良い機会でもあります。

 クアラルンプールからまずはバスで3時間。そして、その後はこのようなボートに乗り換え「テンベリン川」という川を遡り、タマンヌガラ国立公園の中心部を目指すことになる。





 床の低いボートで時々水面に手を突っ込んで遊んだりしながら、進めば進むほど川の左右からブッシュ(大統領じゃなく「繁み」の意味)の迫るいかにも「ジャングルの奥深く」という風景になってくる。ケニアのサバンナやスーダンの砂漠、パキスタンの山地ともまた違う、初めて見る奇特な大自然の景色である。
 左から右から押し寄せるのはまさに密林。そろそろ川に手を入れていると
何らかの生物に食われそうな気配がしてきたため、オレという大黒さまは肥満体らしくででんと座って(君臨して)いることにした。まあたくさん余っている腹の肉ならぜひ肉食の魚類の方々に召し上がって頂きたいが、腹だけを水の中に漬けるのは難しく、結局ボートから落ちて全身を召し上がられほんの30秒ほどで骨だけになりそうだ。さすがにそこまで極端に痩せる必要もないと思うし、骨だけでは頑張ってバックパックを背負おうとしてもガラガラと崩れてしまうだろうから、旅も続けられそうにない。パスポートを見せても本人なのかどうかわからなくなってしまうし……。

 正直こんなジャングルの真っただ中を背の低い頼りないボートで走るのは非常に怖いので、頼むどうか早く着いてくれ、と念を送っていたところ、願いが通じたのかジャングルの真っただ中で頼りないボートは
エンストした。


↓エンジン故障中。運転手が後部で一人で修理中。




 だいたい密林の中の川でエンストというと、映画の「アナコンダ」に習えば
体長10メートルを超える大蛇が泳いできて獲物満載のボートにアタック、転覆させたところを一人ずつ召し上がるというパターンが王道だ。
 余談ではあるが、「アナコンダ」の続編「アナコンダ2」の舞台となり、登場人物が次々と長くて太い生き物に喰い千切られ締め殺され飲み込まれていったのは、たしか「マレーシアのジャングル」という場所であった。マレーシアのジャングル……。なんとなく、
とっても身近な場所のような気がする。近いよねそれ。むしろその中にいるよね。だから、こんなところで止まるんじゃねえコラッ!!
 
 おおよそ20分ほどジャングルの中で漂流し、白人のおじさんが3人アナコンダに丸呑みされたところでなんとかエンジンは回復し、犠牲になったその3人以外は喪に服しながら再びタマンヌガラ国立公園を目指すことになった。
 ところが、実際のところはこの時点でもうとっくに我々は国立公園の中に入っていたのだ。タマンヌガラという自然地区は何でも東京都2つ分の面積があり、開発されているのは中心部のほんのわずかな地域だけ。そしてクアラ・タハンと名づけられているその中心部まで、ジャングルに突入してからエンジン付きのボートで3時間もかかったのである。よかった、
運賃の節約のために泳いで来ようとしないで……。実はちょっと考えてたんだけど……。
 それにしてもなんか、凄いところに来てしまった気がする。震災とか洪水になったら確実に連絡が途絶える地域だぞここは。陸の孤島とはまさにここのことだ。

