〜現地サファリパーク2日目3日目〜





 サバンナの中を四駆から顔を覗かせひた走る、スウェーデンのこむすめシェスティン&オアサ(キャピキャピコンビ)、マイペースな黒人ガイド(ガイド兼ドライバー)、そして年金未払いの作者(北朝鮮美女軍団)。
 アフリカの風が、ざわわ・・ざわわ・・ざわわ・・と肌をなで通りぬける(意味不明)。


「アウッ!」


「ん? どうしたんだシェスティン?」


「な、なんかチクっとして……」


「ふーん。虫でもいるのか……いたたたたっ!!」


「ヘーイ、おまえらどうしたんだ?」


「なんか妙にチクチクするんだけど……」


「あー、このあたりはツェツェバエが飛んでるからな。奴らは人間を刺すんだよ」


「ツェツェバエ? なーんだ。ハエか」


 アフリカだけに、もしかしたら毒蜘蛛でも入り込んでいるのではと思ったが、なんのことはない、ただのハエである。もし毒蜘蛛に刺されていたらまずショックで気絶し、意識を回復したら弁護士を立てて旅行会社に5,000,000シリングの慰謝料を請求、その後は手首から出した糸にぶらさがってNYの摩天楼を飛び回り悪人を捕獲しゴブリンと戦いメリージェーンと恋に落ちるところだが、ハエはさすがに問題外である。5月ではなく今は1月の蠅なので特にうるさくもないはずだし(大人のジョーク)。
 まあ刺されると多少の痛みは走るが、アフリカに旅行に来ておきながら蠅ごときでいちいち騒ぎ立てるのは、ラストサムライを見て「なんであんなに撃たれててもトムクルーズだけ死なないの?」と文句をつけるようなもので、
非常にTPOをわきまえていない行為である。
 スウェーデン人のキャピキャピギャルズはきゃーきゃー言いながらタオルを振り回し追い払っていたが、オレはただ彼女達の揺れる胸元、は
あまり見ないで黙ってサバンナの風景を追いかける。


「ちょっと、作者! よくそんな冷静でいられるわね。痛くないの?」


「刺されてるけど、別に平気だよ、こんなの」


「でも、病気になったらどうするのよ」


「オレはこれからもずっと陸路でアフリカを旅しなきゃいけないからね……。ハエをいちいち気にしてたらとてもじゃないけどやっていけないよ」


「ふーん……」


 キャピキャピコンビの尊敬と愛の眼差しを背中に感じながら草原を駆ける野生動物を見ていると、そういえばオレの持っているガイドブックにもツェツェバエのことが何か書かれていたことを思い出した。たかがハエと侮ってはいるが、これも立派にアフリカ特有の生物である。ちゃんと観察して、写真の一枚でも撮ってやるべきかもしれない。
 オレはガイドブックを開いて、ツェツェバエの項目を探した。
 お、あったぞ。
『ツェツェバエ……眠り病の原因となる、非常に注意を要する虫である。睡眠病とも呼ばれるこの病気は、ツェツェバエに数ヶ所を刺されることにより感染し、最初は頭痛・発熱から始まり、次第に昏睡状態に陥る。手当てが遅いと死ぬこともあるため、サバンナへ行く時は厚着などをして刺されないようにすることが重要である』

 ……。


「ちょっと! ガイドくん!」


「なんだ?」


「あのさー、オレのガイドブックにはツェツェバエは眠り病を引き起こして、昏睡に陥って死ぬって書かれてるんだけどそれホント??」


「ああ、そうだよ。目が覚めりゃいいけどな、運が悪いと永遠に目覚めないんだよな」


「あっそ。」










 ……。












「ぎゃーっ!!! ぎゃーっっ!!! さ、刺されたっ!! は、早く追い払って!!! ハエっ! ここにもハエっ! そこにもハエ〜っ!!!」



「あ、あんた言ってることとやってることが全然違うわね……」



「人はいさ心も知らずふるさとは(出典:古今集)!! つまり日本人の心は変わり易いんだよ!!」


「男のくせにそんな移り気だとモテないわよ」


「モテて昏睡状態よりマシだよ!!!」



「ヘーイ、ジャパニーズ。そんなに慌てなくても大丈夫だぞ、ツェツェバエは日が落ちればいなくなるから」


「まだ頭上90度に太陽はさんさんと輝いてるだろうがっっ!!!! 冷静にしてたら夕暮れを見ずに永遠の眠りにつけるよ!!! だいたい昼飯すらまだだろうが!!」


「そういえばそろそろメシの時間だな。よし、じゃあ2キロ先の休憩所まで行って昼にしよう」



 ツェツェバエどもは虫のくせに他の動物達と同様ある一定のテリトリーに固まっているらしく、オレ達が3人揃ってタオルをヒラヒラさせ
チャン・ツィイー顔負けの華麗な舞を見せていると、車の移動に伴っていつの間にか催眠バエの羽音は聞こえなくなっていた。
 ハエがいなくなったと思ったら、次に出くわしたのは象の群れであった。
一気にでかくなりました。












