シンガポール EPISODEV THE HUNGER STRIKES BACK(空腹の逆襲) 今日も今日とてオレはシンガポール人になりきって地下鉄に乗り、ブラチラり途中下車の旅を楽しんでいたのだが、ある駅のホームでブラチラりと下車してみると、なんだか少し離れたところから妙なざわめきがざわわ……ざわわ……ざわわ……と聞こえて来た。だが野次馬が多く、遠くからでは何が起こっているのかよくわからない。 先進国シンガポールといえばもはやオレの国であるので、愛国の士として自分の国で起きている騒ぎを看過することはできない。オレはシンガポール代表として、「ちょっとすみません! ちょっと通して下さい!」と部外者の野次馬をかきわけて人ごみの中心に向かった。 ようやく中央まで来て見てみれば、そこでは戦闘スーツに身を包んだ数人の兵士が、通行人に向けて一斉に銃を構えているところであった。 おお、これは。 銀河帝国軍の方々ではないですか……。本来、ロングロングアゴー、遥か彼方の銀河系にいるはずの人たちが、なぜにこないなところに集合してるんでしょうか。映画の撮影で忙しいはずでは……。 そうか、スターウォーズシリーズもこの度めでたく完結したので、帝国軍のみんなで卒業旅行的なものに来たんですね?? やっぱり銀河帝国でもシンガポールは人気が高いんですね。たしかに、吉野屋やモスバーガーはたとえ暗黒面に落ちていても美味しく味わえる、食べる人を選ばない絶品料理ですから。それに映画で見た限りではデススターや惑星タトゥイーンに高島屋は無かったので、宇宙に名高い日本製品や日本食品の買い出しに遥か彼方の銀河系からわざわざ来るのもわかります。 でも、気をつけたほうがいいですよ。シンガポールは規則の厳しい国ですから、そんなレーザー銃なんか持ってるとすぐ罰金取られますよ。銀河中の悪人が集まる極悪都市のインド・カルカッタですら、地下鉄に重火器を持ち込むと捕まるんですから。 しばらく見ているとやはりポリスがやってきて、彼らからレーザー銃を取りあげた上に高額の罰金を支払わせていた。さらに、ダースベイダーなどは「ダークサイドに堕ちた」という余罪で金額が著しく上乗せされてしまい、コーホーコーホーと非常に不満げに呼吸を荒げていた。 ところで、地下鉄の駅にいるだけあって彼らはこれから電車に乗って移動するようで、これはおもしろそうだとオレもブラちらりと途中乗車し、そのまま帝国軍について行くことにした。 これが車内の風景である。さすが先進国だけあってシンガポールの皆さんは他銀河からの観光客にも慣れているのか、もはやストームトルーパーも珍しがられることなく、ごく普通の乗客として新聞などを読みながら車内に馴染んでいる。 奥の方に長身で頭ひとつ飛び出ているダースベイダーの姿があるが、彼などは銀河の支配者なのに、こんな地球の小国の地下鉄に庶民に混じって乗っていていいのだろうか。しかし、フォースの力を使って無理矢理他の乗客をどかして座るようなこともなく、実におとなしく(コーホーコーホー言ってはいるが)立っている。作戦を失敗させた部下は平気で殺すダースベイダーも、旅行先ではちゃんとマナーを守って地下鉄に乗るんだなあ。 ふと見ると、ダースベイダーの上司である、銀河帝国皇帝パルパティーンも同じ車両に乗っていた。 なんか怖い……。やっぱり悪の権化だけあって、ちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出してるな……。肩でもぶつかったら例の電撃攻撃を喰らいそうだし。ただ、どう見ても相当のご老人なのに誰からも席を譲られていないというところが、銀河の独裁者としての彼の嫌われぶりをよく表わしていると思う。たしかに、今の銀河がこんなに暮らしにくくなってしまったのも、こいつのせいだからな……。もっと銀河をあげて予算を注ぎ、ニート支援に取り組んでもらわないと困る。 しかし、よく考えてみると彼らは全員銀河帝国軍のいわゆる悪役メンバーであり、このままではどうも華に欠けるところがある。やっぱりヒロインの一人でもいないと、見ていて今一つ盛り上がらないんだよな……。と思ったら! なんと、レイア姫がいるじゃないか!! ダースベイダーなどと一緒にいるということは、姫としてありがちなパターンの捕らわれの身になっているのですね? たしかに、姫といえば敵に捕まるのが仕事のようなものです。ピーチ姫も然り。サラダの国のトマト姫も然り。ある意味、姫がとらわれないと何も始まらないんですから。 とにかく映画史に残るヒロインである生レイア姫を見られるなんて、超ラッキーじゃないか。