 その中心部、到着したクアラタハンは川の両側に水上レストランやツアーオフィス、コテージや安ホテルがこぢんまりと並んでいるだけの、森の中の小さな村であった。
 ……もしかして、ここには吉野屋やモスバーガーは無いのではなかろうか? 
高島屋やセブンイレブンは出店していないのではなかろうか??
 なんてことだ。ハイキングなどの一風変わったイベントを楽しみつつも、
食事は今まで通りモスバーガーのジャングル支店などで日本食三昧を予定していたのに。たとえジャングルの中で遭難しても、とりあえず近くのセブンイレブンに入っておにぎりやジャンボフランクを買って、コミックキャンドールでも読みながら救助が来るまでゆったり過ごそうと思っていたのに。いったい何を考えているんだろうセブンイレブンは。もしかして、遭難者よりも利益率の方が大事だと言うのだろうか??
 オレがセブンイレブン、いや、厳密に言って(株)セブン&アイ・ホールディングスに憤慨している間にも、同じボートに乗って来たツーリストたちは、川辺に上陸を果たすとホテルの予約があるのかはたまた宿泊先の目処があるのか、いつものケースのようにオレ一人を残してあちこちに去っていった。いつだって、俺一人だけ行く場所がないんだ。
 そうは言ってももう夕方だし、ここでオレも宿泊地を決めなければならないのであるが……。
 ところで。
 オレが持っているマレーシアのガイドブックにはほんの数ページこのタマンヌガラ国立公園について書かれた部分があるのだが、そこに「ブンブン」と呼ばれる動物観察小屋についての記述があった。
 この「ブンブン」という小屋は広いジャングルの中に何カ所か設置されており、通常は日中ジャングルトレッキングの途中に立ち寄ってその中で息を殺し、近くを通る動物や鳥を観賞するためのものだということだ。ところが、このブンブンには申請を出せば宿泊することもできるらしい。そして、ガイドブックの説明の中には、編集部から読者に向けての次のようなコメントが掲載されていた。


『勇敢な人は、ひとりで泊まってみたら?』



 …………。


 はっはっは。
 オレはこう見えても自分で文章を書く立場であり、それゆえに他人が作った文章の行間を読むのはそれなりに得意だと自負している。そして、上の文章は、その行間、いや文字間でオレに対してこう言っているのだ。

「勇敢な人は、ブンブンにひとりで泊まってみたら? まあそうは言っても、子どもの頃いとこの女の子と2人でお化け屋敷に入ることになって、いいところを見せようとしていたのにいざ入ってみるとあまりのリアルな恐怖に凍り付き、前を歩いていた見知らぬ大人にダッシュで追いつき『すいませ〜ん、いっしょに進ませてくださ〜い(号泣)』と泣きついた情けない作者には絶対に無理でしょうけど。ついでに言うと、冬場に車を降りると静電気が恐くてなかなかドアを締められなくて、覚悟を決めてやっとドアに触っても『プチッ』程度の小さい静電気で
『アアッ!!!』と大きな声をあげる臆病者でしょうあなたは? それに究極のヘビ恐怖症で、テレビ番組で蛇が出てきたらすぐチャンネルを変えるし、蛇皮の財布もさわれないでしょう? 熊田曜子や佐藤寛子のグラビア画像を集めている時でも、蛇皮の水着を着ている画像は気持ち悪いからって外すくらいじゃない。そんな軟弱な野郎がひとりでブンブンに泊まれるわけがないわよね。賭けてもいいわ。泊まれない方に、全コインをね!













 
なんだとてめ〜〜〜〜っっっっ!!!

 この野郎、人の恥ずかしいプライベートを暴露しやがった上に、この男の中の男
かつては男闘呼組の補欠メンバー筆頭を務めたこのオレを臆病者呼ばわりしやがったなっっ!!! 読者に対してなんという態度だコラっ!!!! そして、熊田曜子と佐藤寛子の名前が出たの久しぶりだなテメーっっ!!!
 グラビア界の世代交代は早いのです。

 …………。わかったよ。そこまでナメられちゃあオレも男代表として黙っているわけにはいかない。その賭け、乗ってやろうじゃねーか。オレがターザン的なジャングルが似合う男だということを見せてやろうじゃねーか。
その代わり、オレが勝ったらピーーーーとピーーーーせろよっ!!!(不謹慎な内容のため一部カットしてお送りしています)

 ……ということで、オレはここでオレが決して臆病者でない、
ストロンゲストなブレイブハートつまり勇敢な男だということをガイドブック編集部および全世界に向けて配信するために、ブンブン、すなわち密林の中の動物観察小屋に宿泊することに決めたのである。どれだけオレが怖いもの知らずかということを……、ベトナム、そしてアフガンの戦場で「怖い」という感情を捨て去った人間がどのような冷静さを持つかということを、おまえら(オレ以外の人間全員)に見せてやろうじゃねえか。胸の古傷が痛むぜ……。

 地図を見てオレが選んだのは、数あるブンブンの中でも最もたまたま目についた、「ブンブン・ヨン」というところである。
 とりあえず小屋に宿泊するためには先に支払いと申し込みが必要だということなので、オレは公園の管理事務所を訪れた。