 
ひえ〜〜〜っ







 でか〜〜っ
 多〜〜っ
 ムレ〜〜っ



 いいなあんなに仲間がいて……。オレより友達多そうだな……(涙)。ここにいるのはアフリカ象。ちなみにインドにいたのはインド象。
そ、そのまんまだ。もしかして、アフリカにいるからアフリカ象なんて安易な名づけ方をしたのでは……??
 象の団体は、我々の車を圧倒的に無視し、ほとんど接触事故でも起こりそうな目と鼻の先スレスレをのしのしと行進して行く。間近で見るとたしかにチャームポイントの長い鼻とキバは目立つが、そこはゾウなので当たり前、そのくらいで褒めるわけにはいかないが、意表をつかれるのが耳のでかさだ。彼らが得意になって耳を動かすたびにバサバサと、空気を震わす音がする。
そのまま空へ飛んでいっても全く不思議ではない。
 多分あの耳はツェツェバエ対策で、オレ達人間がチャン・ツィイーの真似をするところをゾウ達は広大な耳をぶりんぶりんさせて、ハエを追い払っているのであろう。だが非常に気の毒ではあるが、どんなにがんばっても所詮象は象、
チャン・ツィイーに見えるようなことはどう間違ってもありえない。フフッ……モノマネ対決ではオレ達の勝ちのようだな……。

 昼食はサバンナから少し離れた、一応安全のため柵で囲まれた見晴らしの良い高台でとることになった。ランチスポットの定番らしく、簡単な木製のテーブルが並んでいる。途中で買って来た弁当がガイドより一人ずつ配られる。
 オレは弁当を持ち、素早く外に出てちょうど4人用くらいの広さのテーブルをキープ、隅っこに座ってシェスティンとオアサ(と一応ガイド)を待った。礼儀正しく、先に一人で食べ出すようなことはしない。海外ではレディ・ファーストは当然のことであるし、そもそもみんなで一緒に食べ始めるというのは当然のマナーである。
 しかしなんという見晴らしの良さだろうか。眼下には地平線まで続くサバンナ、そのところどころに点々と象の集団が歩いているのが見える。こんな雄大な景色を見ながら、世界の端々から集まった旅人同士、語り合いながらの食事。これ以上の贅沢があろうか? いや、無い。
 そのまましばらく行儀よく待機していると、人が待っているのも知らずにのんびりと車から降りて来たキャピキャピコンビは、オレとは完全に別方向を目指して歩き、遥か遠く離れたテーブルに座って、2人で楽しそうにランチを食べ始めた。オレの存在は彼女達にとって、
なかったことになっているようだ。

 ……。

 じゃあオレもそろそろ食べようかな(号泣)。

 ああ、おいしい。おいしいなあ。でも、
みんな一緒だったらもっとおいしいのになあ(涙)。なんか悲しい時にごはんを食べると、噛むたびに顔の奥がジンとするよね。


「コラッ!! シーーーーーーッ!!! シッシッ!!!!」


 ……。
 なんだ? ガイドが突然オレに向かって声を上げ、シッシッ!! と追い払うような動作をしている。オレは当然なんのことやらわからずガイドの姿を見つめるのだが、すると彼は、足元に落ちていた石を拾い上げ、シッシッと言いながら
こちらに投げる動作をしてくるではないか。
 ……どうして? オレはあんた達と同じ場所で食事をしちゃいけないのか? オレだって、ちゃんとツアー料金を払った一人の客じゃないか……。 それに、
東洋人だって黒人だって白人だって、同じ人間じゃないか!!!!

 ガサガサガサササッ


「ぬぎゃ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


「コラーッ!!!! シッシッシッ!!!!!」



 いきなり誰もいないはずの弁当の方から音がしたと思ったら、
なんか白いものがオレのバナナを奪ってものすごい勢いで逃げている。そしてガイドはシッシッと言いながら白い物体を追いかけて行った。
 ……。
 
確保しろ!!!!!!!!!!
 オレの弁当を返せっ!! 
せっかくバナナはおやつじゃないっていうから弁当にして持って来たのに!!!! 
 しかしガイドの健闘むなしく、白いものはスルスルと木に登り
、オレが金を払って提供してもらったはずのバナナを丁寧に皮をむいて食べ始めた。
















 
てめ〜このヤロウ……

 
さては珍しいサルだなおまえ……











 くそ……木の上ではもうどうにもならん……というより、サルが食べかけのバナナを今さら取り戻しても食おうという気にはならん……。
っていうかオレの惨めな姿を写真に撮るなキャピキャピコンビ!!!!!
 ってぬおおっ!!!!

