〜イスタンブールとは〜





 
ああっ!! あれはなんだっ!?




















 
ギャーー!!!

 
手の長い赤ちゃんが!! 手の長い赤ちゃんが解剖されているっ!!!
 これは誰だろう? ワイドショーや女性誌で噂の手長赤ちゃん?? でも赤ちゃんにしては顔が老け過ぎていないだろうか??
 いや、赤ちゃんは必ずしも若いものだとも言えない。大きな古時計で「おじい〜ちゃんが〜生まれた朝に〜買って〜来た時計さ〜♪」と歌われているし、赤ちゃんではなく
いきなりおじいちゃんが生まれることもあるんじゃないか。
 まあよく見るとこれはおじいちゃんでも安倍首相夫人でもなくグレイ型宇宙人であるが、なにしろトルコというのはネバダ州のエリア55やオレの部屋に匹敵するくらい
未確認飛行物体がよく発見されるらしい。といってもオレの部屋に飛んでいるのはただの埃や虫や縮れ毛なのでどちらかと言うと確認済み飛行物体なのだが、つい先日までいたカッパドキアなどは実際にUFOの目撃情報が相次ぎ、そのため必然的に矢追純一やマガジンミステリー調査班もちょくちょく出没するようになったという、典型的なX−ファイル地帯である。たしかにカッパドキアのあの異様な地形を思い出すと、ナメック星人やこりん星人の1人や2人いてもおかしくはない。

 そしてこの手術室の近くでは、お仲間の色々な種類の異星人さん達が心配そうに見守っている。

患者のご家族の方々

 しかしよく考えてみると、宇宙人は皆このように2本足で立ち、人間にほど近い姿をしているのもおかしい。この程度の外見だと、もしアフリカやインドで出会ったら宇宙人と気付かず、
普通に気の毒になり小銭をめぐんでしまうかもしれない。
 そもそも地球だって、人間が1万年そこそこなのに対し
2億年間は恐竜が頂点に君臨していたのだから、星の支配者が必ず人間タイプであるわけがないのだ。いつか生物の棲む星が発見されたとして、地球代表がそこに降り立ってみたら迎えてくれる大統領がウナギだったり葉っぱだったり炭酸水素ナトリウムだったりすることだって十分考えられる。そもそも1億年後、人類滅亡後に地球を支配しているのは陸上に進出した巨大イカだという説を本格的にNHKで特集していたくらいだ。
 とはいえ、本当にイカが生物の頂点に立つ時代が来るとしたら、それはとても由々しき事態だ。なんといっても、
サッカーとラグビーの区別がつかなくなってしまうではないか。満員電車は足がヌメヌメともつれて大変そうだし、イカ主演のアダルトビデオなんて、たとえどれだけ薄消しであろうとも一切興奮させられないだろう。川岸で死体を焼くインドのバラナシのガートでは、物乞いがスルメやゲソを食う姿が毎日見られるようになるに違いない。ああ、想像するだけでもちびりそうになるくらい恐ろしい……。
 こうなったら、イカの時代を来させないように
みんなでイカを食べ尽くそう。回転寿司に行ったら、いつもより一皿多くイカを取るようにしようよ。そうやって、みんなでイカの支配から人類を守ろうよ。

 結局オレが今いるのはどこかというと、トプカプ宮殿やアヤソフィア、ガラタ塔やボスポラス海峡といった名所を差し置いて個人的にイスタンブール最大の見所である、
UFO博物館なのである。まあ博物館とはいえその実体はトルコのオタクたちがアパートの一室を間借りしてコレクションを展示しているだけなのだが。逆にマニアがアパートでやっているというその小ぢんまり感が、展示物を見ているとそのまま拉致されそうで怖い。捕まった場合、夜更けには空中に待機していたアダムスキー型円盤にオタクたちと共に吸い込まれるのであろう。
 尚、ここにいる捕獲した宇宙人はいつでも解剖中であり、なぜか
永久に傷口が縫合されることはないらしい。きっと縫合したら客足が遠のくからであろう。ほしのあきの人気を見ればわかると思うが、やはり世俗的な下心ある人間は、露出が少しでも多い肉体に惹かれてしまうのである。客を呼べるのは治りかけでなく、あくまで内臓まで見せているパックリ開いた傷口だ。

