〜A・RA・SHI〜





↓悩み中の犬



 バンコクから北へバスで7時間。スコータイ遺跡は、今から約700年前に栄えたスコータイ王朝の姿を今に残す、貴重な仏教遺跡群である。
 到着の翌日、オレは宿でレンタルバイクを借り、朝からスコータイの数々の仏教遺跡へ観光に繰り出した。まず最初はワットターウェットという、釈迦の生涯やら説法やら地獄やら拷問やらを人形で表現した寺院を訪れる。そしてその後も精力的に遺跡を回り、ワットターウェットの次はワットチェトゥポン、そしてワットトラパントーン・ラーン、ワットマハータート、ワットシーサワイ、ワットトラパングーン、ワットスラシー、途中で博物館に立ち寄り、それからターパーデーン堂、ワットプラパーイルアン、ワットシーチェム、ワットサパーンヒンと全てバイクで、ほとんどのスコータイ遺跡を1日で観光し終えた。

 ……あ〜、
残念! 今の段落、「遺跡名を一つも飛ばさずに書き取りした人に100万円プレゼント」のキャンペーンの対象になってたのに!! 残念だけど、チャンスを逃しちゃったよねあなた。100万円はゲットならずだったね。ああ残念。でもまた同様のキャンペーンが行われることがあるみたいだから、これからは気を付けて読もうね! 書き取りしながらね!


↓無防備な遺跡犬




↓スコータイの象徴・デカ仏





 ところで、遺跡巡りの中盤で立ち寄ったラームカムヘン国立博物館だが、他の屋外の遺跡と違いここだけやたら混んでいた。というのも、ちょうどオレが博物館に入場しようとする時に、同じタイミングで修学旅行か遠足かの
タイの女子高生軍団が押し掛けて来たのだ。
 なにしろオレと女子高生といえば、
右腕とダッコちゃんくらい切っても切れない関係である。磁石のS極とN極のように、離そうとしてもお互いを欲しすぐに引き合いくっついてしまう関係である。ということで自然の摂理に従ってオレは女子高生の中に混じり、顔はあらぬ方向に向けてデジカメだけ腹の前に構え盗撮を繰り返した。

 いえ、間違えました。盗撮というと大変聞こえが悪いので盗撮ではありません。思い出に残る遠足での
記念撮影なのです。事実、帰国してから女子高生の写真を繰り返し見ては健全に思い出に浸る予定なのですから。はぁ……はぁ……





 もちろん永遠の17歳であり、
本物の女子高生よりずっと女子高生している清純派のオレは、彼女たちと一体化してnon−noを読みチョコマロンクレープをかじりながら受け付けを通過したら、入場料がタダになった。なぜだろう。
 ともかくそんなわけで、オレは700年前のスコータイ王朝の遺跡から発掘された貴重な出土品の数々をじっくりと観察している
女子高生をじっくり観察し続けたのだが、どうも気になることに、なんだか女子高生の方もオレにチラチラと視線を向けているようなのだ。遠くでは、明らかにオレを見ながらヒソヒソと話をしているセーラー服グループもいる。これは……もしかして……、遂にオレの時代が来たのだろうか? まあたしかに、オレが女子高生の中に入ればこうなることはわかっていたが、そうは言っても本当にそうなると緊張してどうしていいかわからない。※これらの一連の話は全て実話です。
 そしてオレは発達しかけの女体の群れ、じゃなくて初々しい高校生の皆さんの注目を感じながら、別の展示館に移るためいったん博物館の中庭に出た。
 すると……



「キャーキャー!」

「キャーキャーキャー!!」




 …………。

 女子高生が、
声を上げながらオレの周りに集まって来る。なんだ。どうしたんだ。「女子高生が黄色い声をあげてオレに群がる」という実現不可能な風景が本当にこの世に存在してしまっているということは、もしかして明日あたり宇宙が大爆発するという前触れじゃないだろうか。何か、恐ろしい災厄がこの世界に起こりそうな気がする(愕)。
 一人の子が、実に可愛らしく(そう、今すぐ連れて帰って
ピーー たいほどに可愛らしく)、「こんにちは」と声をかけて来た。「こんにちは」だ。なぜかこの子達は日本語のあいさつと、オレが日本人であるということを知っているのである。



