〜合肥新城の戦い〜 上海で「ガジェット王の作者一少年」へと進化を遂げたオレは、少年探偵としての鋭い推理力を警戒されて上海マフィアの襲撃に遭い、青龍刀で体をズタズタに刻まれながら西隣の都市・無錫(むしゃく?)へ落ち延びた。 無錫は上海に負けず劣らずの超都市型都市であり、海外からの駐在者が非常に多く住んでいる。香港の前に訪れた珠海と同じような特徴を持つ街だ。なので、珠海と同じように入る宿入る宿全てに宿泊拒否された。もうさあ、オレなんて心身ともにほとんど中国人化してるんだから泊めてくれたっていいじゃないかよっっ!!! 見ろよこのオレのネッチョリぶりをっ!!! ネチョネチョな中国に3ヶ月もいるもんだから、もう全身がねちょ〜んと柔らかくなってるんだぞっ!!!! 手の平を机の上に軽く置くだけでもスライム風にびろ〜んと広がるんだぞっ!!!! 他の中国人と同じように!!! オレは頭に来たのでもうこの街には泊まらないことにした。夕方まで遊んだらすかさず隣町に移動してやる。この無錫野郎がっ。テメー絶対友達いないだろ無錫っ!! おまえみたいな薄情な奴は、あしあと帳を作っても1週間で2人くらいにしか書き込まれないんだよどうせっっ!!! とりあえず気分を落ち着けて夕方まで遊ぶところは、三国志をテーマにした広場・三国城と、水滸伝をテーマにした広場・水滸城だ。かつてはテーマパークを目指そうとしていたという心意気の欠片のようなものは見られるが、兵どもが夢の跡で現在はほとんど打ち捨てられた状態なので、「テーマパーク」ではなく「広場」と呼んでいる(オレが)。 まずは三国城で適当に写真を撮り、続いて水滸城へ突撃。 いや〜暗いなあ。 ![]() そもそも今朝上海から移動して来て、宿を訪ねて宿泊拒否をされてと繰り返していたので入園したのがティータイムごろのだいぶ遅い時間であった。一応閉園時間は18時過ぎなようだが、現在17時で既にこの通り過疎化の廃虚である。雪まで降って来た(寒泣)。尚、オレがベトナムから中国に入国したのは8月の頭だが、雲南省から四川省、長江を下って香港に渡り桂林黄山上海を経由して本日は、既に10月の末である。もはや日本を出てから、2度目の冬が目前に迫っているのだ。 バカじゃねえのかっ。こんな寒くて暗いテーマパークがあるかっっ!!! なんで入園前より入園中の方が寂しくてやるせない気持ちにならなきゃいけないんだよっっ!!!! 湖畔のテーマパークなのに夢も希望もありゃしないっっ!!!! もう帰るぞ。駅まで戻って、それから隣町に移動だ。 ということで、オレは水滸城を出て入り口前のバス停に向かった。よく考えたら、水滸伝なんて読んだこと無いんだよオレ。なんでこんな水滸伝のストーリーも知らないような奴を平気で水滸城に入場させるんだよ。そのくらいチケットを売る時に厳しく確認したらどうだオイっ。 しかし、寒いぞ。早くバス来てくれ。早く駅に着かないとどんどんスケジュールが押すだろ。おいーもう寒くて暗くて恐いんだよー。早く来いっ!! なんでこんなに人を待たせても平気なんだよっ!!! B型かおまえはっ!!!! おや? なんか、グレーのくたびれたミニバンがオレの前で停まり、運転席の窓が開いておばちゃんが顔を出したよ? 出したよ顔をおばちゃんが。 「アンタ。火車站(駅)まで行くんだろ? 50元でアタシが乗せて行ってやるだ」 「そういうあんたは無許可営業のタクシーつまり白タクだろ。うるさいなあ。オレはバスに乗って帰るんだよ。ウォーチュイチーチョー(我去汽車)!! これだと直訳すると『私はバスに行く』だけど(「○○で」という表現は知らんから)、ニュアンスは通じるでしょ。ウォーチュイチーチョー!!」 「チーチョー? メイヨーチーチョー(バスは無いアルよ)」 「メイヨーじゃねえんだよっ!!! あるんだよっっ!! オレは本日数時間前に駅からバスに乗ってここまで来たんだ!!! そんなネチョネチョしてそうな車に50元も払って乗れるかよっ。