〜最果て2〜





 ワディハルファはエジプトとの国境の町ではあるが、陸路でエジプトへ入ることは出来ない。なんで陸路で入ることが出来ないのかは、
知らん。まあおそらく、あまりにも砂漠すぎて道路を作るのが面倒くさいのだろう。もしくは砂漠を突っ切っていくと途中で40人の盗賊とかスコーピオンキングが出て全員切り刻まれるとか……。そして隣国には肉片となって入国を果たすのだ。どちらかというと入国者というより輸出肉扱いになる。
 しかしスーダンは隣に世界最大の観光立国エジプトがあるのだから、陸路で簡単に国境を越えられるようにしておけば、ついでということでエジプト人気のおこぼれを狙えるだろうに。芸能人が関西出身の敬語が喋れないボクサー試合を毎回観戦に行って、
亀人気のおこぼれを狙うのと同じ理論だ。芸能人だけじゃなく政治家もいるぞ。さすがに名前を出すのは控えるが、小池百合子とか。どうやら、若者に礼儀を教えることはできなくても日本の環境大臣という仕事は務まるらしい。

 まあ陸路の入国手段が無いというのも、一面では密入国者を防ぐのには有効なのかもしれない。逆に簡単に歩いて越えられるような、
キーパー森崎くんのようなザルなみにスカスカな国境ならば不法入国者がどんどん入ってしまう。まあどちらも一長一短であり、簡単にどっちがいいなんて言えないところはメルカトル図法とモルワイデ図法のような関係である。ちなみに学校で習う地図の種類といえばもうひとつ正距方位図法というのがあるが、これは一見して地図っぽくないため仲間はずれになることが多い。丸いし。
 とにかくそういうわけで、ここから
GSGK(グレートスーパーゴールキーパー)なみの堅い国境を持つ隣国エジプトへ入るには、あくまでペナルティエリアの中から、ナイル川を船で下って行く必要があるのだ。1泊2日、20時間くらいかけて。結局スーダンの首都であるハルツームから隣国エジプトまで、東京福岡間くらいの新幹線なら5時間半の距離を、40時間電車+20時間船で計60時間くらい、乗り継ぎ時間などあわせてだいたい1週間かかるのである。



 
……春秋戦国時代か!!!!



 いくら遠いとはいえ、時間がかかるにもほどがある。このくらいの距離、
江戸時代の飛脚でもせいぜい3日くらいで移動できるだろう。もしハルツームから飛行機に乗っていたら、1週間でエジプトとの間を50往復くらい出来ていたはずである。それに、そもそもオレたちは旅費の節約のために辛い方の交通機関を選んだのだが、正直なところ電車と船の交通費プラス1週間の生活費が発生しているので、トータルで考えれば飛行機で行った方が明らかに安かったということは、実は日本人5人誰もが気付いているが恐ろしくて口に出来ないという状況である。いやだ。認めたくない。

 さて、しばらく経つと、自ら船着場の捜索に行っていた自転車少年が戻ってきた。



「ただいま戻りましたー。港ありましたよ」


「おおおお、田神くん……。ごめんねキミばっかりに苦労かけて。オレがこんな体じゃなかったら……こふっこふっ(咳)」


「あの、エジプト行きの船なんですけど、なんか船の調子が悪くて明日には出港できないんですって。だから、あさってまでここで待たなければいけないようです」


「え……」


 あさってって……。
 これは大変なことになってきましたよ。待つって言ったって、ここ砂と小屋と川しかないんだから。普通友達と待ち合わせして10分待たされるだけでもイライラするでしょ? オレなんて過去のデートの待ち合わせで彼女が5分でも遅れようもんならもう怒り狂って、「時間も守れないのかおまえは!! 社会人としてのルールもわきまえていない奴とつき合ってなんていたくないね! そんな女にオレの彼女は務まらないんだよ!! とっとと消えろこのアマがっ!!」なんて強く説教をして、きっぱり関係を絶ってやりたくてもそんなこと
言えるわけないでしょ。なにいってんのあんた。オレなんか、つき合ってもらってるだけで感謝しなくちゃいけない立場なんだもん。いいんだよ。恋してるんだから。待ってる時間もデートの楽しみのうちなんだ。
 も〜、話がそれちゃったよ。船は彼女とは違〜うの! だから、10分待たされるだけでもイライラするでしょ? するんだよ。5分でもピリピリするんだよ。ましてや30分も待たされたら
ピラピラするんだよ。それがあさってまでって48時間よ? 船に乗るまで48時間ひたすら待ってろというの?? 世界を股にかけるビジネスマンなら、48時間もあれば数千万の商談をまとめるかもしれないのだ。その貴重な時間を、オレたちはひたすら砂漠で時の過ぎるのを待たねばならないというのか。バカげている。