いやー、相変わらず高貴なオーラが出てますねえ。美しいですねえ。 …………。 えーーーっと……。 なんかレイア姫、ものすごくオーラが無くなってませんか?? 映画で見た時よりも、果てしなく地味になっているような気がするんですが……。大変失礼ながら、姫と呼ぶにふさわしくないような。 でも、そういえば映画でも1作目と3作目では別人みたいな顔になってたしな……。またあれから違う顔に進化したのかな。これからはアジアの時代だからな。きっと敢えて時代に合わせてレイア姫も大陸風の外見にモデルチェンジしたのさ。 まあそんなところでオレもスターウォーズメンバーに飽きて来たので(主にレイア姫のせいで)、再び気ままな独身になってブラチラりとシンガポール観光を楽しむことにした。 バードパークに来た。 カラフルな珍しい鳥がたくさんいて、とっても愉快だなあ。ほら、見て見て! いやー、かわいいでしょう。この2匹、夫婦なのかしらねえ。とっても仲がよさそうよね。うらやましい。でも、微笑ましい。シンガポールの観光ってすごく楽しいわあ。 その日の夜は、シンガポール在住の日本人の方に夕食をご馳走になった。 トンカツ定食。インドなどで出されるクサレ偽物ゲテモノ日本食ではなく、正真正銘本物の日本風トンカツ定食である。しかもご馳走になったのである。 さらに、その後飲みに連れて行ってもらい、人の金でカバカバ飲み食いをした。そして深夜、終電が無くなる時間になってしまったが、平気で1時間くらいかけて歩いて宿まで帰った。 ……もし今まで訪れて来た国々で同じように夜中にオレが1時間歩いたとしたら、ひったくりや強盗や殺人や誘拐やレイプや野犬や野生動物の襲撃や結婚詐欺や凍死のどれかに必ず襲われていただろう。仮に何かの間違いでそれらをくぐり抜けたとしても、道に迷っただろう。 しかしシンガポールは、平気で歩けるのである。夜中も街が明るいのである。道がわかりやすいのである。 1句できた。「僕にでも シンガポールなら 住めそうだな」(字余り そして下手) 翌日はまたデパ地下で日本食の店を見つけたので、このような牛すき焼き風定食を食べる。 さらに、おやつの時間にはカツカレー! 世界最強のメニュー、カツカレー!! この大きく切られた贅沢な野菜!! 氷の入った冷たいお茶!! 日本風のカツカレーを、しかも氷入りのドリンクと一緒に食べられるなんて、「幸せ」というものを百点満点で採点したならば今のオレの幸せ度は満点の百点、さらに百点の中でも上中下と3つに刻むとしたら、間違いなく上の百点である!! さらにその上の百点をABCでランク付けするとしたら、今の状況は確実に上の百点Aである!!! さらにその上の百点Aをまた+と−に分けるとしたら、言わずもがな上の百点A+である!!!! つまりすごく幸せというわけよ。わかる? 夕食は、ちょっと趣向を変えてとんこつラーメンを食べましょう。デザートにスイカを2切れつけましょう。サイドディッシュにトンカツをつけましょう。とんこつラーメンだけにトンカツをつけましょう。 でも夕食が終わったからって、隣の屋台にウナギの串焼きがあったら買わないわけには行きません。見過ごせません。見過ごすわけには、まいりません。だって僕は浜松出身ですもの。浜松出身としてウナギを見過ごすなんてことがあったなら、その時には僕は浜松出身じゃないことになってしまいますもの。「たらちねの」といえば「母」であるように、「浜松の」とくれば「ウナギ」が必ず続くのですもの。さあ、冷え冷えのパパイヤジュースと一緒に食べましょう。おおおお〜〜うまいい〜〜〜(号泣)。 宿に帰ろうとすると途中でまた別のホーカーズ(屋台街)がキンキンと灯りをともして営業しているので、思わず立ち寄ってシンガポール名物のヌードル、ラクサをつるっと食べてしまう。 やっぱり深夜に勉強をする受験生には夜食は必須だ。オレは受験勉強はしないが、夜は日記を書くという大切な日課があるのでオレにも夜食は必須だ。なにより、ラクサを逆から読んでみてほしい。そうだ。サクラだ。サクラといえば日本人にもオレにもとても関係の深い言葉ではないか!! そうなってしまったらもうラクサの屋台を見かけて素通りすることなど不可能である!! 日本出身としてラクサを見過ごすなんてことがあったなら、その時には僕は日本出身じゃないことになってしまいます。ラクサ美味しいです。もしいつか自分で本を出せることになったとしたら、ペンネームはラクサ剛にします。 さて、まあさすがに上流階級の人間としては、食後のデザートを忘れるわけにはいかんでしょう。