〜想い出のザーヘダーン〜





 オレはフラフラしていた。
 ペルセポリスという観光地で、朝から下痢気味だったにも関わらずチョコレートアイスを買い食いし、案の定激しい下痢になったがトイレに行った後また誘惑に負け売店でオレンジアイスを購入、再度腹痛に襲われたがまたトイレから出て遺跡の出口へ向かったところで売り子(売りおっさん)の掲げるチョコとアイスの切なく甘いハーモニーと誘惑に負け、みたびチョコレートアイスを食ったら
さすがに腹痛で動けなくなった。
 おいっ、おいっ、おいつつつつっっいつつつっっ、いつっ、
いつつつつつづづっっっ!! いづみ川! いつみきとてか恋しかるらむっ!!
 痛い(涙)。内臓が。内臓が壊れてしまいました(号泣)。
 なんでだっ!! 内臓!! 3本もアイスを食べさせてやってるじゃないか!! 
これだけご褒美を与えて甘やかしてやってるのに逆に痛くなって迷惑をかけるとは何事だ!!! 恩を仇で返しやがって!!! 内臓めっ!!

 ふむふむ。たしかに一理ある。内臓に責任があるわけではなく、そもそもオレがアイスを3本も食べたのが悪いんだという意見には
一理ある。でもあるのは一理だけだ!! 過半数の6理以上を占めないとここでは正式に採用されないんだぞ!!!
 そうだ。オレが悪いんじゃないんだ。こんなにアイスを美味しそうに売っている売店と、
それを認めているイラン政府が悪いんだ!! 汚いトイレに行って精神的苦痛も受けた!!! 国を相手に損害賠償請求してやるっ!! イランめっっ!! 
 その日は夜行バスで移動予定だったが、発車の時間まで下痢体で街を歩き回ることは死を意味したので、バスターミナルのトイレ脇の芝生で
ホームレスの一団と一体化して夜まで過ごすのだった。仲良くなったよ。家なきおじさん達と。そして頻繁にトイレに通いトイレ使用料貧乏になったよ。

 そのまま夜行でケルマーンという町まで移動し、朝4時にバスを乗り換えて世界遺産のあるバムという町まで移動。その日1日バムの遺跡を観光して翌日国境の町ザーヘダーンへ。

 ってちょいと待ちなさい。「夜行でケルマーンという町まで移動し、朝4時にバスを乗り換えて世界遺産のあるバムという町まで移動。」って
そんな苦しいことを1行で書いてどうするんだよ! どれだけしんどかったと思ってるんだ!! そういう辛いことはもっと行数を割いて書けよ!!!

 はい。じゃあ書きます。そんなに言われるのだったら書きます。
 いいですかあなたたち? パソコンの前で部屋着でコーヒーを飲みながらリラックスしているあなたたち! シャワーも浴び終えて、あとは温かいベッドで寝るだけのあなたたち! 時には、このページを見ていたら後ろから彼氏に抱きつかれて、
「ちょっともう、今作者さんの旅行記読んでるんだから……」「だれ作者さんって。男?」「何やきもち焼いてるのよ。作者さんは変態な旅行記を書く人なの」「ふーん。じゃあ変態な奴なんだ。そんなの後で見ればいいじゃん。ンチュッ」「ちょっと待って、こ、このページだけ読ませてよお。ん、もう、ちょおっと」「チュッチュッ……さわさわ」「ちょっ、ちょっとほんとにやめてって……っひあんっ……」「チュッ……チュッ……モミモミ」「あっ、あふうんっ……はあ死ねっ!! てめえ死ねっっ!!!!
 とにかく、
そんなあなたたち!! よく聞きなさい。体調が悪い中、イランで全く寝れないまま朝4時に小さなターミナルに着いて2時間ベンチに座って過ごしてバスを乗り換えて次の町まで行くってそれがどんな苦しいことかわかってるのか!!!!
 え? わからん? 
そうだよね。わからんよね。当事者じゃないんだし。もういいや。
 まあたしかに、特にイベントの無いイランで細かいことを書いて引き伸ばすより、早くインドとかに行った方が書く方も読む方も面白くていいでしょう。
って別に書くのはオレの勝手だろうがっ!!!! 趣味でやってる旅行記なんだから!!! 休日もアフター5も全部返上で何年も書いてるのにそんなこと言われる筋合いはねえんだよっ!!!! いいよな読んでるだけの方は!!! レビューでオレの本の悪口とか書いてる奴死ねっ!!!

