FBI超能力捜査官はアホだ その2



 この特番で毎回主役級の扱いを受けているのが、ジョー・マクモニーグルである。

 通称は「地球の裏側を見る男」で、超能力は「最強の千里眼」となっている。透視的中率は、これも何の根拠があるのかさっぱりわからないが80%だそうだ。なんと、これまで1万500キロ離れたアメリカの自宅にいながら、
12人の行方不明者を発見してきたそうである。
 1万500キロ離れた自宅からである。1万5000キロではない。1万500キロだったら、キリのいいところで1万キロにしろと思うのだが、少しでも遠い方が凄く感じるから、細かく距離を稼ぎたいのだろうか。まあいいや。
 注目したいのは、彼自身が自信満々でこのように述べているところだ。







マクモ「私の透視は、
確実にターゲットを見通します。それが100m先だろうと、もしくは地球の裏側だろうと」


 彼は
100m先だろうと地球の裏側だろうと確実にターゲットを見通すそうです。この発言をみなさんよーく噛み締めてください。

 彼の登場シーンでは、プロフィールとしていつものように過去に解決した事件が紹介されるのだが、性懲りも無くイランの米国大使館占拠事件と、ドジャー将軍誘拐事件が出てきた。イランの大使館占拠事件についてはもうあちこちのサイトでつっこまれているが、
1年以上占拠され続けしかも人質は犯人の手で解放されているのだ。解決したのはこのおっさんではなく、占拠した側である。いい加減にしてくれ。
 尚、NATOのドジャー将軍誘拐事件(イタリアの「赤い旅団」というテロリストによって行われた誘拐事件)については今回も以前と同じようなきわどい表現がされていた。



ナレーション「マクモニーグルが透視した場所からドジャー将軍は発見、救出された」





 どうだろう、上のナレーションは
実にうまいこと書かれているではないか。これを聞くと、一瞬「マクモニーグルが透視したおかげでドジャー将軍は救出された」と思ってしまうが、よーく見てくれ、そんなことはひと言も述べられていないのである。
 つまり、今このオレが、
「実はオレが予言した場所からフセイン大統領は発見されたんだ。すごいだろう。今になって初めて明かすんだけど」と言っているのと全く同じことなのだ。その発見自体にはなんら関わっていないのだけど、ただ実はオレはあの時フセインが隠れていた場所を的確に予言していたんだぞ!! と後づけで予言をする人なのである。しょぼい。

 ちなみに、ナレーションによると、イランの事件とイタリアの事件の他にも
「数々の国際的大事件を解決に導いてきた」ということだ。全体的に信じるとすれば、この超能力者の人は数々の国際的大事件を解決に導く人知を超えた能力がありながら、イラクの人質は見殺しにしまくり、その他の拉致やテロや殺人など国際的大事件も完全に無視して、日本の家出人捜索をしているのである(号泣)。悪趣味な人だ。

 さて、今回はそれに加えて、またマクモニーグルが透視した新たなる過去の事件が紹介された。これも非常にバカバカしい内容だったので、ぜひここで紹介したい。

 VTRは、まずはマクモニーグルの回想コメントから始まるのだが、今回のマクモは、



マクモニーグル「あの事件は、私の人生で最も辛い体験でした・・・」






 と、ゴールデンタイムにも関わらず随分暗い登場である。マクモニーグルの人生で最も辛い体験だったそうだ。そして、マクモのコメントの後は事件の再現ドラマに……。

 それは、マクモニーグルが軍を退役して4年後、1988年のことだった。


 ある日、マクモニーグルはやしの木などが生えているビーチ(情報不足)で、夫人とバカンスを楽しんでいた。





 ところが、そこにホテルのボーイと思われる人物がやってくる。マクモニーグル宛の電話が入ったということなのだ。マクモが電話に出ると、その相手は以前彼が所属していた、超能力者を集めたスターゲートプロジェクトの上官であった。マクモニーグルに軍から呼び出しがかかったのである。





 そしてマクモニーグルは、バカンスを切り上げ、軍の研究所へ向かった。 すると上官が1枚の写真を取り出し、





上官「この人物の居場所を透視して欲しい」







 ということで、早速マクモニーグルは透視を始める。そして、

ナレーション「研ぎ澄まされた感覚が頂点に達した次の瞬間、マクモニーグルの意識は時間と空間の壁を飛び越えた!!」

 でマクモニーグルからは、透視の結果として「ここは中東だ」「拷問を受けている」「中佐だ」「海兵隊」という言葉が出てくる。それを聞いて
満足そうにうなずく上官達。そう、ナレーション「このマクモニーグルの透視は、ことごとく的中していた」のだ。今わかっている情報をマクモニーグルが的確に言い当てたため、上官は満足したらしい。透視させる必要ないのでは。
 まあ今のは彼の能力を試すためだったのだろう。いいとしよう。ちなみにこの事件の詳細は、「レバノンでウィリアムヒギンズ中佐がイスラム過激派に誘拐されていた。過激派は、24時間以内に仲間を解放しないと中佐を殺すと通告した。タイムリミットは24時間」というものだ。これはもう、マクモニーグルの透視の出番ではないか。

