彼のヒミツ(回想・秘密)   



   人 物

 川崎慎一郎(24) アシスト生命保険・社員
 荒井理奈(23)川崎の同僚
 高田京子(23)川崎の同僚
 浅野(25)川崎の同僚
 豊池(24)川崎の同僚
 ウメ(67)
 イネ(70)
 



〇平成ビル・外観 (夕)
   サラリーマン・OLの退社風景。

〇同・アシスト生命保険・中 (夕)
   挨拶を交わし帰ってゆく社員達。
   オフィス中ほどのデスクで浅野(25)と豊
   池(24)が机上を片付けている。浅野が向
   かいの席の高田京子(23)に、
浅野「なあ、今日飲んでかねー?」
豊池「お、いいねえ。パーっといきますか」
   京子、隣に座っている真面目そうなOL
   荒井理奈(23)に、
京子「理奈、どうする?」
理奈「うん・・別にいいよ。今日なんにもな
 いから」
浅野「よし、じゃあいつものとこで」
   帰り支度を始める四人。
   入り口近くに、出て行こうとするスーツ
   姿の川崎慎一郎(24)の姿。浅野、呼び
   止めて、
浅野「川崎!今日俺たち飲み行くけどおまえ
 どうする?」
   川崎、振り返る。凄くいい男。
川崎「あ、ごめん。今日ちょっと・・」
   全部言い切る前に、
浅野「用事が・・だろ。だと思ったよ。じゃあ
 な、おつかれ」
川崎「ああ、おつかれ・・」
   出てゆく川崎を見ている豊池、京子、
   理奈。浅野が肩をすくめて見せる。

〇居酒屋「とび八」・中 (夜)
   賑やかな店内。
   テーブル席で飲んでいる浅野、豊池、
   京子、理奈。
豊池「しかし川崎ってなんでいつもああなの
 かねー。せっかく同期で集まろうってのに」
京子「確かにいつも用事あるって帰るよね。
 飲めなそうじゃないのに・・」
   理奈、話に加わらず静かに飲んでいる。
浅野「なんか怪しいよな」
豊池「毎日違う女のとこに通ってるとか」
浅野「あの甘いマスクだからな。もしかして
 ホストとかやってたりして」
豊池「昼は営業マン、夜はホストか・・あい
 つなら似合いそうだな!」
   笑う浅野、豊池、京子。すると黙って
   聞いていた理奈が突然怒り出す。
理奈「どうしてそんなこというの!みんなそ
 んなに川崎君をからかって楽しい?仲間じ
 ゃない!なんで信じてあげられないの!」
   驚く三人。場が静まり返る。テーブル
   を取り囲む気まずい空気。
京子「り、理奈、そんなに怒ることないじゃ
 ない。冗談よ、冗談!さ、楽しく飲みまし
 ょ!」
   必死に場をとりなそうとする京子。
   しかし理奈はむすっとしている。

〇歩道 (夜)
   並んで歩くほろ酔いの京子と理奈。
京子「ねえ、理奈。さっきどうしたの?きゅ
 うに大きな声出したりして・・」
理奈「私、川崎君をバカにする人許せないの」
京子「?」
理奈「あの人たち何にも知らないのに彼のこ
 と好きなように言ってたでしょ」
京子「え?じゃあ理奈・・」
理奈「うん。私、会社帰りに何回か川崎君見
 かけたことあるんだ・・」

〇理奈の回想・繁華街の交差点 (夕)
   歩道をうつむいて歩いている理奈。
川崎の声「大丈夫?そんなに急がなくてもい
 いからね」
   声に気付きふと交差点の方を見る理奈。
   すると、川崎がウメ(67)の手を引いて横
   断歩道を渡っている。
   慌てて物陰に隠れる理奈。
   横断歩道を渡り終えた川崎とウメ。川
   崎、やさしい笑顔で、
川崎「まだ自分で歩ける?おぶろうか?」
   川崎の背中におぶさるウメ。川崎、そ
   のままウメを背負って歩きだす。
ウメ「いつもすまないね。ほんとに。疲れな
 いかい?」
川崎「なに言ってんだよ!それは言わない約
 束だろ!」
   歩いてゆく川崎。時々にこやかにウメと
   会話を交わす。
   それを物陰からジーっと見ている理奈。

〇元の歩道 (夜)
   並んで歩く理奈と京子。
理奈「あんなこと私には絶対出来ないな・・」
京子「ふーん。お母さんなのかなー?」
理奈「わかんない。でも私、あの時の川崎君
 の笑顔が忘れられないの」
   理奈を見ていた京子、意味ありげに、
京子「あれー?理奈、あんたまさか川崎君の
 こと・・」
理奈「ちょ、ちょっと何言ってるの京子!や
 めてよ!」
京子「あー、理奈赤くなってるー!」
   楽しそうにはしゃぐ二人。

