〜続・口の上手い男インド代表〜 ↑バラナシのガートの風景を歩きながら撮影していたらピヨピヨとヒヨコのおもちゃを持った物売りとすれ違って牛を目指して進んだらマッサージ屋のオヤジにいつもの手でひっかかる。※「キモチイー」と言っているのは作者ではありません ……では本編だ。 バラナシにはヴィシュナワート寺院、またの名を黄金寺院というヒンズー教の寺がある。 シワ改めムンナ(面倒くさいのでこれからはムンナで統一)の後をついて歩くと、その黄金寺院前の路地に差し掛かり、入り口で兵士による身体検査を受けることになった。 たしかに、この道はライババの家へ向かう道である。なんとなくオレの、通常の人間の1倍もの能力を持つ記憶回路がこの場所のことを覚えている。 ただ、3年前にはたしか金属探知機のゲートだけで、身体検査などは無かったはずだ。そして残念ながら、ここでインド兵の厳密なボディチェックによりデジカメを没収された。一応その場に鍵つきの簡易ロッカーが備えられており、一旦預けて帰りに受け取れるようにはなっているが、どうやら今回はライババの指名手配写真は撮れなさそうだ。まあ強行しようとしてインド兵に撃たれてもイヤだし、ここは仕方がない。 検問を過ぎてほんの100m足らずの道沿いに、なつかしのライババ宅があった。う〜ん……、今度こそ本物だ。これこそが、3年前にライババさまがほんの数日間バラナシに滞在された際、使用していらっしゃったみすぼらしい家である。そんな彼が今もバラナシにいるなんて不思議だなあ。 相変わらず手前の小部屋には何人かのにいさんおっさんインド人たちが暇そうにたむろしており(いつも思うが、インド人の大人は昼間から何やってんだ)、ナマステナマステ言いながら一段上がって奥の部屋に入ると、しかしそこには誰もいなかった。だが、壁に貼られたサイババの写真(今回はサイババ関係ないはずなのに)、部屋の角に設けられた小さな祭壇(今回は宗教的な設定じゃないのに)。完全に見覚えのある光景だ。 「今そこの人にライババさんを呼んで来てくれるように頼んでおきましたから、少し待ちましょう」 「はい。私待つわ。いつまでも待つわ」 「よかったですねえライババさんに占ってもらえることになって。ライババさんとアガスティアさんが、8割の的中率を誇るバラナシの占い師のツートップなんです」 「わーすごーい(うらはらな言葉)」 ツートップってあんた……。昨日はアガスティアの話しかしてなかったじゃねえかてめえコラ。そんなに物凄いツートップがいるなら、最初から一緒にライババの話もしろよ。オレがライババの名前を出さなきゃ絶対アガスティアのワントップで押し続けるつもりだっただろうが。 「あのー、ところで、ムンナさんはどうしてライババさんのことを知っているんですか?」 「ワタシは、2年前にここでライババさんに手相を見てもらって知り合ったんです。秘密にしていることをたくさんズバズバ当てられてしまって、とてもビックリしました」 そうだったのか。ムンナさんがライババに初めて会ったのは2年前なのか。3年前にオレたち3人ここで会っているというのに。どういうことだろうこれは。聖地バラナシだから起こり得るタイムパラドックスだろうか。いや、それともムンナさんはシワとは別人なのだろうか?? 顔も体も声も話し方も話す言葉も内容も金への執着心も全く同じだけど、ムンナはシワの腕に出来たコブから生まれた新しい生き物なのだろうか?? 「あっ、来ました! 立ってください!」 「はいっ!」 オレは礼儀正しく起立し、ムンナの動きを真似て手を合わせ「ナマステ〜」と言いながら、狭い部屋でその懐かしい顔をした人物を迎えた。 ……お、おお〜〜〜。ラ、ライババさん、お久しぶりでございます。 紛れも無い。彼こそが、初めてインドを訪問したオレというハリウッドスターを熱心な信者にしてしまった、今ではアガスティアと並ぶバラナシの詐欺師のツートップ、当時サイババの一番弟子今は設定上普通の職業占い師、日本人の旅行記に「私はこうしてダマされました。この顔見たら110番」などと写真つきでひどいことを書かれているかわいそうな、カリスマ占い師のライババさんだ。 ライババさんはこの前と違いメガネをかけており、おっさんというよりじいさんに近い気がする。