〜フォーチュンテラー〜 そして遂にたどり着いた。 これこそが、まさに予言者が住むという集落だ・・・。 いや、ちょっと待て。 ここどこやねん!!! 今たしか21世紀ですよね!?チマタじゃあついこの間ヒトゲノムの解読も終わりましたよね???ここはどこ?のび太くんか誰かもしもボックスで別世界造っちゃった?? 今までいろんな知り合いの家を訪ねてきたものだが、藁と土で出来た家を訪問するのはオレの人生において初めてである。この村だったら本物のヤマンバギャルが住んでいてもおかしくない。もしくは、駆け出しの俳優がウルルンウルルン言いながら滞在していそうだ。大体、ここの住人達はオレを発見したらどう思うのだろうか?やりで突つかれたり毒矢を放ったりしてこないだろうな?? この集落の中から予言者の家を見つけるにはどうすればいいのだろう。表札もかかっていないし、そういえば大体何語を喋ればいいんだ?? ああ、しかしオレ去年盲腸取っといてよかった。もしこんなところにいる時に盲腸にかかって倒れでもしたら、多分顔に色とりどりの染料を塗られ、裸にされて呪術者に木の枝で病気が出て行くまで力いっぱい叩かれ続けるだろう。そして死ぬだろう。まあある意味それで病気の痛みは消えるのだが。 さて、小雨の降る中、藁ぶき小屋の間を警戒しながら歩いていると、原住民らしき女性が家の入り口に立っているところに出くわした。未知との遭遇だ。 「あ、あのー、この辺りにフォーチュンテラーが住んでるって聞いたんですけど・・・」 「・・・?」 「フォーチュンテラー、フォーチュンテラー!」 「オー!あそこ!あそこの家!!(と言っているふうに聞こえた)」 「あそこですか!どうも〜」 いやー、なんとかなるもんだねえ。人間のコミュニケーション能力というのは実に素晴らしい。なんだかんだ言ってもやっぱり我々は同じ宇宙船地球号の乗組員同士なのだ。 予言者のばあさんは、すぐそこの家に住んでいるらしい。オレは占いなど女性芸能人のウエスト59センチ同様全く信じていないのだが、ここに住んでいるということだけでなにかしら説得力はある。たしかにこの集落に何十年も住んでいたら、誰でも妖術の1つや2つ使いこなせるようになりそうである。 ところで、予言者は今ご在宅なんだろうか。普通に考えて、アポイントも取らずにいきなり初対面の人間が家を訪ねるのはマナー違反な気もする。一応来る前にのろしかなんかで予約した方がよかったのだろうか。しかしオレはどちらかというと現代っ子なので、のろしの上げ方は知らない。携帯かネットで予約できればよいのだが、この村にはそういう文明関係のものは無いようだ。 しかしオレは、意を決して家の中を覗いてみた。 ドドーン うわー・・・予言しそう・・・。 頭にヒラヒラとつけた鳥の羽根、手に持った怪しい木の杖、顔に深く刻み込まれた皺、部屋の中に転がる動物の置物や毛皮。全ての小道具が予言者の神秘的な雰囲気を演出している。ちなみにフォーチュンテラーは左のばあさんだ。 「あの・・・、すいません、こちら予言者さんのお宅でしょうか・・・?」 「おお、そうだが、キミは?」 「わたくし、怪しいものではありません。実はちょっと予言者さんに占って欲しいことがありまして・・・」 「そうかそうか、じゃあ遠慮なく入りなさい。」 「はい、ではお邪魔します。」 素晴らしいことに、予言者の隣にいるじいさんは英語が喋れるようだ。ジンバブエの公用語は英語であるし、こうして旅人が訪ねて来た時のために彼が通訳をやっているのだろう。 オレは、軽く挨拶を済ませると彼らの寝室兼食堂兼玄関兼リビングルームに案内された。というか入り口から一歩中に入っただけだ。予言者のばあさんはオレの突然の訪問に驚いていたようだが、意外に気さくに色々話しかけてきた。もちろん通訳であるじいさんを介してだが。予言者なら「ふっふっふ。おまえが来ることなどとうの昔からわかっておったわ!」くらい言って欲しかったのだが、どうやらオレが来ることは予言していなかったらしい。 さて、世間話もいいのだが、オレがここにいるのにはちゃんとした理由がある。ただの観光をしに来たのではなく、オレはジンバブエ警察からの特命を受けてここにやってきたのである!!まあ特命にしては料金は自分持ちというところが悲しいが。というよりおそらく予言者は領収書を出してくれないだろう。 「えーと、実は1週間ほど前にマシンゴでお金盗まれちゃったんですよ。それで警察の人から、フォーチュンテラーに犯人と金の在りかを聞いて来るように言われたんですけど・・・」 「なるほど。たしかに彼女ならそれを予言できるかもしれないな。」 「では、是非お願いしたいのですが。」 「うん?見るのはそれだけでいいのか?」 「いえいえ、見ていただけるんでしたら、それ以外にも僕の将来についても是非お願いします!!」 そりゃそうだ。犯人だけでいいはずがない。外国で占い師に未来を占ってもらうことなんて普通は滅多にないことだ。是非オレの今後の人生についてもためになるアドバイスをいただきたいものだ。 