少年、一歩成長(ハンカチ)



   人 物

 村上裕樹(17)高校生
 佐野好晃(17)高校生
 星野麗子(24)OL
 村上美香(21)裕樹の姉
 女
 男





○ファーストフード店内
   若者でごった返す店内。
   小さなテーブルに制服姿の村上裕樹(17)
   と佐野好晃(17)が窮屈そうに座っている。
村上「(投げやりに)あー彼女欲しー」
佐野「なに情けないこと言ってんだよ」
村上「おまえはいいよな。毎日日替わりで女
 いるんだから」
佐野「おまえだって美香さんがいるじゃねーか!
 俺から言わせりゃなー、かわいい姉ちゃんと
 二人暮らしのおまえの方がよっぽど羨ましい
 よ」
村上「ふざけんな。あんなの女と思えるかよ!
 おまえ一緒に暮らしてみるか?」
佐野「暮らしてー!俺も美香さんみたいな姉さ
 ん欲しい!」
村上「兄弟と彼女は全然別だろ!俺はもっと女
 らしいのがいいの!」
佐野「贅沢な奴だな。でも女が欲しいんならもっ
 と自分から動かないと駄目だぜ。ナンパでもし
 に行くか?」
   村上、突然恥ずかしがり、
村上「でもなー、そんな見知らぬ人に声かけるな
 んて・・」
佐野「そういう奴がもてないんだよなー」
村上「やるよ。やってやるよ。見てろよこのやろー」

○みゆき通り
   賑やかな通りの脇で村上と佐野がひそひそ
   と話をしている。
   村上、ハンカチを握りそわそわしながら、
村上「おい、本当にこんなんでうまく行くんだろう
 なー。なんかどっかで聞いた事ある手だぞ」
佐野「大丈夫だって。この恋愛ヘルプコール佐野
 さんを信じなさい!」
村上「なんだそりゃ。なんか緊張してきたー」
   佐野、通りを振り返り、
佐野「おい、ちょうどいいのが来たぞ。まずあれ
 でやってみようか。見てるからな!」
   後ろから一人の女子高生がぶらぶらと歩い
   てくる。
   村上の背中をポンとひと押しし、建物の脇に
   引っ込む佐野。
   少し慌てるが、意を決した様に女子高生の前
   を歩き始める村上。数メートル歩いた後、手に
   持ったハンカチをわざとらしく落とし、歩調を緩
   める。
   白々しく歩いている村上の横を女子高生が追
   い抜いて行く。
村上「・・・」
   さみしげに後ろを振り返ると、佐野が地面に
   落ちたハンカチの傍に立ってこちらを見てい
   る。
村上「どういうことだよ!」
   佐野に詰め寄る村上。佐野、少し考え、
佐野「ちょっと今は距離が近すぎたな。次はもう
 少し余裕を持って落とそうか」
村上「それで本当に大丈夫なんだろうな」
佐野「ふふふ、この恋愛グループリーダー佐野
 さんにまかせなさい」
   不適に笑う佐野。

○昭和通り
   きょろきょろしている村上。
   それを路地の影から見守る佐野。
   遠くに女の人影を発見し、佐野に目で合図
   を送る村上。うなずく佐野。
   村上、かなり距離をおいて女の前を歩き、
   ハンカチを落とす。
   ハンカチの前で立ち止まる女。
   女がハンカチを拾い上げる。
   しかしその姿は、かわいいと言うには程遠
   い。
   佐野、女を見てぎょっとする。
   女、小走りに村上を追いかけ始める。
   佐野、祈るように、
佐野「逃げろ、村上!」
   楽しげに歩いている村上の背後から忍び
   寄るかわいいと言うには程遠い女。
女「すいませーん、これ、落としましたよー」
村上「はい?」
   うれしそうに振り返る。その瞬間村上の表
   情が恐怖に変わる。
女「これ、あなたのでしょ。汚れてるよ。あたし
 が洗ってあげよっか?連絡先とかはっきりさ
 せとこうよ」
村上「ひーっ!あ、ありがとうございました!」
   女の手からひったくるようにハンカチを奪
   い、全力で逃げる村上。
   不満そうにそれを見送る、人間と言うには
   程遠い女。

○明治通り 
   中腰になり肩で息をしている村上。佐野、
   また何やら真剣に考えている。   
佐野「やっぱりちゃんと顔を見てからじゃないと
 いけないな。今度は最初に確認してからやっ
 てみよう」
村上「今度こそいけるんだろうな!」
佐野「何をいうか!この恋愛スーパーバイザー
 佐野さんに不可能はない!」
村上「意味がわかんないんだけど・・」