実はここに来る際ムンナも「ライババはおじいちゃんです。もう60歳を越えています」と言っており、いやそんな歳じゃなかったと思うんだけどなあ、とオレは心の中で首を捻っていたのだが、よく見るとやはり60過ぎのおじいさんであった。多分、3年前はオレがライババさんに傾倒しきっており、心の中で独特のオーラを重ね合わせていたために勝手に若く見てしまっていたのであろう。 しかし、アガスティアはサイババの1番弟子の聖人だからわかるけど、なんで普通の占い師のライババのことも起立して合掌して迎えなければいけなかったんだろうか。ムンナ、あんたちょっと設定が混乱してないか? 老人だからということもあり、ライババが腰を下ろす動作は非常にゆったりとしていて、アガスティアと違ってそれなりの威厳は感じられた。いやー、やっぱり本家は違うなあ。 「ナマステ。キミは日本人か? インドは初めてか?」 「はい。インドに来たのは初めてです。ライババさんやムンナさんにお会いしたのも初めてです。ナイストゥーミーチュー」 「ほほう。インドはどうだね?」 「はい! 毎日たくさんのインド人の方々に騙されボられ傷つけられ、平均して1日3人のインド人は殺したい日々ですが、ライババさんに会えたのでそれもよしとします!」 「それはよかった。ところで今日は、私の占いを受けに来たということでよいのだな?」 「ははー(平伏)。たしかにライババさまに占って欲しく参上たてまつった次第であります」 ……よしよし。ムンナと同じく、ライババもこのオレのことは完全に忘れているようだ。たしかに、美男美女の顔というのは印象に残りにくいと言うからなあ。その理論でいくと、オレはムンナとライババの顔を覚えているけど逆に彼らはオレを覚えていないというのは実にもっともな話だ。なーっはっはー(高笑い)!!! 「それではまず料金なのだが、外国人の場合は45ドルとなっておる」 「ええっ!! そんなに高いんですかっ!!!」 「私はインドのホスピタルやスクールに毎年寄付をしているのだ。だから、これは占いだけの値段ではない。困っている人のためのお金なのである」 「えっ、病院に寄付しているんですか? それは、なんだかムンナさんの話していたことと違うなあ」 オレは無垢なムクのような純真な表情で、「あれっ? おかしいなあ?」とムンナの方を見た。さっきあなた、ライババさんは特に寄付とかしていないから安いと言っていましたよね。でも本人はホスピタルやスクールになんとやらと仰せになっていますよ? どういうことなのでしょう? この矛盾をどう切り抜けるのでありましょうかあなたさまは?? するとムンナは、心の動揺隠蔽工作を図りながら言った。 「あの、ライババさんはアガスティアさんとも友達なんです。ライババさん自身は特に病院には寄付していないですけど、彼はアガスティアさんの活動を助けるために、アガスティアさんに対して寄付をしているんです。今はそういう意味で言ったんですよ」 「フーン……」 そうか〜、そういう意味で言っていたのか〜〜。ウソつけ。 まあしかし今は和気あいあいと場を進めることが大事であり、そんな苦しい言い訳をするムンナは置いておいて結局料金はどうなったかというと、だいぶ値下げ交渉は行った末、それなりの高額料金で落ち着いた。これはオレがライババさんと出来るだけ長く話をしたいという気持ちの表明の妥協である。やっぱり、高名な占い師の方には目一杯相談に乗っていただきたいものなのです。決して旅行記を面白くしたいからとか、そんな下賎なことを考えているわけじゃないのです。所詮、旅行記なんてあくまで旅のオマケみたいなものですから。旅行記を書かないとしたら、僕は旅なんてしませんから。 だいたい、たしかに前回ライババさんはサイババの弟子であるとか、たまたま今だけバラナシにいるとか、ウソをつきまくってはいたけれど、でも占い自体は完璧でしたもん。僕の腰痛や残尿感のこともズバリ的中させましたもん。ライババさんはアガスティアのような性器の変態と違って、本物の人なんです。本物の実力を持つライババさんですから、たくさん占ってほしいんです。 ということで、下賎な金の話が済んだところでいよいよライババさんによる占いのスタートである。