忘れるわけには、いかんどすえ。そういう時にはオレとは王族繋がりである果物の王様、ドリアンである。これがまた、何度かの葛藤を繰り返しその真価がわかって来ると、ハマるのなんの。やっぱりペンネームはドリアン剛にしようかな……。 …………。 オレはとにかく、毎日ひたすら食った。食って食って食いまくった。繰り返し吉野家に通い、トンカツを流し込み、各駅のモスバーガーをはしごし、ウナギをかじり稲荷ずしをほおばりコロッケを買い食いしラクサラーメンカレーをすすりシュークリームドリアンチーズタルトをナメナメなめ回した。なんでもこのとき日本では、衛星中継でオレを撮影しながら「作者と同じメニューを1週間食べ続ける」という企画にジャイアント白田が挑戦していたが、3日目でギブアップしたというくらいだ。 それにしても、シュークリームひとつとっても思わず叫び声が出てしまうほどの上品な美味さ。アフリカにも中東にもインドにもバングラデシュにも甘いお菓子はあったのに、ただのひとつのお菓子でここまで味の深みが違うのは何故なんだ。そして、その明らかなる味のグレードの違いは、きっちり値段に反映されている。まったく、世の中はうまく出来ているもんだ。 という風に何をするでもなく、いや、今までの旅の食への不満の反動であらゆる物を食い散らかしながら1週間食いだおれたところ、ものすごく腹が膨れてきた。1週間前までは確実に痩せ細っていたというのに、自分の能力の限界を超えて食べ続けたために、腹自身も膨らみの限界の壁を破り、急激に前方に進出して来たのだ。 ふと気づくとオレの目線の下にはこんな腹が。 でよ〜〜ん …………。 泣かないでほしい。ファンのみんなはショックだろうけど、でも泣かないでほしい。歌うから。 千の風になって:前奏 ちゃ〜ん、ちゃちゃ〜ちゃちゃ〜ん、ちゃちゃちゃん♪ ちゃ〜ん、ちゃちゃんちゃんちゃ〜ん♪ わたしの〜おなかの〜ま〜えで〜 泣かないでください〜〜〜 そこに〜私は〜いません〜 太ってなんか〜いません〜〜〜 ……そうです。私はお腹の中にいないのはもちろん、決して太っているわけでもないのです。 このお腹の出っ張りは、あくまで季節物。バレーボールでいえばピンチブロッカーのようなものなのです。ここぞという時に出て来るけど、ローテーションが変わればあっという間に引っ込んでしまう物なのです。 ということで話変わって……。 しかし……。 オレは、シンガポールを出たくなかった。むしろ、定住したかった。食べて遊んで買い物して観光して、あと50年ほどの余生をそんなふうにこの国で送りたかった。「シンガポールと四月のコタツにはなかなかサヨナラできない」とはよく言ったものだ(オレが言った)。 だが、そんなシンガポールに魅せられたオレであるが、残念ながらこの国に定住するわけにはいかなかった。なぜならば、永住ビザを持っていないからだ(本気の理由)。それに、旅費が湯水のようになくなっていく。ものすごい量の食費だ。1日で財布の中からこれだけの数の紙幣がなくなるというのは、アフリカや南アジアだったら強盗に襲われた時くらいである。 おまけに、昨日夢の中でオレが襲いかかった旅の女神が、我に返って警察に被害届を提出したため、オレは逃げ出すようにこの初めて見つけた理想郷・シンガポールから出国せざるを得なくなったのである。 結局、滞在日数は8日ほどであった。これほどまで出たくないと思った国が、今までにあっただろうか? とにかく出国したくない、頼むからこの国にずっといさせて下さい、そんなふうに心から懇願した国は、日本以来である。 思えばインドを出る時には男塾塾長・江田島平八にでもなったかのごとく1本たりとも後ろ髪を引かれなかったが(つるっぱげだから)、今のオレは紫式部の同僚の平安貴族に変化し、身長より長い後ろ髪をシンガポール国民に一斉に綱引きでもされているような気分だ。おやめになって〜! いみじかりはべりね〜〜っ(号泣)!! シンガポールは今までの国とは違い、国の中心部から国境まで、バスでほんの数十分であった。そして海峡にかかる大きな橋を徒歩で渡ると、そこはもうマレーシア。……さよならシンガポール。さよなら、夢のようなゴージャスな旅のオールウェイズよ。 マレーシアの入国手続きを済ませると、オレは国境の町ジョホールバルから、長距離バスで港湾都市のマラッカへ向かった。 ……さて、夕陽が見える頃に到着したマラッカでバスを降りターミナルの入り口へ移動すると、待ち構えていたタクシーの客引きが、満を持して向かって来た。……来たよ。