![]() 〜ゴア2〜 ゴアといえばさあ、トランスとヒッピーの聖地じゃん。そりゃもう当然クラブ通いっしょ。ゴアどころか、インド自体クラブのために来たようなもんだから。ほら、オレって音にこだわるじゃん? 田舎のDJが回す乗れない音なんかじゃ満足できないから、本場ゴアのトランス全開の空間でハジけたいんだよね。 …………。 さあ、盛り下がって参りました。 もちろん、上の段落は自分を偽って書いたよ。クラブのことを書いた他人のホームページから表現をパクったよ。それに、音にもこだわらないよ。音楽なんてパソコンで聞ければ十分だし。持っているCDはほとんどがゲームのサントラだし。まあ敢えてちゃんとした歌手の曲で一番好きなのを挙げるなら、横山智佐が真宮寺さくら名義で歌う「檄!帝国華撃団」かなー。は〜し〜れ〜光速の〜〜ていこ〜くかげきだん〜〜♪ でも……、そんなオレも、今夜を境に変わるんだ。横山智佐(ちさタロー)は今日で卒業。これからはクラブでの遊びに目覚めて、帰国したら坊主になって無精ひげを生やしてピアスを空けて足が2本ずつくらい入りそうなダボダボのズボンをはいて、一重まぶたに整形して渋谷の道端でウンコ座りをして通行人に迷惑をかけて街の美観を損ねて夜回り先生とタメ口で話すんだ。 …………。 なんか120%クラブを勘違いしている気がするが、しかし全国のクラブ好きのみんな、安心してくれ。こんな無知や偏見とも今日でおさらばだ。なぜならば、今夜、オレは遂に本場ゴアのクラブへ行く決心をしたのである。 きっとこのサイトの立ち上げ当初からオレを知っている40代の読者の方々は、まさかオレがクラブなんかに行くわけはないだろうと思っているに違いない。しかし事実は小説より奇なり、五穀豊穣の神は伏見稲荷(「奇なり」と「稲荷」で韻を踏んでいます)。つまり、作者がクラブに行ったり亀田大毅が内藤の家に謝罪に行ったりと、あり得ないことが起こってしまうのがこの21世紀なのである。 これに至るにはもちろん訳があって、今日の昼間、もはや泳いでもなんも楽しくないのでこれからはトップレスの女性のあの部分のトップの見物に専念しようと私服で浜辺をうろついていたところ、灼熱のビーチで1人だけジーパンとTシャツというオレのファッションに対するポリシーに感銘を受けたクラブの客引きが、「Pussy Cat Sunday」と書かれたクラブのイベントのチラシ(おそらくそのようなものだと思われる)を渡してきたのである。はっきり言って、風変わりなものや新しいものは全て試さなければ気がすまないかぶき者のオレとしては、このイベントを逃すわけにはいかない。なんといってもここは昼真っからトップレスになる白人女性がゴロゴロいるインド一のリゾート。太陽が出ている時から既に開放的になっている旅先の若い女性が、夜になったら一体どの部分まで開放するのか。想像するだけである部分に血液が溜まって膨張してくるのを感じる。ひょっとしてトップレスアンダーレスどころか、もう臓器まで見せちゃうんじゃないだろうか。ああ、右心房や尺即手根伸筋のめくるめく官能の世界……。 む、むふふふ……かぶいてやる。目一杯かぶいてやるぜ。お嬢さん方、一夜ゆえ、身をつくしてや恋ひわたるべきだぜっ!! 嵐の前の静けさとばかりにさめざめと夕食をとった後は、いよいよタクシーを見つけてナウいクラブへGOである。もちろん、一緒に行く人はいないので1人である。 悪い? いつも1人で悪い? 1人でクラブに行っちゃいけないっていう法律がどこにあるのさ。そんな法律がもしあっても、普段法律を学ぶ機会なんてないから知らないんだよっ!!! いいか、おまえら。よく聞けよ。一緒にクラブに行く友人が何人いようとなあ、死ぬ時は1人なんだよ!! いつも友達とつるんでたら、死ぬ時急に1人になってめちゃめちゃ寂しくなるだろうがっ!!! だからオレはあえていつも1人なんだ!! 死ぬ準備をしているんだよっっ!!!! タクシーでいつもよりスピードを出してゴアの大通りを突っ走り、ビーチから遠く離れてクネクネと山道を登った丘の頂上に、そのナウいクラブがあった。赤青緑の照明でライトアップされている建物はインドとは思えないシャレた雰囲気であり、なにやら黒服的な従業員が入り口に立っている。 いや〜まったく。 ……。 こ、怖いよ〜〜(涙)。本当はものすごく来たくなかったけど、なんか「ゴアでクラブに行った」っていう肩書きが欲しくて……一度もクラブに行ったことが無い自分とさよならしたくて……それで勇気を振絞って来たけれど、建物の前まで来たらどうしたらいいかわからないんです(号泣)。