「すみません管理者のおじさん。ブンブンヨンってところに泊まりたいんですけどいいですか」


「泊まれるけど、今日はもう無理だ。もう夕方だし、ジャングルは暗くなるのが早いからな。迷ったら大変なことになる」


「じゃあ、ブンブンヨンの近くの波止場までボートをチャーターして行って、そこから歩くことにします。それならOK?」


「ギリギリOK。何泊する?」


「え? どうしよう。何も考えてなかったけど、じゃあ2泊で」 ←後々深い後悔を呼ぶセリフ


「じゃあ2泊分料金前払いよろしく。ちゃんと水と食べ物は持って行くように」


「はい。隣の売店で早速買って行きます。」



 手続きを済ますと、大きなペットボトルの水2本とパンやクッキーなどの食料、あとは軍手を購入し、オレは川辺にいたボートのにいちゃんをつかまえてブンブンヨン近くまで行ってくれるように交渉した。
 料金は高かったが、一人チャーターであるし、宿泊費ももう払ってしまってあるので後には退けず、オレはリゾート価格の運賃を渡してボートに乗り込んだ。

 ブンブンヨンは、このレストランやロッジなどが並ぶ中心部、クアラ・タハンから4kmのところにあるらしい。ジャングルの中を歩くと2時間以上という、陽も沈みつつある今の時間からなら遭難確実な場所だが、(事務所でもらった地図上では)中心部を流れる川に比較的近いため、ボートであればそれなりに楽に行くことができるのだ(と思う)。
 ぶるるるとエンジンをふかして川を下ると、村の風景は一瞬で途切れすぐにただのジャングルに。そのまま猛スピードでどんどん下流に進み15分。小さな波止場にボートが横付けされ、にいさんが「ここだ」と促すままオレは飛び降りた。
 船着場というにはあまりにも小さいが、一応コンクリートでできたボート用の昇降場所がにょきっと突出しており、そこからジャングルに向けて石の階段が設けられている。
 あっさりボートはもと来た方向へ帰って行き、
これでオレはめでたくリゾートから4km離れた密林に一人残されたわけだ。フッ……。勇敢な男に相応しい場所だぜ……。
 離れて行くボートのエンジン音が消え、迫るジャングルから鳥や虫の鳴き声だけが響くようになると、オレはふと思った。





















 
怖い……(号泣)。












 いや、違くて、勇敢で男の中の男だから
怖くないけど、いつも友達に囲まれているオレなのでちょっとだけ寂しくなったのさ。とりあえず、早く小屋まで行こう。
 石の階段を上るとすぐにその階段は終わり、途中からいきなりただのジャングルになった。まだ上りきっていないのに、もう階段がないのだ。スコールでも降ったのか、それとも熱帯雨林は常に湿っているのか、上り坂の地面が泥で覆われていて半端なく滑る。
 オレは背中に20kgのバックパックを背負い、腹にもうひとつのリュックをくっつけ、片手に寝袋や食料や水の入った袋をいくつも吊り下げてもう一方の手で辺りの木の枝をつかんで、必死で上った。体が重い……。特に、水が重い。ペットボトルの水、2L×2が重い。指が千切れそうだ。よく考えたら、
腹も重い。大黒さまもしくはハート様のような肉に満ち溢れたこの腹、ほとんどバックパックがもう1個増えたようなものである。こういう非常時に、トカゲの尻尾的に切り離すことはできないのだろうか……。

 なんとか上り坂をやり過ごしいよいよ平面のジャングルに突入、してみるとそこには夕方の弱々しい太陽では照らしきることのできない、薄暗いマレー半島の密林が広がっていた。











 ……ねえお願い。





 
帰してっ!! やっぱり小屋やめる(涙)!! 高いロッジに泊まるからみんながいる場所に帰してっっ(号泣)!!!

 しかしその叫び声は既に遠く持ち場へ戻ったボートの運転手や、4km先のリゾートにいる人々には到底届くはずもなかった……。





今日のおすすめ本は、

さくらももこさんのエッセイ新三部作

あのころ (集英社文庫)




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