 ふと冷静になって周りを見回すと、いつの間にかキャピキャピコンビも含めてオレ達の周りは、白い奴らに完全に囲まれている。一応ガイドが見張っていて近づいて来るサルは蹴散らしてくれるのだが、
後ろから初対面の生物が狙っていると思うと、落ち着いて食えたもんじゃない。









 
おのれ〜余裕かましやがってこいつら〜





 
新婚家庭の出勤風景かよ!!!!

 人が食っている真っ最中にじわじわと接近してくるサルどもに神経を逆なでされ、頭に来たのでオレも手を振りかざして激しく奴らを追い回す。そしてひと段落して戻ろうとすると今度は向こうが数に物をいわせて迫って来るため、一目散に車の中へ避難。うーん……野生の中で生きてくって大変なんだな……。

 結局その日は夕方までタランギレ国立公園をうろうろし、またも旅行会社の不手際でキャンプサイトが確保できていなかったため、近くの安宿へ移動。テント泊のはずがベッドで寝れることとなった。不手際バンザイ。


 サファリ2日目は、マニャラ湖国立公園というところであった。
 ここは「木登りライオン」がいるということでタンザニアファンの間では有名なところらしい。最近はあまり見かけないが、一時期はここのライオンはみんな器用に木に登っていたそうだ。……木に登れるんだったら車の屋根に登るくらい簡単だろうよ……やっぱり危ないじゃないかよ〜。

 マニャラ湖国立公園は名前に湖とつくだけあって、昨日と比べたらやや湿地が目立ち、水辺には初めて見るタイプの水鳥の群れが溜まっている。長いくちばしは水面から魚を採るのには便利そうだが、風邪をひいてもマスクがかけ辛そうだ。そして水鳥同士で恋をして、
ファーストキスで目測を誤って目を貫くといった目を覆うような惨事があってもおかしくない。
 ゾウやキリンやシマウマといった、動物園に行っても数匹単位、しかも人間に飼育されている動物がここでは群れになり、野生そのままで生きている。ああ、自然は素晴らしい、と言いつつ文明の典型である自動車に乗ってでしか安全に自然に入って行けないのが、やや引っかかるところである。
 それにしても人間はとことん生物界のトップに君臨しているのだ。2番目がどの生き物か知らないが、こうやって遠い街から車に乗ってやって来て、ガイドつきで他の動物を見物しているということが、どれだけ他の動物達とかけ離れて我々人間がトップの状態かということを明らかに示しているではないか。

 水辺を離れて森の中に入ると、昨日雨が降ったばかりだったらしく、地面は泥沼状態であった。それでも4WDの根性を見せ、ぬかるみをなぎ倒しながら進んで行くと、前方にオレ達と同じく数人のツアー客を乗せた、1台の車がエンストを起こしていた。
 こんな時に助け合いをするのは当然のことであり、一旦オレ達の車がエンスト中の乗客達を追い抜くと、そのまま後部にウインチをつけて彼らの車を引っ張りあげる。サバンナでの人間同士のチームワーク。
よれ引け! やれ引け!! うーむ。サファリならではの興奮体験である。しかしオレ達が通りかからなかったらこの人達どうしてたんだろう?? という疑問は置いといて、よし、もう少しだ!!! がんばれっ!!!! よいさーーっ!!!

 プスン
 プスススス……






 シーン……






 ……。





 あの、
こっちもエンジン止まってますけど。


「はは……。わりいな、エンストしちまった」


「……いや、しちまったって、早く直してよ」


「ウーン、だめだな、こりゃ。」


「……。
だめだじゃねーだろ!!! あんた一体この状況どうすんの!!! 無線で助けでも呼んでくれるんですか!!!」


「しょうがないなあ……。
よし、みんな降りてくれ! 押しがけするから」


「……」


「……」


「ガイドさん、
あんた僕と違ってこのヘンのことあんまり知らないかもしれないですが、ここは木登りライオンで有名なマニャラ湖国立公園なんですけど」


「しょうがないだろう。このままじっとしてても何の解決にもならないんだから」


「うん。
たしかにならないね。……だからってこんなところで降りれるわけねーだろこのガイドがっっ!!!! オレは日本人だが動物王国のムツさんじゃないんだよ!!!!!」