 ……。

 はっ。
 あら。おかしいわ。今なんだか自分の意思とは違う、超自然的な存在に無理やり喋らされていたような気がするわ。
決して本心じゃないのに。本当の私は、批判も受け入れる広い心を持った人間なのに。

 ともかく、パキスタンとの国境の町ザーヘダーンに到着してすぐに、オレは乗り合いワゴンに押し込まれボーダーへ向かった。国境まではさらに砂漠をかっ飛ばして30分ほどであるが、国境まで砂漠をかっ飛ばして行った結果、
追い返されてまたザーヘダーンの町へ帰って来た。そして、この辺境の町でオレは1週間滞在するハメになった(号泣)。なんでそのような悲劇的な事態になったかは、さくら剛の新刊を読んでね!

 それにしても、カイロやイスタンブールなどの日本人宿とか、佐藤寛子ちゃんの部屋のクローゼットに侵入してのぞきをしながらとかだったら1週間くらい平気で過ごせるが、さすがにイランとパキスタンの国境の町で一週間は無理だ。何も無いんだよ。観光に出かける場所もネットカフェも見学自由な女子高も無い。あるのは時間だけ。この時間を、帰国してから好きな人と過ごす時間のために貯金しておきたい気分だ。だって、好きな人と一緒だと時間はあっという間に過ぎるんだもの……。
 毎日朝は宿の部屋でぐーたらと過ごし、毎回同じ食堂で同じチキン+ライスを食べ、午後はハンダイバイクに乗って町の中心に出かけうろつく。ハンダイバイクというのは、地元のハンダイおじいさんが運転するバイクである。別に公共交通機関ではないのだが、なぜか宿を出て少し歩くとたいてい10分以内にハンダイさんに出くわし、わざわざ彼は毎日ミニバイクの後ろにオレを乗せて運んでくれるのである。

一番右が、ザーヘダーンでの僕の専属運転手ハンダイさん。

 そしてこれがハンダイバイク。
 彼らはこの国境の町にずっと住んでいるだけあって、人間関係をとても大切にしているようだ。なんといっても、ここでは日がな一日友人と話をするくらいしかやることが無いのである。
人との交流こそが唯一と言っていい娯楽なのだ。
 これが将来もっともっと文明が栄え娯楽の種類もレベルも底上げされると、人と話をする必要や技術はどんどん無くなるのだろう。日本人、そしてオレのように。


 時々オレもハンダイさんたちの集会に混ざったのだが、おじさんたちは気前よく外人を仲間に入れてくれ、おまけにチャイまで奢ってくれる。
 今日も今日とてハンダイバイクの後ろに乗り、いちおうそこそこは栄えているザーヘダーンの中心部まで連れて行ってもらう。オレを降ろすとハンダイじいさんはまたプスンプスンと帰って行くのだが、はっきり言って、イラン人は大好きだ。ぬぬ……。優しいんだよあんたらは!! ニートにこんな情けをかけるなんて!! ダメ人間を全うしようという心が揺らいでしまうじゃないかっ!!

