〜砂漠の絨毯屋2〜





 最後に自分を守る手段として持っていたクリケットのバット。しかしオレが隣の工場青年に気を取られている隙に、いつの間にか反対側に来ていた別の従業員にその最後の武器を奪われてしまったのである。そいつは、オレがうろたえるのを見てニヤけながら、バットをポンポンと叩いて言った。



「おー、おまえいいバット持ってるなあ。これはオレがもらっておくからな」



 やばい。
こいつは本気だ……。この、従業員のオレを見る目。なんという悪意がむき出しな、イヤな目なんだろう。
 これは、かなり悪い状況である。既にオレは相手の陣地に入っている上に、2対1、いや、向こうには他に何人の敵が隠れているかわからない。多勢に無勢である。そしてこのままでは頼みの綱の護身用具が、今度は自分を攻撃する凶器となってしまうのだ。
 ……なんとかバットを取り返すしかない。このまま相手に渡してはダメだ!!
 オレは立ち上がり、全力で従業員に食って掛かった。



「おい!! 返せよっ!!! それはオレが買ったバットだぞ!! なんでおまえにやらなけりゃいけないんだよ!!! 返せっっ!!!」


「な、なんだよ。そんなに怒るなよっ。ソーリーソーリー。
はいどうぞ


「は〜い。返してくれてありがとう」



 
めちゃめちゃあっさり返って来たぞっ(涙)!!! よかったっ!!!

 別に、
本気じゃなかったのねあなた。すみません、僕、異常なほど臆病者なので、なんか一人で勝手に追い込まれてました。イ、イヤな目とか言ってしまってごめんなさい……そういうつもりじゃなかったんです。失礼しました。



「ヘーイ、ちょっとバットを触ったくらいでそんなにムキになるなんて、
実はおまえ相当クリケットが好きだな?」


「ま、まあそうかな……。これは日本では売っていないから、大切に持って帰ろうと思ってね……」



 は、
恥ずかしい。
 大の大人が、持っていたバットを取られたくらいで必死になって
大きな声を出してしまうなんて。日本では電車の中で胸を触られても泣き寝入りしてしまうほど全く主張が出来ないタイプなのに……。胸よりクリケットの方が大事だというのかしら。私ったら……。
 この青年たちは、少なくともインドの土産物屋で働いているという時点でいい奴とは言えようはずもないが(やや問題発言)、かといって極悪人ということでもなかったらしく、この後はしばらく本当にアホらしい会話が続いた。
オレは海外でこんな会話をするために英語を学んだのだろうかと、過去自宅で英語を勉強していた時間に謝りたくなるような、非常にしょーもない会話であった。



「じゃあ次はなあ、インドといえばこれは外せないという、民族衣装のクルターパジャマを紹介してやろう」


「民族衣装も興味ないっ!!! そういうのを土産で買っていって、後悔せずに日本で活用している人を一人たりとも見たことないから」


「なんでも興味ないやつだなあ。インドに来ているくせに」


「そう。インドに興味が無いのにインドに来ているのです。
気まぐれなのです」


「いいことを教えてやろう。この後バラナシに行くだろう?」


「行かん」


「行けよ! 面白いところなんだから」


「じゃあ行く」


「いいか、バラナシはホーリープレイスなんだ。神聖な場所だから、インドの服を着ている人間しか町に入れないんだよ。もしおまえがそのダサイ少林サッカーTシャツでバラナシに行っても、すぐに追い出されることになるんだぜ?」


「追い出されないよ」


「追い出されるんだって」


「追い出されないんだって」


「いーや追い出されるね。
ポリスに『ゲットアウト!』と言われるんだ。でももしその時にここで買ったクルターパジャマを着ていたら、どうなると思う?」


「まあそんなわけでそろそろ僕はおいとまさせていただこうかな……」


「話の真っ最中で帰ろうとするなよ!!! ジャパニーズスクールでは人の話は最後まで聞きなさいと教えられないのかっ!! ステイヒアー!!」


「だって日本では、テレビで見る政治家とか評論家とか偉い人は
誰も人の話を最後まで聞いてないよ? じゃあ逆に、インドの大人はみんな人の話はちゃんと聞くのかい? それなら、客が帰りたいと言ったらちゃんと聞いてくれるということだよな??」


「そんな時にクルターパジャマさえ着ていれば、外国人でも問題なくバラナシに入れてくれるんだ。だから、バラナシに行くんなら事前に必ず民族衣装を買っておかなければいけないんだ!」


「人の話を聞けよっっ!!! 全然会話が成り立ってないだろうがっ!! 自分さえよければいいのかおまえはっっ!!! ……だいたいなあ、バラナシで民族衣装着てる奴なんてほとんど見たこと無いぞ! インド人ですら洋服着てるじゃねーかっっ!!」


「ファイおまえがバラナシの人々のことを知っているんだ」


「前に行ったから」


「ノーノーノー! ノット昔! 重要なのはナウ! 今の話をしてるんだ!! 民族衣装がなければバラナシに入れない、これ現代インドの常識! 
アイアム120%シュアー!!