 ……おっと、いつの間にか町は
宇宙人の話でもちきりになってしまった。

 現在地のイスタンブールは、ボスポラス海峡という海峡を挟んで、
海峡の向こう側がヨーロッパ、こっち側がアジアという、変わった特徴を持つ都市である。
 今まで1つの町が2つの国にまたがっているというのはあったが、1つの町の中に2つの大陸があるというのはなんとも壮大ではないか。1人の人間の中に
でんじろう先生とブラックでんじろう先生がいるというのと同じくらいの驚きを感じる。いや〜、ブラックでんじろう先生はなんて悪いやつなんだ。
 そもそもイスタンブールからヒョイと国境を越えれば隣はギリシャやブルガリアであり、優雅なヨーロッパ旅行が出来るのだ。ロンドン、パリ゚・:,。、ローマ、ベニス:,。☆゚・:,。゚・:,。☆、そんな美しい都市たちがすぐそこにあるのに、あえてオレは逆方向の
インドとかパキスタンを目指すのである。スチュワーデスとの合コンが決まっていたのに、直前に予定を変更して今いくよ・くるよの漫才を見に行くようなもんだ。まあいいや……スチュワーデスになんていつでも欲情できるけど、いくよくるよで頑張れるのは若いうちだけだからな……(涙)。

 しかし実際にトルコに入国するまで、東大卒のオレですらトルコの首都はイスタンブールだと思っていたことからもわかるように(首都じゃないのよ)、この街は歴史がとっても深く、世界に名を轟かせている。
 そもそも紀元前にはここはビザンチウムという名称であり、それからコンスタンチノーブル、イスタンブールと何度も名が変わっているのだ。それだけ支配者が代わり、歴史のうねりの中に身を置いているということではないか。Jフォンがボーダーフォンになり、そしてソフトバンクになったのと同じ歩みである。もう少しわかり易く言うと、AVのモザイクがギリギリモザイクになり、さらに進化して
ハイパーギリギリモザイクになったのと同じ歩みである。今の例えがわかった人は、わかってしまった自分を恥ずべきである(号泣)。
 まあとりあえず、ソフトバンク=イスタンブール=ハイパーギリギリモザイクということがわかってもらえればそれでいい。
 そしてまた、トルコの歴史については
名前が変わったくらいしか知らないので話題を強引に変えると、トルコといえばなんとってもトルコ絨毯である。歴史より断然絨毯だ。乗ると空を飛べるやつね。

 観光客としてイスタンブールを歩くと、すれ違うトルコ人の2人に1.5人は絨毯屋の客引きだ。彼らはオレの
キングボンビーなみの旅の予算のことなど全く知らないために愚かにも声をかけてくるのだが、基本的にトルコ人というのは美男美女が多く、イルハン王子のような甘いマスクの男性に誘われてしまうと心は惑わされ身はとろけ、オレはいつの間にか絨毯屋で頬を赤らめながら甘いチャイを飲んでいるのだった。



「いらっしゃい日本人観光客!! カーペットに興味あるんだってね?」


「……」


 しかし客引きはアランドロンでも、その店内にいた絨毯屋のオヤジはごく普通のヒゲ面アラブ人顔だったので、オレの百年の恋も突然に冷めた。さすがにいくらオレが欲望の塊だとはいえ、普通のおっさんや
セクシーなポーズに見える大根ごときに欲情するほど落ちぶれちゃあいない。むしろ気持ち悪くなるからセクシー野菜なんてニュースで取り上げないでくれよ。アホらしい。その時間、静止画でいいからミキティを映せっていうんだよ。
 何やら重厚な、Windowsのスクリーンセーバーのような縦横の模様が走る、周辺にヒラヒラのついた茶色い縦長のカーペット(本当に乗ったら飛んで行けそう)を出しておっさんは勧める。


「これなんかどうだ? おまえの部屋にぴったりだと思うなあオレは。たったの900ドル(10万円超)だ!!」


「悪いけどねえ、
10万円も持ってたら絨毯なんかじゃなくて動画保存用のハードディスクを5台買うんだよ!!!」


「わかった。今日は特別に850ドルにしてやる!」


「だいたいあんたいくら客商売でも、もしオレの部屋を実際に見たら『おまえの部屋にぴったり』という言葉を口にするのは
絨毯屋のプライドが許さんと思うぞ……


「そうなの?? も、もしかしておまえはイスタンブールの片隅に薄汚く生息するというバックパッカー、貧乏旅行者じゃ……」


「その通りだっ!! オレが噂の貧乏旅行者だっっ!!! そんじょそこらの観光客と一緒にするな、いや一緒にしてっ!!! 一緒になりたい!!!!」


「たしかにおまえの部屋に敷いたら、トルコ絨毯も縮れ毛とカップラーメンの汁にまみれるただの布になるな……」



 フン。参ったか。客引きもおっさんも、オレの
金持ち独特の顔相を見て、とても貧乏旅行者だとは思えなかったのであろう。しかし旅人の予算と合同結婚式の結婚相手は、フタを開けてみるまでわからないのである。思い知ったか。
 どうせオレは観光スケジュールの決まらぬ放浪の身。寒さを凌ぐためカーペット屋でタダ茶を飲みつつしつこいセールスを右へ左へと交わしていたのだが、しかしさっきから聞いているとこのおっさんは日本語が上手い。こうして普通に会話文を書いていると読んでいる人には何語で喋っているのかよくわからないと思うが、実は彼は登場時からずっと日本語で喋っている。


