パレスチナ夜 1 

〜ガザ〜





キュラキュラキュラキュラ・・・


次第に接近してくるイスラエル軍の戦車のキャタピラの音。


キュラキュラキュラ・・・



シーン(静寂)・・・。






ズパパパパパパパパパパパパパ



「ぎゃーーーーーーーーーっ!!!」
「撃ってる!!撃ってますって!!!撃ってますますます!!!!」



バハ「おーい、音を立てるとこの家が標的になるぞ。」


「・・・。」
「・・・。」



シーン・・・




キュラキュラキュラキュラ・・・




「行った?行った?免れた??」
「家建ってる?オレ生きてる?明日はある?」


バハ「あー、どうやら戻ってったみたいだな。おい、おまえら大丈夫か?」


ジョ〜〜


バハ「おしっこをもらすんじゃないっ!!!


「((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル」
「((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル」


バハ「・・・。」




 ここはイスラエルの中にあるガザ地区の南部、ラファという町。
 オレはここで旅仲間のスーさんとともに、毎夜確実に一定量以上チビっていた。
 イスラエルの中にあるといっても、正確にはここガザ地区はパレスチナ自治区といって、このあたりに元々住んでいたパレスチナ人の居住区(自治区)になっている。
 ラファという町はエジプトとの国境があるのだが、国境付近のパレスチナ人の家をイスラエル軍が毎日せっせと破壊している。ある時はブルドーザーでなぎ倒し、ある時は戦車砲で爆破。もちろん人が住んでいようといまいとお構いなし。たとえ家を破壊するまで至らなくても、今日のように夜になると軍が戦車に乗って現れ、ところ構わず撃ちまくるのだ。



→イスラエル軍さえいなければ元はキレイな住宅地。













バハ「アーハッハッハ。このCMおもしろいだろう?」


「・・・。よく銃の乱射の直後にテレビ見て笑えるよな・・・。」


バハ「そんなこと言ってたらなんにもできないじゃないか。銃声なんてほとんど四六時中だし。」


「まあたしかにそうだけど。慣れってすごいなあ・・・。」


バハ「ところで、日本人って普段どんなことを考えて暮らしているんだ?」


「そうだなー。まあ大人だったら仕事のこととかかなー。」


バハ「そうか。」


「パレスチナ人はどうなの?」


バハ「オレ達は毎日いつ家が壊されるか、いつ殺されるかということばかり考えているよ。」


「・・・。」


バハ「オレ達はイスラエル軍に自由も命も財産も全て取り上げられているからな。パレスチナ人だというだけで普通の人間が持っている権利はなくなってしまうんだ。」


「・・・。」


バハ「パレスチナ人だというだけで、外国に行くこともできないんだ。」


「・・・。」


バハ「パレスチナ人だというだけで、仕事もさせてもらえない。」


「・・・。」


バハ「パレスチナ人だというだけで、この前泊まりに来たボランティアのスウェーデン人に結婚してくれと言ったけど断られた。」


「・・・。いやそれは違うと思うんですけど。」


バハ「まああまり遅くまで電気つけてると戦車に狙われるから、もう寝るぞ。」


「ぎゃーっ!!
それを最初に言ってくれ!!!すぐ電気消してよ!!!」



 一体、なんでオレ達がこんなところにいるのかというと、昨日エルサレムの宿で会ったイギリス人の女性ボランティアに、「ガザ行くけど一緒に行く?」とまるでお台場にでも行くような空気で誘われ、「もしかしてこれはインターナショナルナンパ??」などと勘違いしたオレと、同じ宿だった日本人のスーさんは、よくわからない淡い期待を抱きよだれを垂らしながら彼女に同行したのである。

 ちなみに、イスラエル軍がパレスチナの家を壊している理由は
不明。ボランティアの人達やパレスチナ人自信が一生懸命考えているのだが、なぜイスラエルがバカスカ破壊活動を行っているのか全くわからない。たとえコナン君でも放送時間中にこの謎は解けないであろう。しかしそんなことしてたらパレスチナ人が怒って戦争にでもなるんじゃないか?と思ったら、そうでもなかった。
 なぜなら、パレスチナ人はイスラエル軍に武器を全て取り上げられているため、石を投げるしか対抗手段がないのだ。イスラエル軍の方はアメリカ様の毎年20億ドルを超える援助のおかげで、世界で5本の指に入る屈指の軍事力だが。
 かたや戦車、迫撃砲、ミサイル、機関銃。かたや石。
 それでも実際パレスチナ人は戦車に対して投石で戦っている。そしてもちろん死ぬのはパレスチナ人だけ。つまり、これは戦争ではなくただ
イスラエル軍がパレスチナ人を殺しているだけなのだ。
 もちろん武器を隠し持っているパレスチナの武装グループもいるが、規模でいったらB−29対竹槍のレベルと言っても決して過言ではないと思う。


←右がバハ、左は自分の家がそろそろ危ないんでバハ宅に避難中のモハマド。
ちなみにバハのおばさんは先週家をイスラエル軍に破壊され、降ってきた破片で頭を打って死にました。









