〜こんな遊園地はいやだ(レポート風)〜





 ウルタルトレッキングにトライした翌日、フンザを脱出したオレは山間地を30時間ほどバスに揺られ、国境近くの町ラホールに着いた。
 ……いつもいつも思うけど、30時間凍えながらの激しい体験も、なんで文章だと1行で済んでしまうんだろうな。今度の内閣では、「辛い経験は1時間につき原稿用紙5枚分は書かねばならぬものとする」なんていうふうにぜひ
憲法改正を行ってもらいたいものだ。まあ自民党への逆風が吹き荒れる中で、突然就任した福田総理にそこまでの決断を求めるのも酷だとは思うが……。でも国民投票が行われたらぜひ賛成票を投じに行くよ。今まであまり選挙に行っていないから、貯めておいた分を使って20票くらいは一度に投票してあげるから。こういう時のために今まで行かなかったんだから。
 ……
え? 選挙権て繰り越せないの?? し、知らんかった……ビックカメラのポイントとは違うんだ……。たしか昔は出来たのに。

 当然、ラホールの宿に着いた当日と翌日はメシ以外は外に出ず、宿のベッドとほぼ一体化していた。今のオレとベッドは、
「ねえ2人でひとつでしょYin&Yan」の関係である。昨日は四つんばいで雪山を上り下りするという、オレと同い年の乳幼児は誰もできないような高度なハイハイテクニックを発揮し、自他共に赤ん坊の中の赤ん坊だと認められたのであるが、おかげですさまじい筋肉痛だ。しかもその翌日から一泊二日30時間をバスの中で過ごしたとあれば、生半端な衰弱具合ではないのはわかってもらえると思う。今のオレは、縄張り争いのためノラネコと取っ組み合いのケンカをしてもあっさり負けるだろう。
 まあしかしこのように赤ん坊だと認められたからには、もし日本に帰ってから仕事が無くなり生活に困ったら
自ら赤ちゃんポストに入って保護されたいと思う。きっと両親は名乗り出ないと思うから、これを読んでいるお父さんお母さん方で、家計に余裕があって「もう1人くらいいてもいいな」と思う方がいらっしゃいましたらぜひ病院の方までご一報お願いします。

 さて、まる1日を休養に充て、次の日は有名なモスクを観光しに行き「よし、見たぞ。とりあえずモスク見たから、これでこの町でのノルマは達成だろ! もういいだろ帰って? 疲れてるんだよオレは!!」ともはや
一切観光を楽しむ気が無いオレだったが、建物から出てみると、道を挟んだ反対側に遊園地ふうの広場があるのに気付いた。なんだか観覧車なんてファンタジックなものも見える。
 ……パキスタンの遊園地か。これはちょっと気になるなあ。た、楽しそうだなあ……。日本では、彼女がいない独身男は遊園地に
入場する資格が無いから、いつもオレは遊園地に行きたいなあ行きたいなあと思いながら、若いタレントがディズニーランドでワイワイ言いながらレポートをする情報番組を見て、行った気になって我慢しているんだよな。「いつか彼女が出来たらディズニーランドでおもいっきりはしゃぐぞ!」と思いながら長年生きてきて、機会が無いままもうそろそろディズニーではしゃげる年齢じゃなくなってきてるんだよな(号泣)。
 そうだよ。オレにはこのパキスタンの遊園地がお似合いなんだよ。
ここがオレにとってのディズニーランドなんだよ!! 世界中だれだって微笑めば仲良しなんだよっっ!!! 

 ということで入園チケットを買ってオレは広場へ入った。
 ラホールといえば、パキスタンに来る旅行者で立ち寄らない者はいないという大都市。日本でいえば東京だ。そんな大都市にある遊園地なのだから、絶対に楽しいに決まっている。VFXやオーディオアニマトロニクスなどの最新技術を駆使したハイテクなアトラクションが揃っているに決まっている。
決まってるんだよ!! ディズニーなんかよりよっぽど先を行ってるんだよっ!!! もうディズニーランドではしゃいでるカップルなんて全くうらやましくないねっ!! ラホールの遊園地を知ってしまったからには、彼女と一緒にディズニーランドなんか行きたくないね! 頼まれても行きたくないねっっ!!!!