「ところでおじさま、その日本語はどうやって覚えたんですか??」


「これか? オレ5年前まで日本で働いてたんだよ」


「へー。絨毯会社とかで??」


「いや、土方だよ。工事現場とか」


「絨毯関係ないし!!!!」 


「資金を貯めてたんだよ。開業資金。だから大きな目で見つめれば関係あるの」


「そうなんだ。現場ねー。大変な仕事だったでしょ……オレも学生時代やったことあるけど……」


大変だったよまったく!! あいつら学校出てないからほんとバカなんだよ!! なんでも怒鳴りゃいいと思ってやがる奴ばっかだし!!」


「ちょ、ちょっと待ってよ。えー、この部分はあくまでトルコ人の絨毯屋のおじさんの発言をそのまま書いているだけであり、作者の思惑が入るものでは一切ありません」


「冗談じゃねえっつーの。散々こき使われて働いて、その上給料は安いし」


「……。繰り返しますが絨毯屋のおじさんの発言をそのまま書いているだけであり、作者の思惑が入るものでは一切ありません」


「おまえもそう思っただろ」


オレはもう相当昔の話なので覚えてないの(逃亡)。……でも中には結構鋭い仕事をする人もいたでしょ?? ね、いたでしょ??」


「たしかに、時々頭のキレる奴もいるんだよな」



 ……いやー、少々危ない内容であるが、とてもトルコ人と話しているとは思えない会話だ。でも、苦労して働いて自分の店を持ったんだねおじさん……。オレは、苦労して働きもせずにジャパンマネーにすがって長期旅行をしているよ……。
 ただ、バカか頭いいかに、学校を出ているかどうかはあまり関係ない。見てみろ、オレも静岡県では名門と言われる高校を出たが、今や
この通りだ(深い涙)。え〜〜い、人生は最後までわからないんだい(号泣)!!

 イスタンブールは歴史上のイベントの要所となっていたこともあり、エジプトの各都市に次ぐ観光ポイントの多さであった。上はガラタ塔に登り、下は地下宮殿に潜る。桟橋の脇で鯖サンドを食べながら女子大生と話し、トプカプ宮殿の宝物庫でトルコ人の若者と交流を深める。
 ……もう細かく書くのが面倒くさくなったので
ダイジェスト風にしてみました。尚、今回の女子大生は(ああ、贅沢な身分になったもんだ)エジプトからトルコへという旅らしく、なぜかベンチで鯖サンドをかじり盛り上がった話題は「そういえばカイロで会ったんですけど、アフリカ大陸を自転車で走ってた無謀な少年知ってます?」「うん、なんとなくオレもそんなやつ見かけたような気がする」というものであった。遥かアジアとヨーロッパの境で、旅行者の話題になっているぞ多神くん……。
 しかしここ最近よくわかったことは、
日本の女子大生と知り合いになりたかったら、大学に入るか中東に旅に出るかどちらかがいいということだ。オレも将来時間と金に余裕が出来たら、エジプトとトルコの間を結婚相手が見つかるまで往復し続けようと思う。
 ちなみにその歓談の最中、女子大生の肩を鳥のフンが直撃するという悲劇が起こった。これは何が悲劇かというと、人前でフンにまみれた彼女も悲劇だが、2分の1の確率なのにフンを食らわなかったオレも悲劇である。この場合、
落ちるならオレの肩にだろう。女子大生と仲良く話している時に鳥のフンを食らって「ぎゃーー!! なんでだよっっ(号泣)!!」となるのがオレの真骨頂ではないか。そういう小さな不幸を欲しいんだよオレはっ!! その代わり下痢で屋外排泄とか夜道で犬に襲われるとか大きいのは女子大生に譲ってやるから(涙)!!!!

 ……さて、イスタンブールの話も最後ではあるが、トプカプ宮殿の宝物庫では若い青年にプレステについて話しかけられ、
宝物そっちのけでバイオハザードやグランツーリスモについてトルコ人と盛り上がるという、オレとしては滅多にあり得ない外国人とのうわべではない交流を見せた。アジアの東端である日本と、西端であるトルコの2人のオタクの間に、テレビゲームという心の橋が架けられた瞬間であった。





今日の一冊は、子どもの頃大好きだったスポーツマンガの傑作 名門!第三野球部(1) (週刊少年マガジンコミックス)





TOP     NEXT