バスなら2元なんだっ。チュイチーチョー!! ウォーチュイチーチョー!!」 「メイヨーチーチョー」 「じゃかましいっ!!! ウォーチュイチーチョー!! チュイチーチョー!! っていうか、『チュイチーチョー』なんて言葉を何回も言わせるんじゃねえよオレにっっ!!!! 恥ずかしいだろうがっ!!!! 若く見えるかもしれんけど、年下のいとこは結婚して子供まで生まれてるんだぞっ!!! そんな『つよしおじさん』と呼ばれるオレが恥を捨てて『ちゅいちーちょー』ってチッチョリーナみたいな情けない発音を何度もしてるんだぞっ!!! マナーとしていい加減理解しろよっっ!!!」 「だからチーチョーはもう無いアル」 「ウォーチュイチーチョー」 「メイヨーチーチョー。もう今日のバスは終わり」 「あのね、これらのテーマパークの閉演時間は18時なの。今はまだ17時半でしょ? 閉演前に最終便が出てしまうテーマパーク行きの市バスがありますか?? その手には乗らないわよこのウソつきっ!!!」 「無いアル。バスはもう無いアル。ないアル。ないアルないアル」 「うるさいっっ!! あ〜もうほら、いいか? バス停についてるこの時刻表を見てみろよっ。最終のバスは午後5時発になってるだろ? そして今の時間を腕時計で確認してみると間違いなく5時半だから、ほらみろ、もうバスは無いアルっ(涙)!!! ないアル!! ないアルないアルないアルひょんげーー(号泣)!!」 「だからないアルと言ったのに。さあ乗るアルよ」 「あの……、ちょびっとだけまけてもらえませんか(涙)?」 「40元。これ以上はマカランあるよ」 「はいじゃあそれでお願いします……。でもバスが5時で終わるなら、閉演時間を4時半にするべきじゃないですか無錫の広場のみなさん……(涙)」 オレは、散財した。この街は嫌いだ。 到着後、駅すぐ横の長途汽車站から長距離バスで暗闇を走り、次の都市・鎮江へ。魯粛の墓なんかを学校に忍び込んで見に行って、1泊して翌日その隣の南京へ、麻婆茄子ばっか食べてしばらくして更に西へ進んで合肥の街へ。毎日天気が悪い。 合肥汽車站(ほーふぇいちーちょーじゃん) ![]() さて、この合肥で、オレはとっても行ってみたいところがあった。それは、「合肥新城遺址」である。いったいそれは何のことやらというと、ゲーム「三國無双」シリーズで最終ステージの戦場になっている(厳密に言うと選ぶ勢力によって違うのだけど)合肥新城というお城の跡地なのだ。オレはかつてその合肥新城のステージでわんさかと溢れ来る敵兵を斬りまくり、何度も君主から「おまえこそ、真の三國無双よ」と、その桁外れの武力を讃えられたものである……(遠くを見つめながら)。あの時はあまりにも集中して画面を見つめ過ぎて両目ともに血が出そうなくらいの激痛に襲われたが(頭痛も併発)、しかし味方が敵の襲撃に遭っているのに目が痛いなどと言っている場合ではない。オレが助けなければ彼らは貴い命を戦場に散らしてしまうのだ。そうやってオレは今までずっと自分を犠牲にして仲間を救って来たし、これから先もそんな風に生きて行くと思う。 てかゲームの中だけじゃなくてもちろん本当にそういう城があったの1800年ほど前の、三国志の時代に。 というようにオレとは非常に関係の深い合肥新城跡地がこの合肥市内にあるというのなら、それは行かずにはおれない。自分が命を懸けて守った土地が現在どのようになっているか、是非とも確認しておきたいのだ。 ところが、その合肥新城遺址であるが、そういうものが合肥市にあるらしいという噂が流れている程度であり、持っているヒントはどこかの文献に書かれていた(とネットで発見したページに書いてあった)「街西15km 合肥市街鶏鳴山東麓」という文字情報だけだ。 