〜西安の皇帝の墓〜





 宝鶏のホテルで安眠薬の飲み過ぎによりまる3日ほど意識を失った後、オレはヨダレを垂らしながら息を吹き返し、ゲヘゲヘ笑いつつ西へ向かうバスに乗った。
 高速道路を突っ走って3時間後、西安長途汽車站へ到着。シルクロードの基点とも言われる、中国の歴史の中でも長きに亘って権力が集まりピチャッ、栄枯盛衰を繰り返してきた巨大都市、それがここ西安だ。と知ったかぶって偉そうに説明しているがピチャッ、基本的にまだオレは
ヨダレを垂らしてゲヘゲヘ言っている。文章だけではオレの姿が見えないのでわからないと思うが、西安の説明を偉そうにしながらオレはゲヘゲヘ言っている。ヨダレも垂らしている。狂っている。
 でも、それはオレのせいじゃない。寒いのが悪いんだ。寒いんだって。寒いから気が狂うのもしょうがないんだって。あともうひとつ、「栄枯盛衰」っていうのは
「英子さんの聖水」っていう意味じゃないからね。時々勘違いしている人がいるから、強く言っておくよオレは。そんな情けない勘違いはやめろと。心を鬼にして言うよ。たとえ下ネタでも。
 この西安で、遂に12月を迎えた。帰国の月である。次の月末は、東京だ。もう旅先で年を越すこともない。来月からは見知らぬ土地に着き、心細く歩いて宿を探す必要もない。だからといって、旅先でも東京でも結局1人ぼっちで毎日過ごすということに変わりはない。
やかましいわっっ(号泣)!!!!
 とにかく寒い。靴もズボンも擦り切れ、なにより街路樹に寄りかかっていただけで枝に化けたナナフシに間違えられて、課外活動中の生物教師に採取され学会で
ナナフシの新種「ハチフシ」として発表されそうになったほどの痩せ細ったオレのこの体に、12月の風はとことん沁みる。 ※その後保管されていた理科室の水槽からなんとか逃げ出して今に至ります

 しかし、古くは「長安」と呼ばれていたここ西安には、歴史がある分冬でも熱い観光地が取り揃えられている。そして観光地も熱いが、同じように上海以来に見かける数々のファーストフード店の存在も熱い。その存在があるだけで、オレの気持ちは全然違ってくる。マクドナルドやケンタッキーがあるということが、リア・ディゾンのできちゃった結婚を知って睡眠薬を大量に飲んでしまうほど絶望していたオレの心を、どれだけ暖めてくれたか。あはっ、あはは……結婚だってよリア・ディゾンが……(涙)。しかも、
デキ婚だってよっ。あのリアディゾンが。信じてたのに……。グラビアでいくら挑発的なポーズをとっても、その挑発はオレだけに向けられたもので、他の男には断固として潔癖を守っていると信じていたのに。それが、できちゃった結婚だぞ……。できちゃったってことは、もうキスくらいはしてるってことじゃないかっ!!!! あの純情なリアちゃんがキスだなんて!!! 不潔よ!! 裏切りよっっ!! あんたなんか、中国人の王さんと結婚して本名がリア王になってしまえばいいのよっっ!!!!

 …………。

 
ちょっとだけ話がそれたが、リアはいいとしてなにしろオレたちヤングエージの日本人はファーストフードで育っているから、マックやケンタを発見したら心が高ぶらずにはおれないのだ。なにしろ、ファーストフード世代なのだオレたちは。
 ちなみに年齢が良くわからない友人をファストフード世代かどうか見分けたかったら、男子は「これ、食べ物に例えたら何に見える?」とパンツを脱いで
自分の股間を見せながら聞いてみると良い。フランクフルトと答えたらファーストフード世代、ちまきと答えたら純和食世代だ。そして「砂肝」と答える奴がいたら、そいつはつわものだからすぐに股間を引っ込めろ。取り返しのつかないことになる前に。

 もうひとつ、西安にはユースホステルがあり外国人がいっぱい泊まっているのも素敵だ。ルームメイトと英語を話して、久しぶりに旅人の気分になったぞ……(涙)。昨日まで中国人の中で中国語を話して3食中華料理を食い中国の田舎をネッチョリと渡り歩いていたから、もうオレは半分「自分は中国人ではないだろうか」と思い始めていたのだ。ほら、飼い犬だって、他の犬との交流が無いと
自分が人間だと思い込む奴いるだろ? それと同じだよ。うちのムクなんて、オレが遊んでやろうと思って出て行くと、ボールをくわえて来てわざとオレの目の前にコロコロ転がすんだから。それをオレが拾いに行くんだよ。もはやムクは自分を人間だと思っているだけでなく、オレのことを犬だと思っているフシがあるからな。今度帰省したら、体罰を加えながらビシビシしつけてやるっっ。