入りたくない……。しかも、半ズボンに少林サッカーのTシャツで来ちゃった……ボーイさんに怒られないかなあ……。 周りをウロつく着こなし上手の白人に怯えるオレというかぶき者は、怯えながらも受付で「大人1人」と言って入場料を払い、「日本のオタクのみんな、オレに勇気を分けてくれ!!」と念じ心の中でオタクパワーを増幅させ、命をかける覚悟で遂にクラブの中へと入った。「少林足球」とデカデカと書かれた黄色いTシャツでも、特にボーイに止められることはなかった。まあ服装に関しては、インドだけに、きっとここはふんどし姿のたむらけんじが獅子舞を持って訪れても、金さえ払えば入場できるであろう。 さて、その上流階級しか入れないことで有名な「クラブハバナ」は入り口のドアをくぐるといきなり中庭になっており、小さいながらもプールがあって水が張られていた。プール脇の石の階段を上ると右手にバーカウンターといくつかのテーブルがあり、左手には大きな部屋があって、それはなんというか、音楽がかかって人が踊るスペースである。そういう場所をどう呼んだらいいのかわからないんだよ。最初「ダンスホール」という言葉が頭に浮かんだんだけど、どうせクラブの場合もっとシャレた言い方があるんでしょ? 「ダンスホール」とか言ったら強制退場させられるんでしょきっと?? まだ時間が早いらしく、その踊るべき部屋には人はいなかったので、とりあえずオレはカウンター前に腰掛けた。チラシによると、入場料さえ払えばドリンクは無料だということだったので、がんばって元を取ろうかな(貧乏病という病気です)。 カウンターの向こう側やホールで働いているのはインド人だけでなく、オレに注文を取りに来たのはネコ耳のアクセサリーをつけている白人のおねえさんだった。 「ハーイおにいさん、ウェルカムトゥークラブハバナ! ドリンクは何にするの?」 「え、あの、いや、な、何にするのと言われましても……わかりやすいドリンクメニューとかは無いのでしょうか……あの、こういうところで大人が飲む飲み物の種類とか全然知らないんですけど僕……ええ、あの、あの……その……、じゃ、じゃあ、こ、コークを」 「なーに? ラムコーク?」 「そう。ラムコークをひとつ」 「はーい、じゃああなたもネコに変身してね。ちょっとジッとしてて!」 オシャレな従業員のおねーさんは、ネコ耳のアクセサリーをもう1つ取り出し、オレの頭にセットしようとしてきた。 「おおいっ!!! 待てっ、待ちなさいっ!!! なにをするんですかっ!! オレがそんなものをつけて喜ぶようなキャラに見えますかっ!!!! いりません!! ネコ耳はつけません!!! ネコ耳は断固拒否します!!!」 「ダメよ。今日のイベントはキャットナイトなんだから。ネコにならないとフリードリンクじゃなくなるけどいいの?」 「……。そ、そんなハバナ……。ドリンクは無料がいいです……有料ドリンクなんていやです……」 「どっち? ネコで無料? それとも有料?」 「……」 そしてオレは頭に赤いネコ耳をつけられ、さらに左右のほっぺたにネコのヒゲを描かれた。 ……ぐぐう、な、なんたる屈辱(血涙)。 この硬派なオレが……大学4年の時は少林寺拳法部の道場長という役職に就き、オレを見かけた部活の後輩はどんなに遠くからでも「ちわ!!!」と大声で挨拶をしてダッシュで駆けて来て、「作者先輩、お荷物お持ちします!!」と荷物持ちをしなければならなかった、後輩にはそれなりに恐れられていたこのオレが、頭にネコの耳をつけて、ほっぺに3本ずつのヒゲを描いているとは……。 まあオレの旅行記を後輩が読んでいたらネコ以前にとっくに威厳は地に落ちて(地下100mほどまで)いるだろうけどな……(涙)。 「これでOK。あと、ネコなんだから喋る時は必ず最後に『マオ』をつけてね! 『アイウォントラムコークマ〜オ!』みたいに」 「つけるかっっっ!!!!! もういいから、早くドリンクを持って来てよっ!!!」 「持って来てよ??」 「……」 「じーーっ」 「……。も、持って来てマ〜オ……」 「グッド! ウェイトアモーメントマ〜オ!」 「……」 ……。 あああああっ、うあああああああっっっ(号泣)。 やっぱり、やっぱりクラブなんて来るんじゃなかった〜(涙)。なんで高い入場料を払って入ったのにこんなに苦しまされなきゃいけないんだ〜〜〜。社会人8年目なのにどうしてネコ語で喋らなければいけないんだ〜〜(号泣)。 ドリンクを待ちながら、ネコ耳とヒゲのニャンニャンスタイルで、オレは1人バーカウンターにポツンと座っていた。