シンガポールではその影さえ見かけなかった乗物の客引き。ああ、また今日から、ボッタくりと罵り合いの世界にオレは戻って行くのか……(涙)。 「ハロー。安宿街のタマン・ムラカ・ラヤに行くのかい? タクシーでどうだい?」 「完全に人を見かけで判断しやがったなテメー!!! 身なりはバックパッカースタイルだけど、実はアウトドア志向の資産家だったらどうするんだよっ!! 案の定、オレが目指すのはマラッカで最高級のホテル、エクアトリアルホテルだ!!」 「エクアトリアルホテルの通り沿いの、安宿街タマン・ムラカ・ラヤに行くんだろう?」 「よくわかりましたねあなた」 「じゃあタクシーに乗って行けよ。さあ、荷物を貸して」 「貸しません。どうしてだって? 教えてあげようその理由(わけ)を。なぜならタクシーには乗らないからです。市バスに乗って行くからです。ではさようなら」 「ちょっと待て待て!!」 「まだ何か用かテメーコラぁぁっ!!!」 「バスで行くんなら、エクアトリアルホテル行きは17番のバスで50セントだよ。ほら、あそこにトイレのマークがあるだろう。あれを過ぎてすぐ右が乗り場だから」 「ええええええええっっっっ!!!!?? す、すみませんご丁寧に教えていただいて。ありがとうございます」 「バーイ」 「ば、バイナラ〜バイナラ〜〜」 ……どういうことだこりゃ。乗車を断られたタクシーの客引きが、しつこくするどころか一瞬も食い下がらない上にバスの乗り場を教えてくれている。ボッタくりなどではない。ただのいい人だ。この余裕。この親切。まさかマレーシアは、シンガポールと同じく先進国なのでは……。 彼の教えてくれた通りのバスで、教えてくれた通りの運賃でエクアトリアルホテルに到着すると、そこから歩いて安宿街を目指した。 しかし……安宿街の前の安ストリートが、これである。 先進国だ。紛れもない先進国だ。 宿にチェックインしてすぐに隣のショッピングモールに行ってみると、日本の超有名デパート(JR浜松駅前のザザシティなど)と比べてもまったく遜色のない洗練された化粧品売り場があり、フカキョンがいた。 きゃーーーっっ!! 先進国だ!! ここは先進国だっっ!!! 恭子ちゃ〜〜〜んっっっ!!! ブチュッ ブチュチュ〜〜ッ ……思わず取り乱してしまいましたが、最後のブチュチュッというのは別に店員の目を盗んで写真のフカキョンの唇を奪ってしまったわけではありません。そんな恥ずかしいマネは決してしていませんので、日本人の皆様どうかご安心下さい。キュッキュッ(フカキョンの唇の部分に付いた唾液を拭き取りながら)。 マラッカではマレーシア風焼き鳥のサテを食いまくり、ショッピングモールの日本食屋で寿司とラーメンを食い、食後のスイーツは屋台でドリアンをまるまる1個。時々教会や砦などに観光に行きつつドリアンを食い日本食を食いナシゴレンを食い、生フルーツジュースを飲んだ。 しばらくして、首都のクアラルンプールへ移動(マラッカみじかっ!)。まあ、まあ、アラ、素敵っっ、ここも3年前インドに行くついでに寄ったことがあるが、あの時に輪をかけて大都会である。勝手知ったるクアラルンプールで、オレは以前と同じ宿に泊まり、当時世界一の高さを誇ったツインタワーへ出かけてタワー内の伊勢丹で買い食いをした。ポテトチップをかじり、スイカをもりもりと口に入れ、時にはスイカの志村けん食いにチャレンジし失敗してほとんどの部分を地面にびちゃっと落としアリの大群を呼び寄せ(顔もべっとべとのピンク色)、ケーキを流し込み札幌ラーメンを飲み干す。もちろん、どれだけ食べてもデザートのドリアンは別腹よね。 最も気に入ったのが、このそごうの中にある日本食レストランのチキンカレーだ。 育ち盛りのニートでも大満足なボリュームであり、なんとサラダと氷入りのお茶と水がトリオで(最強のトリオ)ついて来るのだ。そして、カレーを食いながら日本の漫画が読めてしまうのである(号泣)!! オレはジャングルの王者ターちゃんを読みながらカレーを食べ冷えたお茶を飲み、辿りついた幸せを噛みしめて号泣した。そしてこれからはこんな幸せな旅がずっと続くんだと思うと、期待の涙はさらに涙を呼んだのである。 ……幸福と感動の渦の中で溺れながらジャングルの王者ターちゃんを読んでいるオレは、この直後に本物のジャングルでの恐怖の宴が待ち受けていることなど、知る由もなかったのである。続く。また4年後にお会いしましょう。 今日の1本は、 中性脂肪とコレステロール対策で毎日飲んでます 伊藤園 2つの働き カテキン緑茶 【特定保健用食品】 12本入 |