 おおっと。



 最初に現れたのは
いかにもVFXを駆使していそうなホラーの館である。夢や希望で有名な遊園地のはずが、入っていきなり大量のゾンビが出迎えるホラーショー。夢も希望もあったもんじゃない。
 入り口の脇に備え付けられたスピーカーからは雷の音や、
「キャーーー!!」という女性の悲鳴が繰り返し流れている。

 うーん。
怖いのは苦手だからここはパスしよう。

 さて、次は……

「ヘイそこの旅行者の人!」


「は、はい」


「なにビクビクしてるんだよ! ホラーの館、入っていけよ! たったの20ルピーだぞ!」


「おおっ、な、なんでホラーの館に客引きが……」


「ここまで来て入らないって何考えてるんだよ! 遊園地まで来ているのにラホール名物ホラーの館に入らないっておまえ! 絶対後悔するぞ! 弱虫! おとこおんな!!」


「ムキーッ!! オレは弱虫じゃない!! おとこおんなとは何だっっ!!! ホラーなんか怖がるオレじゃないねっ!! むしろなによりホラーが好きだね!! まだ小学生のころから、怪物くんもオバケのQ太郎も全然怖がらずに見ていたねっっっ!!!」


「じゃあ20ルピーな。はいチケット」


イヤーーーっ!!! ほんとに入るの? 入らなきゃダメ?? どうしても(涙)??」


「ダメ。はいお1人さま入場ーよろしくー」


「うあーーー」



 垂れ幕状の入り口を女子のスカートのようにペラリとめくって入場すると、中は特に通路とかコースとかそういうものが設けられていない、ただのテント内の空間であった。係員が1人いて、丁度部屋の半分のところに細いロープが張られ仕切られている。


「さあお客さん。奥から怖いのが出てくるから、もっと前まで進んで。ロープのすぐそばまで行っていいよ」


「いやいや、怖いのが出てくるって言われて近づくわけないでしょーが。ひっそりと後ろで見させてよ」


「いいからいいから。客はおまえしかいないんだから。はい、前に行った行った!」


「おおいっっっ!!!! なにするんだ!!! 押すなっ!! 客の体に触るとはなんだ!!! セクハラ、パワハラは先進国では大きな問題になるんだぞ!!!」



 係員は無理やりオレの体をぐいぐいと押し、ロープ際まで寄せると奥に向かって合図をした。すると、「ワーーーー!!」と叫びながら、ヘンなお面をかぶった、
たいして怖くない小さいオバケが出てきて、持っていた棒切れでオレを小突き出した。


「ぎゃははっ!! おい、何するんだ! やめろって! もう!」


「ワーワー!」


「ちょっと! くすぐったいって!! キャッ!! わかった、もういいって! わかったから次の展開に行ってくださいっ! もう掴みはOKだからっ!!」


「……」



 しばらく客を棒でつついていた小さなオバケが急に大人しくなると、いよいよ本格的な恐怖が始まるのか、係員がオレの体から手を離しながら言った。



はい、終わり。どうだ? 怖かっただろう??」


「終わりかよっっっ!!!! テントに入って1分しか経ってないぞっ!! オーディオアニマトロニクスは!! VFXはどこに!!!」



 はあ〜。
 
負けている。ディズニーランドに300年分くらい負けている。
 テントの中で、ただお面をかぶったオバケに
棒でつつかれるだけ。正味1分。おそらくこのホラーの館の予算は、ディズニーのホーンテッドマンションの壁紙1枚分くらいじゃないだろうか。そもそもホラーの館というか、ちゃんとした遊園地のアトラクションなのにこれだけで終わりというのが一番のホラーなんだよっ!!!
 あれ?
 なんか小さいオバケが係員にぼそぼそと耳打ちしている。何話してるの? そんなリラックスしちゃって。まだ客がハケてないんだから、そういうところ気配りしなきゃいけないと思うよ。
 すると、係員がオバケ語を通訳してオレに言った。



「なんか、写真撮ってくれって言ってる。おまえカメラ持ってるだろ?」


「オバケが客に何を頼んでるんだよっ!! オバケ屋敷のオバケは出番が終わったら下がれっ!!! オバケならそのヘンで記念撮影してるカップルに勝手に心霊写真として写り込めばいいだろうが!!」