 さて、翌朝再び機銃掃射の音で布団を濡らしバハの家を追い出されたオレとスーさんの身柄は、ボランティア団体のワゴン車に拘束された。
 ワゴン車には、オレ達の他にも一緒にエルサレムから来た外人が何人か乗っていた。先頭に座っているのは、昨日初対面にも関わらずオレのことを
「あんたのこと絶対どこかで見たことある!!」と言い張り、オレの否定を無視し勝手に「ひさしぶりね」と言い続ける強引なアメリカ人女性レイチェル若干23歳だ。国境方向に向かうワゴン車の目的地を不信に思い、孤独な日本人男性作者若干25歳がレイチェルを問い詰める。



「おい、レイチェル!オレ達を一体どこに連れて行こうというんだ!!」


「あー、言ってなかったっけ?今から国境近くの工事現場に行くのよ。」


「国境?って・・・ちょっと危なくないかね??」


「そんなことないって。うん。・・・まあちょっとだけね。


こら!!かわいく笑っても駄目だぞ!!!!!勝手に人を危険な場所に連れて行くんじゃない!!」


「って言ってもこのヘンに危なくない場所なんてないわよ。」


「・・・。ごもっともです・・・。でなにしに行くの?」


「工事のお手伝いよ。まあ大丈夫大丈夫。」


「ホントに大丈夫なんだろうな・・・。」



 そして車は、破壊され尽くしてさら地になっているエジプトとの国境間近に着いた。
 そこではたしかにパレスチナ人の大工が、新しい家を作っていた。しかしオレとスーさんは大工ではないし、建築現場でのアルバイト経験もたいして無い。ましてやレイチェルなんてひょひょろで、資材を持った瞬間に複雑骨折しそうである。まあお世話になっているパレスチナ人を助けるにはやぶさかではないのだが、果たしてオレ達に何ができると言うのか。



「さあて、着いたわよ。」


「で一体何すんの??現場仕事とかあんまり得意じゃないんだけど。レイチェルもそのカモシカのような足で肉体労働は辛いんじゃないの?」


「そんな大変なことじゃないって。」


「そうなの?あーよかった。なに?掃除とか?」


「私たちはこのヘンでぶらぶらしてればいいの。」


「は?ブラしてれば?」


「・・・。みんなで建設現場の周りに待機しているだけでいいのよ。」


「・・・。なにその簡単な仕事は?そんなのでパレスチナ人を助けることになるのかい?オレ達はもっと建設的なことがしたい思って・・・」


「いいのよそれだけで。それでね、もしイスラエル軍がここを爆破しようとしたり働いてる人を撃とうとしたら、私たちが立ちはだかって止めるのよ。」


「なーんだ。そうだったのか。ずいぶん簡単だなあ。







・・・。








ちょっと待って。」







「大丈夫大丈夫。」



「なにを根拠に大丈夫やねん!!!コラ!!!レイチェル!!!!人の命を勝手に仕事に使用するな!!!なくなっても経費で落ちねーぞ!!!!」


「いちおうイスラエル軍は外人は殺さないってことになってるのよ。だから大丈夫。多分。」


「そのいちおうとか多分とかいう不確定要素はなに!!お嬢さん!!!あんたが命知らずなのはいいけど他人の命まで命知らずですか!!??せめてオレの命は知ってくれ!!」


「まったく情けないわね日本人は・・・。男でしょう!一宿一飯の義理というものを知らないの!?」


「う・・・。イタタタタ・・・腹が!腹が痛いよう!!」


「・・・。あなたそもそもここにボランティアしに来たんでしょう?ただの観光に来たの??」


「・・・すいません。腹痛くありません(涙)。」


「それでこそ男よ。」


「ははは。・・・ところでレイチェルさん、あなたのリンゴジュース、パレスチナ人の子供に盗まれてますけど。」


「ハッ!?うおりゃーーっ!!!待ちやがれ!!!!!!」



 そしてレイチェルは、ガキとジュースを追いかけ遥か彼方へ消えていった。
 オレももっと反論したかったのだが、平気で命をかけているレイチェルを前に
特に何も考えずに来たなどとは言えず、とりあえず今日はレイチェルや他の外国人と一緒にここでブラつくことにした。
 よく考えてみればパレスチナ人は毎日そんな状況の中で生きているわけだし、たった1日パレスチナ人と同じ状況になるだけだと思えばたしかに固辞するのも恥ずかしい。もっとも、それでも我々には帰るところがあり、明日への不安は無く、家族が撃たれる心配もしなくてよいのだ。

 そして時は過ぎ、幸いにしてその日、オレ達が立ちはだからなければいけない状況は起こらなかった。だが、もしイスラエル軍が銃を構えたら、オレは逃げないという自信は全く無い。
 レイチェル、おまえはどうなんだ??
 偉そうに言ってるけど、いざとなったら本当に銃口の前に、戦車の前に立ちはだかることができるのか??
 はっきり言って、オレはボランティアという言葉が結構キライだ。本当に献身的に働いている立派な人がいる反面、「今私ってボランティアやってますよ!私いいことしてますよ!私っていい人ですよ!!」と100%顔にでている宗教ちっくなボランティア信者もいるからだ。

 オレは、なんだかんだいって
レイチェルも結局その場になったら逃げると思う。







←オレとスーさんとイスラエル兵の足。
検問所でカメラが爆弾でないことを証明するために、足元に向けて1枚撮らされる。
2ヶ月後にここでパレスチナ人が銃を乱射、双方あわせて7人が死亡。この足の兵士は生きているだろうか。








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