〜安全・確実、作者流貴重品管理〜





 どこへ行っても必ず日本人はいる。たとえどんな辺ぴな国境の町でもだ。なぜなら、自分がそこにいるという時点で、国際結婚でもして国籍を変えない限りそこには日本人がいることになるからだ。そしてオレはあと5年は国際結婚はしないので、これからもオレが行くところ即ち日本人がいるところということになるだろう。そしてオレが将来奥さんになる人に求める条件はいろいろあるのだが、こんなところでそれを言っても仕方が無いし、それを言ったら
誰も奥さんになってくれなくなるどころか、全ての女友達と連絡が途絶えると思うので、ここでの発表は控えさせていただこう(号泣)。*冗談ですよ。

 両替を済ませたオレが宿に帰ると、
素手でシベリアンタイガーと戦えそうないろんな意味でセクシーな女主人が「他にも日本人のカップルが泊まってるわよ」と教えてくれた。この女主人にはボイ〜ンという擬音が良く似合う。
 しかしなんだかんだ言って、アフリカに来てから行く町行く町必ず通りがかり聞く造さんのように日本人がいる。こういうところで日本人に会うのはとても嬉しいと同時に、日本人というのは一体どんだけ金持ちなんだと恐ろしくなってくる。ジンバブエで働く普通の黒人の数年分の年収くらいの値段のエアチケットを、ひと月働くだけで日本人は簡単に買えてしまうらしい。アフリカに来てから随分金持ち扱いされるものだから、来年当たりオレもいよいよ長者番付に載るかもしれないなあと思っていたのだが、どうやら金持ちなのは
オレだけではなかったのだ。
 早速彼らの部屋を訪問すると、スキンヘッドのおっさんと、大人しそうな女の人がトランプで七ならべをしていた。そんな古典的遊戯もここジンバブエに来てしまったら
お台場冒険王なみの娯楽である。



作「あのー。すみませ〜ん」


「あれ??日本人の方でっか?どうもどうも。」


「こんにちは。」


作「どうも。今ちょっとよろしいでっか??」


「ええ。ぜんぜんかまいまヘンよ!」



 関西弁を話すこのおっさんは滝口さんといって、オレと同様に南アフリカから入り、二人でアフリカ縦断を目指しているらしい。
 我々は最初こそ若干の緊張感を持って話していたのだが、「最近のアメリカ映画では人類が滅亡の危機に立たされることが妙に多い」ということや、「ただ脱いだだけなのにそれを『体当たり演技』などとポジティブな表現をするのはおかしい」という点においてお互いのスタンスが同じだということが判明し、気兼ねなく話せる和やかなムードが出来上がった。滝口さんと話しているうちに、自然とオレも昔を思い出し、関西弁になっていった。



作「ところで、おふたりは結婚してはるんでっか?」


「いやいや、とんでもないですわ!別に彼氏彼女の関係でもでもなんでもないですから。」


作「な、なんですって?つきおうてるんちゃいますの??」


「やだなー、冗談キツイですわ。たまたまお互いアフリカに行こうとしてたんで、そんなら一緒にいこかってことになっただけですって。」


キラーン!!
作「ふっふっふ。だんな、警察の目はごまかせてもこの恋愛マスターの目はごまかせませんぜ!」


「ええっ!!」


作「いったいどこの世に『たまたまお互いアフリカに行こうとしてた』だけでつきあっても無いのに半年以上も2人っきりで旅行に行く男と女がおるんや!!」


「ドキッ!!」


作「それにこの部屋!!ここはダブルルームやないですか!!タダの友達が旅先で同部屋に泊まりまっか??どう考えてもおかしいんちゃいますの!!!」


「うう・・・それは・・・」


作「決定的なのはさっきの七ならべや。あんたら七ならべをしながら
実は将来の家族計画を明るく練ってたんちゃいますの!!『子供は7人欲しいね』とかいいよって!!」


「そ、そこまで・・・」


作「いい加減白状しいや。
このまましらばっくれられるとでも思ってるのかいや!!たとえおてんと様は許しても、このワイが月に代わっておまんら許さんぜよ!!!!」




「わかりました・・・。本当のことを言います。実はあの晩、私たちが部屋の窓から海岸を見ていると、義兄さんが一人で散歩をしているのが見えたんです。あいつさえいなければ、あの悪魔さえいなくなれば、母さんもヨシ子も幸せになれる。そう思った私は、反射的に傍にあったロープで・・・って
何をやらすんですか!!!そんなこと言われても友達は友達なんですって!!それにあんた段々関西弁ヘンになってますよ!!!」


作「いやー、すみません。今まで関西弁なんか一度も使ったことないもんで。」


「あんたさっき『昔を思い出し、関西弁になっていった。』って書いとったでしょうに。」


作「別に昔しゃべってたとは言ってないでしょう。昔、『関西弁喋れたらいいのになー』って思ってたことがあって、それを思い出してただけですよ。」


「それに作者さんなんか一人のくせにダブルルームに泊まってるやないですか。」


作「ズキッ!!それは言わないで!!!」


「あーはずかしー。一人でダブルルームやて。」


作「恥ずかしい・・・オレは恥ずかしい人間・・・。」



 こうして簡単な挨拶を終えた後、オレ達は明日の予定について話し、せっかくなので一緒にグレートジンバブエ遺跡に行くことにした。2人があくまで友達同士というのなら、邪魔しちゃ悪いかなーなどと気兼ねすることもあるまい。

