〜私は貝になりたい〜 どこだっ!!!! オレの8000ドルどこだ!!!! オレの100万円!!オレの旅行資金!!! オレの食費!交通費!!宿代!!!帰国費用!!!! ない。 ないぞ。 ぬおーーーーーーーーっ!!!! ・・・。 もしかして。 そうだ。 きっとそうに違いない。 8000ドル。 君は、ついに自分の進むべき道を見つけたんだね。 日本を出てから、ずっと一緒だったけど、僕自身いつかキミが旅立って行くことはうすうす気づいてたんだ。 僕だって、本当は君の夢を応援してあげたかった。それでもあえてずっと反対していたのは、君のことが大切で、本当に心配だったから。 ううん。それも結局は、ずっと君と一緒にいたいがための、僕の勝手な言い訳だったのかもしれない。きっと今は、そのちっぽけな、でも無限の可能性を秘めた心に羽根が生えたように、このアフリカの大地を駆け回っているんだね。 初めて見る大自然。君のその瞳には、どう映っていますか? もう僕は止めません。 キミの夢を、いつかユーロになるというキミの夢を僕も心から応援します!! ・・・なんて言ってる場合じゃねえ!!! オレはとにかく従業員部屋へ走った。 「ぬぬぬぬぬ!!盗まれた!!!!!!」 「なに?どうしたの??」 「オカネ!!オカネヌスマレタヨ!!カエシテヨ!アタシノオカネカエシテヨ!!!」 「落ち着いて話なさいって。出稼ぎに来たジャパゆきさんじゃないんだから。」 「金が盗まれれた!!!!盗まられた!!!!!部屋から!!オレの金が盗まれらりるれっ!!!!!」 「なんですって?ホントなの??」 「マジだぜっ!!!!」 「・・・。」 「・・・。」 「・・・シット!!!!」 「シットはいいけどどうすりゃいいんだ!!」 「とりあえずポリスよ。警察所が目の前にあるから、すぐ行った方がいいわ!」 「た、たしかに。こういう時は警察だな・・・。」 交差点を挟んですぐ向かいにポリスステーションがあった。 よく考えたら、宿で泥棒にあった被害者が自分自身で直接警察署まで届けに行くというのは、宿業界の常識に照らし合わせてもどう考えてもおかしいのだが、100万盗まれた直後はそんなことは考えない。 「盗まれたっ!!!全財産盗まれましたっ!!!」 「な、なに・・・。まあ落ち着きなさい。」(というように聞こえた) 「助けて!!こういう時人はどうすればいいの!!!」 「なんたらかんたら。」 「な、何語ですか・・・?」 目の前にいたポリスは、オレにジンバブエ語で何か問いかけてきた。そんなもん会話が成り立つはずがない。この人英語喋れないんだろうか。オレがジンバブエ語で事件の詳細を話すようになるにはあと3年はジンバブエで暮らさないと無理だ。 みんな、想像してみてくれ!アフリカを旅行中に全財産盗まれて、唯一の頼みの警察に駆け込んだら警官がジンバブエ語しか喋れなかった時の絶望感を!!!どうだ!呪怨より怖いだろう!!!!! もちろんオレ自身もこの時点でほとんど生きる気力を失い、臨死体験を味わっていた。気のせいか、天井から困っている自分の姿を眺めていたような記憶もある。 ジンバブエ語しか喋れない警官は、どこかに消えていった。オレはもう警官からも見捨てられたのだろうか。今後の人生はここジンバブエでホームレスとして暮らさなければならないのだろうか。これは旅行ではなく移住ということに・・・ 「おー、ニホンジンかー。」 「はっ!!おまわりさん!!金盗まれました!!!!!」 半分将来のジンバブエ人としての自分を想像し始めていた矢先、天の助け、先ほどのポリスが、片言だが英語を話す別のポリスを連れてきた。あああああああああ(爆泣)。 ジノエラという名のカタコトポリスとお互いカタコトの英語を駆使して事件の状況を伝える。そしてオレが話したことを、ジノエラは逐一調書にまとめて行く。ちなみに未だ誰からも現場検証という言葉は出ていない。普通事件が起きたら真っ先に現場に行くもんじゃないか?そうだろう。事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!!なんて強気な発言は大人らしく波風を立てないために決してしない。 「朝飯食べてるほんの20分の間だったんです。部屋の鍵も、カバンの鍵もちゃんとしてたのに!!」 「フムフム。フェン アイ ワズ イーティング ブレックファースト と・・・。」 「お、遅い・・・。」 彼が書いている調書は、調書といっても定型のフォームなどがプリントされているわけではなく、ただの真っ白い紙だった。そこに、1からオレの言ったことを書き込んでいるのだ。しかもなぜか「僕が朝食を食べている時に・・・」とオレの立場になって話し言葉で書いている。脚本家志望か? 長〜い長〜い調書作成がやっとのことで終了した時、すでにオレが駆け込んでからかれこれ1時間が経過していた。原稿が書きあがり、やっとのことでジノエラポリスは「じゃあキミの部屋に行ってみようか。」と言い出した。現場検証業界の常識に照らし合わせたら逆だろう普通・・・。 そして、ジノエラを筆頭に数人のポリスと共にオレは宿に戻った。宿のアマゾネス女主人も心配そうに部屋について来る。 