しかし、難しくともまずはやってみるということは何においても大事である。「どうせダメだろう」「恥ずかしい」「面倒くさい」という理由でチャレンジの機会を素通りするのは、自分で人生をつまらなくするようなものだ。そんな、いろんな理由をつけて挑戦を避けようとするような人間に、魅力なんて感じられないとオレは思う。挑戦の無い人生なんて、女性参加者が1人もいない王様ゲームみたいなものである。わかるこの例え? 要はオレが言いたいのは、やっぱり人生というものは女の子がいてこそ楽しくなるものだということよ。挑戦がどうのじゃなく。 まずオレは宿の部屋で紙きれに「合肥新城遺址 街西15km 在合肥市街鶏鳴山東麓」と書いた。そして午後の曇り空の下に駆け出すと、汽車站の雨で濡れたコンクリート床で滑ってコケた(号泣)。 幸い骨は無事だったので(全治5時間ほどの痛みのみ)、そのまま入り口にたむろっている普通車タクシー、三輪タクシーの運転手たちにメモを見せ、聞き込みを始めた。 「すんません、この合肥新城遺址って知ってますか?」 「プーチータオ(知らんがな)」 「あのー、そちらのお方は知ってますか?」 「プーチータオ(知らないざんす)」 「では、あなたさまは……」 「プーチータオ(知らんなあ)」 誰も知らないぞ。 それじゃあ、諦めようかな……。だってさー、現地のタクシーの運転手がこれだけ揃って知らないのなら、辿り着ける可能性なんか無いじゃん? 彼らが知らない場所なのにオレが行けるということは、それはオレがタクシーの運転手以上に合肥の街のことを良く知った時でしかない。たとえ半年や1年この街に滞在しようとも、それは無理だ。だって、オレは合肥の街のことを知ろうとする気がさらさら無いから。城の跡地以外のことは一切興味ないもんこんな街。 とはいえせっかくメモも作ったことだしと、そのまま少し聞き込みを続けてみるとやはり合肥新城のことを知る者は誰もいないのだが、5人目くらいの運転手に聞いている時に「どうした? どこに行きたいんだ?」と見知らぬおじさんが割り込みで入って来た。 「あっ、どうも見知らぬおじさん。ここです。合肥新城遺址。知ってますか?」 「う〜ん。知らんな……」 結局知らないんじゃん。大体この人たちは、合肥新城遺址がどこにあるのかを知らないのではなく、合肥新城というものの存在自体を知らないのだ。どういうこと? なんであんたら合肥に住んでいるのに合肥新城を知らないんだ?? ほら、オレが槍を手に縦横無尽に暴れ回ってあんたらの先祖を助けたところだよっ!!! 1800年前に!! 静岡県浜松市出身のオレが知ってるのになんで合肥市の市民が合肥新城を知らないんだっ!!!! もっとちゃんとしろよっ!!! 恩人がこうして訪ねて来てるんだぞっっ!!!! 「おじさん、他の人に聞いてみますから、その紙返してもらっていいですか?」 「待て待て。オレが聞いてやるからよ」 そう言うと今しがた登場した見知らぬおじさんは、メモを持ったまま付近にたむろしている各種運転手軍団の中に入り、オレの代わりに聞き込みをしてくれた。次から次へ聞き込みまくってくれている。すごい。なんていい人だ。 こうやって人に助けてもらえると、嬉しいしその国のことを見直すし何かしらいい気持ちになるもんだ。こんなことだけでも、合肥新城を「探してみよう」と思って行動し出して良かったと言えるのだ。たとえ目的は達成出来なくとも、行動したことでひとついい気持ちになれたのだ。 最終的に、バスターミナルで客待ちをしているタクシーの運転手、全員が知らないという結果に落ち着いたようだ。見知らぬおじさんは携帯でどこかに電話してまで聞いてくれていたが、それでも合肥新城遺址というものが存在するのかどうかすら不明なのである。いや、一応、合肥新城がかつてこの付近にあったということだけは間違いないのだ。