 見ろよ、この朝食のメニューの差を。




 左が昨日までの早餐、右が西安のユースホステルのブレックファーストだ。もう、芸術的に違うだろう。見比べてみると、テーブルのセッティングやナイフフォークなどの食器も含めて、もうお互いに全く交わる気配を見せていない。
孫正義とNTT以上に交わる気配を見せていない。むしろ憎み合い。
 普通の欧米人は左側の朝食を食べられないし、おそらく中国人は右側の朝食が好きではないだろう。でも、日本人なら両方が食えるのだ。だって日本人は、子供の頃から和洋中をまんべんなく食べて慣れ親しんでいるから。日本の食文化バンザーイ!
 ……でも、オレは日本人だけど左側の朝食が食べられない。
もやしが嫌いだから。まんじゅうも粥も全然味が無いしさ。醤油とかたくさんかけないと食べられないんだよオレ。味覚が小学生だから。

 さて、西安の見どころといえば、城門に城壁に博物館。




 紀元前、中国を統一したから始まり王朝を経ての時代まで、長安は都(首都)に定められていた。唐の都・長安の、タイルのように縦横に道路が走る都市の構造は、平城京や平安京を始め実に様々なもののモデルとなっている。
ドラマ「古畑任三郎」のオープニングで縦から横から延びて来る線も、実は唐の都・長安を表わしているのだ。昔の章では、たしか古畑任三郎のオープニングは「ベトナムで走るバイクを表わしている」って書いたような気がするけどオレ。まあベトナムあたりの章で書いたことなんて誰も覚えてないからいいんだよ。黙っていればわからないんだから。

 それはさておき。西安郊外。街を出て西へ2時間弱。そこに、この西安での最大の観光スポットがある。日本からのツアーに参加しても、ここを外されることは絶対にないという観光地。その1つ目は、秦始皇帝陵、つまり秦の始皇帝の陵墓だ。……「陵墓」というのが何なのか、普通の墓と陵墓がどう違うかわからないというあなた。そこのあなた。もうちょっと勉強しなきゃだめだぞ。そのくらいは知ってなきゃ。おバカブームももう下火になっているんだから。キミの
爆笑珍解答がいつまでも喜んで受け入れられると思ったら大間違いだぞ?
 「陵墓」というのは、皇族の墓のことを指す言葉だ。つまり、将来これを読んでいるあなたが入るお墓は普通のお墓で、オレが入るのが陵墓ね。
だってオレは将来○子さまと結婚するんだから(さすがの私もここは伏せ字)。
 そう義務教育を終えた者なら誰でも知っている、万里の長城を築いたことでも有名な秦の始皇帝の墓、それが始皇帝陵なのである。

 中国の歴史上の人物の墓は、主に石でできた墓碑と、墓本体となる盛り土の部分で構成されている。そして、名のある人物ほど土が山盛りに盛られ、大きな土山が作られているのだ。オレがこれまで訪れたのはほとんど三国志の武将の墓だが、君主や諸葛孔明級になると周りをぐるっと回るのも大変な、人間の背丈より高い大きな盛り土が作られていた。逆に小者になると腰くらいの高さだったりそもそも盛り土が無いという墓も存在する。とはいえ盛り土が無い墓も今は無くなっているだけで、元々はそれなりの量の土は盛られていたのだろうが、おそらく元々たいした大きさじゃなかったため、土山のてっぺんに枝を刺し、周りから順番に土をかき取っていき
枝を倒した人が負けというゲームに使われてしまった結果消滅してしまったのだろう。村から徴兵に出す農民とかを決める時に行われたはずだ。

