THE FIGHT ROUND4

〜はじめてのデリー〜



 シホが宿のオヤジと交渉し、ホットシャワーがあるという別のホテル(?)へ連れて行ってもらうことになった。一泊130ルピー(約400円)。少しグレードアップ。
 路地裏の奥まったところにある別の宿へ移動。一瞬休憩。3分ほど休み部屋を出る。
 出かける前にここの宿の名前を聞いておこうとメモ帳とボールペンを持って受け付けへ向かう。


「すんまそーん。ここにこの宿の名前書いて欲しいんですけど……うげっ!


 しまった。油断していた。声をかける前に気付くべきだった。その時受け付けのオヤジは食事の真っ最中(やはりカレー)だったのだ。
 ここはインド。よって、食事は手で食べるのだ。


「ん? ああ、いいよ」


 気前よく応えた彼はカレーとご飯粒とインド風唾液がたっぷりついた手でオレのペンを手に取り、親切に住所まで長々と書いてくれた。さよならボールペン。今までありがとう。

 さて、いよいよ実質インド第一日目である。
 今日の予定はただ1つ。「バラナシまでの電車のチケットを取る」だ。別にチケットの手配に一日かけるつもりはないが、とりあえず今日はデリー探検の日ということにしたのだ。
 「部屋の鍵が閉まらないんだけど!!」と宿のにーちゃんに文句言ってるシホを尻目に(オレの部屋は大丈夫!)、とりあえず1人で宿を出る。え? 何故一緒に行動しないのかって?決まっているだろう。この旅の目的は女の子と仲良くなることではなく、異文化の(以下略)



「ハロオー!」
「コンニチハー!」
「スイマセーン!」



 通りに出て10秒ほどで5人くらいに声をかけられる。
 まあ観光客が集まるメインバザールなら当然かもしれないが、一瞬にしてオレが日本人だということを見抜き、日本語で挨拶をしてくる。意外だが韓国人や中国人と間違えられることもなく、ほとんど一発で日本人と判断されるのだ。普段「ぼくって結構西洋系の顔立ちしてるんじゃないかしら? パリのカフェがよく似合うんじゃないかしら?」などと思っていた妙な自信が一気に崩れ去る。いちいち商人の相手をしていたらキリがないため、ハハハ……と愛想笑いをして通り過ぎようとすると、


「チョトまて!!!」




 と大声で叫んで追いすがってくる。慣れないうちはf殺されるのではないかと思い、かなり取り乱した。
 なんとか逃げ切りバザールを進んで行くと、







  犬だーっ!!
















  
  牛だーっっ!!














 インド、世界一楽しい国確定。


 ノラ牛って!

 最初はオレも自分の目を疑った。おそらくこれは本物の牛ではなく、牛っぽいインド人なのだろう。もしくは今年は牛年だから特別なのか。だが、よく考えてみれば今年は戌年であるし、牛に似ているインド人がいたとしても、それを間違えて牛として認識することはあまり無さそうである。
 インドには本当にノライヌと同じ感覚でノラ牛がいるのだ。しかも決してたまに見かけるというレベルではない。必ず視界の中に一匹はいるのだ。ノライヌはわかるがノラ牛では、拾って帰って親に内緒でこっそり飼うには結構苦労するだろう。
 しかし歩行者と牛の渋滞なんて生まれて初めて見た。さらにリクシャ-や車も加わるため交差点などはクラクション地獄になるのだが、牛にクラクション鳴らしても全くどこうとしない。これではヤクザもお手上げである。
 インドでのノラ牛の横暴は本当に目に余るものがある。インドの民家にはドアがないところが多いのだが、奴らはそれにつけこんで勝手に玄関口に侵入するため、住民が家から出られずに困り果てているのを何度も見た。バザールの野菜売り場では、買い物に来たふりをしておもむろに売り物の野菜を食べ出し、怒った店員に追い払われるという光景を日常的に目にする。ただ、牛がかじって地面に落ちた野菜をもう一度陳列するのはやめろ。

 まあしかし、とにかく物凄い人と動物の数。大袈裟でなく真っ直ぐ歩くことすら出来やしない。もしインドで目をつぶって10m歩いたら、犬に噛まれるか牛にぶつかるかリクシャに轢かれるか気付いたらシルクを買わされているかの必ずどれかになるだろう。

 メインバザールの賑やかさは凄い。ちゃんとした建物(ドアはない)の店もあれば屋台もあるし、地べたにござを敷いているだけの店(?)もある。そして特定の場所が無く、体中に商品をくっつけて道端に立って商売している人もいる。
 道を行く人間の叫び声や動物の鳴き声。ノラ犬、ノラ牛、ノラ人間。
 なんだか、体の底からパワーが湧いてくるような気がする。生まれた時に持っていて、日本で暮らすことによって失ったパワーを再注入されているようだ。インドに来ることになったのは、もしかしたら体が無意識のうちにこのパワーを求めていたということかもしれない。
 ただ、こうしてインドから得たパワーはこの後全てインド人によって吸収されてしまうどころか、帰国時には結局マイナスになってしまうということを、この時のオレはまだ知らない。

 ふと前方を見ると、男性が道端にしゃがみこみ何かをやっている。じーっとみていると足元に流れる謎の液体の軌道。
 座りション
だ。インドでは道端を思いっきりトイレとして使用しており、いつでもどこでも座りションが行われているのだ。
 なるべく今見たことを忘れようと歩いていると、今度はおそらく3歳くらいと思われる小さい女の子が
「フフフ〜ン♪」と鼻歌を歌いながら走ってくる。この子、パンツをはいていない。まあまだ恥じらいというものを知らない年齢なので別に気にしないのだろう。こっちは気にするのだが。
 はっきり言ってインドの子供はめちゃくちゃ可愛い。みんなオバQなみに目がデカイのだ。これが大人になると暗闇で光って恐いが、普段から子供大好きなキャラクターを演じているオレにはインド人の子はみなヤワラちゃんスマイルのように可愛く感じる。
 勿論この子も決して例外ではなく、とにかくチョベリかわいかった。そしてこっちに向かって走ってきたその女の子は、オレの真横でピタッと止まり、おもむろにしゃがみこむ。ふと鼻歌がやんだ。
 突然真剣な顔つきになる女の子。真顔もかなりカワイイ。

 あれ? 何をやっているのかな?



 ……。




 なんか出てるね。おしりから。





 …………。






  座りウ〇コだ!!



 ひえ〜〜っ。助けてくれ〜!!

 さすがにその場からはダッシュで逃げた。おそるべしインドのトイレ事情。
 この後子供の座りウ〇コは何回も見る羽目になり、なんとか慣れることが出来たのだが、じいさんの座りウ〇コだけは決して慣れることが無く、遠くからチラッと見えた瞬間全速力で視界に入らないところまで逃げるのだった。










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