「なんかこいつも自分の姿を見てみたいんだって」


「鏡見りゃいいだろうが……。それに、まだ見たこと無いならその醜い姿は見ないでおいたほうがいいと思うんだけど」


 とはいえ、旅先で現地の方々と友好を深めるのは
相手がオバケといえども大事なことである。オレは仕方なしにデジカメを取り出し、オバケを撮ってやった。


おバカなオバケ

 いっちょまえにデジカメはすぐ画像が見られることを知っているオバケと係員は、オレからデジカメを奪い、「オ〜〜!」と言いながらしげしげと液晶を眺めていた。……あんたら2人とも、テーマパークのアトラクション関係者として、
少なくとも客が帰るまでは役作りに徹しろよ。


「じゃあオレはもう行くよ。他の催しも見たいから。じゃあね」


「ワーワー!」


「なんだっ! まだなんか用なの!! 初対面のオバケがオレに!!」


 再びオバケは係員を捕まえてなにやら耳打ちしている。なんだなんだ。お礼に家に招待してくれたりするのか? オバケの家に? 本物のオバケ屋敷に? 怖いからイヤだよそんなの。
 伝言を受けた係員が、またも通訳してオレに言った。


「すまんが、こいつ給料が少ないからいくらか金を恵んでくれって言ってる」


「知らんがなっっ!!!! 遊園地に遊びに来た客に夢の無い話をしてんじゃねーよっっ!!! テンション下がるだろうがっっ!!!!」


「ワーワー!」


「ワーワー言ってんじゃねえよテメー!! 客にせびってないで、がんばってスキルアップしてディズニーランドに面接に行け!!!」


「ワーワー(泣)!」



 ワーワー言っている貧乏なオバケは無視し、オレはテントから出て次に行くことにした。
 よし、気分を切り替えよう。きっと、
たまたま今のホラーの館だけは予算が足りなかったんだよ。他のアトラクションであまりにも最新技術を使いすぎて、ここだけおかしくなってしまったんだよ。仕方が無いなあ。

 おおっと。


※以下それぞれ係員さんの許可を得て撮影しています

 これは……。
 先ほどのホラー館とは
桁違いの予算をかけていそうなこのテント。描かれているのは、どうやら顔が人間体がヘビの化け物だ。ここはもしかして、妖怪ヘビ女の館でしょうか。
 うーん。ヘビは大嫌いだからここはパスしよう。

 さて、次は……

「ヘイそこの旅行者の人!」


「は、はい」


「なにビクビクしてるんだよ! ヘビ女の館、入っていけよ! たったの20ルピーだぞ!」


「おおっ、ヘビ女の館にも客引きが……」


「ここまで来て入らないって何考えてるんだよ! 遊園地まで来ているのにラホール名物ヘビ女の館に入らないっておまえ! ヘビ女だけじゃなく、ライオン女もいるんだぞ!」


「ほんとだ。一番右に描かれているスフィンクスみたいなのがライオン女ですね」


「そうだ! おまえ日本人だろう。それならぜひ見ていくべきだね。日本みたいな都会じゃあヘビ女もライオン女もいないだろう?」


「田舎にはいるもんなんですかっ!!!」


「そうだよ。いるところにはいるんだ。じゃあ20ルピーな。はいチケット」


「まあいいや。ヘビは嫌いだけど女は好きだから。さっきのホラーの館の汚名を返上してもらおうじゃないですか



「はいお1人さま入場ーよろしくー」



 テントに入るとやはりおっさんのスタッフがおり、これまたロープで仕切られた部屋の向こう側には、黒い幕で隠されているところが2箇所ある。当然、それぞれにヘビ女とライオン女が捕獲されているのだろう。まあ本物でないとしても、オーディオアニマトロニクスや最新のVFX処理などで
まるで生きているかのような空想上の動物の姿が見られるはずである。それだけは間違いない。


