振り返れば女がいる(魅力ある叔父さん)



   人 物

 吉沢映里(16)高校生
    弘一(37)映里の父
    伸幸(26)映里の叔父・弘一の弟
 山本雅美(27)主婦
    健太(2)雅美の子
 澤田純(24)伸幸の彼女
 ミカ(16)伸幸の彼女
 スーザン(26)伸幸の彼女





〇市街地 (夜)
   空いている道を走る一台の車。

〇市街地を走る車・中 (夜)
   真剣な表情でハンドルを握る吉沢弘一(37)。
   助手席の映里(16)、やはり真剣な顔で、
映里「聡美さんには連絡したの?」
弘一「ああ。ただすぐ新幹線に乗っても、こっち
 に着くのは夜中になるだろうな」
映里「あんなかわいいお嫁さんに心配かけるな
 んて、許せない」
弘一「まあそう言うなって。電車にはねられて生
 きてるだけでも良かったと思わないと」
映里「お父さんノブちゃんに甘すぎるのよ。閉ま
 ってる踏切に入ってくなんて、常識外れにも程
 があるわ!」
   弘一、黙って運転している。
映里「ノブちゃんは自業自得だからいいけど、も
 し何かあったら聡美さんどうするのよ!ほんっ
 とだらしないんだから・・」
   言いながらも心配している表情。

〇延州病院・外観 (夜)
   
〇延州病院・受付 (夜)
   いそいそと入って来る弘一と映里。
弘一「すみません、吉沢伸幸の家族のものです
 が・・」
   看護婦に部屋を聞き、エレベーターに乗り
   込む二人。

〇同・伸幸の病室前 (夜)
   部屋番号を確かめつつ歩いてくる弘一と映
   里。映里、立ち止まり、
映里「ここじゃない?」
   すると、部屋の中から男女の話し声。

〇同・同・中 (夜)
   ベッドの上、包帯だらけでギプスの足を空中
   に固定されている吉沢伸幸(26)。澤田純(24)
   が周りを片付けている。
伸幸「もういいよ。聡美が帰ってきたらやっかい
 だから・・」
純「奥さん旅行中なんでしょ?まだいいじゃない」
   伸幸がふと入り口の方に目をやると、弘一
   と映里が覗き込んでいる。
伸幸「おあっ!兄キ!絵里ちゃん!き、来てくれ
 たんだ。ごめんね、心配かけて・・」
   純が弘一と映里に会釈をする。病室に入り、
   怪訝そうに会釈を返す映里。
伸幸「あっ、絵里ちゃん、こ、こいつは俺の妹の
 弘子。知ってるよね」
   伸幸、純をつつく。純、しょうがなく、
純「え、映里ちゃん?久しぶり・・・」
伸幸「うーん覚えてないかー。だってこの前会っ
 た時まだ映里ちゃん小学生だったもんな。なあ
 兄キ!」
   目をカッと見開き弘一を凝視する伸幸。
   それに圧倒された弘一、
弘一「え?あっ、ああ。も、もう大分まえかな」
伸幸「弘子、もう帰れよ。今日用事あるんだろう。
 あとは大丈夫だから!」
   苦しい体勢で純の背中を押し無理やり帰ら
   そうとする伸幸。
   映里に、
伸幸「せっかくだけど、弘子この後仕事みたいな
 んだ。また今度ゆっくりな」
   軽く挨拶をしてしぶしぶ出て行く純。
   純が帰るのを見届けた映里、疑いの眼差し
   を二人に向ける。弘一に、
映里「弘子さんってあんな感じだったっけ?なん
 か雰囲気が違った様な気がするけど」
弘一「そ、そうか?」
   目が泳いでいる。
映里「本当に弘子さんでしょうね?もしかして・・」
   伸幸に詰め寄る映里。
伸幸「あーイタタ!うーっ、あーっ」
   急にもの凄く痛がる伸幸。それを見て我に返
   る弘一と映里。
弘一「そうだ!おまえ大丈夫か?心配したぞ!電
 車にはねられたんだって?」
伸幸「まあはねられたって程でもないけど・・・」
映里「もう、なんで遮断機に入って行ったりしたの
 よ!」
伸幸「・・・まだ渡れるかなーって思って」
映里「信っじられない」
   軽蔑の眼差し。がすぐに元に戻って、
映里「でも良かった。これ位で済んで・・・」
   ほっとしている映里。その時、入り口からどた
   どたと若い女が入ってくる。ヤマンバギャルの
   ミカ(16)である。
ミカ「ノブ!大丈夫?」
伸幸「どぇあー!み、ミカ!」
   ミカ、弘一と映里は無視し、
ミカ「もう、ちょー心配しちゃったじゃん!ミカ泣きそ
 うになっちゃったー!」 
   呆然とみている弘一と映里。伸幸、駆け寄る
   ミカを制し、
伸幸「ちょ、ちょっと、オレは大丈夫だから」
   映里に向かって、
伸幸「こ、こいつは一番下の妹のミカ。まだ会った
 こと無かったっけ?なあ兄キ?」
   伸幸、目をカッと見開き弘一を物凄い形相で
   凝視する。
   弘一またも圧倒され、
弘一「そ、そうだな。会ったこと無かったかな・・」
  やはり目が泳いでいる。伸幸が映里を指し、
伸幸「ほら、ミカ、前から話してた姪の映里ちゃん。
 聡美と凄く仲いいんだ」
   ミカ、はっとして芝居モードに入る。
ミカ「あーっ!絵里ちゃん?初めまして、ノブの
 妹のミカでーす」
   ぎこちなくおじぎをする。   
伸幸「ミカ、もう遅いから帰りなさい。いいから帰
 りなさい!後で電話するから!」
   抵抗するミカを無理やり部屋から追い出す。
   わけがわからず帰らされるミカ。
   静まり返る病室で固まる三人。一瞬後、
映里「ちょっと、なんなのあの娘は!ノブちゃん!」
伸幸「だからミカだよ。妹の!」
映里「妹?お父さん弘子さん以外に妹なんてい
 たっけ?聞いてないわよ!」
弘一「・・そ、そうだっけ・・・」
映里「ちょっと、ノブちゃんまさか・・・」
   映里、伸幸を睨みつける。
伸幸「い、いやだなー絵里ちゃん、疑うなんて・・・
 うあっ!」
   伸幸、またも入り口の方を見て叫び声をあ
   げる。
   そこにはやっと歩き始めたくらいの幼い健太
   (2)を連れた山本雅美(27)の姿。
   それを見た弘一、
弘一「た、タバコでも買ってこよっかなー・・・」
   たまらず部屋をでて行こうとする。
   しかし映里に腕を掴まれる。
映里「もうこれ以上家族増えないでしょうね・・・」
   弘一と映里に会釈し、伸幸に近づく雅美。
   それを睨みつけている映里と硬直してい
   る弘一。
   緊張した表情の伸幸。
   すると雅美が突然伸幸に頭を下げる。
雅美「どうもこの度はありがとうございました!
 なんとお礼を申し上げてよいか・・あなたが
 いなかったら今頃この子は・・・」
   キョトンと見ている弘一と映里。
伸幸「いや、いいんですよ。気にしないで下さ
 いって」
雅美「でもそんなに怪我をしてしまって・・」
伸幸「お子さんも無事だったんだし良かったじゃ
 ないですか。ボウズ、これからは気をつけるん
 だぞ!」
   その様子を見ていた映里が雅美に、
映里「すいません、ノブちゃんとどういうご関係
 ですか?」
雅美「ご家族の方ですか?実は今日、この方に
 うちの健太を助けて頂きまして・・」