〇青山通り (夕)
   歩道をぶらぶらしている村上。
   大分後方に佐野がいる。道行く女性をチェ
   ックしている佐野。
   一人目、二人目をやり過ごす。二人目の女
   性の後ろから星野麗子(24)が歩いてくる。
   麗子の後ろに飛び出し、村上に手を振る佐
   野。
   村上もそれに気付き、麗子の前を歩きだす。
   麗子との距離を図ってハンカチを落とす村
   上。
   麗子がハンカチを拾い村上に声をかける。
麗子「あの、これ落としましたよ」
村上「え?あ、ありがとうございます!これ凄く
 大事にしてたハンカチなんです」
麗子「それにしては汚いよね」
村上「・・。あの、よかったらお礼にお茶でもご馳
 走させてもらえませんか?」
麗子「いいよお礼なんて、気にしないで」
村上「それじゃ僕の気が収まりません!ちょっと
 だけでいいんでお願いします!」
   村上、ものすごい剣幕。
麗子「えー・・」
   麗子、少し悩むが、
麗子「いいよ、じゃあ私が知ってるとこあるから
 そこ行こっか」
村上「はいっっ!」
   見ていた佐野にウインクをする村上。
   佐野もウインクを返す。

〇喫茶店内 (夕)
   混んでいる店内に向かい合って座ってい
   る村上と麗子。大分打ち解けた様子の二
   人。
麗子「高校生でしょ?授業大変じゃない?」
村上「もう退屈で退屈で。英語なんかなに言っ
 てるのかさっぱりですよ」
麗子「でも英語って大事だよ。私なんかよくロ
 スに行くけど、向こうの人と喋れるのと喋れ
 ないのじゃ楽しみが全然違うよ」
村上「えー!かっこいい!じゃあ英語ぺらぺら
 なんですね。なんかあこがれちゃうなー」
麗子「楽しいよ。喋れるようになると」
村上「そうですよねー。僕もアメリカ行きたいな
 ー。もうちょっと頑張って授業受けてみようか
 な・・」
麗子「そうよ。英語できるようになったら一緒に
 ロス行こうか?」
村上「ほ、本当ですか!ぜ、絶対行きます!よ
 ーし、今日から猛勉強するぞー」
   喜びを隠せない村上。照れている。
麗子「でも学校の授業だけじゃちょっと心配な
 んだよね。実は私すごくいい勉強方法知って
 るの。教えてあげようか?」
村上「え?なんですか?」
   突然、近くに座っていた二人の男が近づ
   いてくる。
   麗子、二人に、
麗子「おねがいします。じゃあ村上君、頑張っ
 て勉強するんだよ。約束よ!」
   にこやかに手を振り立ち去る麗子。唖然
   としている村上の前に座る二人の男。
男「村上君、英語話せるようになりたいんだっ
 て?」

〇住宅街 (夕)
   寂しそうに歩いている村上。涙が光ってい
   る。手には数冊の英語の教材。

〇村上家・食堂兼キッチン (夜)
   村上美香(21)が夕食の支度をしている。
村上の声「(沈んだ声で)ただいま」
   村上が入ってくる。テーブルの上に教材と
   ハンカチを放り出す。ハンカチは泥だらけ。
美香「おかえり。あら、珍しいじゃない、参考書?
 やっとやる気になったのね。・・うわ、何この
 汚いハンカチ!すぐ洗うから洗濯機に入れ
 ときなさい!」
   村上、汚れたハンカチを持ちとぼとぼと食
   堂を出て行く。

〇同・リビング (夜)
   洗濯物にアイロンをかけている美香。
   教材を興味なさそうに見ている村上。
   ちらっと美香の方を見ると、ハンカチに丁
   寧にアイロンをかけている。 

〇同・玄関 (朝)
村上「いってきます」
   出てゆこうとする村上を、美香が呼び止
   める。
美香「まって裕樹。これ、忘れてるよ」
   ハンカチを渡す美香。アイロンがかけら
   れすっかりキレイになっている。
   受け取ったハンカチを見つめる村上。

〇住宅街 (朝)
   登校中の大勢の高校生達。並んで歩く
   村上と佐野。
佐野「昨日は散々だったな。まあチャレンジ
 あるのみ!今日はうまくいくさ!」
村上「いいよ、今日は。もうあんまり焦らない
 ことにしたよ」
佐野「どうしたんだよ?彼女欲しいんじゃない
 のかよ」
村上「だって俺には・・かわいい姉さんがいる
 んだしな!」   
佐野「おまえ昨日と全然言ってることが違うじ
 ゃねーか!なんだそりゃ!」
   楽しげに話をしながら学校へ向かう二人
   の後ろ姿。          
                        終