フレンドシップ・イヴ(背信)


   人 物
 井ノ川遥(17)女子高生
 貴乃華子(17)女子高生
 大沢孝雄(17)男子高生
 女子高生A
 男子高生A
 男






〇××高校外観
   
〇同・教室
   休み時間の風景。中央の机には百キロ
   はあろうかという巨体の貴乃華子(17)
   がイスから体をはみ出させ、後ろの席
   の黒ぶちの眼鏡をかけた井ノ川遥(17)
   と一緒に雑誌を見ている。
   表紙には『クリスマススペシャル・嵐大
   特集!』の文字。
華子「私的に潤君は基本的に長めの黒髪だと
 思うの。金田一少年が終わった直後の前髪
 下ろしたスタイルとか」
遥「でも感謝カンゲキ@Mステの時の、ピンで
 サイドを留めたお嬢さんスタイルも良くなか
 った?」
華子「遥あの時が一番潤君潤君言ってたもん
 ね〜。ねえもし嵐のメンバーが手乗りサイ
 ズになったら誰を飼いたい?」
遥「え・・・?」
華子「私は二宮君かな。なんかこう、手の上
 で・・・コロコロいじり倒したくない?」
遥「(ちょっと困る)」
華子「あ、別に変な意味で言ってるんじゃな
 いよ。あくまでも健全にいじるつもりなん
 だからね!誤解しないでよ!」
   遥、軽く愛想笑いをして雑誌に見入っ
   ている。女子高生Aが近づいてきて、
   遥に声をかける。
女子高生A「井ノ川さーん、イヴの夜に美早
 の家でパーティあるんだけど、井ノ川さん
 も来ない?」
遥「え・・・?」
女子高生A「ね。来なよ!男の子も来るし」
   横から華子がしゃしゃり出てくる。
華子「ダメよ。私も遥もイヴは嵐と過ごすの。
 それに私達同盟に入ってるからそういう場
 所には行かないの」
   女子高生A、華子を無視し、
女子高生A「何か予定あるの?」
遥「うん、私華子ちゃんの家行くことになっ
 てるから・・・ごめんね」
女子高生A「そう・・・わかった。じゃあまた
 今度ね」
   去って行く女子高生A。少し気にしつ
   つも再び雑誌に見入る遥と華子。

〇住宅街
   一緒に帰っている華子と遥。
華子「ねえ遥、彼氏作らない同盟の期間なん
 だけど、来年の二月十三日までっていうの
 はどう?だってさすがに聖バレンタインデー
 は頑張りたいじゃん、お互い」
遥「別にいいけど」
華子「じゃあ私それまでは頑張って彼氏作ら
 ないようにするから。遥も大丈夫よね」
遥「うん」
   華子、鞄からビデオテープを取り出し、
華子「実は〜、私昨日ヤフオクで『感謝感激雨
 嵐』の非売品プロモ手に入れたんだ〜」
遥「えーホントに!」
華子「イヴは上映会ね」
遥「ウレシー!スッゴイ楽しみ!」
華子「それと〜」
遥「なに?」
華子「どうしよっかなー」
遥「なにー?言ってよ!」
華子「しょうがないなー。私ね、ちょっと前
 から私と二宮君をテーマにしたオリジナル
 小説書いてるんだ」
遥「え・・・そうなの?」
華子「うん。遥もちょっとだけ出てるよ。ち
 ゃんと潤君の彼氏って事になってるから」
遥「・・・」
華子「それもあと少しで終わるから、プロモ
 と一緒に見せてあげるね!」
遥「ほんと・・・ありがとう」
   若干テンションが下がる遥。