 彼はいよいよヒギンズ中佐の居場所の透視を始める。ナレーション「マクモニーグルの感覚は、かつてなく研ぎ澄まされる」。そして、「コンクリートの建物……、壁にはツタが生えており……、鉄製の黒い外階段がある」と、極めて詳細に中佐の居場所を透視したのだ。さすが軍がわざわざ呼び出しただけのことはある。早いし細かい、素晴らしい透視能力だ。しかも透視をしただけではない。

ナレーション「軍の情報収集機関が、彼の透視内容に合致する場所を発見したのだ!」

 ということなのだ。
 ここまで来たら、もう解決したようなもんだ。なにしろ合致する場所を発見したのである。当然のことだが、「すぐに救出部隊を派遣しなければ!!」となる。
 だがしかし、そこで隣にいた上官が信じられない言葉を言い放つ。




上官「ダメだ! ヒギンズが中にいるかまだ分からない!! もし間違えたら外交問題になる!!」
















 
えええええええええええええっっ!!!!!!!!!!























 えええええええええええええっっ!!!!!!!!!!








 なんと、外交問題になる可能性があるので、確証も無いのに救出部隊を出すことはできないそうだ。
 あの、
マクモニーグルを呼び出したのあなた達ですよね?? わざわざ中佐の居場所を透視させるためにマクモニーグルを呼んだんですよね???
 直後にまたマクモニーグルの回想コメントが入る。

マクモニーグル「自信はありました。しかし、
確実にその場所にいるという確証が無ければ、軍を動かすことはできないのです」





 ……。

 なんだったの?
 
この呼び出しはいったいなんだったの?????



ナレーション「そして、事態は最悪の結末を迎える事になる」


 数日後、残念ながらヒギンズ中佐は
無残な姿(遺体)で発見されたのである。しかし後ほど軍の調査によると、マクモニーグルの透視が的中していたことが判明したそうだ。また来た。後付けの「的中していたことが判明」。
 この話は、人質の居場所を透視するためにマクモニーグルを呼び出したのにも関わらず、
呼び出した側が「確証が無い」という理由で透視結果を元にした捜索を拒否するという無茶苦茶な結果になっているのだが、ここから何がわかるかというと、軍の上官にはおかしいやつがいるなあということではなく、これが作り話であるということではないか。
 マクモニーグルは、 自分で「確実にその場所にいるという確証が無ければ、軍を動かすことはできないのです」と語っている。よく軍の内情を認識しているわけだが、そもそも彼の経歴を語る時に必ず紹介される「スターゲートプロジェクト」というのは、
米陸軍のプロジェクトである。確証が無ければ(透視ごときでは)決して動かない軍自身が、超能力者を集めたプロジェクトを組んでいる。おかしくない?
 しかしこの話が作り話としても、今回の場合はそれがばれる可能性は少ない。というか、インチキでも証明のしようがない。なぜなら、最初から「解決には失敗している」と断言しているため、アメリカ大使館占拠事件のように、「マクモニーグルが解決したと言ってたけど、本当は人質はイラン側が解放したのだよ」のように事実を挙げてつっこむことが出来ない。
うまく考えたものだ。

 さて、ここで思い出話は終わり。
 ここからは、現在の失踪人の捜索に移る。ということで、今回の依頼者は、関谷香織さん(仮名・21歳)。17年前に出て行ったというお母さんを探して欲しいそうだ。





 当時、父親に愛人がいたこと、そして親戚ともそりが合わなかったこともあり、子供を置いて出て行ってしまったということだが……

 うーん。

 
めちゃめちゃ見つかりそうな予感がします。
 だって、
探偵や番組スタッフががんばれば見つけられそうな規模じゃないですか。これは見つけるでしょう。いや、探し出して、マクモニーグルが見つけたことにするでしょう。

 この透視は、アメリカのマクモニーグルの自宅で行われる。まず、スタッフから、ターゲット(失踪人)のイニシャルと生年月日が書かれた紙の入った封筒を渡され、それだけを元に、しかも封筒を開けずに(中身を見ずに)透視するのだ。なぜわざわざ中身を見ずに透視するのかというと、余計な情報は透視の妨げになるからだそうだ。しかし、紙には最初からイニシャルと生年月日しか書いてないではないか。つまり開けて中を見たところで余計な情報なんて無いのだから、わざわざ封筒を開けずに透視する必要はないと思うのだが……。そもそも、それだけの情報ならわざわざ書かなくても
口で伝えればいいのではないでしょうか。

