やめられない女(魅力ある女)



  人 物
 荒井夕子(21)駆け出しの歌手
 星川真里(20)夕子とペアを組む歌手
 野田和樹(47)芸能事務所社長
 岸和田フユ子(40)大物女性タレント
 のり子(74)元超大物歌手・ブルースの女王
 西村建(52)大物コメディアン
 リーダー(32)コメディアン
 ジモン(31)コメディアン
 リューへー(33)コメディアン
 司会者



〇室内プール・プールサイド
   カメラの前で歌って踊っている水着姿
   の荒井夕子(21)と星川真里(20)。後ろ
   のプールではタレント達が障害物競走
   を行っている。壁には「ドキッ丸ごと水
   着・女だらけの水泳大会」の横断幕。

〇同・プール
   騎馬戦のスタンバイがされている。男
   性タレントが組んだ騎馬の上にアイド
   ル歌手や女性タレントが乗る。敵同士
   に別れた夕子と真里。
   ピストルの音と共に両軍が入り乱れる。
   真里の騎馬に接近する夕子。キャーキ
   ャー言いながら帽子を取り合う二人。
   ふと夕子が真里の耳元でささやく。
夕子「水着」
真里「え?」
夕子「私の水着とって!」
   訳が解らず夕子の水着に手をかける真
   里。それを嫌がるフリをして自ら水着
   を取ってしまう夕子。中から立派なも
   のがポロリと現れる。
夕子「(楽しそうに)キャー」
   夕子に寄って行くカメラ。夕子、カメ
   ラ目線で、
夕子「(楽しそうに)キャー」
   胸を隠すフリをして寄せて上げる夕子。
   夕子、キャーキャー言いながら真里の
   水着も取ろうとする。抵抗する真里。
夕子「(小声で)あんたもとりなさいよ!」
真里「イヤ!」
   必死で抵抗しつづける真里。

〇芸能事務所・外観
   
〇同・中
   高そうなデスクに座る野田和樹(47)。
   その前に立つ夕子と真里。
夕子「ねえ真里、あんたやる気あるの?お願
 いだからちゃんとやってくれない?」
真里「ちゃんとやってなかったのは夕子ちゃ
 んじゃない。私の水着取ろうとして・・・」
   あきれる夕子。
野田「真里。おまえ売れる気あるのか?」
真里「社長・・・(ムッとして)私別に自分か
 らこの世界に入ったわけじゃないし」
夕子「なによその言い方!私が社長の愛人か
 らデビューしたのを馬鹿にするわけ?」
野田「お、おい、夕子!(咳払い)真里、そん
 な中途半端なくらいなら辞めちまえ」
真里「え?」
野田「ここは生半可な気持ちでやっていける
 世界じゃねえんだ」
   俯く真里。
真里「・・・解りました。辞めます」
夕子「(驚いて)ちょっと真里。なに言ってる
 の?辞めてどうするのよ」
真里「私前から他にやりたいことあったし」
夕子「あんたもしかしてまた看護婦になりたい
 なんて言うんじゃないでしょうね?あんたな
 んかになれるわけないじゃない!」
   真里、しばらく俯いていたが、やがて
   吹っ切れたように、
真里「お世話になりました。じゃあね、夕子
 ちゃん。失礼します」
   部屋を出る真里。野田が立ち上がり、
野田「(夕子に)大丈夫だよ。お前ならピンで
 もやっていける」
夕子「社長・・・」

〇CDショップ・外観

〇同・中・新曲コーナー
   片隅にひっそりと並んだ夕子のCD。
   「荒井夕子ソロデビュー」の文字。

〇関東テレビ・廊下
   控えめに廊下を歩く夕子。重そうな荷物
   を抱えている。
   前方から歩いてくる貫禄のある女性タレ
   ント・岸和田フユ子(40)。
   フユ子に気付いた瞬間、夕子は直立不動
   の体勢になり、
夕子「
おはようございます!
フユ子「(チラッと見て)あ、オハヨー」
   フユ子が通りすぎるまで微動だにしない
   夕子。