 ……で、それに対して秦の始皇帝クラスだとどんな盛り土かというと、もはや標高数十メートルの簡単な山になっている。






 山頂までは山の斜面に作られた階段で上るのだが、今まで他の人物の墓をいくつも見ているだけに、大きさを比べると秦の始皇帝の存在がいかに強大だったかということがよくわかる。劉備・関羽・張飛・諸葛亮の墓を全部合わせても到底敵わない超スケールの盛り土(山)だ。
 この始皇帝陵には土産物屋や陵墓の全体像をミニチュアにして公開している展示館があるのだが、そのミニミニミニチュア始皇帝陵の説明文によると、この山の下にはまだ調査されていない広大な地下宮殿があるらしい。なんでもそこには莫大な宝物が収められているが、
侵入者が通りかかると矢が飛び出るような恐ろしい仕掛けがあるというのだ。
 なんていうことだ。まさか、この現代にまだそのような冒険空間が存在していようとは。それならば、この地下宮殿はぜひあの人に探検をしてもらいたいものだ。そう、財宝を求めて未知の洞窟を探検するプロフェッショナルといえば、彼しかいない。そう、
インディージョーンズ。は西洋人なので、ここはぜひ隣国日本が誇る洞窟探検のスペシャリスト、スペランカーさんにお願いしようではないか。スペランカーさんなら、たとえ宮殿の中にどんな仕掛けがあろうとも、そんなもの関係ないのだ。だって、それ以前に、ハシゴから宮殿の入り口に飛び降りた時点で点滅して死ぬから。
 というか、矢が飛んで来ようが岩が転がって来ようが、
少林寺の僧侶を1人送り込めばあっさりと宝を取って来るんじゃないだろうか? 彼らの鍛え抜かれた体は槍でも貫くことが出来ないわけだし、たとえ岩が股間を直撃してもまったくダメージは受けないのだから。タマタマに人がぶら下がっても大丈夫なんだぜ? あるかもしれないじゃん。突然人が出てきてタマタマにロープを結んでぶら下がる仕掛けが。でも、少林寺の僧ならその仕掛けにも微動だにしないのだ。

 さて、始皇帝陵に続いてここ西安の最大の見所となっているのが、バスですぐの距離にある兵馬俑である。土で出来た等身大の何千体という兵士が、死後の世界で始皇帝を守るために2000年以上立ち尽くしているこの光景。このスケールのデカさも、秦の始皇帝という人間の権力の大きさをそのまま表わしているのだろう。


 ぐおおっ。









 げおおっ。






 写真ではそうでもないかもしれないが、実際にこの像どもを目の前にしてみるとこれはもう開いた口が塞がらず、鳥肌が立つような凄さである。こんなにもインパクトの強いものを見たのは本当に久しぶりだ。振り返ってみれば、アフリカから中国の旅で訪れた場所のうち、自然の景色ではない人間が作ったものの中でオレが感動した順位をつけるとすれば、第1位は、なんといっても
モスバーガーだ。そりゃもう、シンガポールであの懐かしい看板を見た時にはもう涙、涙で……
 ってまあモスバーガーは別格として、では第2位は何かというと、
カレーハウスCoco壱番屋だ。まさか旅先でオレの大好物、ココイチのロースカツカレーにチーズをトッピングして食べられるなんて……思い出すだけでもまたヨダレが……
 飲食店は除いて順位をつけると、第1位はやはり
エジプトの遺跡群だ。ピラミッドに、ツタンカーメンの棺に王家の谷にアブシンベル大神殿。他の国々の遺跡とは、歴史もスケールも全然違う。であるが、この兵馬俑の迫力はピラミッドにも迫るものであり、タージ・マハルやアンコールワットなどのレベルでは太刀打ち出来るものではないと思う。個人的な感想ではあるが、オレはそう思う。それほどのものなのだこの兵馬俑は。まあ、モスバーガーの感動にはさすがにかなわないけど……。



 見てくれ、2200年前に作られたこの兵士たち。今にも動き出しそうじゃないか?




 備え付けられている案内を読むと、驚くべきことにこの兵士たちは、1人1人全て違う顔をしているという。これだけの数がありながら、同じ顔の兵士は2人といないというのだ。なにしろ当時は量産する技術などなく1体ずつ粘土で手作りなんだから、違う顔になるのは
当たり前じゃねーか、みんな同じ顔してたらそっちの方が驚くべきことだろアホがっ、なんてことはもうオレは全く思ってないから。本当に思ってないよ言っとくけど。マジでオレそんなこと思ってないから。思ってないって本当にっ。これほどまでに思っていない奴が他に世界のどこにいると言うんだよっっ!!!! 連れて来いよこんなにも思っていない奴が他にいたらっっ!!!!! そいつに思ってないチャンピオンの座を譲ってやるからよっっ!!!!