 ただ、そもそもイニシャルと生年月日だけでターゲットの居場所を特定するという、その時点で
既にこのインチキが破綻しているのがわかるだろうか。つまり、イニシャルと生年月日だけでは一人に限定できるわけがないのである。
 きっとここは疑問に思った人は多いと思う。イニシャルと生年月日が同じ人なんて、何人もいるんじゃないの? というように。では、同じ日に生まれて、しかも同じイニシャルを持つ人間というのは、どれくらいいるのだろうか? ちょっと計算してみよう。面倒くさいからやりたくないけど……。そして読む方も下の文章を読むのは面倒くさいと思うので、そういう場合は飛ばしてください。

 まず、厚生労働省のHPから出生人数の統計のページを見てみよう。ここに年代ごとの1年の出生人数が記載されている。さて、家出したお母さんの生年はいつくらいだろうか? 依頼者のお嬢さんが21歳であるので、幅広くお母さんの年齢を41〜51歳と仮定すると、生年は1955年〜1965年ということになる。そしてこの期間の1年の出生人数の平均は、165万人である。1年で165万人なので、365で割ると1日では平均4500人が生まれていることになるのだ。
 さて、4500人の中からイニシャルが同じ人間はどれくらいいるかということだが、まずイニシャルの組み合わせを考えてみると、あいうえおかさたなはまやらわ……とやっていくと、AIUEOKSTNHMYRWと14個ある。イニシャルはこの中の2つの組み合わせなので、大体14×14の196通りと考えることができる。バ行のBとかダ行のDとかは計算に入れていないが、その代わり他のものは全て均等に計算しているので(例えば苗字がRとか名前がWなんてあまりいないだろうけど計算に入れている)、大体で196通り、おまけして200通りくらいと考えてよいのではないだろうか。
 さて、4500人を200通りで分けると22、つまり最終的には
生年月日とイニシャルが全く同じ人は、日本だけでも平均して22人はいるということになる。

 つまり、生年月日とイニシャルだけで透視をすると、
22人分の情報が一気に浮かんでくるのである。そこから一人を選ぼうにも、生年月日とイニシャル以外の情報は全く無いので(なぜなら彼は余計な情報は透視の妨げになるという理由で封筒の開封すら拒み、あくまで生年月日とイニシャルだけで透視をしようとする人である)、絶対に選べない。年齢もみんな同じだしな。なんとなく22人の中から失踪者風の外見の人を選ぼうと思っても、昔家出した失踪者といっても今はごく普通に暮らしている。外見はぜんぜん失踪者っぽくないのである。マクモニーグルがターゲットの住んでいる町の地図を描くのなら、毎回22枚の異なる地図を描かなければいけないのである。
 もちろん、たまたま今回のターゲットが渡辺ワン子さん(W.W)とかで、同じイニシャルの人がいないということも考えられるが、マクモニーグルがこの方法で透視をしているのは
いつものことであろう。大抵の場合は、同じ生年月日とイニシャルの人間は20人くらいは(時にはもっと)いるはずなのである。

 尚、上で「生年月日とイニシャルが全く同じ人は、日本だけでも平均して22人はいることになる」と書いたが、「日本人だけでも22人」であって、全世界の人間が対象であるならば(都合よく日本人だけが浮かぶのもなんかおかしいよね)、大体60倍で
1200人くらいが見えてくることになる。

 まあそんなわけなのだが、一応最後までマクモくんに付き合ってあげると、





 まず彼は中国地方らしき地図を描き、さらに「どこそこに公園があって南にはショッピングエリア、そしてスタジアムと城がこんな関係であって……」という町の配置図、





 そして異様に細かく、「ショッピングエリアから地下鉄が出ていて、
8駅先へ進み、右に曲がる。2.3キロ進んだところに線路、その手前を左に曲がり、3つめをさらに左。古いアパートがあり、ターゲットは2階に住んでいる」と、まるで超能力者のようにターゲット(家出したお母さん)の居場所を断言していくのだ。

 番組スタッフによる捜索が始まって、地図の町は広島市だということが判明し、相変わらず「おおっ! スタジアムも城の位置も川の配置も完璧に透視どおりだ!!」と驚いているのだが、だからそんなの
調べりゃ誰だって描けるだろうが。オレでも描けるんだよ。オレでも!!


 その他にも、平和公園の建物の形や、広島城がマクモニーグルの描いた絵と階数も屋根の形もピッタリだ!! と湧いていたが、
実物を見て描いたんだからピッタリに決まっている。地下鉄で8駅も、アパートの2階も、その手前を右に曲がり……も、それを描く時点では既に(番組スタッフや探偵などにより)ターゲットの居場所はわかっており、聞いた通り描いているのである。いや、まあ今のところは透視で見つけているということにしてやってもいいが、とりあえず予想どおり、





 
お母さん発見。






 もちろん、ナレーションは「ジョー・マクモニーグルが、奇跡の再会を実現した!!」
勝手に大盛り上げ。
 さて、普通の家出人を見つけたところで、次は過去に透視した脱北者についてのVTRが始まる。続く。








前へ       次へ