他のネコたちは全員誰か話し相手がおり、流暢な英語で「ワーッハッハ!!」と盛り上がっている。オレは……オレはネコの世界でもはぐれ者なんだニャン……。 昼間と比べると気温もグッと下がっており、心身ともに打ち震えるような寒さになってきた。ネコって辛いんだね……。東京に帰ったら、もっとノラネコに優しくしよう……。 「はーいお待たせマーオ! ラムコークよ」 「ありがたまお」 「ねえもし退屈だったら、下のプールで泳いでもいいわよ? 水着はレンタルするから」 「泳ぐわけないでしょっ!!! この寒さの中でプールに入る奴がいるかよっっ!!!!」 「いるわよ。ほら、みんな泳いでるじゃない」 「……」 中庭のプールに目をやると、パンツ1丁の白人どもが奇声を発しながら群れをなして泳ぎ回っていた。あんたらの肌の温度センサーは、ペンギンなみか? 寒い時、日本の猫はコタツで丸くなるものなので、プールなど入らずにオレというかぶき者の猫、かぶき猫は、四方八方どちらを向いても楽しそうにしている人たちが集う空間で、1匹狼、いや1匹猫となってラムコークをひたすらペロペロと舐めていた。自分自身の心の傷口を舐めるかのように(号泣)。 そんなふうにとっても充実した時間を過ごしていると、いつの間にやらDJ(デスクジョッキー)が登場し、隣にあるダンスフロアは(クラブの中の踊るスペースはダンスフロアというんだと、マイミクの人にメッセージで教えてもらいました)熱狂しつつあった。 いよいよだぜ……。いよいよオレがダンスデビューする時が来たぜ……。 オレは颯爽とダンスフロアに入ると、踊る白人たちをかき分けて中央のステージに向かって歩き、ステージ下まで辿り着いたらそのままUターンして歩いて壁際まで帰ってきた。……やっぱり、恥ずかしくて人前で踊りなんて踊れないぜ。無理だぜ(涙)。家で1人の時は「激!帝国華撃団」の曲に合わせてクネクネと揺れたりはするけどさ……。 ふう……つかれた。なんかあまりにも場違いすぎて、歩くだけでも疲れたぜ。みんな、踊ってるね。踊る姿がさまになってるね。なんで猫の扮装のくせにそれなりに見えるんだよ白人どもは。神は「不公平」という言葉を教えるために人種を分けたのか? 腕を組み、壁に寄りかかってオレは踊る若者を見ていた。「いやー、踊り疲れたぜ。ちょっと休憩だぜ」という表情で。本当は20mほど歩いただけだけど。 そんな中ふと見ると、熱くビートを刻む白人に混ざって、1人だけ70年代の空気を感じさせるレトロな踊りで場をかき乱しているおっさんがいると思ったら、やはり白人ではなく中東系のアジア人であった。うわー、あの人完全に孤立してるよ。ダサいなあ。明らかにあそこだけ空気が違うもん。ああいう空気が読めてない人のことをKYって言うんだよ最新の若者用語で。やだやだ。 ん? ダサい人が踊りをやめてこっちに来たぞ? オレの前に来たぞ!! なんだ!? 「ハーイフレンド! どうだ、一緒に飲まないか?」 ……。 オレと意気投合しようとしているなあんたっ!!!! 自分と同じ空気をオレに見いだして(号泣)!!! ……そう。オレと彼とはダンスフロアの空気を変える、アジアを代表するダサ夫、ダサ太郎のダサダサ2トップ。そりゃあ意気投合もするさ。お互い友達がいない1人同士だし。2人とも、ネコ姿が似合わないったらありゃしない。アルコールより、行灯の油でも舐めている方が似合っているのよオレたちは。 でもよく考えてみれば、2トップとはいえ周りの目を気にせず好きなように踊っている彼と比べたら、わざわざクラブまで来てふてくされて壁際で見ているオレが一番ダサいんだろうな。それなのに声をかけてくれてありがとうダサ太郎さん。 バーに移動してオレは再びラムコークを頼み(なぜならば、ラムコークが「バーで頼むドリンク」としてオレの頭にインプットされた唯一のものだったからさ)、イラン人だという彼と旅の話で見事に意気投合した。 2人で長い時間真剣に話をしたのは、イスラエルとパレスチナについての中東情勢であった。彼は同じイスラム教徒としてパレスチナ人の境遇を憂い、オレもまたイスラエルで見た軍の横暴、パレスチナの人々の苦しみをつたない英語で一生懸命彼に伝えた。 話は盛り上がった。この時2人は、自分たちの頭にネコ耳がついており、頬には左右6本のネコひげが書かれていることなどすっかり忘れていたという。 そしてオレは慣れない場所にいたものだからストレスと寒さで下痢になり、慌てて外に出てタクシーを拾い宿に帰った。マ〜オ(号泣)。 ↓クラブに着ていった少林サッカーTシャツと、ネコ耳とトランクス(ズボンはちゃんとはいて行った) ![]() |