THE FIGHT ROUND6

〜信用すべきか否か〜



 果たしてインド人は信用できるのか?

 ラウールと別れたオレはニューデリー駅へ向かうことにした。「フェスティバルのため閉まっている」らしい外国人用のチケット売り場へ行くためだ。
 ラウールの言ったことは本当だろうか? インド人を信用してよいかどうかはここで決まるような気がする。もし本当にクローズしていたなら、ラウールは親切な青年だったと言えなくもない。
 オレだってインド人を信用したいのだ。オレは物心ついた時からテレホンショッキングのゲストは本当に友達の輪で成り立っていると思っているほど素直な心の持ち主なのだ。できればこんな素直な少年に人を疑う心を植え付けたくはない。
 ただ、駅に行くに際して一つ問題がある。
 ここどこ?
 ラウールに連れまわされて歩き回っていた為、完全に現在地を見失っている。こういう時はリクシャーの出番だ。声をかけてきたインド人と交渉すると、なんとニューデリー駅まで10ルピーで行ってくれるとのこと。早速後部座席に乗り込む。ゆっくりと進みはじめるリクシャー。ついにインドの足初体験である。リクシャ-にはサイクルリクシャ-とオートリクシャ-の2種類あって、「ついたぜ」


 はやっ!

 そんな近いんなら近いって言えよ!
 ほとんど乗った瞬間にニューデリー駅に到着。放心状態のオレに平然と料金を請求してくる運ちゃん。徒歩3分の距離に10ルピーかよ……確かに約束してしまったものはしょうがないが、一応文句を言ってみる。


「この距離で10ルピーはちょっと高くない?」


「おまえも納得して乗ったんじゃないか。」


「そうだけどさー、オレ駅の場所知らなかったんだよねー。こんな近いなら最初にそう言ってくれればいいじゃん?」


「オレだって知らなかったんだ」




 そのセリフに10ルピー。参りました。オレの負けです。

 駅というより完全にホームレスの住居と化しているニューデリー駅。そのボロさは本当に何かの間違いかと思うくらい凄い。実際構内に入った瞬間、「あ、間違えた」と言って帰ろうとしたほどである。






←中央に転がっているのは死体ではなく昼寝中のインド人。だと思う。
 脈を計ったわけじゃないので本当のところは不明。







 とりあえず人の流れに従ってホームの方へ行ってみることにした。陸橋を上がってしばらく歩いていると……


インド人A「おいにーちゃん。切符は持ってるのか?」


 1人のインド人オヤジに止められる。駅員だろうか? どうやらこの先へはチケットを持っている人間しか進めないらしい。切符はまだ買っていないことと、この後外国人用売り場に行って買うつもりだということを説明すると、


インド人A「残念だな、にーちゃん。ここ3日間フェスティバルだから外国人用の窓口はクローズしてるぜ」


 なんとラウールが言っていたことと全く同じ応えが返ってきた!やはり閉まっているというのは本当だったのだ。彼を疑ったことを反省するとともに、インド人も信用に値するということを知る。そのオヤジはオレの持っていた地球の歩き方の地図を見て、駅の代わりに切符を売っているところを教えてくれた。ニューデリー中心部の「コンノートプレイス」という場所にある旅行代理店で、オヤジは親切にもわざわざリクシャ乗り場までオレを連れて行ってくれ、運転手に行き先を告げ値段交渉までしてくれた。


インド人A「運転手にちゃんと話しといてやったから、5ルピーで行けるぞ」


 オヤジの言う通りリクシャに乗り込もうとするオレ。

 ……。

 なにかがひっかかる。
 彼らには悪いが、どうも納得がいかない。電車の切符を駅で売ってなくて、旅行代理店でしか買えないという状況が本当にあり得るのだろうか?実際売り場が閉まっているところをこの目で見たわけではない。やはり確かめてからの方がいいのではないだろうか?
 オヤジに「一応見るだけ見てみたいんだけど」と言うと、少し困った顔をしながらも「わかった。じゃあ行って来い。その階段を上がったところだから」と売り場の近くまで案内してくれた。外国人用の売り場は駅事務所の2階にあるのだ。
 しかし足早に階段を上がりかけたオレの前に、別のガタイのいいインド人が立ち塞がった。


インド人B「おい、どこへ行くんだ。2階の売り場は今封鎖されてるんだ。この上は立ち入り禁止だ!」


 ムムム……。そうか。こうなったらもうオヤジに従うしかないか。こんなに人の言うことを信用しないオレもなかなか感じ悪い。素直に旅行代理店に行って……

 やっぱ納得いかない。

 何かがどうしても心に引っかかるのだ。
 ダッシュ! 引き止めるインド人を振り切り、階段を駆け上る。一目、チラッと見るだけでいい。それで信用するから!だが、すれ違ったまた別の男に突然ガシッと腕を掴まれる。


インド人C「何やってるんだおまえ! 2階はクローズしてるんだ! さっさと戻れ!」


 物凄い形相で怒鳴られる。これはかなりの迫力だ。
 まるでオレが中学生の時、火災報知器の警報で全校生徒が校庭に避難した後、アホアホ女子のチクリによって、警報が鳴った原因はオレが非常ベルを押したからだということが発覚した時に見せた担任の中谷先生の表情のような迫力である。全校生徒の前で謝ったさ。
 まあこっちも立ち入り禁止のところに入ってしまったのだから仕方がないが、右も左もわからない外国人にそこまで怒ることもないだろうに。気が収まらないのか、何分もオレを拘束したまま怒鳴り続ける男。こんなことなら怒られ侍にハガキを出しておくんだった。


インド人C「下の奴に言われただろう! 聞こえなかったのか! とっとと旅行会社に買いに行けこのやろう!!」


 ……残念だがもはやここまでか。ここでやめにしておこう。オレもどうかしてしまったらしい。日本でヘンな予習のしすぎで「インド人は信用できない」という誤った情報が頭に擦り込まれてしまったようだ。素直に旅行代理店に行って……

 いやだーっ!!

 どうしてもダメだ! やっぱり自分の目で確かめないと納得できん!!
 一度下に戻るふりをしたため、そいつは油断してオレの腕から手を離していた。一瞬の隙を突きこのインド人の脇をすり抜け更に階段を上がる。

 そして。

 なんとか無事外国人用チケット売り場の前まで辿りつくことができた。ま、さんざん人を信用せずに無理矢理ここまで来てしまったのだが……彼らの言う通り、フィスティバルのため今日はこの外国人用の切符売り場は、




 チケットを購入中の外国人旅行者でとても賑わっているように見えるのはオレの目が腐っているからだろうか?


 ためしにチケットを買ってみると、


 ちゃんと正規の値段で買えたのはオレが夢を見ているということだろうか?








 今日の結論。







 インド人、信用しないことに決定。











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