「じゃあここで偶然誰か通りかかるのを待つか? 日が暮れたら
夜行性の獰猛な連中が車を囲んで宴会だぞ??」


「……それはいやです(号泣)」


 ……。

 そして、オレとシェスティンとオアサは、命をかけても客を守るのが仕事のはずのガイドに促され、
ライオンで有名な動物保護区の森の中へ、ヨロイもつけず迫撃砲も持たず、襲われたら三位一体一撃でやられること保証つきの普段着の状態でそろそろと降り立った。ガイドはエンジンをかけなきゃいけない為運転席である。金を払っているのはオレらなのにだ。
 ジメジメした深い森は見通しが非常に悪く、数m先に何が潜んでいるか全くわからない。気持ちの焦りからか、辺りの倒木のすぐ向こう側、
あっちからもこっちからも肉食獣の視線を感じる。

 ……。

 なんでこんなとこに降りてるんだオレ達は?? 富士サファリパークだって「園内では絶対に車から降りないでください」と注意書きがあるぞ?? っていうか窓を開けることすら禁止だよ!!!
 なんでアフリカのサバンナでガイドに無理矢理車から降ろされないといけないんだよ!!!!!!


 ううう……肉食獣どころかこのタンザニアの深い森の中では、
一歩間違えればプレデターすらも出てきそうである。戦ったらそれなりの勝負は出来ると思うが、こっちも手負いの状態になることは必死だ。
 怯えながら固まっていると、向こうの車からも、3人くらいの客が協力して押しがけをするため降りて来た。よかった。
これで食われる確率は6分の1に減った(涙)。しかもラッキーなことにあっちは男ばっかりだ。危ないところだった。もしもオレ以外がみんな女性だったりしたら、この際ここで永遠に遭難し続けてもいい、いやもとい車1台沼地から救い出すには相当ムリがある。
 客ばかり6人で車の後ろにスタンバイする。オーストラリア人の禿げたおっさんが、「みんな、こんなところでナイストゥーミーチュー!!」と陽気に声をかけているが、
あいさつをしている場合ではない。
 全員揃って「ワン、ツー、スリー!!」で一斉に4WDを押し、ドライバーがエンジンを入れる。失敗したところで今度はバンパー側に回って反対向きに押し、元の場所まで戻す。そしてまたワンツースリーで一斉に押す。そしてまたキュルキュルキュル……とエンジンも頑張るが失敗する。そしてまた元に戻す。

 ……。

 
ライオンさん、狩りをするんなら今が狙い目ですよ。今ならインパラより遥かに簡単に獲物が捕れますよ(号泣)。
 ……今時車を押しがけすることさえ珍しい経験なのに、ライオンやチーターその他猛獣の気配に怯えながらというのはなかなか味わえない、と同時に
どう考えても味わいたくない出来事である。


「ワン、ツー、スリー!!」


「そりゃ〜〜〜っ!!!!」


 プスプスプス……。
 ……。
 ま、またダメだ。
 しかし、これだけ大騒ぎしたら野次馬が集まって来はしないだろうか? 野次馬の代わりにシマウマが集まったりして。……
シマウマならいいがな。
 その茂みの向こうに何かいるんじゃないか? その木の向こうは? あの藪の中は?? 
その草の陰は? あああっ!! もうイヤ〜〜〜ッ(号泣)!!!!


「オイ! 集中しろ!! もう一回いくぞ! ワン、ツー……スリー!!!!」


「ゴーーッ!!!!」



 キュルルルルル……

 キュルルルルル……




 ……。








 
ブォン……ブォブォブォブォブォブォブォ〜〜〜〜〜〜!!!!!












「イエ〜〜〜〜〜〜〜〜スッ!!!!!!!!」


「キャッホーーーーッ!!!!」


「やったあ!!」


「あああああ(号泣)」




 か……かかった!!!!
 エンジン復活!!!!!
 
そしてそんなことはどうでもいいから早く中に入れてくれ〜〜っ!!!!

 そして勢いを取り戻したオレ達の4WDは、見事に泥沼にタイヤをとられたもう1台のジープを救出、
めでたく腕の一本も失うことなく全員ツアーに復帰することができた。ああ、ほんとによかった……。

 その後も一度お亡くなりになったエンジンはかなり怪しい音を上げ、その度に今度こそもうダメだと覚悟させられる瞬間が多々あったのだが、なんとか意地を見せたガイドと4WDは2日目を最後まで持ち応えるのだった。





今日の一冊は、腰痛対策はメンタルが大事 腰痛は心の叫びである






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