〇××高校・教室・中
   鞄を持ち下校の準備をしている華子と
   遥。男子高生Aが華子に声をかける。
男子高生A「なあ貴乃、今日、一緒に帰らな
 いか?」
華子「え?私と?な、なんで?」
男子高生A「あー、ちょっと、話があるんだ」
華子「え・・・?」
   困って遥の方を向く華子。
遥「いいよ、華子ちゃん。私今日は一人で帰
 るから」
華子「そ、そう?ゴメンネ」
   鞄を持ち男子高生Aの後をついて行く
   華子。すれ違いざま遥に、
華子「(小声で)大丈夫!心配しないで!」
   教室を出て行く男子高生Aと華子。

〇下校途中の道
   男子高生Aの一歩後について歩く華子。
華子「ねえ、なんなの?話は?」
   無言で歩く男子高生A。
華子「私実は彼氏作らない同盟入ってるんだ。
 だからできれば来年まで男子とは・・・」
   男子高生A、急に立ち止まる。
男子高生A「(苦そうな顔で)あ、わりい。間
 違えた」
華子「え?なにを間違えたの?」
男子高生A「またな」
   走り去って行く男子高生A。それを口
   を開けて見ている華子。

〇××高校・校門
   大沢孝雄(17)が校門脇に寄り掛ってい
   る。一人で出てくる遥に声をかける大沢。
大沢「井ノ川!」
遥「あ・・・大沢君?」

〇同・人気のない駐輪場
   苦虫を噛み潰したような表情で遥と向
   かいあっている大沢。
遥「ホント、なの?」
大沢「こんなことで嘘言ってどうすんだよ。
 ・・・井ノ川は俺のこと、嫌いか?」
遥「え・・嫌いじゃないよ!」
   大沢、ポケットから折れ曲がったチケ
   ットを取り出す。
大沢「イヴの夜なんだけど、よかったら一緒
 にいかね―か」
遥「え・・・」
   大沢、遥の手にチケットを握らせ、
大沢「待ってるから。じゃあな」
   帰って行く大沢。

〇同・駐輪場脇
   巨体を壁に隠し覗いている華子。突然
   後ろを向いてのびをする。駐輪場から
   出てくる大沢。華子を見て一瞬ぎょっ
   とするが、無言で立ち去る。その後ろ
   からゆっくり歩いてくる遥。
遥「(チケットを隠し)あ、華子ちゃん!」
華子「あ、遥。まだいたんだ」
遥「なんだったの?話は?」
華子「うん、なんだかよくわかんなかった。
 で早く終わったからまだ遥いるかなと思っ
 て戻ってきたの。一緒に帰ろうよ」
遥「うん」

〇下校途中の道
   並んで歩く華子と遥。
華子「風月堂のケーキも買っとくからね!プ
 ロモ見ながら食べようね!」
   考えこんでいる遥。
華子「今回初めて桜井君のソロがあるんだよ
 ね。楽しみだよね」
遥「・・・華子ちゃん」
華子「『ココロチラリ』の赤い衣装はちょっと
 イケてなかったもんね。今度は大丈夫かな」
遥「華子ちゃん!」
華子「なによ」
   遥、チケットを見せ、
遥「これ・・・大沢君にもらったんだ」
   無言の華子。
遥「24日なんだけど・・行っちゃ、ダメかな?」
華子「何言ってるの?今年のイヴはうちで嵐づ
 くしって決めたじゃない!」
遥「でも、プロモは他の日でも見れるし・・・」
華子「ふざけないでよ!それに同盟入ってる
 の忘れたの?」
遥「別に付き合うって決まったわけじゃない
 し、一回くらいいいでしょう?」
華子「本気で言ってるの?あんたなんかね、
 経験ないんだから聖夜の怪しい雰囲気に飲
 まれてコロっといっちゃうに決まってるじ
 ゃない!」
遥「なによ!華子ちゃんだって経験なんてな
 いくせに!」
   ショックを受ける華子。
華子「何よ何よ!そうよ!どうせ私なんか飛
 行機のトイレだって後向きでしか入れない
 わよっ!もう遥なんかどっか行ってよ!」
   泣き出す華子。しばらく口をとんがら
   せて見ていた遥だが、やがてゆっくり
   とその場を立ち去る。