「準備はいいかニイちゃん。まずは世にも珍しい、妖怪ヘビ女の登場だ!」


「うおー、怖いよー! でもワクワク!!」



 テントの中で咥えタバコという
防災意識の全く無いスタッフが一つ目の幕を上げると、そこにはたしかに顔が人間、体がヘビのヘビ女が捕まっていた。

















↓ヘビ女さん




 なるほどー。

 
どうも中途半端な感じが否めませんな……。
 たしかに顔は生きているかのようだ。というか現実に
生きている。しかし胴体は微動だにしていない。四方から棒で固定されてるし。それに藁とかきらびやかな折り紙の飾りとかがごみごみとあって、見えにくいんですけど。手前のヘビの胴体がヘビだとわからなくて、最初はヘビ女じゃなくて魚女だと思ったぞ。
 というかひとつわからないんですが、そのモコモコした
越冬隊みたいな帽子はなんなんですか? なんでヘビ女に帽子を被せる必要があるんですか。美しい黒髪を見せてくれれば妖艶な感じでヘビ女にピッタリでしょうに。勿体ない。


「どうだヘビ女! こんなの今までに見たことあるか?」


「見たことない。そして特に感動もない」


「おおっと! ライオン女を見ずにそんなことを言われるのは心外だなあ! いいか、覚悟しろよ〜、次は世界中探してもここラホールでしか見られない、ライオン女だ!」


「おお〜。では一度気持ちをリセットして、ワクワクドキドキ」



 まずは一つ目の幕を下ろしてヘビ女を隠し、一呼吸おいてスタッフが次の幕を上げると、そこにはまさに顔が人間、体がライオンの……
















↓ライオン女さん



 
待て待てっ。ちょっと、待てよおまえ。

 あの、ライオン女っていうけどさあ、
顔しか無いじゃないか。人間の顔はついてるけど、肝心のライオンの胴体はどこにあるんだよ。箱の後ろに隠れて見えないだろうが!!

 ……。

 あれ……
 もしかして、なんか
箱の上に乗っているモコモコした物がライオンの胴体ですか??

 ……。

 あのなあんたら。
 いいか、さっきのヘビ女もそうだったけどな、
全体的に中途半端すぎるんだよ。
 順番に行くけどな、まずこのベターっと寝ている胴体。これでライオンというのはどう考えても無理があるだろうよ。
ライオンじゃなくてただの敷物じゃねえか!!
 それでもって、手前にかかってる
毛布をどけろよ。見世物小屋で見世物に毛布かけてどうするんだよ。これじゃあ胴体の手前の部分が上手く作れなくてグズグズになりましたって言ってるようなもんだろう。
 でな、この、
顔の向きと胴体の向きの釣り合ってなさはなんなんだっ!!!!
 この地球上のどの動物が、こんな不自然な首のつき方をしてるんだよ……。パキスタンだからしょうがないとかそういうレベルを超越してるぞ。
パキスタンの生き物だってこんな不自然に首がついている物なんて無いだろう! 絶対パキスタン人だってリハーサルの時に「この首のつき方はおかしくない?」と思っただろうよ!!! なんでそのまま企画を強行するんだよ!!!!
 ていうかさあ、この人、どう見てもさっきの
ヘビ女の人だよね。化粧とか顔が完全に同じじゃん。モスクワの人みたいな帽子も同じだよね。いや、ちょっと待って? これってもしかして帽子じゃなくて、ライオンの皮膚って意味? そうか、たしかに胴体と頭が同じ色と材質で……そう言われればそうか……

 ……。

 ということは。


 
ライオンの格好のままヘビ女やってやがったなおまえっ!!!!


 なんつー適当な仕事ぶりなんだ……。もっとライオンならライオン、ヘビならヘビでちゃんと
演じ分けろよ!! じゃあさっきのヘビ女はヘビ女じゃなくて、頭がライオンで顔が人間で胴体がヘビのライオンヘビ女じゃないか。もしかして組み合わせが多い方が珍しくていいだろうとか思って、あえてライオンの衣装でヘビやったんだろうか。もしくは、オバケと同じであまりにも薄給すぎて、そこまでのプロ意識は持てないとか……。
 先程のオバケと違いこっちの展示物は恥じらいがあるのか特に喋らなかったため、オレはすんなりテントを出ることが出来た。くそ〜、なんだか、
それなりに楽しめたような気がする。
 それにしても、誰だって微笑めば仲良しなファンタジーの世界を求めて遊園地に来たというのに、なんでこんな
水木しげるの気配が漂う奇っ怪な展示ばかりなんだ。しかもCGなど最新の技術どころか、むしろ最古の技術しか使われていないのではないか。ここはカップルを別れさせるためにある遊園地か??