 しかし、国境のザーヘダーンは所詮栄えているといっても商店が並ぶのはせいぜい数百メートル四方。1日で簡単に回りきれる規模のこの町で1週間ひたすらさまようというのは、元々したくてしていることでも無い上にかなり無理がある。いうなれば
おぎやはぎのビンゴ〜レボンゴレのようなものだ。
 ところが今日も1日いつものルートを冷やかして、たくさん歩いて健康増進、健康ニートだなんて思っていたところ、通りすがりの大学生が「うちに遊びにきなよ!」などとおっしゃる。彼は近くの学生寮に住んでいるらしい。も、もしかしてこの若者について行けば、女子大生を紹介してもらえるかも……。おこぼれをもらえるかも……。婚前交渉は死刑だとしても、どうせオレはすぐに出国するし……。
 ということでオレはおこぼれを狙って彼の部屋にお邪魔することにした。
 乗り合いバスで10分ほど移動し、ザーヘダーン大学の寮として使われているアパートへ。いたるところにイランの若者の姿が見られる、若さ溢れる建物だ。これだけの大学生がいたら、
いつ何時どの方向からおこぼれが落ちてくるかわからないので、常時気を張っておかなければならない。だがその点は日本代表GK川口能活と学年・身長・出身地・ハンサム指数が同じオレ。気迫のセービングで小娘1人逃しはしないぜ。

 大学生の彼は近くにいた何人かに声をかけ、特に女学生はこぼれてこなかったので結局3人の
男子学生と一緒に部屋で遊ぶことになった。オレは硬派なので、男だけの方が都合が良いのだ。女子大生なんかにはちっとも興味が無いね。
 一般的に、「付き合っている友人を見ればその人間がわかる」と言われるように、人というのは自然に自分と同じようなタイプの人間が周囲に集まるように出来ているらしい。つまり、今このように若々しいインテリの面々に囲まれているオレがどういう人間かというのは、
言わずもがなであろう。そう、その通り。今あなたが思ったことが正解だ。
 まあしかし今でこそこうして周りに集まる人間でオレが判断されているが、日本でのオレはそう簡単に法則通り見極めることはできないぜ。なぜなら、日本ではオレの周囲に集まる人間など
いないからだ(涙)。判断のしようが無いじゃん。せいぜい実家に帰るとムクが集まってきてくれるくらいで、普段周囲に人影は無いよ(号泣)。日本に帰ったら、友達になってくれる人を募集したいです。

 2人で一部屋をあてがわれているという寮の一室には、ごく普通にベッドや机、パソコンまである。さすがオレと同類のインテリエリート学生だ。
きっとこのパソコンでグラビア画像を集めまくっているに違いない。そんなところまで似ているなんて……似すぎて怖いわ……。
 ジュースをご馳走になりながら、オレは3人の学生と国際経済やグローバリゼーションがもたらす貧困についてなどの議論を交わしていた。もう少し簡単に言うと彼らの使う英単語が
難しすぎて全然理解できなかったのだが、きっとそういうことを話していたんだと思う。言葉は通じていなくても心では通じ合い議論していたのさ。



「ところで作者、いいもの見たくないか?」


「いいものはいつでも見たいよ。どのようないいものですか? 女子大生の裸体?」


「ふっふっふ。じゃーん。これだよ……」



 そう言うとヤングスチューデントは、一枚のCD−ROMを取り出してパソコンにセットした。しばらくして起動した動画には、なにやら狭い部屋の一室が映し出されている。そしてそこにはイラン人の男女が。そして布団のようなものが。
 ……。
 おおっ!!!


「こ、これはもしかして……」


「いひひ……すごいだろう……」


 固定位置からのカメラが、女性の服を徐々に脱がせつつあんなところやそんなところをまさぐる若い男のニヤけた顔を捉えている。うはっ、うははっ、
ぬおおおっ!!! すごい!! 全部脱いだっ!!! 見えている!! 全て完璧に見えている!!! モザイクなどという健康に悪い有害物質は一切まとっていない!! ワー! キャーー!! ううっ(ムラムラムラッ)……トイレに、トイレに行かせてよ……
 ただのエロ動画ではない。ここは、
女性が頭を見せるだけのことがパンツを脱ぐのと同じだと(一部の人に)言われるイランなのである。そのイラン人女性が、頭どころか豊満な……そしてよく繁った……ああ、全裸に……あわわわわ……ブクブク