 まあ、とはいえ別にオレなんかが「好きなように使え」と48時間を与えられたとしても、有意義な過ごし方といえばせいぜい
winnyでファイルを落としながらプレステの三國無双2を女性キャラ全員でクリアするというくらいの微妙な有意義さなので、ビジネスマンの例えを出すのはさすがにやりすぎかもしれないが。でも、エリートビジネスマンといえど、大喬や孫尚香でならクリアできても、大喬の妹の小喬は無双乱舞もダッシュ攻撃も使い物にならないし、相当極めないとエンディングは見られないと思うんだよね。でもオレは小喬でももうクリアしてレベル4の武器(喬佳麗)も取ってあるから、エリートビジネスマンと比べても決して負けていないってことになると思うんだよねって引くなおまえらっっ!!!! これは真剣に凄いことなんだぞ!!!! バカにするんなら、あんたらが小喬で合肥新城包囲戦をクリアしてみろよ!!!

 ……えー、
改めまして、この砂にまみれた環境で丸2日間待つということの他にも田神くんは入手した情報を報告してくれたのであります。


「あの、それから、川の方にマーケットみたいなのがあったんですけど、誰も人がいないんですよ。でさっき宿のおじさんに聞いたら、なんでも今日と明日はイスラム教の祝日らしくて、店も食堂も全部閉まっているそうなんです」


 店が全部閉まっている。店が全部……。
 オレたち、
誰も食料など持っていないのですが。しかも今の時点で既に1日とか2日メシを食っていないのである。せいぜい、今胃の中にあるのは吸い込んだ砂くらいだ。といっても、砂漠は英語で言うとデザートだから、別に胃の中にあってもおかしくないんだけどな。なーんて!
 ……。
 
わーっはっは!!
 とにかく
メシを食っていない。そして、当然設備はトイレとベッドだけというこの宿にも食堂などついておらず、このまま商店で買い物ができなかったら、更にあと2日間断食決定なのである。いくらなんでもそこまでの空腹に耐えられるのか。このままでは明日とあさって、ジャガー横田の旦那くらい耐え忍ぶ生活を過ごさなければならないではないか。一応宿に住み着いている猫が1匹いるのだが、さすがにこれを食ったらヌビア砂漠に叩き出されるだろう。
 そこでオレは決断した。


「ここ来る時、南の方にもうちょっと集落みたいなのが見えたでしょ。あのへんに、やってるお店が無いかどうか探してくるよ」


「そうですかー? でも、作者さん僕の自転車乗れないじゃないですか。どうしましょう」


「歩いて行ってくる。そんなに遠くじゃないし、散歩がてら見て回るだけだから。心配しないで」



 ……オレは必死だった。みんなは1人のために、
1人はみんなのために。作者はみんなのために。こんなオレでも、こんな非モテ系しかし女体好きのオレでも時には役に立つことがあるんだということを、みんなに知らしめてやりたい。オレだって、腹痛になるためだけに生まれてきた訳じゃないんだ。腹痛の合間には、ちゃんと役に立つことだってできるんだ。それを生まれて初めて、スーダンで証明してやるんだ!!
 今このワディハルファにいる日本人の集団の中で、
君主の役割を果たしているのは少年T(仮名)である。しかし足軽のオレがここで食料を販売している店を見つけることができたなら、みんなを飢えから救い、すなわち生命を救い、あとあと帰国してから「あの時作者さんの働きがなかったら、私たちみんな死んでいたわよね。作者さんは、私たちの命の恩人なの。だから、ヒロコもアズサも作者さんにいろいろ相談してみなよ。なんでも教えてくれるんだから!なんて言われて友人を紹介されるだろう。そして、ヒロコちゃんアズサちゃんには居酒屋で個人的に悩み事を聞いてあげたい。親身になって聞いてあげたい。そして旅行記を書き終わったら、次は作者の東京生活についてのペログリ日記を書きたい。君主にもなれるよ。店を見つけたらきっと。