〇テレビ局・中
   夕子がきらびやかな衣装で歌っている。

〇CDショップ・新曲コーナー
   山と積まれている夕子のCD。「4週連
   続第一位・荒井夕子5thシングル」の
   文字。

〇武道館・中
   もの凄い熱狂と興奮のるつぼと化した
   場内。ステージ上で熱唱する夕子。

〇関東テレビ・廊下
   派手な格好で廊下を歩く夕子。
   後ろから重そうな荷物を抱えた付き人が
   ついて来る。
   フユ子が前方から歩いてくる。
   それに気付いた夕子だが、平然として歩
   き続ける。すれ違いざまフユ子が、
フユ子「夕子、最近調子いいみたいね」
   夕子、一瞬フユ子をチラッと見るが、無
   視して通り過ぎる。
   夕子を見て目を細めるフユ子。

〇芸能事務所・中
   困った様子で電話をかけている野田。
野田「ちょっと、キャンセルってどういうこと
 ですか?夕子をだせば2%は数字が上がるこ
 と間違いないんですよ?ちょっと!ちょっ・・・」
   一方的に切られる電話。
   ドアが開き夕子が入ってくる。
   野田、深刻な顔をして受話器を置き、
野田「明日の新日本テレビもキャンセルだ」
夕子「新日本も・・・」
野田「お前本当に心あたりないのか?なにか隠
 してるんじゃないだろうな」
夕子「・・・」
   溜め息をつき、頭を抱え込んでしまう野田。

〇地方のライブ会場
   汗だくになって歌って踊る夕子。客席
   にはポツポツと空席。

〇CDショップ・新曲コーナー
   片隅に追いやられている夕子のCD。
   小さく「荒井夕子10thシングル発売」
   の文字。

〇芸能事務所・中
   机を挟んで向かい合う野田と夕子。
夕子「ねえ、新曲いつ出せるの?」
   野田、苦そうに煙草をふかし、
野田「しばらく、休憩だ」
夕子「(驚いて)え?」
野田「うちとしてはこれからミッドナイト娘。に
 力を入れていこうと思ってる」
夕子「そんな・・・」
野田「まあ、残っていたかったらどんな仕事
 でもすることだな」
   ショックを受けている夕子。
野田「別に辞めてもいいぞ。あいつみたいに。
 なんだっけな、真里だったっけ?」
夕子「・・・どんな仕事でもします。するから事
 務所に残らせてください!」
   大きく煙を吐く野田。
   
〇記者会見場・中
   大勢の記者に囲まれ記者会見中の夕子。
   「荒井夕子ヘア・ヌード写真集発売」
   の看板。
夕子「若いうちに奇麗な体を撮っておきたか
 ったんです。これはエッチじゃなくて芸術
 として見てほしいです」
   自身満々で平然と言ってのける夕子。

〇東京テレビ・第9スタジオ・中
   番組の収録が行われている。
   ステージでは、左右に人形をつけた夕  
   子がヘンな声で歌って踊っている。
   歌が終わり、司会者が近づいてくる。
司会者「いやー大変だったね。重かったでし
 ょ?その人形」
夕子「はい。でも一生懸命やりました!よろ
 しくお願いします!」
司会者「さあそれでは点数いってみましょう」
   審査員席のパネルに次々に数字が出る。
司会者「8点8点7点9点6点7点7点7点
 5点8点。72点!」
   シーンとするスタジオ内。
司会者「のり子先生、どうでした?」
   審査員席最上段にいるのり子(74)、
のり子「つまんないわよ」
司会者「・・・。ちょ、ちょっと似てなかったみた
 いだね。でも僕は面白いと思ったよ」
夕子「ありがとうございます」
司会者「はい、荒井夕子ちゃんでしたー」
   拍手とともに下がって行く夕子。