「オレはおまえがウソを言っていることが120%シュアーなんだよっ!!! なんでそんな確信を込めたウソがつけるんだおまえっ!!! 『インド人ウソつかない』なんてよくもまあ言ったもんだなコラっ!!!」


「それは別にオレが言ったわけじゃないし。まあまあ、じゃあ日本に持ち帰る用として、ガールフレンドのために何か買って行ってくれよ」


「オレはただ工場を見学するだけというから来たんだ」


「いいか、このシーツを見てみろ。表にしても裏にしても、どっちでも使えるんだ。だから、これをベッドに敷いてだな、普段おまえが寝る時は表を上にしておくんだ。でな、ジギジギの時には裏を使うようにすれば、汚れても大丈夫なんだ」



「下ネタキタ━━━━━━(・ε・)━━━━━━!!!!」



「知ってるかおまえ? 日本人の男のアレはベリースモールだけど、インド人はみんな
ストロング!! ベリービッグサイズなんだ。だから日本人の女はインドに来るとオレたちに寄って来るのさ」


「信じないねそんなの。そんなのあり得ない。許されない」


「シティパレスにはもう行ったか? あの王宮には昔マハラジャが住んでたんだ。でかい服が飾ってあっただろう。マハラジャは体もでかいがアレもでかすぎて、
ジギジギをするたびに、毎回女は死んでしまったんだぜ」


「死ぬくらいでかかったら最初から入らないんじゃないの?? その話はどうもアイドントビリーブだなあ」


「よーし、じゃあ試しにオレのを見せてやろうか!」



 工場青年は、自慢のイチモツを見せるぜ! と得意気に言いながら、自分の足首を持って
長ズボンの裾(足首のとこね)から何かを取り出すフリをした。



「わっはっは。オレたちのはあまりに長すぎるから、ここから出せるんだぜ!!」


「なんかきたならしいジョークだなあ……。そんなとこに収納してたら、普段の生活が大変だろう。バイクとかラクダに乗る時どうすんの? 挟まって大変なことになるよ? うどんがきしめんになるように」


「そんなことはない。なぜならば、……(床に落ちていた糸を拾って蝶々結びにして)、ほら、挟みそうな時はこうやってパンツに収納するから」


「アホらしいっ!! すげーアホらしいそれっっ!!! 想像してしまっただろうがっっ!!!」


「そうそう、このシーツは裏側に動物の刺繍がしてあるだろう? だから、ジギジギの時はこの刺繍を見ながらやれば興奮も増して、女に『グッド! グッド!』と言われるぞ」


「なんで動物を見て興奮しなきゃいけないんだよ。あんたは動物に欲情するのかっ」


「なーに言ってるんだ!! 動物とやるのなんて普通じゃないか! インド人の男は誰でも動物とやったことがあるんだぞ!」


「どんな動物よっ!?」


犬だ。オルモストほとんどの場合は犬が対象だが、たまに象とやるやつもいるんだぜ」



 
……なんか頭痛くなってきた。
 一応しつこく断っておくが、工場青年の話している内容はオレが勝手に捏造しているわけではない(普段はたまに捏造するけど)。大意はだいたいこの通りである。オレたちは、お互い今日が初対面なのにこんな話をしているのである。もし日本で初対面の人たちがみんなこのような
自由な性の会話をし出したらどうなるだろうか? きっとそれは、とても楽しい社会になるに違いない(むしろ推奨)。
 どうせ友人なんてもんは仲良くなればそんな話しかしなくなるんだから、だったら最初から遠慮せず
どんどん語ろうよ。……え? 仲の良い友達とも別にそんな話はしないって?? ……するくせに。今さらいい子ぶってもダメだぞ。