まずみんなで始めたことは、もう一度オレの荷物をひっくり返して金を探すというものだった。そんなもんオレが今朝何十回やったと思ってんだ・・・。 物珍しげにオレの荷物の中身を一つ一つチェックしている警官の目が鋭く光る。 キラーン 「おい、これはなんだ?なんで木の枝なんて持ってるんだ?」 「あの、それはまたたびと言ってネコの好物でして、まあなんというか・・・あのその・・・」 キラーン 「ん?これはなんだ?」 「そ、それはぶっ倒れた時用に持っているポカリの粉末というやつで・・・確かに怪しいですけど、あくまでジュースでして・・・」 キラキラキラーン 「むむ?これとこれとこれは???」 「えーと・・・MDウォークマンと使い捨てカイロとキンチョールで・・・」 どう考えても部屋の中は盗難品を探しているというよりも、オレの持ち物検査、そして日本製品の展示会といった雰囲気になっていた。一通りオレの荷物をぶちまけ満足すると、今度はみんなで部屋の中やその辺りを探し始めた。女主人は「こんなこと今までで初めてよ。あなたどっかにしまって忘れてるだけじゃないの?」とオレに疑惑の目を向けながら、共同トイレのタンクまで開けて探していた。おばさん、オレは少なくとも共同トイレのタンクに金をしまってはいない。 その後ジノエラはじめポリス達は念のため従業員の荷物や物置を調べたりもしていたのだが、当然もはや金はあるわけがない。事件発生からあれだけ時間が経っているのだ。 どうもオレは隣のドミトリー(大部屋)に泊まっていた黒人達が怪しいと思うのだが、彼らはすでに全員チェックアウトしていた。いくら宿帳を調べても、泥棒が泊まっていたとしたら本当の名前や住所など書いているわけがないだろう。 ジノエラは、何かと世間話をしてオレを励ましてくれた。とてもそんな話に乗る気分ではなかったが、彼が一生懸命話しかけてくれるのはありがたいし、少しだけだが気分が和らぐ。 ジノエラ「なー、おまえの住所と電話番号聞いといていいか??」 作「え?日本の住所?もちろん!!なんかあったらすぐ連絡してください!!」 すかさずメモに住所を書いて手渡した。可能性は低いと思うが、ジノエラは犯人を発見し、金を取り戻したあかつきには遠く日本まで連絡をくれるつもりなのだろう。なんという職務に忠実な青年だろうか。住所まで聞いたということは、送金まで考えてくれているのだろう。 ジノエラ「じゃあこれがオレの住所と電話番号だから。」 作「ん?なんであんたの住所をくれるわけ??」 ジノエラ「オレも手紙出すから、ちゃんとおまえも返事書くんだぞ。」 作「・・・。ただの国際交流(事件ぬき)かよ!!!」 ダメだ。こいつら人はいいんだがオレの金が戻ってくる可能性はもはや無い・・・。 100万円・・・100まんえん・・・ 私は貝になりたい。 いっそ深い海の底の貝にでも・・・。 海の底ならば兵隊に取られることも無い。戦争も無い。ジンバブエで8000ドル盗まれることもない。 そう、お父さんは生まれ変わっても人間にはなりたくありません。人間なんていやだ・・・。いっそ深い海の底の貝に・・・。 いつの間にか心はフランキー堺だった。 これからオレはどうなるのだろう。アフリカ縦断というか、今すぐ日本に帰ろうとしても飛行機代すらない。日本でコツコツ働き、会社ではネットサーフィンしてただけなのに残業代申請して稼いだ旅行資金が全て消えた。 まだ旅に出て1週間である。アフリカ縦断してアジア横断して中国まで行くと豪語しておきながら、2カ国目でリタイヤ。まさに企画がスタートした瞬間の中止である。西部警察かよ!!! ジノエラ「そうだ!!忘れてた!!」 作「え?どうした??」 ジノエラ「いい考えがある。これなら犯人が見つかるかも!!」 作「な、なになに!?もったいぶらないで早く教えて!!!」 ジノエラ「グレートジンバブエ遺跡に、予言者のばあさんがいるんだ!!彼女に頼めば、犯人を占ってくれるかもしれない!!!」 女主人「そうよ!たしかにそうだわ!!あなた予言者のとこに行ってきなさい!!きっとあなたの金がある場所も教えてくれるはずよ!!!」 作「わーすごい!!たしかに予言者なら犯人も予言して金も戻ってくるかも・・・っておのりゃちょわんきゃーーーーーーーー!!!!うきゃーーっ!!!ぎょわーーっ!!!」 ジノエラ「ど、どうした!!取り乱すな!!!」 ここはどこですか?今は何時代ですか??教えて!!! 事件の犯人を占いで見つけてもらいなさいと犯行直後に警察自ら進言している。ここは本当に地球上か??っていうかそれなら警察の役割は一体なんだ!!!うおりゃーっ!!!! しかも、オレは今年の初めにサイババ関係のある高名な占い師に過去を当てられたにもかかわらず(というかだからこそ)、占いは全く信用していない。そんなもん行くかボケーーっっ!!!!こちとら近代文明の寵児なんじゃー!!誰が犯人を占いで見つけてもらおうなんて思うかワレぇ!!!! そしてもちろん、そんなこと言われたら予言者の所に行かずにはおれないのが人間というものである(涙)。 ただそれは、もうちょっと先の話であった。 今日の一冊は、「原因不明の腰痛」をお持ちの方に 腰痛放浪記 椅子がこわい (新潮文庫) |