〇芸能事務所・中
   野田に直談判している夕子。
夕子「ものまねなんて出来るわけないじゃな
 いですか!せめてもうちょっとまともな番
 組にしてください」
野田「じゃあこれはどうだ?『美味しんぼ万
 歳』。3分枠の料理番組のナビゲーター」
夕子「そんな田舎者相手の番組なんて嫌です!
 ・・・私演技にも興味あるんです。昼ドラでも
 なんでもいいんでなんかありませんか?」
野田「そうはいってもな・・・」
   夕子の剣幕に押され困っている野田。
野田「時代劇ならないこともないんだがね」
夕子「やります!是非お願いします!」
野田「ただし、出るからにはちゃんと自分を
 アピールしてこいよ」
夕子「はいっ。絶対頑張ります!」

〇都内某スタジオ・外観

〇同・中
   江戸時代の城内、大広間のセット。白
   塗りのメイクをした殿様、西村建(52)を
   腰元達が囲んでいる。その中に憮然と
   した夕子の姿も見える。
   西村の前には家来の格好をしているガ
   チョン倶楽部のリーダー(32)、ジモン(31)、
   リューヘー(33)。
リーダー「アホとの、本日は南蛮渡来の珍し
 い食べ物を持ってきました」
   西村と腰元達の前に蓋がされた皿を並
   べる。
西村「ほう、それは楽しみだのう」
   ジモンが料理の蓋を外す。
ジモン「こちらでございます」
   キャーキャー騒ぐ腰元達。そこにはい
   ろんな昆虫を使った料理が乗っている。
西村「そうか、じゃあまずお前達が食ってみ
 ろ」
リーダー「え?私達がですか?」
西村「(急に真顔になり)なんだおれの言う
 ことが聞けねえのか」
ジモン「分かりましたよ、食べればいいんで
 しょう」
リューへー「ちくしょう、訴えてやる!」
   虫を食べさせられる三人。それぞれに
   激しいリアクションをとる。リューへーは
   涙を流している。楽しそうに見ている西
   村。
西村「おい、これも喰ってみろ」
   西村が毛虫のマリネを箸でつまむ。
リーダー「無理無理!絶対腹壊しますって!」
西村「なんだ情けねーなあ」
ジモン「それだけは勘弁してください」
   そのやりとりと皿を交互に見ている夕子。

〇フラッシュ
野田の声「ちゃんと自分をアピールしてこいよ」

〇元のスタジオ
   毛虫を食べあぐねているガチョン倶楽部
   をニヤニヤして見ている西村。
夕子の声「キャー、こんなの食べれなーい!」
   声の方を見ると、夕子が毛虫のマリネ
   をばくばく食べている。
夕子「キャー、まずーい!」
   固まっている西村とガチョン倶楽部。

〇都立××大学病院・外観
   
〇同・病室
   個室のベッドに横たわっている夕子。
   点滴を点け、かなりやつれている。
   看護婦が入ってきて夕子に声をかける。
看護婦「荒井さん、具合はどうですか?」
夕子「駄目です。お腹がいたくて・・・真里!」
看護婦「夕子ちゃん!」
   驚く二人。看護婦は真里。
夕子「真里、ホントに看護婦になっちゃった
 んだ・・・」
真里「うん、まだ研修中だけどね」
夕子「ふーん・・・」
   突然夕子の腹が凄い勢いでゴロゴロ鳴
   り出す。
夕子「はうっ!・・・ああっ」
   真里、布団をめくり夕子の尻の辺りを
   見て、
真里「じゃあ、オムツ変えますね」
夕子「あ、ちょっと、そんな、真里、はあうっ!」
   嫌な顔一つせずに夕子のズボンを脱が
   し、尻を丁寧にふき取る真里。
夕子「真里・・・」
   恥ずかしさと感動で泣き出す夕子。

〇テレビ画面
   『美味しんぼ万歳』のタイトル。
   漁港で漁師達と一緒に採れたての魚を
   焼いている夕子。
   和気あいあいとした雰囲気。
   楽しそうに漁師達と話をする夕子。
   その表情は、ごく自然な笑顔。
                          終