「ヘイそこの旅行者の人!」


「は、はい」


「どうだ、観覧車乗っていけよ! モスクも上から見られるし、ラホール市内が見渡せるぞ〜!」


「あの、さっきからこの遊園地はなんで
各アトラクションごとに客引きがいるんでしょうか。しかも、見世物小屋ならともかく観覧車の客引きって……」


「本当は30ルピーだけど、おまえはフレンドだから特別に20ルピーにしてやるよ!」


「その言い方はやめろっっっ!!!!! どう考えても観覧車に誘うセリフじゃないだろうそれはっ!!! なんかその南アジア特有の客引きのセリフを聞くと、夢も希望も無くなってくるんだけど……まあいいか……」



 とりあえず、ヘビ女などのパキスタンが独自に企画立案したアトラクションは
もうたくさんなオレは、メジャーで間違いの無い観覧車に乗って、落ち着いてラホールの景色でも観覧することにした。
 ……。
 1人で観覧車……。いや、言うな。
何も言うな。
 ちなみに、パキスタンだけあって観覧車といえどもこのように前後左右がガラ空き、途中
飛び降り自由である。なんとも危ない造りだが、まあジェットコースターではないのだし大人しく座っている限りは問題なかろう。



 それはそうと、なぜかこの観覧車には客が1人も乗っておらず、回転もしていない。係りのオヤジに促されるまま乗り込んだはいいが、乗った後もそのままの位置で停止している。一般的には、観覧車というのは常にちょっとずつ動いていて、タイミングを見計らって客が乗っていくものだと思うが、なぜ止まっているのだろう? あと何組か客が来ないと動かないのだろうか??
 しばらくオレは「おまえどこから来たんだ?」「パキスタンはグッドか?」などというオヤジからの
旅の定型質問に答えながら退屈をしのいでいたのだが、あまりにも動き出さないもんだからキョロキョロと状況を探ってみると、なんだか大人たちがエンジン風の機械の周りに集まって議論しているのが見えた。






 ……。



「あのー、おやっさん。あの人たちは何をやっているのですか? あれはもしかしてこの観覧車のエンジンですか?」


「ああ、ちょっと今モーターの調子が悪くてな。でも多分もうすぐ直ると思うから、気にするなよ」


「そうですか。……あの、
降りていいですかね? ちょっと僕用事を思い出したんですけど


「こらっ! 大人しく座ってろって! そんなに心配しなくても大丈夫だ!!」



 お〜い!! そう言われても、なんか大人が何人も集まって頭抱え込んでるじゃないか!! 
どう見ても危なっかしい空気が漂ってるじゃないかっ!! こんな彼らに命を預けられるんでしょうかっ!!
 ホラーの館とかヘビ女の家と違って、
これ高いところに昇るものだけに切実な怖さがあるんですが。そんな井戸端会議的に修復できるもんなんでしょうか。しかもオレがここに座っている間に。ねえ、客が待ってるから見切り発車とか絶対やめてよ。

 オレは仕方なしに1人カゴに入って座ったまま、オヤジと引き続き話したりガイドブックを読んだりし一生懸命時間をつぶしていた。チケットを売りつけて客を乗せているんだから、まさかそんなに待たされることはないだろうという先進国民としての常識的な考えに基づいて。
 一応ひと組だけ他の客が来て後ろのカゴに乗り込んだのだが、しかしそのまま5分10分と過ぎても一向に動き出さない。若干イライラしつつ修理の状況を窺ってみると、あれ? なんだか、
だいぶ先ほどと修理メンバーが入れ替わっているような気がする。さっきの人たちでは技術不足で対応しきれなかったものだから、助っ人でも呼んだのだろうか? プロフェッショナルチームが派遣されたのだろうか??


























 
ちょちょちょちょっ!! ちょっと待てオイっ!!!


 
なんかものすごく年齢層下がってないか?? 家業のモーター修理を2代目に引き継いだんですかっ!! 今まさにこの場で!!!

 
いくらなんでもこれは無責任すぎないか? 大人が何人も集まって直せなかった物が、この若者たちに直せるとは思わないんだけど。いや、若者っつーか、ほとんど小学1年生だろうがっ!!! どうなってんだよ!!!!!