 オレは宿を出て、南へ歩いた。砂漠を足を引きずって歩いた。みんなの食べ物を見つけるために、ただそのためだけに、一生懸命歩いた。新しい靴は少しぎこちなくて、かすかな痛み引きずるけど……1歩ずつ、履き慣らしていくわ。あなたに近くなるために……。
ナンノちゃーんっ!!!
 それにしても。どうしてこんなところに人が住めているんだ。道路も何も無いただの砂漠の上に、石やレンガで出来た箱のような家が大きく空間をあけてポツンポツンと並ぶだけ。どの建物もほぼ真四角の形をしており、この町は
スーパーファミコンくらいのポリゴンの機能でも表示可能と思われるシンプルさだ。
 辺りは祝日のせいなのか人影が無くゴーストタウン化しているが、きっと家の中には人が住んでいるのだ。食べ物はいったいどこからどうして持って来ているのか。金はどうやって稼いでいるのか。そして、
プレステのソフトはどこに買いに行っているのか。インターネットのプロバイダーはどこと契約しているのか。……いや、もとい、この町にはインフォーメーションテクノロジー的なものはいまだ導入されていないのであろう。なにせこの環境だ、パソコンを買ってもたったひと晩で激しく砂をかぶるため、事情を知らない友人が訪ねて来たら「あれ? なにこのパソコンこんな砂ぼこりが積もっちゃって! ははーん、さては買ったはいいけど使えなくて何年もただの置物になってるな??」と1日しか経ってないのに3日坊主の烙印を押されるであろう。ここは砂好きにはたまらないが、引きこもりには辛い町だ。
 まあ、かといって、ここではたとえ外に出たところで何も娯楽的なものは無い。外に遊びに行こうとしても何も無さ過ぎるために仕方なく家に篭もっているしかないという、
逆引きこもり現象が起きているのだろう。ここの住人たちはなぜこの場に根を下ろしていられるのか。どんなことをやって1日を終わらせ、日常を生きているのか。オレなどは、たとえ熊田曜子と一緒に住めるとしても、この町には1ヶ月が限界だろう。いくら曜子ちゃんとイチャつけるといっても、こちらの体力にも限界がある。どう考えてもそれしかすることが無いのだから、連続の場合は1ヶ月までということでなんとか勘弁してほしい。ただし、同居人が長澤まさみに代わったらもう1ヶ月は延長可だが。そしてその次は鈴木京香、その次はフカキョン、そしてワカパイ、磯山さやかと各一ヶ月、そして三船美佳と滝沢乃南なら半月、安田美沙子とは3日、根元はるみと若槻千夏は1日だけ……という風にローテーションを組んでいけば、まあなんだかんだいって1年くらい住めてしまうかもしれないが。……引くなっ!

 昼が近くなるにつれ、じわじわと砂の温度が上昇し、ついでに空気もどんどん暑くなってくる。今朝などはたき火をするくらいの寒さだったにも関わらず、日なたにいる時は
まるでアフリカの砂漠にでもいるような暑さだ。同じ場所にも関わらずこの朝晩と昼間のすさまじい気温の違いは、役者で言うならばジョニーディップと温水洋一くらいの温度差を感じさせる。
 オレは直射日光と空腹と寝不足で意識が朦朧としてきた。いかん、このままではリアルに行き倒れる。砂漠を歩いていて日射病で倒れるなんて、あまりにも教科書的でつまらないじゃないか。
そんなもん普通すぎて旅行記にも書けんわ!!! とにかく、とりあえずどこか日陰を探さなければ。
 見回すと、数百メートル先にこの村に似つかわしくない中型のトラックが駐車してあるのが見えた。おお、わずかだが、トラックが日陰を作っている! よし、あそこだ!! トラックの陰に入って体を休めるんだ!! 涼しい砂の上で体温を放熱し、体力を充填するのだ!!



 おや?
 なんか先客がいるような……


















 
ウオリャーーー!!!!!

 
てめーら犬の分際でダラダラしやがって!!! どけっ!! この日陰はオレが入るんだ!!! 人間様に譲るんだよコラッ!!! 英語も喋れないくせにオレの休息場所を奪おうなんて生意気なんだよ!! オレは英検2級なんだぞ!! どけっ! どけーっ!!
 どけどけーどけどけー! 邪魔だ邪魔だどけどけー!! ひき殺されてーのかばかやろーこのやろーめ!! 葬式してーのかばかやろこのやろーめ!!

 「オレが店探してくるよ」って1人で出てきたんだばかやろーこのやろーめ!
 このやろーめーそうでも言わないと何の役にも立ってないって仲間はずれにされそうだったんだばかやろーこのやろーめ!!

 「オレが店探してくるよ」って1人で出てきたんだばかやろーこのやろーめ!
 このやろーめー本当は疲れてるから夜までひたすら寝てたかったんだばかやろーこのやろーめ!!