だって、実際にオレがその場所で散々に敵を斬り倒しているのだから。あの記憶は絶対に夢なんかじゃないと、オレは断言できる。しかし、反面たしかにその跡地が現在も跡地と認識されて残っているのかはわからない。男たちが命を賭けて奪い合った古代の城跡も、もしかしたら今は有料公衆便所になって、毎日何百人もの市民がドアなしトイレでニーハオニーハオ言いながら尻出しねっちょ〜んと排泄姿を見せ合う憩いの場に変わっているのかもしれない。ってそんなことを考えるのは、合肥新城に対して失礼だ。 でも、無いものは無いのだよ。 「見知らぬおじさん、ありがとう。謝々。もうそこまでしていただいたら悔いはありませんよ。納得して諦めますから。もう大丈夫です」 「ちょっと待てって。もうちょっと聞いてやるから!」 「…………」 なんか凄い根性だなこの人。今やオレよりムキになっている。人への親切にここまで本気になれるなんて、素敵やん。なんにせよ彼のおかげで、オレの中での「中国人評価点」が50点は上がったぞ。これで今日現在での中国人のトータル評価点は、マイナス19950点になった(昨日までマイナス2万点だったので)。……もうちょっとなんか、地球を滅亡から救うとか強烈なことをしてくれないとプラスに転じるのは無理だな(涙)。 見知らぬおじさんはさらに聞き込みを続け玉砕してくれている。さすがにこれは申し訳ない。 「見知らぬおじさん。こんな小さな情報だけでチャレンジしようとするなんて、僕が間違っていました。もう本当大丈夫です。おじさんには感謝しています。でも、諦めますから」 「ウーーー」 「おおっ。い、いや、満足しましたよ僕は。おじさんの心遣いだけで十分……」 「50元!」 「え?」 「50元で行ってやる! いいか?」 「なんですかいきなり。見知らぬおじさん、あなたはいったい何をおっしゃっているのやら」 「ほら、乗れよ。こっちだ」 見知らぬおじさんが乗れよと指し示したのは、中国の田舎でよく見かけるタクシー用の赤い小型バイク(125cc)であった。見知らぬおじさん、近所の親切な人だと思ってたけど実は普通にバイクタクシーの人だったんですね……。 「見知らぬおじさん、別に近所の人だろうとバイタクの人だろうと親切は変わらずありがたいですけどね、でも乗ってどうするんですか」 「そこに行ってやるから。50元でいいな?」 「50元はいいんだけど、あなた場所知ってるんですか?」 「ウーーー。チータオ(知ってる)。ウォーチータオ!」 (ウォーチータオ=我知道=私は知っている) 「ウソをつけっっっ!!!!!!!! そんなわかりやすいウソを聞いたのは久しぶりなんだよっっっ!!!! オレはこの街のことはなんも知らんが、あんたが合肥新城遺址の場所を知らないということはよく知っているっ!!!! 今あんたオレの目の前で聞き込みしてたけど、半径100mにいる人間が誰1人として知らなかったじゃないかっっ!!!!」 「他の奴が知らなくても、オレは知ってるんだっ」 「うん、でもさ、知ってるなら最初から聞き込みする必要ないよね? あなた、絶対1千万%の確率で知らないよね?」 「チータオッ!!! 知ってるから、乗れって!!!!」 「…………」 なぜだかわからないが、オレは見知らぬおじさんの勢いに押されて、よくわからないが、バイクタクシーの見知らぬおじさんの後ろに乗り、なんだかわからないが、見知らぬおじさんに50元で行ってもらうことになった(どこへ?)。 まあ今の時点では可能性を持っているのはこの見知らぬおじさんだけである。彼以外の他の運転手は、オレの目的地を探そうという意欲も持っていないのだから。 そんなこんなで合肥汽車站を何も知らないまま出発した見知らぬおじさんとオレであるが、結局、とどの詰まりにどうなったかというと……、それは、次週に続くのだった。 |