〇踏切(雅美の回想)
   警告音とともに閉まってゆく遮断機。
   踏切の前に並ぶ大勢の人。最前列に雅美
   と健太がいる。
   その近くに伸幸の姿。
   横を向いて欠伸をしている雅美。
   その時、健太がヨチヨチと線路に入り込む。
   ふと前を向く雅美、叫び声を上げる。
雅美「(絶叫)健太―!」
   気付いた伸幸、線路に飛び込む。人々の
   叫ぶ声。
   警笛を鳴らし迫り来る電車。

〇延州病院・伸幸の病室 (夜)
   雅美の話に聞き入っている弘一と映里。
雅美「本当にこの方がいなかったらどうなって
 いたか・・なんとお礼を申し上げたらよいので
 しょう」

〇延州病院・外観 (夜)
   弘一と映里、伸幸の笑い声。

〇同・伸幸の病室 (夜)
   談笑する弘一、映里、伸幸。
伸幸「もう映里ちゃん凄い顔で睨むんだもんなー」
映里「だってそんなこと一言も言ってくれなかっ
 たから・・どうして黙ってたのよ!」
伸幸「言ったらあの親子のせいになりそうで嫌だ
 ったんだよ。オレは自分の意志で線路に飛び込
 んだんだから」
弘一「さすが俺の弟だ。俺は信じていたぞ!」
   伸幸、疑いの目で、
伸幸「逃げようとしたくせに・・・へあっ!」
   またも叫び声を上げる伸幸。
   入り口から派手な黒人スーザン(26)が登場。
スーザン「ノブ!オー、ノブ!だいじょうぶか!シ
 ンパイしたよ!」
   伸幸に抱きつくスーザン。
   呆気にとられている映里と弘一。
   伸幸、スーザンを引き離し映里に向かって、
伸幸「こ、こいつは姉のスーザン。なあ兄キ・・」
弘一「・・・」
スーザン「コンニチハ。ノブユキのあねのスーザン
 です」
   丁寧に挨拶をするスーザン。
映里「そんなわけないでしょ!」
   伸幸の足をへし折る映里。  

〇延州病院・外観 (夜)
   響き渡る伸幸の叫び声。    
                          終