 ……オレが感じたのは、もしかして始皇帝はアッチの気があるんじゃないかということだけだ。だって、あの世に行っても何千人という兵士が常にすぐ傍で守っているんだぜ? 全員男だぜ?? 
耐えられないだろそんなの!! オレだったら、絶対に全員女の人形にするね!! 何千人という男より、何千人という女が周りにいた方が楽しいに決まってるじゃないかっ!!! 守るとか守らないとかいう問題じゃないんだよ!!! 楽しくなきゃ守られたってしょうがないじゃねえかっ!!!
 敵が襲って来たって、
誠心誠意話し合えばわかってもらえないことは無いんだよ今の時代。そう言ってたもんこの前テレビで社民党の女の人が。

 ところでこの兵馬俑は、今からほんの30年前に、井戸を掘ろうとした農民によって発見されたらしい。一説によるといきなり地面が崩れておっさん(農民)も穴に飲み込まれ、
ふと気付いたら周りにいっぱいこんな兵士が立っていたというのだ。オレだったら、オシッコちびると思う。おしっこじゃない方もチビるかもしれない。まあ何千体という兵士が見ていたって、もう人前で大便をするのには慣れたから気にならないしな。だから思いっきり前から後ろからチビることが出来るよ。
 そのおっさん農民は発見のご褒美としてこの兵馬俑博物館の副館長という職を与えられ、現在はお土産を買った人だけに発見者としてサインをしたり写真に一緒に写ってあげたりしているらしい。
いるかそんなもん(心の声)。実際に売店を訪れてみると、今やじいさんとなった彼は発見当時の写真パネルが並ぶ壁の下で、イスにふんぞり返り単なる幸運で発見者となったことなど気にせず実に尊大で自慢げで偉そうな雰囲気を醸し出していた。
 オレはじいさんには興味がないので、土産は買わずにじいさん頭上のパネルだけ撮影しようとカメラを向けると……



「ニチョンチュボラバッケ!!! アチンイケンコノヘンターイボケッ!!!」



 …………。

 ジジイにものすごい勢いで怒鳴られた……。
 どうやら、ジジイにとって
金を落とさない観光客は虫ケラ同然らしい。土産を買わない奴には、イジワルして壁の写真も撮らせないらしい。実力でなくただのラッキーでいきなり権力を手に入れて何十年も過ごしてしまった人間というのは、こんな傲慢な姿になるのだなあ。哀れな。しかし老人を相手に喧嘩するのも大人げないので、心の広いオレは素直に「何様だテメエ、このボケッッ!!!」と日本語で叫び、更にわめき散らすジジイの声を背中に受けながら穏やかにその場を立ち去ったのである……。

 尚、兵士の人形は個別展示もされているのだが、この彼は明らかに功夫のポーズをとっている。少しマニアックに少林寺拳法で言うところの、「左前一字構え」とほぼ同じだ。






 正面から見た陳さん(仮名)。





 この人形がGIジョーのように可動式になっていて後から動きをつけたのでなければ、彼の構えを見るにつけ、中国の功夫の原型は2000年以上前から存在したということになる。少林寺の歴史もそのくらいあるのだろうか。秦の時代の兵士たちも、
陰部に縄を結んで全裸で荷車を引っ張ったりしたのだろうか。縄の両端を2人の陰部に結んで、綱引きをしたりしたのだろうか。

 噂によると、秦の始皇帝は生前「不老不死」の薬の発見に精力を注いでいたらしい。結局その目的は果たされることがなかったが、もし本当に、決して老いない、死なない肉体が手に入ってとして、それは果たして幸せなことなのだろうか?
 オレは思う。幸せか幸せじゃないかは置いといて、「不老不死の薬」なんてものがあったら
子供の手の届かない所に保管しておかないとダメだと。だって、もし間違って赤ん坊が薬を飲んじゃったら、決して歳を取らずいつまでたっても赤ん坊のままという永久赤ちゃんが誕生することになる。いくら母親も同じく不老不死になったって、100億年以上(というか永久)毎日夜泣きする赤ちゃんをあやし続けるというのはさすがにしんどく、精神をやられると思う。永久子連れでは旦那に死に別れてから新しい男を見つけるのも大変だろうし。
 以上です。




豆&卵を売るおじいさん









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