「あのね、じゃあね……、あんたは犬とやったことはあるの?」


「当たり前だろう。大人になってからはやってないけど、
アラウンド17才の頃はたびたびお世話になったよ。人間よりよかったぞ」


「動物虐待反対!!! 何をやってるんだよっっ(涙)!!! 絶対合意の上じゃないだろっ!!! だいたいいくらなんでも人間よりいいわけがあるかっ!!!」



「いやいや、そうでもないんだ。最初はちょっとナローでキツかったんだけど、最終的にはすごくコンフォータブルになったんだよ」 ←本当にこう言っていた
※ナローnarrow と コンフォータブルcomfortableの意味は各自で調べましょう。辞書サイト



「おまえってやつはっっ!!
 ……はらはらはら(落涙)」


「そんなに怒ることでもないだろう」


「いや、ダメだ。それは許せん。ワンちゃんも泣いてただろう。その犬はその後どうしたんだよ」


「終わった後は、フレンドになったんだ」


「ウソつけっっ!!! なんだよフレンドって!! 愛人でも愛犬でもなくフレンドかよっ!!!」


「そうそう。だからオレは田舎に帰ると今でも犬のフレンドがたくさんいるんだよ」


「あのー、そういう野獣的な行動は控えた方がいいと思うんですけど。だって何かが間違ってあんたと犬の子供とかできちゃったらどうするの」


「ノープロブレム。だってコンドームつけてたから」


「バターン!!」 ←ひっくり返った



 なんだそりゃ……(涙)。
 本能の赴くまま犬にまで襲い掛かるわりには、ちゃんと避妊はするのかよ……。なんか、
理性があるのか無いのか全然わからんわこいつら(号泣)。
 つーか自分で指摘しておいてなんだが……、
つけてなかったら子供ができるのかよっ!!! この先はあまり不特定多数の見ているサイトで深く掘り下げられんぞっ!!!



「インドではなあ、人間だけじゃなくて動物が他の種類の動物とやることも多いんだ」


下ネタ引っ張るねあんたっ! 例えばどういうこと?」


「例えば、ネズミが象とやることもあるんだ


「それは絶対無理だって。体ごと吸収されてしまうではないか」


「それがなかなかどうして、大変だけどがんばれば出来るんだ。まずネズミが象の頭の部分に行ってキスをするんだ。そしてダッシュで尻の方にまわってパコパコ。そしてまた前に走って行ってキス。そして後ろまで走ってパコパコ」


「ほうほう。一生懸命ですね」


「それで、ことが済んでからゾウがネズミを見たらまだハァハァ言ってたんで、『ねえあなた、そんなに良かった?』って聞くと、ネズミはこう答えた。『違うんだよ、前に後ろに走り回ったから疲れたんだよ』


「良く出来たジョークかよっ!!! そのおもしろ小ばなしを苦心して考え出した奴のことを思うとバカバカしいっ!!!」


「むはははは。オレたちはジギジギの話が大好きだからな」


「僕もそうです。だってこの地球の40億年に遡る生物の歴史は全てジギジギが作って来たのですから


「いいこと言うなおまえ!」


「じゃあそろそろ帰ろうかな……」


「ほんと? じゃあ明日また来ない? 
もっとジギジギの話をしようぜ


「商売はどうでもいいんかいっ!!!! 残念ながら明日はまた行くところがあるから……(何も考えてないけど)」


「残念だなあ。じゃあ気をつけてな〜」


「はーいどうも〜〜」



 そしてオレは工場青年に別れを告げ、再びサイクルじいさんのところへ戻った。

 …………。

 
これまたあっさり返してくれましたなあんた……。
 どうやらジギジギの話を聞き上手に聞いてあげたおかげで、もうカーペットはいいやと思うくらい工場青年は気分を良くしたらしい。やはり仕事よりジギジギ。
ジギジギは旅行者を救うのだ。いや、もしかして、気分を良くしたと言うより彼はジギジギの話をしすぎて興奮して、辛抱たまらんので仕事を切り上げて犬を探しに行ったのではないだろうか。



「じゃあじいさん、帰ろうか。もうどこにも寄らず真っ直ぐ帰ろう。オレの宿へ」


「なーんだ。何も買わなかったのか? ここのカーペットはお土産に最適」


「あんたが見るだけって言ったんだろうがっ!!! ユーアーライアー!! ライアーじーさん!!!」


「わかったわかった。じゃあ乗りなさい」



 ということで、オレはたびたびサイクルリキシャに運ばれ、今度こそ安らかに宿までの道を行くのであった。多分。








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