「ちょっと、これどうしたの??」


「そこに映ってる男の方がすげー悪いやつでさあ。自分の部屋に隠しカメラを仕掛けて、女の子を連れ込んで撮影して、それを売ってるんだよ」


「ぐおおおおお。なんて悪い奴なんだ……。それを買ったの?」


「うん。買った」



 なんてことだ! 邪道だ!! それは邪道だぞ!!
 いいか、例えばオレが集めているグラビア画像の被写体は、みんな自分が撮られていることを納得しているアイドル達なんだ。こんなふうに女の子を騙して隠し撮りしたものなんて、普通の感覚を持つ男だったら、女の子が気の毒でとても見ていられないはずだ!! 
いくらエロでも、マナーとして、そういうのは見ちゃダメなんだ!!!



「ダメなんだ!! 見ちゃダメなんだ!! なあ、彼女がかわいそうじゃないか!! 彼女がどんなに悲しむかを考えてみろよ!」


「そうだ。彼女がかわいそうだ。こんな悪いことをする奴は、捕まえて警察に突き出さないといけないんだ!!」


「そうだそうだ!」


「よーし、じゃあこの動画をじっくり見て、犯人の顔や声をよく覚えよう。ハァ……ハァ……」


「そう。その心がけだ! 町で犯人を見つけた時にすぐわかるように。見逃さないように。よーく見よう。はぁ……はぁ……」



 しかしはぁはぁしながらもオレは思った。この動画の存在が公になったら、おそらく男も女も
死刑になるだろうと。そもそも婚前交渉どころか髪の毛を見せただけで罰せられる国なのだ。男は普通に法によって裁かれ、女性の方も名誉の殺人で家族や親戚に殺されるのではないだろうか。イラン人女性の裏動画ということで尋常でないレアものではあるが、一方で登場人物の行く末が心配で素直に興奮できん。その点が作品としてはちょっとデメリットだな。そこだけ少し減点ね。AVというのは、視聴者に対して不安を抱かせてはいけないのだ。
 大体、買う方も買う方だ。全くけしからん。なんてエロい、エロに精神を支配されている奴なんだ。これじゃあ、オレの周りにいるからって
オレと似ているとは到底言えないなあ。全然違うよ。類は友を呼んでないよ。
 後ほど彼らは大学の構内を案内してくれ、さらに帰りはオレをタクシーで宿まで送り、タクシー代まで払ってくれた。なんなんだこの無償の愛は。くそっ。感謝するぞっ!! 今までの人生でこんなに無条件でオレに親切にしてくれたのは、
両親かアラブ人かペルシア人(=イラン人)だけだっ!!! それ以外はみんなオレをいじめたんだ!! 学生時代もいつも1人だったんだ!! イラン人なんか初対面なのにこんなに優しいんだ!!
 …………。
 あっ!! あまりに彼らの優しさに感激しすぎて、
エロ動画をコピーしてもらうのを忘れた(号泣)。なんということだ……。まさかオレにエロを忘れさせる人間が、この地上に存在しようとは。世界は広いなあ。


 ……そうして、ザーヘダーンでの日々は過ぎていった。

 1週間後、再び乗り合いタクシーで国境へ向かい、ようやくイランから出国。

 アフリカ大陸を縦断し、中東を渡ってアジアで曲がって遂にパキスタン、
中国の隣国である。パキスタン北部には、中国との国境が開いている。よーし、行ってやるぞ。ここからストレートで中国入りだ!! さもなくば、もうひとつの隣国であるインドに行くハメになってしまうから。それは、人として避けたいところである。
 オレは北へ向かう夜行バスに乗り込んだ。





今日の一冊は、しょーもないものがお好きでしたら 金の言いまつがい (新潮文庫)






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