「あ、どうも。こんにちは」


「キャーキャーキャー!!」


「…………」



 なにこれ(汗)。オレは女子高生は大好きだが、
好きだから実際に女子高生と会ったら楽しく喋れるかといったら決してそうではない。画像や動画にはいくらでも話しかけられるしあらゆる空想ができるし緊張もしないが、3次元で本物を前にしたら心臓が縮みあがって3歳児に退行である。どうしよう……。
 逆に女子高生の方も何やらおどおどしていたのだが、しばらくするとその中の一人がかわいい(そう、今すぐに引き寄せてむしゃぶり
ピーーー ほどにかわいい)手を差し出して来た。



「あの、あの、握手して下さい……


「は、はい。よろこんで」


「キャーキャーキャー(惚)!!」



 きゃー! 
きゃーきゃーきゃー!! こっちもきゃーー!!
 なんだい。
いったい何事が起こっているんだい。オレはもちろん、これをご家庭やオフィスで読んでいる一般の方々も訳がわからず呆気に取られているぞ。だって、科学的にあり得ないことが起こっているのだから。まさかこれ夢オチじゃないだろうなっ!!!



「キャーキャー! 私も握手して下さい!!」

「キャーキャーキャー!! 私も!!」



「はいはい
押さないで。順番に並んで。大丈夫、オレは逃げないから。君達がいる限りオレもずっとここにいるから」


「キャーキャーキャー!!」



 一人が口火を切ると、それにならって周りのタイコギャル(太鼓ギャルではなく、タイのコギャル)たちも次から次へとオレに握手を求めてくる。よーし、それじゃあ、
明日あたりスコータイに住民票を移す手続きをするとしようか。だって……、女子高生がオレを求めるのだから。自分を求めてくれる人がいるのならば、少しでも多くの女子高生が喜んでくれるのなら、たとえこの体がボロボロになろうと悔いはない。女子高生と握手をしながら死ねるのなら、プロとして本望だっっ!!!
 いやー、夢じゃないかしら。試しにアスファルトに思いっきり頭を打ち付けてみましょう。
うおりゃあ〜〜〜っ!!! ボッコーーーン!!! うう……、ほ、本当に頭蓋骨が陥没したからどうやら夢じゃないようだ……。鮮血も大量に流れ落ちているし。



「キャーキャーキャー!!」


「ウェイトアモーメント! 待ちたまえ愛するハニーたち。聞くまでもないけれど、わかってはいるけれど、一応確認したいんだ。なぜ君達はオレと握手がしたいんだい?


「ショー! ショーでしょ!」


「ショー?? しょーでしゅよ。たしかにしょーでしゅ」


「キャーキャーキャー!!」


「ショーってなに?」


「アラシ! あなたは、アラシのショーでしょ!?」


「アラシのショー?? アシカショーみたいなヤツ?」


「アラシ! アラシのショー! キャーキャー!!」


「アラシ。嵐? もしかして、日本のアイドルの……」


「そう! ジャニーズ! ジャニーズのアラシ!! キャー!」


「…………」


「イヤ〜ン、ショー!!」


「ユーアーマイソー!ソー! いつーもすぐそばに〜ある♪ ゆず〜れ〜な〜いよ、誰もじゃまでき〜ない♪♪」 (リズムに乗って踊りながら)