〇××高校・教室・中
   T・クリスマスイヴ
   仲良く帰って行く生徒達。華子と遥は
   目をあわせようとしない。一人でプイ
   っと帰っていく遥。華子も不機嫌。

〇同・駐輪場
   自転車にまたがっている男子高生Aと、
   ポケットに手を突っ込んで壁に寄り掛
   っている大沢。
男子高生A「おまえホントにあんな眼鏡でい
 いのかよ?完璧オタクだぜ?オタク」
大沢「しょうがねえだろ。今夜一人で過ごす
 なんて耐えられねえよ」
男子高生A「おしかったな、美樹ちゃんは」
大沢「あいつは所詮俺には高嶺の花だったん
 だよ。まあとりあえずまた低レベルなとこ
 からコツコツ始めるよ」
男子高生A「(急に焦って)お、オイ!大沢!」
   大沢が振り返ると、遥が泣きながらこ
   っちを見ている。
大沢「あ・・・井ノ川・・・」
   大沢からもらったチケットをそっと壁
   に置いて走り去っていく遥。呆然とそ
   れを見ている大沢と男子高生A。

〇商店街 (夕)
   クリスマスの綺麗なイルミネーション
   が輝く。街頭にはクリスマスの切ない
   音楽が流れる。
   べそをかきながら歩いている遥。

〇フラッシュ
   教室で楽しそうに遥と話す華子。
華子の声「遥あの時が一番潤君潤君言ってた
 もんね〜」
    ×     ×     ×
   下校時の華子の姿。
華子の声「私それまでは頑張って彼氏作らな
 いようにするから!」


〇元の商店街 (夜)
   泣いている遥。携帯電話を取り出し、    
   決心してどこかにかける。
遥「もしもし華子ちゃん、私・・・。あの、今日、
 やっぱりオリジナル小説読ませてほしいな。
 ・・・うん・・・ごめんね・・・。え?近くにいる
 の?うん、すぐ行く!」
   笑顔になって駆け出して行く遥。

〇商店街 (夜)
   イルミネーションの中を一生懸命走って
   いる遥。

〇フラッシュ
   下校時の華子の姿。
華子の声「風月堂のケーキも買っとくからね!
 プロモ見ながら食べようね!」
    ×     ×     ×
   泣いている華子の姿。
華子「何言ってるの?今年のイヴはうちで嵐づ
 くしって決めたじゃない!」

〇元の商店街 (夜)
   涙を流して走っている遥。
遥「華子ちゃん・・・ごめんね!」
   しかしその表情は笑顔。

〇ちゃんこ料理屋「北の富士」・外 (夜)
   遥がキョロキョロしながらやってくる。
   引き戸を開け、中に入って行く。

〇同・中 (夜)
   人を探している遥。
華子の声「遥!ここここ!」
   声の方を見る遥。そこには華子と、華
   子よりも巨大な男が汗を滴らせながら
   鍋をつついている。呆気にとられる遥。
華子「(照れながら)遥、紹介するわ。私の彼。
 おとといコミケで知り合ったの!」
遥「彼?」
華子「彼、お腹がすいて動けなくなってた私
 にあんまんをくれたの。あんなおいしいあ
 んまん、生まれて初めてだった」
   微笑みあう華子と男。
華子「あ、そうそう、遥これ見たかったんだ
 よね。私今日は夜遅くなっちゃうかもしれ
 ないから(ニヤーっとする華子と男)持って
 いっていいよ」
   プロモのビデオと自作小説を取り出す
   華子。
   遥、呆然としていたが、華子からビデオ
   だけを奪い取りダッシュで店を出て行く。
   床に落ちる自作小説。
   慌てて拾おうとしてイスから転げ落ち
   る華子。

〇同・外 (夜)
   凄い速さで走り去って行く遥の後ろ姿。
華子の声「いたーい!」
男の声「大丈夫?華子ちゃん!」
   輝くイルミネーション。    
                         終