尚、参考までに言っておくが、サイババの弟子の予言によればオレは95歳まで生き、マハラジャのようにリッチになり、何度か重大な手術に失敗するということになっている。果たして彼女の予言はどうだろう。もしもこのばあさんも同様に「おまえは将来マハラジャのようにリッチになるぞ」と言った時にはオレはすぐさま弟子入りする用意が出来ている。 ちなみに当然彼女もお布施というか料金をとるのだが、鬼のように安い。まあ鬼がどのように安いかどうかは知らないが、日本円にして200円くらいであった。たしかに彼女達に金というものはあまり必要ないだろう。 ということで、いよいよ占い大好きっ子であるオレの将来と、その大好きっ子の全財産を盗んだ極悪非道の畜人鬼の正体を、予言者によって明らかにしてもらう時が来た。 「よし、では始めようか・・・。」 そう言うとじいさんは、清水の次郎長がかぶっている笠に弦を張ったような独特の楽器を、ボロン・・・ボロン・・・と奏で始めた。隣ではばあさんが横を向き、何か宗教的なオブジェに向かって祈っている。 「う・・うううう・・・・」 作「ど、どうしましたっ!!??」 いきなりばあさんが苦しそうに唸り始めた。これはどういうことだろう。じいさんの演奏している楽器の音で頭の輪っかが締まるようにでもなっているのだろうか?それは孫悟空だ。 ←ばあさんはひたすら苦しんでいる。 苦しんでいるのは気の毒だが、それ以上にこの格好のばあさんがウーウー唸っている姿は非常に怖い。 この状況でオレは一体どうすればいいのか??じいさんが平気で演奏を続けているということは、「おばあちゃん、大丈夫ですかっ??」などと言って彼女に駆け寄るのは道徳的には正しくてもここでは場違いなのだろう。それ以前に、なんとなく駆け寄ったら食いつかれそうである。 オレはそんなことを考えながら、いや、正直に言うとただうろたえながら部屋の片隅で固まっていると、徐々に呼吸が整ってきたフォーチュンテラーが、むっくりと顔をおこした。 じいさんが演奏を止め、ばあさんに何やら話しかける。するとばあさんは突然甲高い声で早口にまくしたてた。 「アイヤイヤイ△△ヤイ※※ヤイヤイ□□〇〇ヤイ××!!」 う、宇宙語か!? このテープを早回しにしたような喋り声!!これはまさに1975年に甲府事件でK君とY君が目撃したという宇宙人とそっくりではないか!!!とにかく、今までのばあさんとは声も話し方も全く違う。予言者の身に一体何が!? 「どうやら、無事スピリッツが彼女に降臨したようです。」 作「へ・・・?」 ス、スピリッツ・・・。そう、スピリッツ、日本語に訳して精霊とか霊魂が、今予言者のばあさんに宿っているというのだ。つまり、さっき喋ったのはばあさんであってばあさんでない、ばあさんの肉体を借りているスピリッツだったのだ。それであんなにおかしな喋り方になってしまったのである!!おそらくスピリッツさんは、ばあさんとは違いせっかちで早口で話すタイプなのだ。 と、いうことは、オレの将来やその他もろもろについて予言してくれるのは、このスピリッツさんだということだろう。・・・じゃあ予言者のばあさんはちっとも予言者じゃないのでは??実際やっているのはばあさんじゃなくてスピリッツじゃないか。とまあ屁理屈を言っていてもしょうがない。とにかくスピリッツさんにオレの未来について教えてもらおうではないか。 スピリッツがじいさんに向かってなにやらペラペラと話している。そして、それを聞いたじいさんがその内容をオレに英語で伝えてくれる。 「スピリッツは言っています。キミは、物凄く長生きをするということです。」 作「へえー。何歳くらいまでっすかね??」 「アイヤイ△ヤイ※ヤイ□〇ヤイ××!!」 「あまりにも長生きなんで、スピリッツにも先が見えないそうです。」 作「そうですか・・・。」 鋭い。これは、スピリッツもオレが95まで生きるということを見抜いているということだ。つまりこの予言は当たっているのである!!どうやら今回もかなり期待出来そうだ。スピリッツさんは予言者のため、過去の出来事を聞くことが出来ないのがちょっと残念なのだが、未来の自分の姿がわかるだけでもかなりの収穫だ。なにしろオレの孫の孫は、セワシくんと違って未来からネコ型ロボットを派遣してきてくれていないため、家の机を開けてもタイムマシンは無く、こんな機会でもないと将来の自分を知る機会はないのだ。 スピリッツに聞きたいことはいくらでもある。仕事運や恋愛運、オレはちゃんと日本に帰れるのか、そして将来の自分・・・ああ、気になるあの子と僕はちゃんと結ばれることができるのでしょうか??教えてスピリッツ様!! いつの間にか肝心の犯人と金の在りかについてはどこかへ飛んでいってしまっているが、予言はまだまだ始まったばかり。この後も、スピリッツ様はハッスルしながらズバズバとオレの将来を予言して行くのだった。 今日の一冊は、このシリーズが好きで「さくら」というペンネームをお借りしました もものかんづめ (集英社文庫) |