「キャーキャー!! ショー!! キャ〜〜〜!!」


「今日は僕に会いに来てくれてありがとう。よくわかったね。嵐の翔だよ」


「キャーキャーキャー!!」
「キャ〜〜キャ〜〜!!」


「さあ、順番だよ順番。いいかい、みんなが気持ちよくオレと握手できるように、ちゃんとファン同士譲り合わなきゃダメだよ」


「キャーキャー! ショー!!」



 ほほ〜〜〜。
そうですか〜〜。ああ今までずっと正体を隠して旅行記を書いていたのに……。まさかこんなところで、タイの女子高生にオレの素性を明かされることになってしまうなんてね……。
 そうです。
オレは嵐なんです。嵐の、大麻を吸ってない方のメンバーです。※実在の人物、団体とは一切関係ありません。
 いや、
今のはウソだ。かわいいウソだ。ドッキリさせてしまったかもしれないが、やっぱりオレは本物の嵐の翔ではない。そっくりさんの方だ。しかしタイの女子高生の目には、オレが嵐の翔そのもの少なくともそっくりさんレベルには見えているのである。
 来た。
遂にオレの時代が来た。今まで日本人には誰一人として言われたことがないが、異人種から見ればオレはアイドル、すなわちジャニーズから新しいユニットとしてデビューし、メガホン片手に売名のためバレーボールの日本代表を派手に応援してもなんら不自然ではない姿形ということなのである!! 地球に生まれてヨカッターーーーー(涙)!!!!!



「オレたち嵐は、タイでも人気があるのかい?」


「はい! あと、タッキー&ツバサも!」


「タッキーもか! そうか、あいつらもなかなか頑張ってるんだな」


「あと、ツマブキも!」


「ほう、ツマブキはオレが育てたんだぜ」


「私も握手して下さい! キャーキャー!」


「YO! もちろんOKだYO!」


「きゃ〜きゃ〜! いや〜んきゃ〜きゃ〜!!」


「おおっ!! キミは!!!」



 他の女子高生に混じってキャーキャー言いながら、妙に背が高くてクネクネしているコギャルが出て来たと思ったら、
オカマちゃんだった。体つきもゴツく外見は男であるが、100%カミングアウトしており化粧もバッチリだ。さすがオカマ先進国のタイ。高校生の段階でオカマちゃんが同級生にしっかり受け入れられているのがほほえましい。
 握手攻めの後は、やはり入れ替わり立ち替わり
アラシのショーを囲んだ記念撮影大会である。いやあ、なんというか、この世をば、わが世とぞ思う望月の、欠けたることもなしと思へば(号泣)。






アラシのショーを囲んで。ショーの隣にいるのがオカマちゃん。






 
タイ万歳!! プミポン国王万歳!!!

 ちなみに上の画像は小さくてわからないが、
たしかにオレが自分で見ても、この時のオレは妙に実力以上のものを発揮して写真に写っている。オレのアイドル戦闘力が1、本物の嵐が365だとしたら、オレは1年分の力を全てこの1日に集約したのではないかと思うほどアイドル顔になっているのだ。だって、オレの顔じゃないもんこれ。たまにそういう時あるよね。永久保存版にしたいくらい写りのいい写真。
 やはり、立場は人を作るというし、これだけたくさんの女子高生に求められるという状況が、この時オレの姿を実際にアイドルに近づけてしまったのであろう。

 …………。

 えっ、
みんな、途中から引いてる?? …………。


 
ユーアーマイソー!ソー! いつーもすぐそばに〜ある! ゆず〜れ〜な〜いよ、誰もじゃまでき〜ない♪♪ (リズムに乗って踊りながら)


 今日こそがオレの勝負の日だと決意して、この後どうしようか、
もっといい宿(ダブルの部屋)に移ろうかと真剣に悩み始めた頃、女子高生たちは引率の教師の「おーいおまえたち、そろそろ帰る時間だぞ!!」の声で一斉に我に返り、凄い速さでオレの周りの囲みを解いて「バイバイ!」と去って行った。
 …………。
 人生には必ず3回のモテ期があると言われるが、
その1回が今のわずか10分ほどだったというのだけは勘弁してほしい。

 
巻き起〜こ〜せ、ア〜ラシ! ア〜ラシ! フォ〜ドリーム♪♪

 
タイ万歳!! プミポン国王万歳!!!






今日の一冊は、
この本がというよりは、これを読んでから家族のその後を知ると絶句します。 アンネの日記 (文春文庫)







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