 そして。
 ひさしぶりにルームメイトのいない部屋でぐっすりと眠ったオレは、朝も7時前だというのにさわやかに起床した。日本では普段
キッズウォー5とともに目覚めるオレも、グレートジンバブエ遺跡のためなら朝顔も真っ青な早起きである。
 朝食は、隣の隣の部屋にあるちっこいダイニングルームで7時からということになっている。
 さて、朝食に行く前に、厳重に所持金を隠していかなければならない。ここで
海外安全管理のプロフェッショナルの立場から、みなさんに旅先での貴重品の扱いについて説明しよう。
※ここから真面目にいきます。つまらないかもしれませんが大事なことです。
 海外に出かける時に心がけなければならないのは、日本の感覚を捨てるということだ。はっきり言って日本は世界一安全な国。普通に暮らしていて盗難や強盗に遭う確立は、一生のうちに何回あるかというくらいしかないだろう。そして、その感覚を海外に持っていくと、大抵盗みやひったくり、なんらかの被害にあうハメになる。
 例えば、オレはこれから2部屋隣に朝食を食べに行く。その場所は自分の部屋の近くであり、朝食の時間なんてほんの数十分だからといって、決して油断してはいけない。安全管理のプロフェッショナルとしては、このほんのわずかな時間にも気を配り、万全な体勢を期さなければならないのだ。
 具体的に言うと、まず、所持金をすべて小さいリュックに入れる。ちなみにオレは今回の所持金は8000ドル。日本でコツコツ働いてためた100万円をドルに両替して持ってきているのだ。まだほとんど残っている。もちろん全て現金で持っているような危ないことはせず、現金1000ドル、トラベラーズチェック(再発行可能な小切手もどき)が7000ドルだ。さて、その大金を入れたリュックにはダイヤル式の南京錠で鍵をし、さらにそれを目に付かないようベッドの下に隠す。その上、隠したリュックをベッドの足にもう1本のダイヤル式チェーンロックできっちりくくりつける。最後は、当然だが部屋自体の鍵をかけて、ほんの10メートル先の食堂へ向かうわけだ。
 ちなみに今回一人でダブルルームに泊まっているのには、物価が安いためドミトリーでなくても十分泊まれるということもあるが、こうした防犯上の理由もある。南アフリカと違い白人バックパッカーなどここにはおらず、ここではルームメイトは出稼ぎの黒人さんが多いため、キッチリ鍵のかけれる自分だけの部屋というのはとても重要になってくるのだ。
 どうだい?真の危機管理とは、ここまで徹底した行動を取ることを指すのである。決して臆病者などと言ってはならない。こればっかりは盗まれた後になって「面倒くさがらずにもっとちゃんとやっておけばよかった・・・」と嘆いても遅いのである。

 食堂で滝口さん達と今日の予定について談笑する。遺跡と名がつくものを訪ねるのは結構久しぶりなので、自然に話が弾む。日本人と一緒に観光に行くのももしかしたら初めてのことかもしれない。

 さて、朝食を終えたオレは再び自分の部屋へ戻った。完璧な安全管理をしているだけあって、我ながら部屋への戻り方も胸を張ってずいぶん堂々としたものだ。部屋の鍵を開け、すぐにベッドの下を覗く。あったあった。まあほんの20分、すぐそこでメシを食っていただけなので何もあるわけがないのだが、こうして部屋に戻ったら真っ先に貴重品を確認するくせをつけるというのも大切だ。ベッドの足についているチェーンロックを外し、隠してあったリュックを引きずり出す。さらにリュックの南京錠を外し、チャックを開ける。我ながらあまりにも厳重だ。鍵を外せるオレ自身でさえリュックを開けるまでに大分手間取ってしまう。
 さて、今日遺跡にはいくら持っていこうか。入場料がUS5ドルだから、ドル紙幣も必要だな。えーと、金、金・・・と。






あれ?








えーと、金、金・・・と。













あれ??

















えーと、金、金・・・と(汗)。























あれ???















オレ金どこにしまったっけ?
おかしいな・・・。たしかこん中に入れたはずなんだけどな。奥に入っちゃってるのかな?・・・無いなあ。
ガイドブックに挟まっちゃってるのかな??・・・無いなあ。
あれ?ほんとどこやった?落ち着いて思い出してみよう。朝食の前、たしかにオレは全所持金をこのリュックの中に入れたよな。うん。そこまでは確実だ。ついさっきだからな。鮮明に覚えてる。そして、今、こうしてリュックの中身を全て出して、ガイドブックをペラペラやってもなぜか1ドル紙幣の1枚も見つからないんだよな。
もしかしてこのリュック、秘密のポケットでもあるとか?あ、あれだ!!麻薬の密輸で使うみたいに2重底になってるとかじゃない!!?・・・でもそんなとこオレ自身が知らないんだから隠そうにも隠せるわけがないよな。





















・・。














ま、まさか。



















・・・。






















やられた。

























全財産盗まれた。











今日の一冊は、凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)





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