おおっ、遂に始まるのか……。遂にオレの過去未来そして運命が丸裸に、ヌーディスト運命になってしまうのか! ああこの異国の空気、壁の絵の中に佇むサイババとシヴァ神、ライババのほんのりオーラ、それぞれの相乗効果が場の緊張感を高めている。まるで氷水に入れられたズワイガニのように身が引き締まる思いだ。 ライババさんとの会話は基本的には英会話であるが、難しいところは例によってヒンディー語と日本語を秀才ムンナを介して翻訳するという前回と同じパターン。まずは取り出した白い紙に、オレの名前、出身地、性別を並べる。そこになにやら図表を描き加えて、さらにオレの手相を見ながらライババはゆっくりと話し始めた。 「キミは……、とても頭のいい人間だ。そして、周りの人を惹きつける力を持っている」 「…………」 「少し頑固で、心配性ではあるが、常に正直で新しいアイディアと野望を持っている」 「…………」 「内面にはとても強いエネルギーがあり、また、健康でもある」 「…………」 おお〜〜、なるほど〜〜。 ありがちな無難なコメント3連コンボありがとうございます!!! なんか、いつどこでどんな占い師に話を聞いてもみんな同じようなこと言いますよね! そういう抽象的なことを!! でもきっとこのヘンは前フリ、猪木のマイクパフォーマンスで言えば「元気ですか〜〜〜っっ!!!」的な単なるつかみなのでしょう。まだ何も意見はいたしません。はい、じゃあ続いてどうぞ。 「キミは……、教育がある頭のよい人間だが、しかし時々集中力が無くなる傾向があるな。ひとつのことを終わらせてから次のことをした方がいい」 「なるほど。ひとつのことを終わらせてからですね。なんていう気の利いたアドバイスなんでしょう。ライババさん以外のどんな優れた人物もそこまで的確な助言はできやしません」 「時々、太陽の輝いている時間からドリームの世界に行ってしまうことがあるようだ。昼間なのにぼーっとしてしまうことがあるだろう」 「もうそれは常に。起きている時間が夢なのか、それとも夢こそが現実なのか、どっちがどっちかわからなくなるなんてことあるわけないですけど、まあそれなりに」 「ふむふむ。おまえは……、セッ○スが好きだな? そして、その最中にはよく体位を変えるようだな。それに、口を使って……」 「待て待てっっ!!! ちょっと待ってください!!!!! まだ下ネタ出るタイミングじゃないでしょうっっ!!! 始まったばっかりなんですから!!!!! 起承転結ってものがあるでしょうよっっ!!!」 「わっはっは。すまないなあ」 ちょっと、ライババさん……。せっかくの聖なる雰囲気が盛り下がっちゃうでしょうそういうの。やめて下さいよほんとに……。 思えば今回ムンナも再会して3口目くらいには既にエロ映画の話をしていたが、この3年の間にインドではなんらかのエロ規制緩和でもあったんだろうか? ……いや、よく考えたらこれはオレのことを占ってるんだから、逆にそんなすぐにエロ占い結果が出るほどこの3年でオレがエロ人間になってしまったということだろうか? ……冗談じゃないぞ。むしろ、オレはこれからもっと世間に出て行くために、オタクとエロを封印して万人受けするソフトなギャグ路線に転換しようと思っているのに。NHKの演芸番組にも出られるレベルの、丸い感じを目指しているのに。 まあいいや、ともかくありふれた占いコメント集はこれくらいにして、そろそろ具体的な未来過去占いに入ってくださいよライババさん。だって、あなたはただの占い師じゃないんです。あの有名俳優も「この人はオレの親戚なんじゃねーか?」と、本当に言ったかどうかは怪しいですが言ったということになっている、8割もの的中率を誇るサイババの一番弟子じゃなくてスーパー占い師なんです。ライババさんなら、誤魔化しなんて必要ないはずです!! エロい前フリも必要ないはずです!!! ということで、簡単な性格診断が済んだ後はいよいよスーパーライババさんのスーパー占い師によるスーパー的中トークに入るのだが、しかしこれからというところで次回に続くのであった!! 今日の一冊は、 これぞ「ザ・小説!」と言いたい傑作 しかも実話 漂流 (新潮文庫) |