〇平成ビル・外観 (夕)
   大勢のサラリーマンに混じって、川崎
   がビルから出てくる。後ろから浅野が
   追いかけてきて、
浅野「川崎!ちょっとまてよ。今日、京子ち
 ゃんの誕生パーティなんだ。同期なんだか
 ら顔ぐらい出せよ」
川崎「え・・」
浅野「場所はこの先のタイペイキッチンだ。
 待ってるからな!」

〇タイペイキッチン・中 (夜)
   楽しそうに飲んでいる浅野、豊池、京
   子。静かに飲んでいる理奈、川崎。
豊池「京子ちゃんほんっとに若いよね。とて
 も26になったとは思えない!」
京子「まだ24です!」
浅野「豊池!京子お嬢様になんて失礼なこと
 を!土下座しろ!土下座!」
   わいわい騒いでいる。すると川崎が立
   ち上がる。
川崎「ごめん。悪いけど俺ちょっと用事があ
 るんで・・」
   浅野、急に不機嫌な顔になり、
浅野「おまえ何言ってんだよ。京子ちゃんの
 誕生日なんだぞ。その用事ってそんなに大
 事なことなのかよ!」
京子「あ、浅野君!いいのよ!」
豊池「(嫌味ったらしく)川崎!どんな大事
 な用なんだよ。たまには教えてくれよ」
川崎「・・・」
   浅野、理奈の方を見て、
浅野「まあいいや。これ以上言うとまた誰か
 さんに怒られるからな。いいなあ、色男は」
   ムッとする理奈。
川崎「ごめんな・・」
   川崎、鞄を持って出てゆく。

〇同・入り口・中 (夜)
   店を出てゆこうとする川崎を理奈が追
   いかけてくる。
理奈「川崎君!」
川崎「あ、理奈ちゃん・・ごめん、本当はも
 っといたいんだけど・・」
理奈「ううん。いいの。・・川崎君、私は、
 ・・川崎君の味方だからね!」
川崎「・・・ありがと、理奈ちゃん。・・じゃ
 あ、また明日」
理奈「うん。じゃあね」
   川崎を笑顔で見送る理奈。

〇繁華街 (夜)
   騒ぎながら歩いている浅野と豊池。そ
   の後ろに理奈と京子がいる。
浅野「いやー気分いいねー。よし、もう一軒
 いこうか!」
京子「えー、まだ行くのー」
   ふと豊池が立ちどまる。
豊池「お、おい!あれ川崎じゃねーか?」
   豊池の指す方をみると、川崎がイネ(70)
   の乗った車椅子を押して歩いている。
豊池「な、なにやってんだ?あいつ・・」
浅野「よし、つけてみようぜ!」
   忍び足でついて行く浅野。
 
〇繁華街・裏道 (夜)
   イネと楽しそうに話しながら車椅子を
   押す川崎。遠くで見ている浅野達。
浅野「豊池、なんか俺達あいつのこと誤解し
 てたのかも・・」
豊池「・・・」
   川崎、そのまま明るい通りへ出る。

〇ホストクラブ前 (夜)
   ライトアップされた看板に「ホストクラブ・
   婆々等(バーバラ)」の文字。
   店の前にはホストAとホストBが立っ
   ている。
   イネと川崎が来る。
川崎「(ドスのきいた声で)はいイネさんご
 来店です!」
ホストA・B「(ドスのきいた声で)いらっしゃ
 ーあせー!」
   店の中に入っていく川崎とイネ。
イネ「早速ドンペリいれようかねー」
川崎「(ドスのきいた声で)はいイネさんド
 ンペリはいります!」
   店内からどよめきがあがり、ホスト達
   の手拍子が聞こえてくる。
ホスト達・川崎の声「ドンペリ!イネさん!
 ドンペリ!イネさん!」
   入り口のホストA・Bも一緒に、
ホスト達・川崎の声「ドンペリ!イネさん!
 ドンペリ!イネさん!」
   脇道では浅野、豊池、京子が口をあん
   ぐりあけている。
京子「同伴出勤・・・なの・・?」
   すると後ろから、
理奈の声「ドンペリ!イネさん!ドンペリ!
 イネさん!」
   振り向くと、理奈が踊っている。
   別の世界に行ってしまった理奈。
理奈「ドンペリ!イネさん!あはははは!」
京子「理奈!しっかりして!理奈!」

〇星空 (夜)
   満天の星空。
理奈の声「ドンペリ!イネさん!あははは!」
京子「(絶叫)理奈―!」   
                           終