 ……いや、これはきっと
何かの間違いだ。これらはただの遊園地に遊びに来た子供たちで、観覧車のエンジンなんてものが珍しいから集まって見ているだけなんだ。さっきの大人はちょっと休憩しているだけなんだ。そうか、冷静に考えてみれば当たり前だよな……。なんぼパキスタンだと言っても、まさか子供にアトラクションの機械の修理をさせるはずがないよな。下手したら客の命にも関わるものなんだから。そりゃそうだ。








 ……。








↓右下部拡大

 明らかに修理中













 
降ろせ〜〜っ!!! オレは降りるっ!!

 
こらっ!! 放せっ!!! オヤジ!! おまえいい加減な修理で死亡事故が起きたら遊園地閉鎖だぞ!! だからこれはオレだけでなく、あんたと遊園地のためでもある!! 大人しくオレを解放しろっ!!!



「おいコラ! 日本人!! 暴れるんじゃない! 危ないだろうが!!」


「小学1年生の管理する観覧車の方がよっぽど危ないんだよっっ!!! どうせまだ直んないんだろうが!!! これ以上待てん!! 大事な用も思い出した!! トイレも行きたくなった!! 様々な理由で下ろしてくれっ!!!」


「おーい、おまえら! この日本人が下りるって言ってるぞー。まだ直んないのかー!!」


「はーい。いまなおりまちたよー


「よし! ほら直った! じゃあすぐ動くから! それじゃあ出発進行〜!」


「待て〜〜っ!! 下ろせ〜〜!! オレは下りるって言ってんだよ〜〜〜〜〜〜!!」



 
ガクン!!!  ウィ〜〜〜ン


 おおっ!!! 動いたっ!!! 子供がモーターを直した観覧車が動いた!! 
おい、本当に大丈夫だろうな!! あの子供らはちゃんと観覧車整備士免許とか持ってるんだろうな!! プロなんだろうなっ!!!

 ……。
 まあいいか……。
 所詮観覧車ではあるし、モーターが故障して途中で止まったとしてもたかが知れてるか。脱線とかそういう危険はさすがにないからな。怖がってないで、せっかくの機会だからゆっくり上空から景色を観察しようではないか。ゆっくりと景色を。写真とか撮って。景色を。
ってちょっと待ってくれっ!!! なんかどんどん速くなってないかっ!!! 観覧車ってこんなスピードだったっけ!!! 10年近く乗ったことないからオレが忘れてるだけなんだっけ!!! おいっ!! ちょっと!!!!




↑すんげースピードで周る観覧車に乗ってわめくオレに、途中で飛び乗ってきた係員のおっさんがなにやら話しかけているの図。「日本でもこういう観覧車はあるか?」というようなことを聞いていると思われる。
ないんだよっ!!!









 あのさーちょっと観覧車のおっさん。









 
観覧できるかっっ!!!!


 
このスピードでどうやって景色を観覧しろと言うんだよっ!!! 落ちないように掴まるだけで精一杯なんだよっ!!!! せっかくフンザの雪山から生還したのに、その3日後に遊園地で命を失ってどうするんだよ!!!



↓かろうじて無事に終了し、その後で外から撮影した図


















 
明らかにモーター直しすぎだよな??

 
絶対間違えてジェット燃料を注入したよな??


 
だから子供に修理させるなと言ったんだ!!!! なんで観覧車が絶叫マシーンになってるんだよっっ!!!!


 ホラーの館、妖怪ヘビ女の館と順番に怖いアトラクションを辿って来たが、
どう考えてもこの観覧車が一番怖い。いったいどういうことだろう。パキスタンの遊園地は、何もかも怖くしないと気が済まないのだろうか。

 当初はこの遊園地に
ファンタジー的な、トゥモロー的な、アドベンチャー的な(時にはクリッターカントリーな)ものを求めて来たオレであったが、結局神はそんなものをオレには与えないということがわかったラホールの貴重な1日であった。
 世界中〜どこだ〜って〜孤独と〜は〜仲良〜し〜さ〜♪(イッツアスモールワールドのテーマより)
 ディズニーランドに……いつかきっとディズニーランドに行ってやるぞ……ううう……(涙)。
 
ばかやろ〜〜〜〜っ!!!!





今日の一冊は、

ぜひとも全巻読んで欲しい傑作マンガ

海猿 (1) (小学館文庫)

海猿1 [Kindle版]




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