 どけどけーどけどけー! 邪魔だ邪魔だどけどけーどけどけーどけどけー……(涙)


 
さあ、わかったらおとなしくそこをどきたまえ。こういう時は素直に人間に従うもんだ。そうすればおまえたちもかわいがられる権利を認めてもらえるんだぞ。よーしよし。あーよしよしよし!
 オレはノラ軍団と触れ合おうと優しく近づいた。




犬「ガウワウッ!!!」





 
ひえ〜〜〜!!! 吠えたっ!! 吠えやがった!! 
 なんだよこの意地の悪い犬は!! おまえらそういう態度ばっかとってるとなー、日本からオレの弟子の
ヤクザ犬を連れて来るぞ! それはそれは凶暴な奴だからなあ、おまえらなんてまとめて折りたたまれるぞ!! 待ってろオラっ!!!



 では先生、お願いします。








←ヤクザ犬先生













 ……だめだこりゃ。


 タマもチンも見えまくってるし。





 ああ……トイレ行きたくなってきた。
 軍団に日陰から追い出されたオレは、犬つながりで突然の尿意をもよおした。うーむ。近辺には公衆トイレなどない。しかも茂みも無い。これはまずいな。見晴らしが良すぎるから立ちションしても周りから丸見えじゃないか……。隠れるところが、さっきのトラックの陰くらいしかない。しかしあそこにいくとまた犬にいじめられるし……(涙)。
 うあっ。ダメ。辛抱できましぇん。
 ということで、オレは仕方なく砂漠のど真ん中で
オシッコをした。包み隠さず全てを出してやった。周囲100m四方からは、オレのかわいいのが丸見えなことだろう。しかし、怪我の功名というか転んでもタダでは起きないオレ、ここでオレはまたひとつ勉強したのである。砂漠では、なんと驚く無かれ、オシッコで絵が描けるのである。ジョボっとオシッコがついた砂の部分は、乾燥した奇麗な金色から泥の茶色に変わる。よって、その濃淡の差を利用してペロペロキャンディーくらいなら簡単に作画できるのである。慣れてくると、ちょっとずつ出したり止めたりして(^O^)とか(^ー^)、(TоT)とかも描けるようになる。いやー、やっぱり旅っていうのは、勉強の繰り返しなんだな……。

 さて、そんなこんなでお絵描きしつつもよれよれと、オレは家から家へ、砂から土へと集落をさまよってみたのだが、食料品どころか水を売っているような商店も一向に見つからない。最初こそ、自分の身を犠牲にしても、なんとしても
かけがえのない仲間の食料を見つけて帰るつもりだったのだが、なんか体力的にしんどくなると仲間もかけがえないというほどでもなくなる。どちらかというと自分の体の方がかけがえがない。
 でも、ここで何の収穫も無く戻るなんてすごくバツの悪いことではある。自分がすごく情けない。何の成果も、何の結果も上げられないなんて。何の、何の……ナンノちゃーん!!
 オレはみんなの力になれなかった自分の不甲斐なさを恥じた。結局、オレなんて一度も役に立てないんだ……。このまま帰ったら、田神くんもマリさん(仮名)もウララカオルもすごくがっかりするだろうな……。みんながオレを信用して、宿で待ってくれているんだ。そんなところに収穫なしで帰るなんて。くそ……。ごめん、みんな。でも、これがオレの限界なんだ……。

 オレはそのまま砂漠を引き返し、フラフラになりながら宿へ戻った。みんなの待っている宿へ。ごめん……みんな。
 部屋の前では、ウララ&マリ(仮名)の紅二点コンビがちんたらおしゃべりしていた。


「ごめん……今帰りました……」


「おーおかえりー。ねえ、タガミくんが今日やってるお店見つけてきてくれたんだよ。これからみんなで行くんだけど、作者さんも行くよね?」


「ふーん、またタガミくんがねー。偉いねー。……
行ってたまるかーっっ!! おのれタガミっ、この歩くアフリカ旅行ガイドブックがっっ!! どうせまた卑怯な手を使ったんだろう!! ワイロだ。ワイロを渡して店を開けてもらったなっ!! それでまたポイントを稼ごうという手だろう!!! ぬおーーーー!! 天はこの地に作者を生ませながら、なぜ田神まで生まれさせたのかっっ!!!! ぐはあっ(吐血)」



 ……。
 三国志ファンにはおなじみのフレーズがまたも出たが、もちろん、もはや
オレが店を探しに行ったということなど誰もが忘れ、これからピクニック気分でお財布持って買い出しである。そして、オレも腹減っていたので一緒に行くことにした。嬉々として砂の上を歩く4人の後に、オレはムスっとして言葉も発さずにとぼとぼと続くのであった。






今日の一冊は、良くも悪くも出版界に大きな話題を投じた 殉愛





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